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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
サナリアの真の統治者 フュン・メイダルフィア

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第164話 対決! ゼファーVSミシェル

 秘密の部屋から出た後。


 「あの方たちは何故あそこで訓練を? 影にでもなるおつもりなんですか?」

 「いいえ。あの人たちは。今度からですね。僕と一緒にサナリアを強くする人たちなんですよ。最近こちらに来たのでね。まあ、色んな指導をサブロウやミラ先生からもらってるんですよね」

 「へえ。そうなんですか」


 あの二人が直々に指導することが珍しい事なのに、そこを疑問に思わなかったシルヴィアが、別の疑問をフュンに聞く。


 「あのお二人は、どこの出身なんですか? なんだかあのお二人には会ったような気がしましてね。サナリアの方ではないのでは?」

 「え!? い、いやいや。あの方たちは、僕がサナリアでスカウトした人たちですからね。な、何かの勘違いじゃないですか。サナリアの民ですよ」

 「そうですかねぇ……なんだか会ったことがあるような気がするんですよね・・・所作が綺麗だったような・・・私・・・どこでだろう・・・」


 シルヴァアは先程の男女が気になっていた。

 会ったことがある。知っている気がする。

 そんな印象を初対面で抱いた人物は珍しい。


 頭を悩ませているシルヴィアに、あえてフュンは明るく話しかけてきた。

 それで意識がそちらに向かった。

 疑問があろうがフュンの笑顔ですべてが吹っ飛んでしまうシルヴィアなのである。


 「そうだ。シルヴィア。行き先を変更して兵訓練所に行きましょう。メイドさんたちとは後で、楽しくお話ししましょう。ちょうどあそこでは訓練をしているだろうから。戦姫にも訓練を見てもらいましょうかね」

 「あ。あなたからですね。戦姫なんて呼ばれるのは嫌ですよ。シルヴィアですよ。フュン!」

 「もちろん。シルヴィアはシルヴィア。でも戦姫でもありますからね。軍にいる時のあなたはカッコイイですからね。ええ。本当に頼もしいですよ。帝国の戦の姫。戦うお姫様ですからね」

 「・・そ、そうですか・・・ぐへへへ」


 とてもじゃないが、今の彼女の顔は、家族以外にはお見せ出来ない。

 凛々しい彼女は、この場にはいないのであった。



 ◇


 二人は馬を飛ばして兵士訓練場へ。

 到着と同時に現場は一触即発の怪しい雰囲気。

 ミシェルとゼファーが白線の前に立ち、睨み合いになっていた。

 二人は背に部隊を控えさせていた。


 「ゼファーさん! 選抜隊を五百。お育てになられた兵たちから選び、私と戦ってください」

 「いいでしょう。わかりましたミシェルさん。選びます」

 

 二人は背中を向けて、兵の方に向かっていき、人を選抜していく。



 ◇


 ミシェル陣営。

 

 「あなたは・・・お怪我がありますね。お休みです。あなたは・・・」


 ミシェルは兵士らの体調面を考慮して選抜を開始。

 軍の兵士には、実力差があるのが当たり前。

 個人の力量など違いがあるのは当然なのだ。

 だからこういう場面では通常。実力の高いものを選抜するのが常識である。

 だが、彼女は違った。

 皆の能力の平均を高く保つ選抜をしたのだ。


 「それで、そうですね。あなたがいいですね。あなたが副隊長です。ビリーさん」

 「わ、私ですか!? え、いや。私は」


 副隊長に任命したビリーは、この中でもど真ん中の平均的な力の持ち主。

 だから彼は、私でいいのでしょうかと周りの人間たちを見たのである。

 不安だったらしい。


 「ええ。あなたが良いです。私が教えてきたことを覚えておりますか」

 「はい。それはもちろんです」

 「ならば、結構。あなたでよろしい。では、五百名はこちらの方に来てください」


 ミシェルは隊列などに気をつけながら、兵士たちを並べ始めた。



 ◇


 ゼファー陣営。


 「あなたとあなたと・・・それにあなたですね」


 ゼファーは通常通り。

 実力順に兵士を並べていく。

 戦における基礎は、皆の体に叩き込んだつもり。

 ならば、戦場で戦う際にもその実力が高い方が部隊の力を発揮してくれるだろう。

 当たり前の常識を頼りに選抜していった。


 「皆さん! 我々は正面で当たります。私がミシェル殿を押さえれば、あとは皆さんならば勝てます。あれほど特訓を重ねたのです。こちらの方が実力が上なはずだ。頑張りましょう」

