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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
新たな英雄の誕生 第七次アージス大戦

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第204話 優秀であればあるほど、フュンの平凡な考えを理解できない

 宴会の席。

 ネアルが上座に座り、その両隣を固めるのがブルーとヒスバーン。

 そしてその向かいにクリスが座り、彼の右後ろにゼファーが座る形であった。

 ゼファーの座る位置が若干ズレているのは、粗相したら困るからとゼファー自らが申した事である。

 

 宴会の最初。

 ネアルがすぐに杯を持ち上げたので、乾杯から入るのだと思ったクリスも杯を持つ。

 

 「では乾杯だ」

 「はい」


 ネアルの杯が、亀のようにノロノロとした動きでゆっくり動く。

 これは、先にクリスに酒を飲ませるための行為で、相手を試す動きだと誰もが分かることだった。

  

 ここで普通の人間ならば、ネアルよりも後に飲むのが常識。

 なぜなら敵地のど真ん中にいる現在。

 毒などを警戒して、自分からは酒を飲むはずがない。

 ネアルに飲ませておいて、安全を確かめてから飲んだ方がいいのだが・・・。


 『ゴクゴクゴク』


 と、勢いよく一杯飲んだのがクリスであった。

 この中で誰よりも早く飲み、誰よりも早く飲み干した。

 

 まさか、自分よりも早く飲むとは思わないネアルは、表情に出さずに驚いていたが、態度には表れていた。

 持っていた杯の動きが止まっていたのだ。

 その様子に気付くブルーは衝撃を受けていた。

 ネアルが動揺する場面を初めて見たからだ。


 「いや、美味しいですね。これが王国のお酒ですか?」

 「・・・ええ、そちらにはない味ですかな」


 動揺していても、話はしなければならない。

 話し出すまでに間があったものの、ネアルはなんとか切り返せた。


 「そうですね。あまりない味でしたね。まあ、味は好みの問題でしょう。私は好きですね。美味しいです」

 「…それはよかった」


 敵陣で食事をするクリスは逆にこの場を楽しんでいるように見える。

 こちらに来たばかりの頃の顔つきとは違い、ほんの僅かだが表情が少しだけ緩んでいるようなのだ。


 そして、後ろに控える形のゼファーはというと。

 そもそもこれらを楽しむという感情がなく、ただこの場にいるだけのような雰囲気で、気配を小さくしていた。

 なので、ネアルはこの男もまたクリスと同様おかしな考えを持っている奴じゃないのかと、ゼファーを警戒し始めていた。

 この場に来て緊張もせずに、淡々とご飯を食べている様子は不気味である。

 しかも食べてる量がかなり多い。

 黙々と食べるにしては、口の中に大量のご飯を詰め込んでいる気がする。


 しかし、そんなネアルの考えは間違いであり、ただ単にゼファーという男は、目の前に美味しそうな料理があることが嬉しいだけのただの食いしん坊であるだけなのだ。

 ゼファーには、相手にどう思われるとかの深い考えなどない。

 あるわけがない! 

 だって、あのゼファーなのだ。

 戦闘以外。

 考えることを放棄している節があるので有名な人物であるのだ!!!

 

 「それで、貴殿らはフュン・メイダルフィアの家臣なのだな」

 「はい。私はフュン様の軍師兼宰相です」

 「ほう・・・ではそちらは」

 「……む、わ…我ですか。我は従者兼守護者です。命を懸けてお守りするのです……ごもごも……我はそういう存在です」


 ゼファーは、子供の頃と変わらず、ご飯を食べながら質問に答えていた。

 話し出す時に、食べ物を詰め込もうとしないだけ成長はしている。

 貴族集会の頃よりも大人になったのです。


 そして、運が良い事にネアルがその事に関して気にしていない。

 それよりも、よく自分の前で飯を食べながら答えられるとネアルの内心は大笑いしていた。

 自分の部下だったら、こんなことはしない。

 ありえない。

 王国にはいない非常識な男に興味津々である。


 「ほう。部下ではないと。従者であると?」

 「いいえ。部下であり。従者であり。守護者です。我が主は我らの希望であるので。我は全身全霊でお仕えしているだけです」

 

