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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
大戦の裏側 太陽の奔走

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222/741

第221話 歴史の裏 皇帝辺境伯襲撃事件

 王とその取り巻きたちが突如として走り出す。

 突然の出来事に、皇帝の後ろで控える兵たちの反応が遅れていた。

 武器の検査や身体検査を受けての入室だったので、彼らは油断していた。

 帝国という大きな国にいることの慢心。

 今までに玉座の間に来る人間が逆らうことがなかったからこその油断。

 圧倒的な国であったから、こういう場面での行動を予測していたとしても、実際の事件に対応する動きが染み付いていなかった。

 本来、彼らは陛下の盾とならないといけないのだ。

 


 走り出すシンドラ王と侍従の兵らは、隠し持っていた武器を体内から取り出した。

 小さなナイフを口から取り出して、そのまま構える。

 皇帝と辺境伯を殺しにかかって来た。


 「死ね。エイナルフ。フュン・メイダルフィア」


 やけに動きの機敏なシンドラ王が、とんでもない跳躍を見せつけた。

 三段高い位置の玉座にいる皇帝とフュンの頭よりも上を飛んでいる。

 彼が頂点に達した後。そこから全体重を掛けて、ナイフを突き刺そうとしてきた。

 その勢いは、かなりのもの。

 滝のように落ちてくる敵に対して、皇帝の周りにいる人間の中で唯一動きが良かった人物がいた。

 それがフュンである。


 「陛下! 失礼!!」


 彼は、左手で陛下を押しこんだ。

 バンッと強く叩くようにして、陛下を後ろに押し込む。

 陛下がよろめいている間に、後ろにいた兵士たちに向けて彼は叫んだ。

 

 「皆さん、陛下をお願いします! しっかりして!! あなたたちの仕事ですよ!」


 フュンの言葉でハッとする兵士たち。

 若干遅れていた行動が正常になる。

 彼らは後ろから前に出てきて、陛下を囲んだ。

 一人が前、二人が横、一人が後ろになって、完璧な護衛の態勢になった。


 冷静なフュンは、後ろの状態に一安心して、シンドラ王を見上げる。

 三段高い位置の自分の頭よりも高い跳躍からの落下。

 身体能力が凄まじいと思った瞬間。

 女性の声がシンドラ王のさらに上から聞こえてきた。


 「やはりですね。では、出なさい。太陽の戦士たち。今です」


 レヴィの淡々とした声が響く。

 身体能力の高い跳躍のさらに上を跳躍している。

 彼女の能力の方が上であったのだ。


 号令により現れた太陽の戦士たちは、四つの敵の前に出現。

 そして、目にも止まらぬ速さの攻撃で瞬殺。

 四人の侍従たちは、走り出す格好のまま倒れていった。


 「終わりですよ。あなた……ナボルですね。シンドラ王なんかじゃない!」

 「なに!? 貴様。なぜ俺の上を。それにどこにいた!」

 「私は太陽の戦士。名は名乗りません。この場にいるナボルは殲滅ですし、あなたのような下っ端。名乗るのが勿体ない。無駄になります。面倒です。私が!」


 急降下したレヴィが、そのままの勢いを利用して、シンドラ王の背を短刀で刺した。

 貫かれる位置は心臓。

 正確にその位置に短刀を刺す彼女は、さすがは歴戦の戦士である。


 「ぐはっ。な・・・なに。なぜだ、俺の偽装は完璧だったはず」

 「それがですか? まあ、見た目は完璧でありますよ。しかし、中身が完璧じゃないですね。あなたからは、匂いが消えていない。闇の者の匂いがね。それと動きが良すぎますよ。一般人はそのような歩行をしていません。闇の者の歩行をしている・・・私には分かります。それにあなた。見えていますか。我が主君。フュン様はあそこで身構えていますよ。私が出現せずとも奇襲は失敗しています」

 「な・・・なに・・・」


 シンドラ王は、レヴィに言われたとおりに前を見た。 

 すると、護衛兵らは一歩遅れていたが、フュンは皇帝の前で刀を抜き対応していたのだ。

 彼もまた太陽の戦士である。

 それも熟練の戦士となっている。

 身のこなしが昔のフュンとは比べ物にならないくらいに良くなっているのだ。

 そんじょそこらのナボルの影では、太刀打ちできないだろう。

 

 「・・・そ・・そんな馬鹿な・・・こいつは・・・弱かった・・・はず」


 皇帝の命を狙ったシンドラ王が絶命した。

 

