追放系男子、ついに追放された
斧、槍、弓が眩しい。
背中に濁った宝石に彩られた武器を背負う、三人の仲間。勇者、狩人、僧兵。
今日はついに魔王の幹部を倒しに行く、決戦の日、みんな気合が入っているようだ。
勇者。武器は斧、見た目はイケメンメンヘラ。
狩人。武器は槍、見た目はキザな長髪ホスト。
僧兵。武器は弓、見た目は清純派美少女、呪術ばかり使うサイコパス。
相変わらず、愉快なメンツだ。
こんなんで魔王の幹部なんて倒せるのか。
先が思いやられる。
「おい、さっきからなにやってんだ?」
勇者のオノ・ヨーポが睨みつけてきた。
怖い怖い、まだ機嫌悪いのかよ。
確かに昨日は宿屋の店主とイチャイチャしすぎてたけどさ。
「お前、調子乗ってんのかよ?」
「ヨーポ。そんなに怒ってどうしたんだい?」
「ホスト…………きめぇ……」
髪をかき上げるホスト、ヨーポは絶句。だが隣にいるサイコ少女は目を煌めかせていた。
そして俺もキラキラしていた。
「それはおめぇの頭だろうが! このハゲ!」
「え? ハゲ?」
おいおい、そんなわけないだろ。今朝、サイコ少女に育毛魔法かけてもらったはずだぞ。
あ、そっぽ向いた。
「なぁ、今言うのもなんだけどさ、正直、お前いらねえんだよな」
「それは同意だな。だって君、弱いじゃん」
「フフ……」
俺が弱いから要らないだと?
一体何の冗談だ。こっちは雑用頑張ってきたんだぞ。
それに戦闘だって後方支援してただろ。
「おや、君はまだ納得いってないみたいだね。仕方ない、教えてあげよう」
「……きめぇ」
「まず君は剣も魔法もできない。戦闘じゃ後方支援しかできない。でもその支援も、カスな回復と魔術ばかりだ。ゆえに君は、カスなのさ。ゴミなんだよ」
「そうだそうだー!」
ホストはほくそ笑みながら言い切ると、髪をかき上げた。
その後ろでサイコ女子がなんか言ってる。
そして、なぜかヨーポは吐いてる。
三対一。
でも言いたいことは言う。
「ほんっっっっとに、俺を追放してもいいのか?」
「何を言ってる? おいておいても足手まといなだけだ」
「いいんだな?」
「だからなぜ、そんなに自信がある?」
「へー、いいんだ? 俺を追放したら色々困るんじゃないかな?」
「もしかしてまだ理解していないのか? 君がいると迷惑、目障りなんだよ」
「ふーん。そういえばさホストって――――子供いたよな?」
「!?」
サイコ女子が目を丸くした。
たがホストは顔色一つ変えない。
「何を馬鹿なことを? でたらめを言うなよ」
「おっと、ポケットの中にネズミでも入ったかな? おっとっと――あ!」
僕は写し絵を落とした。
そこにあったのはホストと女性、子供が微笑んでいる写し絵。
「ホストさん? これは一体?」
「お前……やっぱりきめぇな」
「こ、これは違うんだ!」
「ホストさん……出ていって」
「サイ子?」
「出ってって!」
「サイコおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
サイコ少女、サイ子の転移呪術によってホストはどこかへ飛ばされた。
よし、ホストは追放した。
「ようやく、キモいのがいなくなったわ」
「ホスト、臭いしな」
「お、だよな――って調子乗ってんじゃねえぞ! お前も追放だって言ってんだろ!」
このオノ・ヨーポ、正気か。
俺がそう思ってしまうのは、勇者との出会いにあった。
――二年前。
「おーい、ヨーポ。野球しようぜー?」
「おいおい、野球なんて馬鹿なことしてないで、剣術だろ?」
「野球も剣術も変わんねえって!」
「……それもそうだな」
俺とヨーポは同じ学校の同級生だった。あのときのヨーポは性格良かったなぁ。
それが、勇者になってからだんだんクソ野郎になっていったんだ。
この世界の勇者はほとんど家系で決まるんだが、ヨーポは突然変異だった。
それは俺とヨーポがキャッチボールしていたときだった。
「今日は人集まんなかったなー」
「そうだな。みんな勇者の使いになりたいって頑張ってるよな」
「勇者の何がいいんだろうな」
「名を馳せたいとかだろ。みんな偉大になりてぇんだよ」
「そんなのの、なにがいいんだって思うぜ」
「そうだよなぁ、それなら野球選手にでもなったほうが、ポータニみたいになったほうが楽しいよなっ――――てな!」
「おい、ちょっ――!!」
俺はヨーポに剛速球を投げつけた。ポータニの真似だった。
だが、そのコントロールは全然で、予想外のところへ玉は吸い寄せられていった。
「アウチ!!!?」
そう、それは――――ゴールデンボンバーだった。
忘れていた。俺の投げた球は近くにいる男の金色を玉砕する、そんな能力を俺は持っていたんだった。
ヨーポがのたうち回っている。死にそうな顔で。
大丈夫か? いや、大丈夫だろう。だって、これ何回もやってるし。
いつものことだ。でも強いて、違うところがあるというなら、そうだな、球速がいつもより速かったな。
「っていつまで倒れてんだよ。そんなんじゃ、甲子園いけねえぞ?」
「うっうっう!」
「おい?」
「うっうっう!――――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「な、なんだ!?」
いきなりヨーポから黄金の光が。な、なにが起こっているんだ。
あとちょっとイカ臭いぞ!