 ゼファーの目に曇りがない。

 それに今の言葉の時だけご飯を食べなかった。

 だからその言葉が本心であると感じた。


 「なるほど。強い絆だな。私とお前とは違うな。ヒスバーンよ」

 「・・・まあ、そうだな」

 「ふっ。そこは違うと言え」

 「・・・嘘は言わん」

 「ククク。面白い奴だ」


 お酒のおかわりをもらいながらクリスは今の会話を分析していた。

 有能であれば、義に厚くない部下がいても別に構わない。

 それがネアルであると判断した。


 フュンとは、対極にいる人物だと思ったのだ。

 彼は有能さよりも絆。

 そして、人に無能などいないという考え。

 人には必ず何か得意なことがあるはずだと、一人一人の特性を見極めて適材適所に人を配置しようとする者である。


 頑張る人を助ける。

 頑張れる人の背中を押す。

 それがフュンの根底にある考えである。


 「それで、そこまでして、忠義を尽くす価値があるのか。そのフュン・メイダルフィアは」

 「当然。愚問だ」

 

 ゼファーの表情が一瞬だけ鬼になった。

 しかし、別にネアルがフュンを愚弄しているつもりではない事に気付いたゼファーは、すぐに顔を真顔にする。

 口調を和らげて、続きを話し出した。

 

 「今の質問は。するのも勿体ないですぞ。意味がない。愚問過ぎて、へそでコーヒーを沸かせます」


 これはゼファーのボケなのか。それとも知識がないのか。

 彼の顔が真顔であるから判断がつかない。

 

 部屋全体に一瞬の沈黙が訪れた後。

 ネアルが、同じ質問をクリスも答えろと目線を送った。


 「私にもですか。ええ、もちろん。そんな当たり前の事をわざわざ聞かれなくともですね。フュン様の家臣全員。この身を捧げても良いと思っています」

 「ほう。そこまで……本当か」

 「ええ。我が主は全てを託せる男なのです。我が主の命は、自分の命よりも大切であります」


 クリスの言葉にゼファーが黙って何度も頷いていた。

 こんな事は当たり前の話である。

 些細な話と同程度、当然すぎてあくびが出るとゼファーはご飯を食べるのを再開させていた。

 何があっても、結局は食事が第一のゼファーである。


 「そうか。それは凄いな。フュン・メイダルフィアは・・・」

 「お言葉ですが」

 「ん? なんだ」

 「私はそちらのブルー殿も似たようなものだと感じますが?」

 「なに。ブルーが?」

 「ええ。そうではないのですか。あなたも、こちらのネアル殿に全てを懸けていると思います。どうでしょう?」

 「もちろんです。私はネアル様に忠を尽くします」

 「やはりそうでしょうね。あなたからは我々と似たような思いを持っていそうでしたからね」

 