 「「「はい」」」


 ゼファーも訓練がだいぶうまくなったように見える。

 部隊の面子の表情が良く、体調も整っていた。


 ◇


 戦闘開始直前。フュンとシルヴィアは、作戦確認中の彼らの中央に入った。


 「何をしてるのですか? ミシェル。ゼファー?」


 フュンの言葉に、二人は跪いて答えた。


 「これはフュン様。こちらに・・・珍しいですね。何用で」

 「殿下」

 

 忠誠心が高いのは結構だが、答えがまだない。


 「ええ。シルヴィアを案内してました。それで、あなたたちは何をするつもりですか・・・ミシェルの方が良さそうですね。ミシェル何をするのですか?」


 ゼファーの表情が硬く、ミシェルの表情が柔らかいので、フュンはミシェルを選択した。


 「はい。フュン様。これからゼファー殿と勝負をします」

 「勝負??」

 「はい。ゼファーさんがお育てになった部隊と、私が二週間鍛え上げた部隊で戦うのです。模擬戦闘であります」

 「なるほど。わかりました」


 フュンが納得すると。


 「面白いですね」


 シルヴィアが答えた。


 「はい。お嬢。ちょうどよい所に来てもらいました。私の今の実力をお嬢に見てもらいたいです」

 「ええ。わかりましたよ。ミシェル頑張りなさい」

 「はい」


 シルヴィアが激励したので。

 こちらも。


 「そうですね、ゼファーも頑張りなさい。ミシェルは強いですよ。あなたも部隊運用を学ぶに彼女との戦いは良い勉強になるでしょう。油断はしないと思いますが、気を引き締めて戦いなさい」

