正統派勇者と追放系勇者をすり替えておいたのさ!
「まるで昔話の様に語るけれど、そんなのどうでもよくね?」
「いやいや、吾輩は思うわけです、いつから勇者って強い存在という定義になったのか。しかも性格悪いような」
「だって、いい奴に追放されたら主人公が悪いみたいで嫌じゃん」
「だから違いますぞ、そういうことではなく、吾輩たちは某ゲームでは勇者を操作して楽しんでいたはずなのに、今となっては嫌われる存在ですぞ」
「うーん? だったらさ、聞きに行く?」
校舎の窓、俺が手を扇ぐと可愛らしい飛竜が待って漂い、俺たちは手綱を握りしめて異界の扉へ飛び込んだ。
そして勇者のところへ行きました。
「あ、どうも。勇者さん、質問なんだけど」
「え?」
「なんで最近勇者は悪者扱いされてるんですかね?」
「……あの、燃えている僕の故郷見えないんですか?」
「やや! まさか、まさか、自身で燃やされたのですか! これは悪魔の所業! 嫌われて申し分もありませんぞ!」
「違う! 魔王の手下にやられたんだ! てか、あんたたち誰だよ! 僕の気持ちを察してよ!」
燃え盛る村の中、叫ぶ勇者の声、首を傾げる学生服の二人。
「ところで吾輩思うのですが、この勇者は女性でございますよ。女性で悪役は今のご治世、受け入れられないものですけれども、勇者属性もありますし、どうなるんでしょうね?」
「いや、可愛ければとりあえず悪くてもいいんだよ。後々、性格良くなって主人公に縋ってくるんだから」
「(……もしかしてこの人たち、魔王の手下かな)」
「あ、いいこと思いついた」
「え、ちょっと何するんですか! 僕、飛竜に乗ったことなくて怖いのですけど!」
「何をする気で! この勇者は今から砂漠に行かないといけないのですぞ!」
「いや、まだ第一章始まってないから、五章まで出番ないから間に合う」
そうして俺たちは性格のいい方の勇者を飛竜に乗せ、別の異界扉を潜った。
「だから、お前のお色気スキルなんて効くわけないだろ、お前はいらん、どっかいけ!」
「勇者様、そうじゃね、誰がブ男のお色気スキルに引っかかるか。経費削減でリストラじゃね」
「あはは、ざまぁ、最初は面白かったけど、荷物持ちにもならないしいらねぇ!」
「なんかあの人たち性格悪いですね」
「なあ、今更なんだけどさ」
「何ですか、吾輩にわかることなら答えますぞ」
「いや、もう皆この展開見飽きてるだろ」
「……あれが、お色気ブ男らしいですぞ」
どうやら勇者パーティーから追放される予定の主人公はお色気スキルという外れすぎるスキルを携えていて、今地べたで正座しているあの男らしい。
滅茶苦茶馬鹿にされてるし、辛そうだな。あ、地面に涙も染みて、そうだよな、さすがに外れすぎるもんな――――その表情、真顔。真顔で酒飲みまくってる。
「何飲んでんだよ!」
「酒だよ」
「そうじゃねえよ!」
「うわー、馬鹿じゃねえの、国語やり直せー」
「ってかそれ、俺が盗んだ高級酒じゃねえか!」
「(なんか楽しそう……僕も混ざろうかな)」
「ところで勇者ちゃんを連れてきて、何を?」
「ああ、そうだった」
俺はこっそりと性格の悪い方の勇者を気絶させ、勇者ちゃんとすり替えて戻した。
「あ、え、えっと」
「あれ、あんただれ? ションベン臭い子娘はあっち行けよ」
「えっと、僕は勇者です……」
「はぁ、嘘つくなよ。なぁ、あんたどうおもう?」
「いや、そんなわけねえじゃん、勇者なわけ――――謝ったほうがいい、いや、謝るべき。あの眼差しは間違いなく勇者、てか謝れブス」
「はぁ!?」
「こ、これは一体?」
「いや、だからお前が最初言ったじゃん、追放系の勇者は大概性格悪いって」
「そ、そうですけれど」
「だから、性格良くしてみたらどうなるんだろってさ」
「……ところで先ほどの性格悪い勇者は?」
「え? あいつなら今、燃えてる村にいるけど」
「な、なんと、まさか――――正統派勇者と追放系勇者をすり替えたという事ですか!?」
「……あの、ブ男さん、そんなに飲んだら体に悪いですよ。大丈夫?」
「あ、あ、えっと、あ、ありがとう」
「それにあなたたちは言い過ぎです、確かにブ男のお色気スキルは難易度が高いですし、使えないかもしれませんが、神様が与えてくださったのです。それを貶すのはいけないことです」
「す、すいやせんでしたー!」
「こ、殺さないで―! なんでもするからー!」
一方、そのころ、悪い方の勇者は――――
「……ココドコ? え、砂漠? え?」
――――それから追放世界の勇者一行は打ち解けてなんやかんやあって、ダンジョンを攻略していったようだ。
「ブ男さん! 今ですよ!」
「うおおおおおおお、M字開脚!!」
「!」
「今だ、姉さん、魔法を!」
「あ、うん、おりゃあああああああああ!」
「グワアアアアアアアアアアアアアアア!」
「やったー! みんな頑張ったね! 今日はこれで終わりだから酒場いこー!」
「なんか、あれですね、吾輩は理解しきれないですけど、」
「なんだよ、気に入らないのか?」
「違います、むしろ感動しているのです。まさか勇者様が励ますことで、ブ男さんは勇気を出してお色気ができて、その結果として無双できていることに」
「足りないのは勇気だったか……てか、普通にほのぼのしてんな」
「でもいいじゃないですか、それによくわかりました。勇者って周りに勇気を与える人のことを言うのだと、あと別に彼女は勇者じゃなくても好きです」
「え?」
それから勇者ちゃん一行は楽しく冒険を続けていきました。めでたし、めでたし。
「あー、メタル狩り楽しいー」
「ザ〇キ!」
「おい! 追放すんぞ?」
なお、悪い方の勇者はストーリー上、出会いがありすぎて、落ち着いた性格になっていた。