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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
大戦の裏側 太陽の奔走

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第222話 太陽の人は実在した。それも皇帝のすぐそばに。

 「ヒルダさん、そして、こちらの二人にもお聞きしたい」


 フュンは、ヒルダ。アステル。シャルランに聞いた。


 「僕がこれからする話。この先の話を聞くと、命を狙われる立場になります。ですが、現状もすでに命を狙われていると考えていいでしょう。ナボルがシンドラの王に成り代わっている事実がありますからね」


 シンドラ王が別人だったという衝撃が、三人の中にある。

 それに、フュンの中にもその衝撃が少なからずある。

 自分から内容を説明しておきながらも、彼らと同様に驚いていた。


 「こうなると、敵が殺しに来る可能性が非常に高い。特にアステルは、常に危険と隣り合わせであったという事です。ですから、こちらの事情を聞いておいた方がいい。なので、覚悟をお聞きしたい。知りたいですか。この先の話」

 「・・フュン様。それはどういうことで・・・」

 「ええ。ヒルダさん。不安でしょう。でもこれはタイローさんの秘密と直結している問題なのです。ですから聞いてもらえますか? 僕は友人を守りたいのです。あなたも、タイローさんもです」 

 「た、タイロー?? 何かあるのですか。やっぱり彼には何かが」

 「ええ。ありますよ。彼には秘密があります。それとヒルダさん。ヒルダさんは彼をお好きでしょう?」

 「え!?・・・え」


 顔を真っ赤にしたヒルダは、突然の事に返事を返せなかった。


 「わかっていますよ。彼が好きな事はね。ですから、任せてください。僕は彼を救って見せます。だから僕を信じてほしい。この先の話を信じて、秘密にして、僕と共に戦ってほしいと思います。同じ辺境伯として、友人として」


 フュンは優しくヒルダに語り掛けた。

 友達として共にナボルと戦ってほしい。

 自分の我儘かもしれないだけど、あなたにも知ってもらいたいとフュンは、彼女に素直に伝えたのだった。


 「・・・わ、わかりました。私も知りたいです。タイローの事。あなたの事を。そして私もあなたの友人として、あなたをお守りします」

 「ヒルダさん。ありがとうございます。ではアステルたちはいいでしょうか。この事件の真相と直結する話です」

 「・・・わかりました。あなた様には多大な恩があります。聞きます」

 「おお。俺もです・・は、はい。命が狙われているなら・・・き、聞いておきたいいい・・・怖いです・・・はい」


 決意したアステルと戸惑うシャルランは、今の話を承諾した。


 「では説明します。太陽の人についてからです・・・」


 フュンは一連の自分に関する事を話した。

 この前提の話が無ければ、事件の真相とナボルについての会話に、皆がついて来れないからだ。

 そんな馬鹿なという顔をしても、ヒルダたちはフュンの話を真剣に聞いて、皇帝陛下は黙って話を聞いていた。

 彼の説明が一通り終わると、一番最初に口を開いたのは皇帝陛下であった。


 「そうか・・・余は、感謝せねばならん。神に」


 皇帝は玉座の間の天井を見上げた。

 空にいるだろう神に感謝した。


 「この時代。余の時代に、太陽の人が現れてくれるとは・・・それに本当にいたのだな。太陽の人は・・・しかもすぐそばにいたのか・・・そうだったのか・・・余は、ガルナズン帝国は・・・」


 涙が一粒。皇帝の頬を流れる。


 「陛下?」


 その出来事に驚いて、フュンが話を止めていた。


 「いや、すまなかったな。婿殿。余は・・・ガルナズン帝国皇帝は、太陽の人を保護せねばならないのだ。彼への恩と、彼への償いをせねばならん。ソルヴァンス……彼を追い込んでしまった我らの罪。ヴィセニアの血を継ぐ者の役目なのだ」


 ソルヴァンスを追いやった罪を、背負っていたのが歴代の皇帝であった。

 太陽の人を見つけ次第、保護する。

 これが歴代皇帝の国を守る以外のもう一つの役割である。


 「陛下。もういいんですよ。僕、すでに保護されてますもん。どうです。今の僕、陛下に守られてますよ。帝国の辺境伯なんですよ!!!」


 フュンはすでに陛下に守られていると思っていた。


 「・・・・ん? いや、辺境伯なんて。あれは小さきものではないか。それに余からは何も出来ていない。婿殿におんぶにだっこであるのだぞ。すまないな。太陽の人だったとは。知らなんですまなかった」