 「はっ。殿下」


 フュンも激励した。


 「それでは掛け声をフュン様にお願いしたいです。よろしいでしょうか」

 「ええ。いいですよ。開始しても良いと思ったら、手を挙げてください。そしたら僕が声を掛けますから」

 「ありがとうございます」


 二人は、ここから戦いの準備に入った。

 今回の模擬戦の武器は、木の棒。矢じりのない弓。木の盾。木の槍である。

 皆が各々の武器を準備して数分後。

 二人の手が挙がり、フュンが声を出す。


 「それでは・・始め」


 二人は、フュンの掛け声とともに対照的な動きをした。

 華麗な容姿のミシェルは、自分の部隊に待機命令を出し、相手を待つ。

 鬼神のような強さのゼファーが、先手を取ろうと突撃を開始した。


 ◇


 最初の一撃を仕掛けようと動いたのはゼファーの部隊。

 彼が育てた兵の動きは抜群。

 前後左右によく動く。

 移動速度のある攻撃でミシェルの部隊を切り裂こうとしていた。

 だが、その圧力のある部隊を前にしてもミシェルは冷静そのものだった。


 「皆さん。事前に学んだ通りの展開をしてください。盾部隊展開」


 部隊の三列目にいた盾部隊が急遽前に出てきて盾を展開。

 ゼファーの部隊の攻撃を防ぐために、鉄壁の壁となる。

 彼らの方に速度があろうが、強さがあろうが。

 ミシェル部隊の盾は、攻撃を通さない頑強さがある。


 「なに!? 攻撃が・・入らない!?」


 相手を崩すのに先手必勝の突撃を基軸に考えていたゼファー。

 ミシェルの巧みな部隊運用を知るからこそ、とにかく先に攻撃して、先制攻撃から一気に戦場を有利に持ち込もうとしていた。

 だがそこの考えも、織り込み済みのミシェル。

 彼女は、兵らの体を鍛えるだけではなく、座学まで仕込んでいたのだ。

 この場合はこう動く。あちらがこう出たらなどの。

 ありとあらゆる場面の対処の方法を、細かく丁寧に教えてあげることで、兵の体を休めるという利点と、動きの洗練さを磨くという重要部分を同時にこなしていたのだ。

 彼女はあの荒くれ者のウォーカー隊を率いている将だ。

 しかも最も規律性がなかったザイオンの部隊を完璧な攻防一体の軍に仕上げた者である。

 ザイオンよりも隊長に相応しい副将であるのだ。


 「いきます。一斉斉射です」


 部隊の八列目から弓部隊が顔を出す。

 それより前の部隊がしゃがみ込んだことで、射線が通った。


 矢は、動きが止まったゼファーの部隊の一列目、二列目、三列目の兵に当たる。

 一撃が入ると戦場から離脱。

 模擬戦闘はそういうルールの元で戦うことになっている。

 だから今の攻撃で、ゼファーの部隊は一挙に五十名ほどが離脱となった。

 そして、その動揺はゼファーよりも、ゼファーの部隊に起きる。

 慌てるような顔をした最前列の兵は一つ挙動が遅れた。

 そこを見逃さないのがミシェルだ。


 「前進して粉砕です。いきなさい。盾兵!」

 

 最前列にいるミシェル部隊の盾兵が、盾を構えながら突進。

 わざと地面から浮かせるように盾を高めに配置して、ゼファー部隊の顔に押し当てた。 


 「今です。槍部隊!」


 ゼファー部隊の前方は、盾により目隠しされた状態となり、ミシェル部隊の攻撃が見えなかった。

 二列目に控えていた槍部隊の槍が、盾の隙間から伸びてきて、二度三度攻撃を繰り返すことで、ゼファーの部隊の二列目までもが粉砕された。

 この攻撃で一挙に百名を失ったゼファー。

 戦況は開始早々で悪くなり、ゼファーはたまらず下がっていた。


 「これは、退却です。一旦引きます」


 逃げるようにして下がる部隊をミシェルは追わない。

 彼の様子を見ているだけで、その場から動かずにいた。



 ◇


 「素晴らしいですね。ミシェルは!」


 フュンは目を輝かせて褒めた。


 「そうですね。あれは、連動攻撃のお手本です。ゼファーも決して悪い動きではありませんが・・ミシェルが一枚上手ですね」

 「シルヴィアがミシェルだったらどうしますか?」

 「同じ手を使います。そしてこの有利を利用しますが。ここからですよ。フュンならばわかっているのでしょう?」

 「ええ。わかっています。ゼファーならば、先頭に立って突っ込んできます。しかもそれが一番強い。彼は一人で何人もの相手が出来ます。こうなるとミシェルの部隊で止めるのは難しい」

 「そうです。ゼファーは。この私でも手を焼きます。純粋たる一対一になれば、私も苦戦必須です。ですから、ミシェルはどう考えているのでしょう。面白いですね」

 

 フュンとシルヴィアはこの戦いをつぶさに観察していた。

 二人の対極的な戦い方。

 この違いが面白いと、二人は見学に来れてよかったと思ってる。


 ◇


 「しかたありません。私が先頭に立って、相手の部隊をこじ開けます。そこから崩れたら、皆さんで周りを倒してください」

 「「「はい。わかりました」」」

 

 ゼファーが先頭に立って突進をする決意を固めている間。

 優雅に相手を観察するミシェルは。


 「とまあ、そう来ると思いますので、皆さんは周りをお願いします。連携攻撃でお願いします。皆さんは勝てますよ。我々はあれほど基礎と連携に重点を置いた特訓をしましたからね。頑張りましょう」

 「「「はい。ミシェルさん!」」」


 物優しい言い方によって、やる気が漲る兵士たち。

 彼女の柔らかい笑顔にも癒されている。


 「ではいきます。先にこちらが勢いを持って、相手の気勢を挫きます。いきます!」


 ミシェルは、ゼファーよりも先に突進を開始した。

 ミシェルが先頭に立ち、ゼファーに襲い掛かる。


 「何!? さきにあっちが・・・いきます。皆さん私に続いて」


 一歩遅れたゼファーが慌てて突撃を開始。

 隊列が微妙に乱れたゼファーの部隊は全体の足並みが若干だけ揃わない。


 二つの部隊が中央でぶつかる直前。


 「矢をお願いします。当てるつもりじゃなくていいです。全部ゼファーさんにお願いします」

 「「「了解です」」」


 走りながら矢を放つために精度が悪い。でも矢は全てゼファーに集中していた。


 「むっ。この数。凄まじい」

 

