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『第3話 敵か?味方か?ニンジャガール』 前編

やっと書けました。続きをどうぞ。

 ある日の昼下がり。ランチ目当ての客も全員はけてしまい『うにばす』の店内は閑散とした雰囲気が漂っていた。

 そんな気の抜けた店内に、カランコロンと入り口に取り付けたベルの音が響く。


「こんにちは」


 闊達(かったつ)に挨拶をしてきたのは、年の頃は二十歳ほどの若い女性だった。


「いらっしゃいませ、景宮(かげみや)さん。見ての通り他にお客はいないので、どの席でもご自由にどうぞ」

「あ、それじゃあ、いつもの席で」


 マスターことロイに勧められるも、景宮と呼ばれた女性は定位置のカウンターの隅の席へと腰かけたのだった。

 そこへ厨房部分の奥から銀が顔を出す。


「お客さんか?……やあ、(しの)ちゃんか」

「銀さんもこんにちは」


 突然の登場にも臆する様子もなくにこやかに返答してくる。それもそのはずで彼女はうにばすの常連であり二人とはほとんど毎日顔を合わせる間柄だった。同時に客層の平均年齢を引き下げてくれている貴重な相手でもある。

 なお、フルネームは景宮篠(かげみや しの)となる。


「銀……、あまりお客様に馴れ馴れしくするものではありませんよ」

「固い。硬いぞロイ。うちの店は地域密着型なんだから、お客さんたちともフレンドリーな関係でいないと」

「仲が良いのと無礼なのは一緒ではありませんよ」

「あはは。まあまあ、二人とも。マスター、名前呼びの件は私からお願いしたことだから、銀さんをしからないであげて」


 と仲裁に入ってこられるくらいには気安い関係だ。


「それにしても、いつ来てもこのお店はガラガラだよね。大丈夫なの?」

「景宮さんが来店されているのはだいたいいつも暇になった後か、その逆の混み合う前かのどちらかの時間帯ですから。これでもランチタイムはなかなかの混雑ぶりなのですよ」


 後は休日の午前中も意外に客が多かったりする。まあ、こちらの方は商店街の店主たちが駄弁りに集まってくるのが主な要因なのだが。そういう意味では銀もロイも上手く潜伏先の地域に溶け込めていると言えるだろう。


「心配なら篠ちゃんが友達を連れてきてくれてもいいんだぞ」


 ロイが淹れたブレンドコーヒーを運びながら銀が言う。これには情報を集める拠点として、様々な年代の人々が訪れるようにしたいという思惑があった。

 篠は現在数駅先にある大学に通う大学生だ。そんな彼女の友人となれば同じ年頃である可能性が高く、客層を若返らせる絶好の機会なのである。


「うーん、そうだなあ……。……………………………………………………やっぱり、止めとく」


 たっぷり溜めをつくっておいての否定に、銀だけでなくロイもガクっと体勢を崩す。


「なんでやねん」

「だって、友達を呼んじゃうとせっかくの隠れ家感がなくなっちゃうし」


 篠の言葉に二人は顔を見合わせる。確かにうにばすは駅前の商店街からは少し離れた住宅地の入り口に位置しており、前情報もなく訪れるのは難しいだろう。そういう意味では隠れ家的な店とも言えなくはない。


「隠れ家ねえ……。そういえば篠ちゃん、うちに来た時にはいつもその隅の席に座るけど、何か理由があるのかい?」

「あ、これ?これは単なる癖みたいなものかな」

「癖?」

「うん。子どもの時に見たスパイ映画でね、ヒロインが外から狙われ難い上に逆に店内は見渡せるっていう席に座ってたのよ。それを真似していたらいつの間にかこんな隅っこの席に座るのが癖になっちゃっていたという訳」

「なるほど。子どもの頃の影響ってのは良くも悪くもバカにできないからなあ」

「本当だよねえ」


 その後はのんびりと雑談にふける三人だった。


「隠れ家に映画の真似、か……。おかしな部分はなさそうではある」


 篠がいなくなり、二人きりになったところで銀が小さく呟く。


「体温や心拍数にも変化は見られませんでした。よって嘘はついていないか――」

「見破られないための訓練を積んでいる、か」

「現時点では、そう思い込まされているという可能性も低確率ですがあり得ます」


 物騒極まりない会話内容だが、二人とも真剣な表情でありとても冗談を言っている雰囲気ではなかった。




  〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆




 事の発端は二日前の夜にさかのぼる。この日も銀は愛車の原付バイクで夜のツーリングという名の警邏活動を行っていた。

 ちなみに、外見こそどこにでもあるようなものだが、ロイによって宇宙仕様の魔改造が施されているため出力その他もろもろ全てがとんでもないことになっていたりする。ただし、頑丈性重視のため分離や変形といった機能は搭載されていない。