 皇帝陛下も太陽の人を思っていた。

 だからフュンに頭を下げる。

 皇帝陛下とあろう御方がいとも簡単に頭を下げたのだ。


 「えええええ。いやいや。顔を上げてくださいよ。それにですよ陛下。そもそもですね。辺境伯なんて僕には身に余り過ぎている役職なんですよ! だから十分に僕は陛下に守られています。大丈夫。その役目は、果たせているのですよ。それよりも僕はここから腹を割って話したい。全面協力をし合いたいです。ナボルがこうも完璧に偽装してくるのであれば、腹を割った仲間を得ていきたいのです。今は陛下。それとヒルダさん。そして、僕は御三家の皆さんでナボルと激突したいですね。これはもう一組織。サナリアだけでは手を出してはいけないほどの闇だ。潜む方法が豊富すぎる。どこに誰がいるか分からないですね。このままだと危険だ。何か取り決めをしておかないと・・・」


 ここでフュンは、皆の協力で相手を倒したいと思ったのである。

 それに、ここにいる人たちは自分の仲間になってくれる人間だと見抜いていた。

 ヒルダはともかく、アステル、シャルランも自分の仲間になると信じていたのだ。

 人の心を観察できる人間。 

 表面ではなく、内面を見ることが出来るフュンならではの戦法である。


 「わかった。婿殿。こちらも腹を割る。ジュリ!」

 「おう。親父」


 陛下の後ろからジュリアンらが登場。

 十名ほどの人間が出現したことに、レヴィ以外の全員が驚いた。


 「これが、余の諜報部隊。ドラウドだ。でも本物ではない。その事はこちら側も知っている」

 「そうでしたか」

 「うむ。こちら側の話を伝えていないからな。帝国側の事情を知らないであろう婿殿」

 「ええ。全く知りません」

 「うむ。太陽の人と別れたフィシャーは、王家の秘文書を皇帝の自室に隠した。そこで余らは代々継承されていたのだ」

 「継承?」


 秘文書を見ることが出来るのは、皇帝陛下と、その後継者になる者。

 未来に託す文書らしい。

 

 「それで、余らは、いつか出て来るかもしれない。太陽の人を守るために、ドラウドを維持し続けるという誓いを守っていたのだ。しかし我らが、直接太陽の人を探すことはない。それは我らの方がナボルに狙われる可能性が高かったからだ。こちらが、血眼になって太陽の人を探せば、太陽の人に迷惑がかかるとして、こちらからは探すのを禁じていたのだ」


 理に適っている理由であった。たしかに探し回られたら、ナボルに情報が筒抜けになる可能性が高い。


 「しかし、ナボルとは闇の組織。余らの情報でも空想に近い組織かと思っていたのだ。なにせ、ナボルと我々が戦った歴史は、250年前と200年前しかなかったからな。それ以降がなかったのだ。消滅していると思っていた。ある時点までは・・・」

 「なるほど。そうなると確かに、歴史にある謎の組織となりますね。名前だけ残った形で」

 「ああ。そうだ。それでな。余が奴らの存在を知ったのは、二人の子が死んだ時。ヒストリアとエステロ、そして白閃が死んだ時だ。その時、奴らの存在を知った。それはこの子がいたから奴らをナボルだと断定できた。出てこい」


 皇帝陛下は、もう一人を呼んだ。

 マントに仮面。全身を何かの装飾で隠す人間が現れる。

 その瞬間、レヴィが驚く。

 滅多に驚くことのない彼女の目が見開いたことで、この人物の能力の高さに気付く。


 「この子は・・・これは婿殿だけがいいな。ちょっと来てほしい」


 皇帝陛下は、フュンを手招きして、呼び寄せると耳打ちをした。

 