 回転させた木の槍で全てを防ぐ。

 ゼファーの武芸はもはや曲芸レベルで異次元である。


 「さすがですよ。でも、あなたは私を見てませんでしたね」

 「え!?」

 「見てくださいよ。あなたの目に映らないのは、私としては寂しいですよ。ほら」


 矢を防ぐのに集中していたゼファーは、前方を確認できていなかった。

 彼女の声が聞こえた直後。

 槍が喉元までに来ていた事に気付く。

 

 「ぐおっ。鋭い。いつのまに」


 ゼファーが彼女の槍を超反応で躱す。


 「おしいですね……さすがはゼファーさん。今のを躱すとは、お強いですね」

 「み、ミシェルさん」


 彼が底知れない強さを持っているのはたしか。

 ミシェルのレベルでは敵うはずがない。

 だが、ミシェルは彼の前に立ちはだかったのだ。


 「一騎打ちです。ゼファーさん、いきますよ」

 「・・・はい。負けません」


 二人の槍は、激しくぶつかる。

 ゼファーの上段からの振り下ろし。ミシェルの中段での突き。

 互いが得意の攻撃をしても、互いが癖を知るために、致命傷にならない。

 でもいくら癖を見抜いているとしても、あのゼファーの攻撃をいなし続けることは不可能。

 でもミシェルはやってのけている。

 それも、彼女は部隊を指揮しながら、ゼファーとの一騎打ちをしていた。


 「右! そこは盾です。左。矢で押しなさい」

 「ん! なに。指揮を!?」


 一騎打ちに集中していたゼファーが、ここで気付く。

 自分の部隊が少しずつ削れていっていることにだ。


 「ここは倒さねば。はあああ」


 勝つためにはミシェルを倒さないといけない。 

 ゼファーは槍の攻撃の回転を上げて、連撃を繰り出した。

 

 「速いですね。あなたの槍は! ですが私にはわかりますよ。その軌道が!」

 

 ミシェルはゼファーの猛烈な勢いで攻撃している槍の軌道を読んでいた。

 あらかじめ攻撃位置が分かれば、あとはもうそこに自分の槍を置くだけだ。

 

 「な。なぜだ・・・」

 「強いですね。ですが・・・これでどうですか?」


 そして、ミシェルがゼファーの連撃を捌き切ったところで、勝負は決まっていた。


 「ミシェルさん・・・こ、これは・・・」


 ゼファーは、辺りの景色を見た。

 何もなしである。


 「ゼファーさん。あなたはよくやりましたよ。この圧倒的不利な状況に陥りながらも勝負を諦めないのは素晴らしい。それにこれで勝負がついてしまいましたが。あなたは弱いわけではありません。まだまだ強くなれます。あなたには課題がありますからね。それにあなたは、諦めない良き殿方であります。フュン様をお守りするために色々な事を学ぼうとする意欲があります。私は尊敬しておりますよ」

 「・・・む・・・」


 馬鹿にされているわけではないがこの状況では馬鹿にされているようなものだった。

 ゼファーは両手を挙げて降参した。


 「これでは、私も無意味でありますね」

 

 ゼファーの周りには、部隊の兵士がいなくなっていた。

 全てが倒されている現状で、ミシェルの兵二百が囲っている。

 しかしこれでもミシェルさえいなければゼファーは勝てるだろう。

 まだ逆転の手はある。

 だがしかし、ここにはミシェルがいるのだ。

 自分を抑え込める彼女がいるのなら、この人数差を覆すような動きを見せるようなことはできない。

 戦いを諦めるしかなかった。


 「でも、ゼファーさん。よく頑張りましたよ。あと数分戦っていれば私が負けます。私があなたを抑えていられる時間は五分くらいですからね。それと、この間のような訓練を兵士たちにはさせていないようです。皆さん顔色が良いですからね。あなたも色んなことを少しずつ学んでいるようで、何よりです。ですが、まだまだな部分があるようですよ」

 「・・・は、はい。わかっています」

 「なに、そんなに悲しそうな顔をしないで。私がいます。あなたの隣に私が立ってあげますから。一緒に兵を鍛えましょう。軍の兵士とは一蓮托生。思いも技術も一緒になって成長しないといけません。それで良いでしょうか。ゼファーさん」

 「・・はい。ミシェルさん」

  

 ミシェルの明るい笑顔を見て、ゼファーは負けを認めたのだった。

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