ヨーポは光を放ちながら、なぜか空を浮かんで昇って行った。
天高くまで行くと、さらにその光は眩しくなった。
そしてその光は、遠くまで届いた。どこまでも遠くまで。
そう、全世界はこの日、その強い光を目の当たりにした。
金色の勇者の誕生を知ったのだ。
魔王ももちろんその一人だった。
「ふん、ようやっと現れたか。憎き勇――――ん? なんか股間から光ってね?」
魔王も苦笑いだった。
だが用意周到な魔王は手加減せず、勇者の命を狙うことにした。
そんなことがあり、ヨーポは勇者となり、全世界の希望を背負った。
断ろうとしても責任感とストーキングする魔王の使いにどうしようもなかったため、仕方なくだった。
――――現在。
「なんでヨーポ、そんなにやさぐれちまったんだよ……」
「お前のせいだろうが!」
「わかってる。俺がすべて悪かったよ。俺がお前と野球しなければ……」
「そうじゃ……ねぇよ……」
「そうじゃ……ないのか?」
「ちげえよ、俺がこんなになったのはお前と野球したからじゃねえよ……」
「ヨーポ……」
やっぱり、あの頃の友情はまだあったんだ。
そうだ。俺が路頭に迷っていた時、ヨーポが手を差し伸べてくれたんだ。
ヨーポはやっぱりいいやつだった。俺は忘れてた。
「ヨーポ、お前やっぱり……」
「ちげえよ、俺がこんなになったのはな……」
「ああ、言わなくてもわかってる。俺じゃない。魔王のせいなんだろ? よし、気合入れて行こう!」
「俺がこんなになったのは……お前が旅先で宿屋のお姉さんとか、町の可愛い子とか、人妻とかと仲良くしてるからなんだよ! お前だけ性の喜び知ってるからなんだよ! ふざけんなよ!!」
ヨーポ?
あれ? 思ってたのと違う。
確かに俺は武器の手入れとか、道具の売買とかの合間にナンパしてた。
でも俺がナンパ師なのは、学生のときからそうだろ。
「挙句の果てにはな、幼馴染や俺の狙ってた子までナンパしやがって! あとで好みじゃなかったって、朝に帰ってきて、クソが!」
「ええ?」
「いいからもう出てけ! もう無理だ! お前は親友だからパーティーに入れたけど、もう限界だ!
遊んでばかりで役にも立たない、町へ行けば女遊びばかり、最悪なんだよ!」
「……ぐぅ」
「ほら、出てけよ!」
ヨーポ……。
俺が悪いのか。本当に俺が?
そうか、俺が悪かったんだな。
「ヨーポ。わかった、もう俺は出てく。もう親友も終わりだ」
「お前……」
「でも最後に一つだけ言わせてくれ、親友からの最後の言葉だ」
「……」
「ヨーポの妹、良かったぞ」
「ロリコンがあああああああああああああああああああああああああああああ!」
ヨーポは森の奥へ走り去っていった。
なんか勘違いしてるけど、ヨーポの妹を始めて抱いたのは冒険に出てからバッタリだったんだ。
もうそのときはロリじゃなかった――ロリじゃながっだ!!