 「それは・・・まさか・・・ほ、本物ですか!?」


 フュンが、驚きで目が飛び出そうになる。


 「うむ」

 「い、生きていらしたのですね!?」

 「ああ。そうなのだ。この子がいるおかげで、余は無事に生きていられる。この子の力は強いからな。才能だろうな。あれらの技から、太陽の武術が扱えたのだ」


 陛下から顔を離したフュンは、驚きで止まりかけていた。

 仮面の男を見て、会釈をすると、男の方も無言ではあるが丁寧に返してくれた。


 「という事は………陛下はもしや……敵に目星があったのですね」

 「・・・うむ。予想はしている。だが確信がない。証拠もない」

 「そうですか。でも覚悟はあったという事ですね」

 「ああ。その時を待つ。そしてその時にこの子を見せる事にしている」

 「そうでしたか。そうなんです陛下。それは予想ではなく・・・」

 「そうか。わかった。婿殿。そなたの配慮に感謝する。そうだな。あの葬式の時。そなたは余の事を思って黙ってくれていたのだな」

 「・・・はい。申し訳ありません。お伝えすれば・・・よかったかもしれません」

 「いや、いい。それは余が動揺するからこそ、黙ってくれる。正しいことぞ婿殿。皇帝であっても人だからな。気にするな」

 「はい」


 皇帝は悲しげな顔で後ろを振り向いた。


 「ジュリ。情報を出せ。こちらが得ている情報だ」

 「ああ。いいぜ。おい、坊主」 


 ジュリアンが前に出てきた。


 「ジュリアンさん!? そうだ。ジュリアンさんがドラウド?」

 「ああ。一応ボスだな。まあ、こっちのドラウドには戦闘系の技がないんだ。だから、太陽の戦士にはなれんのよ。太陽の人が誰かも知らなかったしな」

 「そうでしたか」

 「ああ。でも、オレは戦えるぜ。昔前線で戦っていたからな。それとな、オレたちも太陽の人がいてほしいとは思ってもな。どうせいないだろうなと思っていたんだよ。なにせ250年も経っているからな」

 「なるほど・・・たしかにそうですね」

 「ああ。それでこちらの情報は、こうだ。シンドラの動きは読めなかった。他の都市はこんな感じだ」


 ジュリアンは報告書をフュンに渡した。


 「・・・わかりました。これが各都市の流れ。さすがだ。中までいけるんだ」

 「オレらは、仮の身分があるからな。偽造できるのよ。親父がいるからよ」

 「なるほど。陛下の力で、密偵に簡単になれるのですね」

 「そういうことよ」

 

 フュンは報告書をどんどん読みながら会話をしていた。


 「オレは、嬉しかったぜ。本物がいるなんてな。それに本物の太陽の戦士! この人がそうだろ」

 

 フュンの邪魔をしないようにジュリアンは、レヴィに話しかけた。

 

 「そうですよ。レヴィさんです。僕の大切な人ですよ」


 資料をまだ読みながらフュンが答えた。


 「レヴィ・ヴィンセントです。よろしくお願いします」

 「ど、ども。ジュリアン・ビクトニーだ。です・・・あの、握手いいかな? 本物だぁ。すげえ!」

 「え。ええ。どうぞ」


 戸惑うことがすくないレヴィが、遠慮がちにジュリアンと握手した。

 ジュリアンは本物の太陽の戦士に会いたかったらしい。

 自分たちが、偽物の太陽の戦士であることを自覚していたのがジュリアンであった。


 「わかりました。これで、属国では身分を偽装できないから、調べられなかったのですね」

 「そうなのよ。だから今回、シンドラの中身を見抜けなかった。外だけ分かってたからな。兵数くらいしか調べられなかった。帝国の商人に扮したりしてだな。でもそれだと中まではな。オレらの弱点だな」


 二人の後。ヒルダが聞いてきた。


 「で、ではフュン様。その組織が入り込んでいる可能性が高いのですね。シンドラに・・・」

 「そうみたいです。それで、先ほども言いましたが、ヒルダさんのお父さんは恐らくどこかのタイミングで殺されているでしょう。別人がシンドラ王となっていたようです。アステル。王が変だと感じる時はありませんでしたか?」

 「変ですか・・・たしかに。二年ほど前から兵を増やせと急かされましたね・・・そこからはおかしいかもしれないですね。でも声や、口調。性格だって同じなもので・・・いつおかしいかなんて、分からない・・・ですね」


 異変が、いつなのか。

 それすらも分からない偽装であったらしい。


 「そうですか。奴らにもサブロウと同じ技が。サブロウ。出来ますよね。声を真似ることなどはね」

 「ああ。出来るぞ。ただ、それほど近しい人物を騙すとなるぞな・・・入念にそいつの特徴を掴まないと、出来ないぞ。仕草や癖を掴まないと、騙せんぞ」

 「そうですね……王を下調べして、特徴を掴んでから王を殺し、国を乗っ取った。そして今回。あわよくば帝都を落とす。それが出来ないから、直接陛下と僕を殺そうとした? まあ、それが今回の事件なのでしょう。ナボル。そこまでやるとなると、こちらとしては誰かを潰してみせねば・・・・なら奴から落としたいな。今、ちょうど帝都にいますし」


 フュンは敵を引きずり出すよりもまず見せしめに、敵をやらねばならないかもしれないと思い始めた。 

 こちらも反撃を開始する。

 それがここでの決断であった。


 「・・・では、こちらとしては・・・」


 フュンが今後を伝えようとしたその時。


 「なに!? フュンぞ」

 「どうしましたサブロウ?」


 影からの連絡を受けたサブロウから、フュンへと連絡が伝わりかけると。


 「は? 本当か」

 

 皇帝のドラウドからジュリアンの元にも連絡が来た。


 『シンドラの反乱』『皇帝辺境伯襲撃事件』

 これらもまだ始まりに過ぎなかった。

 事件はここからさらに起きるのである。


 

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