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『第3話 敵か?味方か?ニンジャガール』 後編

 光が収まった後に広がっていたのは色々なものがごちゃ混ぜになった景色だった。今いる場所こそ先ほどまでと似通った室内だが、少し視線を遠くへと向ければいきなり農地らしき景色となり、更にはその先では飲食系の店内へと変化している。

 十数人もの人々のイマジパワーに干渉した結果、まとまりのない世界になってしまったらしい。


 肝心のニンジャガールことカゲニン・シノブだが、ギリギリで触れることができたのが功を奏したのか、見失うことなく捕まえることができていた。ただし、イマジワールドに飲み込まれた際の衝撃に当てられたのか、意識を失くして銀の腕の中でぐったりとしていた。


「ふう。最悪の事態だけは避けられたか……」


 とはいえ、とんでもない足枷になってしまったのは間違いない。チキュー人である彼女の場合、イマジワールド内での体験が現実にどのような影響を及ぼすのか予測が付かないためだ。うかつに怪我の一つもさせられない訳で、できることなら気を失っている間に決着(けり)を付けてしまいたいところだ。


「とにかく、いつでも戦えるようにしておこう。……バトルスーツ、装着!」


 シノブをそっと床に寝かせると、銀はギャラクシアへと姿を変える。三話目にして早くも演出省略である。


「……おっと、これは見計らったようなタイミングだな」


 そこへ宇宙犯罪者がやって来る。もっとも現実の時とは大きく異なり、巨大水まんじゅうのような外見となっていたのだが。


「スライム種の中でも変身擬態が得意なドッペルゲンガー系の宇宙人か。チキュー人と見分けがつかないはずだな」

「なっ!?宇宙警察だと!?どうしてここに!?まさか、さっきのカゲニンとやらが!?」


 銀の存在を認識していなかったのだ。宇宙犯罪者からしてみればギャラクシアが突然現れたかのように感じるのも当然だろう。しかし、ニンジャガールと結びつけるのは無理があり過ぎるというものではないだろうか。

 外見が全く当てにならないドッペルゲンガー系ならではの思考なのかもしれない。

 そして説明が面倒になったのか、ギャラクシアはその勘違いを否定することなく話を進めていく。一応、そうすることでシノブから目を逸らさせるという狙いもあったりはする。


「こちらの正体に気が付いているなら話は早い。お前にはチキューへの密入星にチキュー人からのイマジパワーの強奪並びに監禁、チキュー人への傷害未遂等々の容疑が掛けられている。抵抗するなら実力行使で対処することになるから、大人しく捕まってくれ」


 銀河系辺境のチキューまでわざわざやって来るような相手だ。従うはずがないとは思いながらも、規定に則って願望に近い台詞を口にする。


「ふざけるな!ここまできて捕まってたまるか!」


 案の定、返ってきたのは拒否の言葉だった。ここまでくるともはや様式美のやり取りである。当然ギャラクシアも織り込み済みなのですぐに次の行動に移る。


「仕方がない。スタンレーザー、ショット!」


 ホルスターから抜き放つと同時に撃つ。西部劇のガンマンもかくやというほどの早撃ちだ。ドッペルゲンガー宇宙犯罪者が変身する時間すら与えずにゲル状のボディへと命中する。


「うわっ!?……ふ、ふははは!イマジワールドで強化されている俺にそんな攻撃が効くものか!」

「くっ、おのれ!」


 しかしその動きを止めることはできずに、逆に増長させてしまうことに。

 最初本気でビビっていたことには、触れてやらないのがやさしさというものだゾ!


「これならどうだ!十手アタック!」

「ぬはははは!効かん効かーん!」


 へこたれることなく今度は宇宙超硬合金シ=トーナコ製の十手を手にして接近戦を試みる。が、ぶにょんぶにょんな弾力に阻まれて、ぼんよよよーん!と弾かれてしまった。


「このままだと形勢不利か。いったん退却だ!」


 ここでギャラクシアは早々に勝ち目がないと判断し、くるりと背を向けて全力ダッシュ!


