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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
新たな英雄の誕生 第七次アージス大戦

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第205話 真の帝国軍へ!

 本陣に帰ってきたクリスは、全体会議の計画をしてシルヴィアに進言した。

 各軍の幹部を集めることに成功する。

 

 ダーレー軍本陣に集まったのは、帝国軍の全幹部たちである。

 フラムの部下は全滅し、軍すら全滅したために一人で参戦となる。

 彼自身は肩身の狭い思いをしているが、シルヴィアとスクナロはその事に対してまったく気にしていなかった。

 相手があの英雄だったのだ。

 自分であっても軍が全滅することなどあり得る事だと思っているからだ。 

 これは情けなどではない。

 相手が強い事を知っている二人だからこその正直な話である。

 



 全体会議にて。

 スクナロが会議室について早々席に座るシルヴィアに話しかける。


 「シルヴィア。どうなったのだ。こっちの停戦から動きがない」

 「はい。兄様にお伝えしたいことがあります。私の軍師からの報告でもよろしいでしょうか」

 「ああ。構わん」


 会議室の前方にはフラムを含めた軍の大将三人が座る。

 彼らの前にクリスが出てきて発言する。


 「では私から報告します。私は昨日から今日にかけて。使者として帝国軍本陣に行きました」

 「なに!? お前が。軍師自らがか!?」

 「はい。私ども。ダーレー軍は敵の二将を確保しました。彼らを捕虜としてフラム閣下と交換する交渉をしたのです」

 「敵二人だと・・・」

 

 スクナロは、使者の件までは知っていたが、中身を知らなかった。

 二将を捕まえた話と軍師のクリスが直接現地に向かった話である。 

 だから想定外の話ばかりに驚くしかなかった。


 「そこで、交換は成立。そして一つ条件をもらいました」

 「条件?」

 「はい。解放条件をもらいまして、それは知らせであります」

 「知らせだと」

 「あちらが攻撃してくると決めた場合。必ずこちらに使者をよこして欲しいとお伝えしました」

 「なに!?」

 「予告戦争をしてくださいとの条件を飲んで頂きました」


 クリスとスクナロの会話だったが、それを聞いていた。


 「なんと・・・そんな条件を・・・何の意味が・・・」


 ターク軍副将マルンが驚いた。

 その隣にいるハルクも同様に驚いていたが、彼の方は口に出さずにいた。


 「はい。これで、ラインを確保しました」

 「ラインとは何だ。えっとお前は誰だ。ダーレーには新しい軍師が来たと聞いていたが。名は?」


 クリスの名を知らないスクナロが聞いた。


 「クリスであります」

 「クリス。覚えたぞ!」


 力強い発言。

 思いを真っ直ぐ伝える漢である。

 

 「兄様。彼はフュンの軍師であります。私のではありません」

 「そうか。合点がいく。フュンの部下であれば切れ者がいてもおかしくない。そうか。なるほどな」


 フュンであればこのような切れ者を持っていても不思議じゃない。

 妙に納得したスクナロは満足げであった。

 スクナロはすでにフュンの事を本当の弟のように思っているのだ。

 血は繋がってなくとも、思いは繋がっていると思っている。

 この絆は、二人とも武人でもあるからだ。


 「それでクリス。どういう事だラインとは」


 スクナロは改めて質問してくれた。

 

 「はい。これで相手は少なくとも前日。まあ余裕を持って三日前までには戦闘を警告するしかありません」

 「そうなのか」

 「ええ。ネアルは、戦争当日に連絡を入れるのは卑怯だと考えるでしょう。ネアルは器が大きいのです。だから、こちらが不利となる様な姑息な手を使えません。たとえ、あのヒスバーンという男の助言があったとしても、彼は絶対に直前には連絡を入れません」

 「ヒスバーン? クリス、それは誰ですか?」


 シルヴィアが聞いた。


 「はい。ネアルの隣には、ヒスバーンという男がいました。こちらが調べた限り。奴はあの国での宰相のようなポジションを得ている男です」

 「なるほど。サナリアでのあなたのような」

 「そうです。だから私は奴が軍師だと思いました。考えが鋭い。雰囲気も若干裏面にいるような印象でした。だから、彼は軍師。しかも頭の良さがあるので、警告無視を思いつくはずです。ですが、彼の提案は無駄です。無視されます。ネアルは、進言されようと姑息な手を使わない。だから彼も一応軍師として提案はするがそれが無駄だと分かっているでしょう。なので、三日前。もしくは前日までにはこちらに使者が来るはずです」


 クリスの予想は真実に近い。

 そんな雰囲気だと思った幹部会の皆は黙って頷いていた。


 「そこで、我々は軍の再編成をしたいのです」

 「ん? どういう事だクリス」

  