「……」
サイ子が無言でこちらを見ている。
なんやかんやあって、勇者もどっかに行ってしまった。そのせいで二人きりか。
いや、もう俺も追放されてるんだ。
さっさと町へ行こう。
「待って!」
「ん?」
「私を一人にしないで!」
サイ子が腕に飛びついて、胸を当ててきた。
つぶらな瞳で下から俺を見上げている。
「こんな森の中で一人きりは怖い……私も町まで連れてってよ……」
涙目で顔を覗いてくる。
あざとい、あざとすぎる。でも可愛い
。
だが、それはダメだ。
それはダメなんだ。
だってこいつは。
こいつは……実は――――男なんだ。
「どうしたの?」
「サイ子……髭、反り残してるぞ」
「え??」
可愛らしかった声が、漢の低い声に剥げた。
そしてその顔つきも。
「な、何言ってるんですか?」
「声、戻ってないぞ」
「あ、あ、あー……何言ってるんですか? 髭なんて生えてませんよ」
「俺は知ってるんだよ。お前が男だって」
「はぁ?」
それは仲間に加わった初日だった。
自己紹介を終え、みんなで酒を飲んでいたとき、なんかヨーポがサイ子のことをジロジロ見てたんだ。
それでわかった。ヨーポ、サイ子のこと好きなんだなと。
だから俺はその夜、サイ子の部屋を覗きに行った。
そのときだった。
寝静まったサイ子、ベッドで寝ているサイ子の布団の中へ潜り込み、俺はその身体を触った――――アレがついてた。
疑って、何度も何度も触った――――枕はそこにもあった。
「なにを思い出してるんですか?」
「もう誤魔化さなくていい。わかってるから、てか離れろ」
「ど、どうしたんですか?」
「いいから、離れろ!」
怖い怖い。
俺は必死にサイ子を引き剥がした。
なんかさっきから妖艶な顔を見せてくるの、怖い。
「私が漢ですって? そんなことがあるわけないじゃないですか。それよりも早く町に――」
「いや、サイ子は男だ。俺は知ってる」
「何で? もしかして――――触ったな?」
「え?――ぐはっ!!!」
サイ子の目つきが明らかに野獣へ変わり、計り知れない力で俺を殴り飛ばした。
痛い。これは女の力じゃない。
「いかしてはおけんなぁ?」
あれ、なんかムキムキになってる。
熊のようにデカくなってる。てか体毛もすげえ。
ヤバい。これはヤバい。
ど、どうする?
「ダメだ、俺には戦闘能力なんてなかった!」
サイ子が近づいてくる。
手をゴギゴギと鳴らしながら迫ってくる。
殺られる、殺される。
「はっはっは、自ら、墓穴を掘ったのを恨むがいい!」
「くそ!」
「死ねい!!」
振り下ろされる巨大な拳。
あ、これは潰される。
俺はもう無理だと悟った。
だが頭の片隅でまだ何かが残っていた。
そう、それは思い出。
この場合は走馬灯だろうか。
蘇る記憶はヨーポとの楽しかった学生生活だった。
野球する俺とヨーポ。
キャッチボールする俺とヨーポ。
友達とサッカーしてたヨーポを誘拐して、野球してた俺とヨーポ。
まだあの時は勇者も魔王も、パーティも何もかもがどうでもよかった。
ただ野球して笑ってたな。
今じゃ、もうこの有様だ。
――――もう少しだけ、キャッチボールしたかっただけなのにな。
俺は走馬灯に浸りつつ、石を投げた。
そっと、石を投げた。
だがその石は豪速であった。
投げられてから加速したのだった。
それは神から与えられた悪戯だろうか。
俺の投げた石は迷うことなく、速度を上げながら、まっすぐ魔獣サイ子の股のほうへ進んでいった。
あまりの速さにサイ子も避けられない。
男殺しの魔球はブレずにそこへ激突した。
「――――ぐわぁああああああああああああああああああああああ!」
悶え苦しむサイ子。
やっぱり男だった。それを証明する喚き声。
「今のうちか!」
俺はもう二発だけ、小石を投げ、その場を逃げていった。
サイ子の悲鳴を背中にして。
必死に俺は逃げた。
まぁ、あれだ。
ふざけるのって大事だ。うん。