「うはははは!イマジワールドの中なのにどこに逃げようというのだ?すぐに追いついてぶちのめしてやるぞ!……ふ、ふひひ。宇宙警察の特任警官を倒したとなりゃあ、宇宙の裏社会で一目置かれる存在になっちまうぜえ」


 禍々(まがまが)しい闇の栄冠を夢想しながら、ドッペルゲンガー宇宙犯罪者は小さくなっていくギャラクシアの背中を追いかけていく。ここまでが全て彼の仕込みによるものだとは思いもせずに。


 さて、なぜギャラクシアがこのような回りくどい真似をしたのかと言えば、それはひとえにシノブの安全を確保するためだった。せっかく彼女の存在から目を逸らさせることができていても、すぐ近くで戦っていてはその余波で怪我をさせてしまうかもしれない。

 そうした不測の事態を回避するためにも、不自然なくあの場から距離を取れるように小芝居をうったのだった。


 なお、スタンレーザーは出力を最弱にしておいた一方で、スライム種の丈夫さを実体験する良い機会だと十手による攻撃には七割ほどの力を込めていた。

 チキューのような辺境の惑星に派遣されるだけあって、彼は(したた)かで計算高い一面も持ち合わせているのである。


 そんな策略に乗せられているとはついぞ考えることなく。空飛ぶ島で少女を追い詰めるどこぞの大佐のように圧倒的な優越感を抱きながら、ゲル状の姿のままノッタリモッタリとギャラクシアを追いかけていく。


「うーむ……。ちょっと持ち上げ過ぎたか?いや、気が付かれてしまっては元も子もないから、あのくらいはしとかないといけないよな?」


 鬼側のあまりの遅さに逃げるスピードを緩めながら、ギャラクシアは一人反省会を行っていた。それほどの余裕があったのだ。もちろん油断のし過ぎはよろしくないのだが……。



「俺、いや俺様が宇宙の支配者に……!」

「……ニポン人の若者も真っ青な妄想っぷりだな。というか、もしも万が一俺を倒せても宇宙警察に特別指名手配されるだけなんだがなあ」


 特別指名手配は危険性が高く緊急に捕縛する必要のある容疑者に対して出されるものなのだが、宇宙警察の威信を守るためという側面も強い。そのため荒っぽい手段や強引な捜査も容認される傾向にあり、容疑者に至っては本当に「死んでいなければ問題ない」状態にまで追い詰められることもざらだった。

 巨大組織の抱える闇の部分であるな。


「彼女も助けないといけないし、負けるつもりは全くないけどな」


 そろそろ十分距離も離れただろうということで、もう一芝居うつことにする。このままではいつまでたっても追いつかれることがないどころか、差が開く一方だったためだ。


「う、うおわあ!?」


 足をもつらせてしまったように盛大に倒れてごろごろ転がる。見るものが見れば五点着地の要領で衝撃を分散していたことに気が付いたことだろう。


「ぐひゃはははは!特任警官が情けなく転んでやがる!」


 だが、そんな知識を欠片も持ち合わせていない宇宙犯罪者は大笑いしていた。何せスライム種なので衝撃にはやたらと強く、チキュー基準なら五十メートル程度であれば例え固いアスファルトの上に落下してもかすり傷一つ負うことはない。


「やれやれ。こうも上手く引っ掛かってくれていると、向こうの策略なんじゃないかと不安になりそうだな……」


 実際はそのようなことはない訳で、ドッペルゲンガー宇宙犯罪者は警戒心の欠片もなく近付いてきたのだった。

 一瞬このまま隙を突いて倒してしまおうかという考えが頭をよぎるが、すぐさまその誘惑を振り払う。宇宙警察の一員として、そして正義の体現者としては絶対に超えてはいけない一線というものが存在するのである。


 ちなみに、対象をおびき寄せるという行為自体は作戦の一つとして容認されるが、宇宙警察への信頼を揺るがしかねないため弱者を装ったことはアウト判定ギリギリのグレーゾーンとなる。ただし、今回はシノブという要救護者がいたので最終的には黙認されることになるだろう。