 ブルーの言葉を聞いたネアルは、笑っていた。


 「ハハハ。そうか、ブルー。まあ、有難い話だな。そこまで思ってくれる部下がいるとはな」

 「ということはあなた様も素晴らしい主であるという証拠。我が主と同じです・・・」


 含みを持たせて話すクリスは、ネアルの様子を観察していた。

 フュンを意識しているのは間違いなかった。


 「・・・む・・・そうだな。同じ・・・だから、決着を着けたいのだな。私は・・・」


 ネアルはクリスの言葉を聞いて自分の気持ちを理解した。


 そして、ここで思うことが出来た。

 それは自分と同等。

 又はそれ以上の才覚があるかもしれないフュンに対して、何かを思うとしたら、何故一国の王でもないのかという事だ。

 これほどの家臣を持ち。あれほどの戦力と戦略を持っているのに。

 帝国に飼われた存在でいるのが、不思議でままならない。

 クーデターでもして、自分が皇帝になった方がいいのではないかと、ネアルは本気で思っている。

 自分だったら確実にそうすると思いながら、盃に残った酒を飲んだ。


 しかし、これらの考えは、誰もが思うことでもある。

 ある程度の地位の高い人物であれば、自分が王になって国を動かすことを選択するはずなのだ。

 自分が一番になって采配を振るってみたい。

 こう思うものが多いはず。

 でも現実。

 フュンはいち地方都市の領主に留まっている。

 ここが何故だ!? 強い疑問が出て来る。

 ネアルは、この二人を見てますます疑問に思っていた。



 しかし、ネアルはフュンを見誤っている。

 

 太陽の人、フュンとは!

 

 考えが平凡。いいえ、むしろ普通過ぎるのです。

 真っ直ぐに普通の事を考える人であるのだ。

 だから、ネアルのような超人では、支配者として優秀な人間には、逆にフュンの考えを理解できない。

 

 彼は、皇帝を倒して、自分が皇帝に成り代わってやろうなどの野心を米粒一つ分も持たない。

 むしろ彼は、皇帝の事を本当の父だと思って尊敬しているくらいなのだ。

 彼にとって帝国の王家とは、やっとできた大切な家族なのだ。

 奥さんの父として、国の王として、守りたいと思う特別な存在。

 

 だから、この考えはネアルとは絶対に相容れないだろう。

 それに帝国の最高戦力に関しても考えが違う。

 フュンは自分が持つ家臣団だけがいればいいのだという考えを持っていない。


 彼も当然。自分の部下たちが最高の人材だと思っている。

 これほど優秀な人間たちが自分の部下となってくれていることにとても感謝している。

 でもだ。それが最高の戦力だと思っていない。

 なぜなら、彼は帝国が持つ全ての戦力、それが最高戦力だと思っている。

 帝国が最も光り輝く時、それが全員が集結した時であると考えているのだ。

 だから彼の考えは御三家にもネアルにも思いつかない。

 彼の考えは、優秀な人物であればあるほど、思いつくことがないのである。

 

 「では、この辺でいいでしょうか。明日の朝。挨拶をしたら帰ります」

 「わかった。今日はゆっくりなさるといい」

 「はい。ではお部屋。感謝します」


 と言ったクリスとゼファーは、食事を残さずに食べていた。

 敵地で出されたものを食べきる。

 この行動にネアルは、ブルーとヒスバーンの隣で大笑いして思う。


 この敵こそが、乾いた自分を潤わせる。

 満足させる敵たちである。

 なにも、フュン・メイダルフィアだけが、自分を満足させる敵じゃない。

 他にもいたのだと思い始めたのだ。





フュンの考えはこれまで通り。

普通の考えを普通に実行しようとしてます。

彼の行動基準。

それは、家族、仲間、友です。

つまり、『人』なのであります

この小説のテーマ。

『人は石垣人は城情けは味方仇は敵なり』

これが、彼の心の中にあります。


そして、フュンは家族に特に飢えているので、皆が力を合わせるべきだと考えています。

なので今は帝国を一つの家族にしようと奮闘しているわけです。

それを実現するためにフュンの仲間たちも奮闘してますし。

そこになんとなく気付いているシルヴィアもいます。

彼女は彼と夫婦になったことで、彼の優しさの奥にある思いになんとなく気付いているのです。

ただし、彼の出自や詳しい計画などは知りませんよ。

フュンに多少の隠し事があっても、シルヴィアはフュンを信頼しています。


いずれは話してくれる。

今はまだその時ではないのだろう。


彼女は結婚して待つ女になりました。

他に女がいるのかも。自分が好きじゃないのかも。

なんて思っていた若い頃とは大きく変わりました。

余裕が出てきましたね。

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