 スクナロが聞いた。


 「敵も再編成するのです。ですからこちらもです」

 「ん? 軍をか」

 「はい。まだ攻める。そう言った言葉の中には。まだ諦めないという意味が含まれているのです。ということは、こちらはフラム閣下の軍がありませんが、あちらはアスターネとパールマンの軍がありません。なので、再編成するはずなんです。エクリプスが2万。ネアルが4万。負傷や死者で上下はしても計6万の軍となります」

 「なるほど・・・そういうことか」


 この瞬間スクナロは、妙に納得が出来た。

 それは、ナタリアとレイエフがあの時助言した意味がここにあったのだと気付いたからだ。

 兵の体力の温存。

 それだけでなく兵数の有利を保ちたい。

 あの進言にはこの意図が隠されていたのだ。

 そして、二人の進言の裏にはこの男がいると思った。

 これほどの切れ者ならば、あのような指示を出せるはずだと。


 「ええ。ですから、我々も軍を再編成したい。スクナロ軍2万8千。ダーレー軍4万。まあ負傷兵を入れての大体の数ですが、これを再編したい。帝国軍6万8千。大将シルヴィア様でまとめていきたいのです」

 

 クリスの衝撃の意見に対して、当然反対が出て来る。


 「なんだと。そこはスクナロ様だろうが」

 「そうだ。何を言っている小童」


 それがハルクとマルンのスクナロの副将二人である。

 シルヴィアの兄スクナロの方が総大将としてふさわしいと思うのは当然なのだ。

 ここから少しの間激論のようになるが、その間、スクナロ自身は目を瞑り考えていた。


 「・・・・お二人の言葉も分かります。ですがこれが良いのです」

 「ふざけるな。このガキ」

 「小童。ここで死にたいのだな」


 ヒートアップしていった二人が武器に手をかけた。

 主が馬鹿にされていると思っている。


 「静まれ。二人とも」

 「「・・・・・」」


 スクナロの一喝で二人が黙った。


 「何か。考えがあるのだな。クリス!」

 「はい。そうです」

 「言ってみろ。俺は、聞く!」


 肝が据わっているのがスクナロという漢なのだ。

 馬鹿にされているわけではない。

 この男はどこか自分を信じていると、クリスの態度や言動ではなく、自分の直感で感じている。


 「私は、総大将シルヴィア様でと考えています。そして、その理由は。スクナロ様には一将軍として、主攻を担ってほしいと思っているのです」

 「なに? 俺がか」

 「はい。我が軍で最も突破力のあるゼファー部隊。それとほぼ同威力の突進能力があるスクナロ軍です。それもあなたが本陣に引っ込んでいても同威力。ということは、あなた様が一将軍になった場合。その時はスクナロ軍が本当の力を発揮すると思っています」

 「・・・ん? どういうことだ?」

 「スクナロ様・・・いいえ。ここは、ハルク殿。マルン殿の方がいい。お二人にお聞きします。スクナロ様が本陣にいる時と、スクナロ様が兵を引き連れている時。その違いはあるでしょうか? 私は攻撃力の違いがあると思っています!」


 二人の副将に聞いたことで、答えるのがこちらとなる。

 

 「と、当然だ。殿下には悪いが、殿下が前線にいる時と、いない時では違いがある。我々の気持ちにもな」

 「ああ。数倍は違うだろうな。気持ちが違う。ノリも変わってくる」


 ハルクとマルンは答えた。


 「そうです。だから、本陣にいてあの突破力を誇るスクナロ様。ということは、本陣から離れて前線に来たら、帝国一の攻撃力を誇る部隊となります。だから主攻をお願いしたい。切り札となって欲しいのです。帝国を守るための!」

 「・・・なるほどな・・・・考え方・・・その言い方。なんだかフュンに近い雰囲気を感じるな」

 「ええ・・当たり前であります。これはフュン様なら、どう考えるか。私の思考の第一段階はこれで決まっています。私はフュン様の軍師でありますから! フュン様が考える際の力になりたく、そういう訓練をしてきました。全てはフュン様の為です」


 自信満々の顔でクリスは答えた。

 全部をフュンに賭けている。

 思いも、命も。意志も。考えも。

 山で暮らすような小さな自分を拾ってくれた偉大な指導者。

 それが彼にとってのフュンである。


 そして、スクナロはフュンと重なっていくクリスを見て笑った。

  

 「ハハハ。なるほどな。そばにフュンがいるように感じるのはそういう事か・・・いいだろう。俺も将として動こう。面白い。暴れるか。久しぶりにな。いいか、ハルク。マルン。俺も好きに暴れるぞ」

 「・・・そうですな。私もそうしましょう」

 「殿下がそれでよろしいのなら、私は従います」

 「おう。二人とも悪いな。付き合ってくれ」


 スクナロは部隊の将になることを受諾した。

 これにて総大将はシルヴィアとなる。


 「では、軍を編成します。私の意見で、編成してもよろしいでしょうか。スクナロ様」

 「いい。お前をフュンだと思って、指示に従う。頼む」

 「はい!」


 クリスは今まで一番良い返事をした。 

 