 と、解説している間にようやく追い付いてきたようだ。


「がはははは!これで俺様もスーパースペシャルでレアな犯罪者にいいいいい!?!?」

「よっ、と」


 何事もなかったかのように――実際なかった訳だが――飛び起きたギャラクシアを見て、ドッペルゲンガー宇宙犯罪者の高笑いと妄想が驚愕の悲鳴へとシフトしていく。


「あの場ではイマジワールドに巻き込まれたチキュー人に被害が出たかもしれなかったからな。悪いが一芝居うたせてもらった」

「ま、巻き込まれただと?」

「うん?都合が悪いことは忘れる性質なのか?変装していたお前を追い詰めていた彼女のことだ」

「なっ!?あ、あれはてめえがやったことじゃなかったのか!?」


 動揺からなのかの巨体が不安定に揺れる。巨大水饅頭のような(なり)なのだが、ブルブルと振るわせたりギクリと跳ねさせたりといった派手なリアクションと、発する言葉によってある意味ヒューマンタイプの宇宙人よりも感情や態度が読みやすかった。


「まさかまさか。こちとら公明正大がウリの宇宙警察だぞ。他人の功績を奪うような真似はしないさ。君は運がいい。何せ本物のニンジャガールを見ることができたんだからな。まさにスーパースペシャルでレアな体験だ。チキュー観光の旅が今日終わっても後悔はないだろ」

「……ひっ!?」


 ギャラクシアから発せられる逃がしはしないという気迫に、気圧された宇宙犯罪者が後退る。


「このまま大人しく捕縛されるなら身の安全は保障しよう。だが逆らうというなら容赦はできないぞ」

「くう!潜伏先も確保してこれからって時に捕まってたまるかあ!さっきのが芝居じゃなく本当のことにしてやるよお!!」


 感情の高ぶりに合わせるようにゲル状の身体がズモモモモモ!と、どす黒い色に染まりながら巨大化していく。ようやく膨張が止まった時には、郊外の一軒家並みのサイズにまで膨れ上がっていた。

 その様子を冷めた目で見ながら、ギャラクシアは淡々と呟く。


「現実でのニンジャガールとのやり取りの通りなら、お前は変身した相手の娘の顔すら覚えていない愚か者だ。きっと潜伏先でも近いうちに正体がバレてしまっただろう。短絡的なお前のことだ、変身した相手を含めて知る者は全て消そうとするかもしれない」

「それがどうしたああああ!!」


 叫ぶと同時に巨大ブラックスライムと化した宇宙犯罪者の体に十を超える数の触手が生えると、その全てがギャラクシアを害しようと殺到してくる。


「とりゃ!ふ、ほっ、たあっ!」


 それらを時には十手で迎えうち、時にはスタンレーザーで動きを止め、時には紙一重でかわす。


「危害を加える確率が高い危険人物をそのままにはしておけないってことだ!フォームチェンジ!!」


 最後の一本になった触手を本体へと打ち返すようにして十手で弾くと、ギャラクシアはイマジワールドから力を得るための指定の言葉(コマンド)を叫ぶ。

 人の形をした光になったかと思えばそれが一回り大きくなり、左右の半身がそれぞれ青と赤に塗り分けられた鬼面の巨漢が現れる。


「オーガファイター!!」


 その姿に本能的な恐怖を感じたのか、再び触手の群れが襲い掛かってくる。だが、


「どうりゃあ!」


 気合と共に一閃された巨大金棒の一振りに触れただけで、それらは呆気なく消滅してしまった。


「さあ、スライム退治の時間だ!」

「ひ、ひいいいっ!?!?」


 悲鳴を上げながら何度も伸ばしてくる触手を返り討ちにしながら、時折本体へも金棒を叩きつけていく。取り込んだイマジワールドの力を開放しているのか、そのたびにブラックスライムの容積は小さくなっていく。