 「お父様。お・・」

 「近づかない!」


 ヒルダに停止命令を出したレヴィは、皇帝の方を見た。


 「皇帝! 人払いを」

 「う。うむ。そうだな。ここは危ない! 皆解散だ。大臣らは危険だから撤収。離れろ。あとは戦える者と婿殿たちが残る。今すぐ離れるのだ。護衛兵は外を見張ってくれ」


 レヴィの指示を受けた皇帝は皆を追い出していった。

 帝都を運営する大臣や、お付きの護衛兵を外に出して、彼らの安全を逆に図る。

 兵士たちはこのナボルの件を知らない方がいいからだ。

 そして、皇帝のドラウドたちによって玉座の間の入り口をさらに固める。

 万全な状態にした後。



 少し落ち着いた玉座の間にて。

 レヴィは、うつ伏せで死んだシンドラの王を足で仰向けにして顔を切り刻む。

 顔の肉を削ぐような形で、削り取っていくのだが、血が出ない。

 中から別な顔が出てきた。

 若い男性で、頬に刺青があった。


 「別人です・・・これは・・・」


 死んだ敵に近づいたフュンが言った。


 「婿殿。これは、なんだ?」


 フュンの隣に皇帝陛下が来た。


 「ええ。これはナボルの仕業みたいですね。しかもこれは、僕があの時に使った技術に近い。でもこれは・・・・完璧な擬態だ!」

 「それは例の時……余が頼まれた時のだな」

 「ええ。この偽装術はそうです。しかし、これは僕らの技術よりも上だ。こんな風に別人に変われるなんて・・・僕らの技術では出来ない」


 陛下とフュンの会話後。

 フュンは、サブロウに聞く。


 「サブロウ。どうですか。これは、僕らと同じような技術・・・ですよね? 似ているだけでしょうか?」

 「うむ・・・そうぞな。これは・・・ほぼ別人になっとるぞ。これ、ここの頬も動く」


 サブロウは偽のシンドラ王の剥がれた頬を棒で触る。

 直に触れると危険だと判断した。


 「こいつ、表情も変えられたのが凄いぞな。おいらたちのは無理だったぞな。だから、皇帝に早くに燃やしてもらったのだぞ」

 「ええ。そうでしたね。それにだから、ナタリアさんとレイエフさんも、微妙に表情がないですからね。んんんんん。これは、まずいかもしれないですね」


 フュンは相手の技術に驚愕していた。

 目の前の死体の顔は、人の顔である。

 それも生きてる人の顔に似せて、精巧に作るなど、自分たちの技術では出来ない。

 本人そのもののように見えるレベルは再現不可能だ。


 「こうやって、どこかに潜んでいる可能性があるようです。フュン様」 

 「そうですね。レヴィさんがいて助かりましたよ」

 「いいえ。あなた様も分かっていたのでしょう?」

 「はい。なんとなくですがね。シンドラ王が変。こんな曖昧な感覚を得ていましたね。でもですよ。なんとなくなので、レヴィさんのように完璧に構えていたわけではないですよ」

 「いえ。素晴らしい。さすがはソフィア様の子です。彼女もなんとなくを大切にしていました」

 「ええ。そうでしょうね。母上は・・・そんな感じの人でしたもんね」


 フュンは彼女を思い出して軽く笑っていた。

 

 「それじゃあ、私の父は……偽物?」

 「ごめんなさい。そのようです。おそらくは、もう死んでいるのかもしれません。どこかのタイミングで殺されています。別人ですね」

 「別人なんですか? ほ、本当に」

 「ええ、そうです」

 「・・・そうですか。死んでいたのですね。お父様は・・・」

 「ごめんなさい。僕としてはお父さんもたすけたか・・」

 

 ヒルダはフュンの言葉を遮った。


 「いいえ。大丈夫です。むしろ、安心しました。あれらの出来事が父の仕業ではないのですから。父の行動じゃないのですよね。敵の行動だったのですよね」

 「はい。そうです」

 「・・・よかった・・・私は捨てられたんじゃないんだ。父から捨てられたわけじゃないんだ」

 

 ヒルダは、納得していた。

 父が死んだことは当然に悲しい。

 でも父に裏切られていなかったことが証明できたことの方が嬉しそうだった。

 彼女は、悲しさの中に喜びを見つけていた。

 ここから前を向いて生きるのには、大切な心持ちだった。


 そんな彼女が、脇に行って、自分の考えをまとめているので、フュンはこの現状に目を向けていた。


 「・・・それにしても、もっと完璧に闇の気配を消せる人だと・・・・僕らはこれを看破できないぞ」


 フュンは顎に手を置いて悩んでいた。

 今の敵の動きに影の力があったために、変だと感じられた。

 これがもしサブロウのような完璧な変装術をマスターしているものだとすると、看破するのは不可能に近い。

 相手がぼろを出す以外にこちらが先手を取ることは無くなったのである。

 

 「これは・・・・どうしましょうか」


 フュンが悩んでいると、皇帝が更に近づいてきた。


 「婿殿。そちらの女性は?」

 「ええ。こちらはですね。レヴィさんと言って、僕のメイドさんで・・・・たい・・・」


 フュンは太陽の戦士と言おうとしたのだが、途中で止めた。

 この場にいる全員の顔を見て、話を切り替えた。


 「陛下。少し待ってください。今から大切なお話をしたいのですが、こちらにまず許可を取ります」


 ヒルダに近づいたフュンは笑顔で話しかけた。

 友に、聞いてもらいたい話があるからだった。

 一緒に戦ってもらうには、真実を知ってもらわねばならないのである。







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