 「では、スクナロ軍を一万とします。残り、一万八千をこちらに分けてもらいます」

 「良いだろう」

 「ただ、スクナロ様が指揮する軍は騎馬にしてください。副将をハルク様。そしてマルン様はシルヴィア様の本陣に来てもらいますか」

 「私が本陣?」

 「はい。あなた様の考えが欲しいのです」

 「どういうことだ」

 「あなた様も本陣の作戦に参加して頂いて、スクナロ様の思考を知りたいのです。目の前の展開の仕方。その時のスクナロ様の動きや考え方を説明してほしいのです」

 「そういうことか・・・わかった。私がやろう」

 「ありがとうございます」


 マルンは本陣。二人が前線となった。


 「次に、レイエフ殿とナタリア殿は戻って来てもらいます。ここからのスクナロ様は本能のまま戦えばいいので、策がいりません。高速戦闘の騎馬軍であるので、感覚で戦ってもらった方が強いです。なので、私と共に戦術を考えていきます。お願いします」

 「「わかりました」」


 二人が了承。シルヴィアの本陣に戻ることになった。


 「次に、ピカナさんも本陣に来てください。お願いします」

 「はぁい。よろしいですよ」

 「ありがとうございます」

 

 ここからの戦いは激戦となる。

 だから、おそらく前線で戦える将でなくては足手まといとなるのだ。


 「次に、ヒザルス殿。あなたを大将格の一人にします。ピカナ部隊一万二千。それとスクナロ様から頂いた一万八千の部隊をまとめて三万の兵とします。よろしいですか」

 「いいよ。ただクリス。混成となるのならば、内訳は」


 ヒザルスにしては真面目であった。

 おふざけなしの彼は珍しい。

 

 「ヒザルス殿が直接指揮するのはスクナロ軍の一万です。そして副将にタイム殿と、ミシェル殿を置きます。タイム殿が混成部隊となり、ピカナ部隊二千とスクナロ軍八千です。そしてミシェル殿がピカナ部隊一万です。これがベストだと思います。タイム殿ならば、混ざり合ったであっても、まとめられる。だから大丈夫かと」

 「なるほどな。俺は了承した。二人は」

 「おまかせを。僕もやってみます」

 「私は・・・」

 

 ミシェルは弱気だった。

 ザイオンを失い不安が募る日々を過ごしていたのだ。

 表情も疲れた顔で、寝ていないような状態だった。

 

 そこにゼファーが手を貸す。

 彼女の肩に手を置くと、微笑んだ。 

 すると彼女の心に勇気が湧いたのだ。

 そばには仲間がいる。ザイオンの代わりではないけど、大切な人たちがいる。


 「・・・ゼファー殿」

 

 ゼファーは『うん』と一つだけ頷いた。


 「わかりました。やります。私も一人の将です。ザイオン様の一番弟子です」

 「頼みます。あなたたち三人が本陣手前の軍です! 最終の要の軍となります」

 

 三人が頷いた。


 「次に、ザンカ隊。ザンカ隊は狩人を合わせて一万四千です。負傷兵も抱えますから実際には少ないかもしれません。ただ、あなたたちは独立友軍にします。全体の攻防を見極めて、中間距離で戦ってほしいです。それで、軍編成はリアリス殿を入れてください」

 「小僧。エリナは」

 「エリナ殿はまだ無理が出来ません。身体の傷もですが、心もよくありません。リアリス殿でお願いします」

 

 全身がボロボロになっている所にザイオンの死が重なる。

 自分がいれば、死なせずに済んだとエリナの心労も激しかったのだ。


 「了解だ。まかせろ」

 「はい」


 ザンカの後にリアリスも頷いた。


 「最後にゼファー殿。あなたが矛となります。隠しの切り札。スクナロ様を援護する槍となりましょう。いいですか。ゼファー殿がスクナロ様の助攻をします。偽の先陣です」

 「任された」

 「そして、スクナロ軍からも馬をお借りして、こちらも全て一万の騎馬部隊にします。最高速度で敵に当たり粉砕します。そして離脱をしてから再びの突撃。完璧なサナリア流の戦いをします」

 「わかった。我は了解した」

 

 ゼファーが頷いた。


 「はい。お願いします。そして、このまま本陣は四千。シルヴィア様。全てをお任せします」

 「わかりました・・・私がやりましょう。総大将として、帝国の勝利の為に戦います」

 

 シルヴィアがもう一度、皆に呼び掛ける。


 「今こそ、帝国は一つとなりましょう。私たちは帝国軍として、王国に勝ちましょう! いいですね!」

 「「「おおおおおおおおお」」」


 この場の声が一つとなった。

 

 そうこの日が、エイナルフが皇帝となり、初めて帝国の軍が一つとなった日と言えるのだ。

 

 家が、気持ちが、バラバラの軍ではない。


 これが真の帝国軍である!

 

 一つの勝利の為に、一つの軍が生まれたのだ。


 

 

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