「こ、こんなバカな!?さっきは全く効かなかったのに!?」

「こちらもイマジワールドから力を得ているからだ。条件が互角なら、後は想いとイメージが強い方が勝つ!」


 ぶおん!重低音の風切り音を残して金棒が打ち付けられる。その一撃でついにブラックスライムの身体の大きさは巨大化前とほとんど変わらないくらいにまで縮んでしまった。


「あばばばば……。俺の身体が消し飛ばされて……」

「安心しろ。イマジワールドは夢のようなもの。現実の身体には影響はない。まあ、心の方はそうはいかないが」

「え?」

「この一撃をしっかり記憶して、しっかり反省するように。必殺、ギガントクラッシュ!」


 両手で構えた巨大棍棒を、力の限りブラックスライムへと叩き付ける。


「『砕』!!」

「あんぎゃああああああああああ!?!?」


 衝撃でもうもうと上がっていた土煙が消えると、そこには小規模のクレーターだけが残されていた。


「基点となった人物の消失を確認。これよりイマジワールドの収縮に入る」


 告げるや否や周囲の景色が光の粒へと変化。消失していく。やがてフォームチェンジを解かれたギャラクシアもまた、光の粒へと変わっていった。




  〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆




 気が付くとそこは件の会議室だった。ドッペルゲンガー宇宙犯罪者だけでなくニンジャガール、いやカゲニン・シノブこと篠も無事に帰還できたようで、薄いマットが敷かれた床の上に横たわっていた。

 強制的にイマジパワーを引き出された者たちも、短時間でイマジワールドを消滅できたためなのか特に苦しそうな様子もなく眠りこけていた。


「さて、やるべきことをやってしまわないと。宇宙犯罪者の逮捕、完了!」


 ガチャリとドッペルゲンガー宇宙犯罪者に光子手錠をかける。本物の渡貫市長の居場所を含めて、後のことはロイがしてくれるはずだ。


『眠っている彼らの思考誘導もこちらで行っておきますよ。ギャラクシアは景宮さん、いえ、カゲニン・シノブを人目につかない場所へ運んであげてください』

「逃亡のことを考えると、屋上辺りが妥当か?」

『そうですね。彼女の動きなら十分逃げおおせることができると予測されます』

「了解。……なあ、あの子、かなりの薄着なんだが」

『そこは紳士的にお願いします』

「いや、お願いしますって……。はあ、セクハラとか倫理コードに抵触しませんように!」


 色々と規定が細かくなっているのは宇宙も同じようである。なんとも世知辛い。

 結局、シノブを抱きかかえて運ぶことは問題なかった。ただ一点誤算があったとすれば、彼女は混濁した意識の中でギャラクシアの姿を夢現の状態ながら記憶してしまっていたことだ。が、このことに彼らが気が付くのはしばらく先のこととなる。


「ふう。まだまだ後始末しておかなくちゃいけないことは山積みだな」

『まずは本物の渡貫市長の救出ですね』

「お?もう居場所が分かったのか?」

『はい。思考誘導を楽にするためにも、急いで助けてしまいましょう』

「了解。すぐに向かうから案内を頼む」


 そうして二人はほぼ丸一日をかけて今回の事件の後始末に奔走することになるのだった。




  〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆




「だけど、あの子の正体だけは分からないままだったな」

「ええ。ニンジャやニンジャガールは創作物か、良くてはるか昔の歴史の登場人物としてしかその存在を明らかにすることはできませんでした。『カゲニン』に至っては収穫ゼロです」

「あの場に現れた理由というか目的が分かっただけでも御の字というところか……」


 そちらは何と篠を探ることで判明することになった。というのも、篠と渡貫市長の娘は同じ大学に通っている友人同士だったのだ。

 彼女が篠に「ここ数日父親の様子がおかしい」と漏らしたところ、真相を明らかにしようとカゲニン・シノブが動いていた、ということだった。


「……仮にバレてしまった際にリスクが生じるかもしれない場所になら、探している情報があるかもしれませんね」

「例えば?」

「この国のデータベースなどです」


 ロイの口からさらりと飛び出してきた危険地帯に、銀は思わず顔をしかめてしまう。しかし、今後も彼女と遭遇することがないとは言えないし、その彼女を追いかけるような連中も現れるかもしれない。やはり情報は必須だろう。


 これまでにない、また想定外の展開に、これからの活動がそこはかとなく不安になる銀なのだった。


今のところ、隔週の土日に『一話分』の前後編を投稿するのを基本にやっていこうかなと考えています。

調子が良ければ毎週更新もあるかもしれないです。

のんびりペースですが、気長にお付き合いいただければ幸いです。


評価等もよろしくお願いします。

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