「ロボにもパワードスーツにもならないのか……」

「チキュー環境の破壊にしかなりませんので」


 といった会話があったとかなかったとか。


 それはともかく、この日は単なる警邏活動だけでは終わらなくなりそうだった。イマジパワーの異常値が観測されたのである。


『場所は隣町の……、政庁舎や議会棟が立ち並ぶ辺りですね』

「地方都市とはいえ政治権力を取り込まれると厄介だな。宇宙犯罪者が潜んでいるなら早急にあぶり出す必要があるか」

『単純にイマジパワーが(ほとばし)っただけかもしれませんから、詳細をつきとめるまではくれぐれも慎重にお願いしますよ』

「無茶はしないって。俺たちがチキュー人に目を付けられたりしたら元も子もないからな」


 そう言うと光学迷彩を起動させて、原付バイクにあるまじき速度で目的地へと爆走していくのだった。


 ロイの誘導に従って到着したのは議会棟にある一室だった。経費節約のためなのか空調は切られており、代わりに扉と窓が前回になっていた。エコである。いわゆる勉強会の真っただ中のようで、参加している十数人は熱心に議論を交わしている。


「この様子だと自然発露か?」


 廊下の陰に身を隠し、中の様子をうかがいながら銀が呟く。その声は遠くロイにだけ届けられていた。

 イマジパワーの元になるのは想像や空想、はたまた妄想といった想いの力だ。複数人が集まり同調することによって強化され、イマジパワーの異常値として検出されてしまったのではないか。銀はそう予想したのである。


『いいえ。それにしては強過ぎます』


 しかし、返ってきたのは否定の言葉だった。ロイによれば、仮に自然発露によるイマジパワーの値を十とすると、今回検出されたのは四十を超えていたというのだ。

 ちなみに、これに当てはめるならば先日ワーム宇宙犯罪者によって強制搾取されたイマジパワーの量はおよそ五十ということになる。


『話題を誘導するなりしてイマジパワーの発生を高めている者がいると推測されます』

「そいつが宇宙犯罪者かもしれないということか」


 改めて注意深く室内を見渡してみると、議論に加わっていない者がいることに気が付く。


「進行役の立場を利用すれば論陣を張る必要もないし誘導も容易になる。なるほど、よく考えているな」


 状況的には議論を白熱させてより強力なイマジパワーを生み出させようとしている、といったところだろうか。少なくとも白昼堂々と複数人からイマジパワーを強奪するような輩よりは頭が切れそうではある。


変装(なりすまし)の精度も高いな。目視だけではおかしなところを見つけられそうもない」

『映像を解析しましたがこちらも同様です』


 身体の大半を衣服で隠されているため外見だけで判別するのは非常に難しくなっていた。この点からもチキューへと潜入するために下準備もしっかりと行っていたことが分かる。

 さて、この時点では宇宙犯罪者はおろか宇宙人であるという明確な根拠はなく、彼の人物が本当にチキュー人である可能性もあった。が、銀もロイも(クロ)だと確信していた。チキュー風に言うならば「特任警官としての勘」となるだろうか。


「これだけ用意周到な奴となると、外部からの生体スキャンにも対策済みか?」

『私に内蔵されている機器ならともかく、銀の携行している簡易型では欺瞞情報をクリアできない可能性が高いでしょう』

「……これでも宇宙警察で支給される物の中では最高品質なんだぜ?」

『携行簡易型の限界ということでしょう。それに銀河連邦での通常任務の場合ならすぐにデータベース等にアクセスできますから、例え欺瞞情報であっても不審者だと断定することはできます』

「特別任務ならではの苦労ってことか……。それともう一点確認だ。スキャンしたとバレると思うか?」

『間違いなく察知されるかと』

「そうなった際のシミュレート結果は?」

『応戦、単独での逃亡、人質を取った上で逃亡の三パターンが予測されます。特に確率が高いのが三つ目の人質を取るというものです』


 ロイからの報告に小さく舌打ちする。退室した者はいないため、部屋の中には十人以上の人質候補がいることになる。宇宙犯罪者が暴れることで彼らがパニックになることも考えられる訳で、逃げ出すくらいなら問題ないのだが、脈絡のない動きをされては守ることもできなくなってしまう。


「もう少し見守るべきか。……うん?」


 ふと気が付けば、室内の様子が変化していた。あれだけ喧々囂々(けんけんごうごう)とやかましかった議論の声が一切聞こえなくなっていたのだ。

 急いで中を覗いてみれば、参加者たちは一人を除いて全員が椅子へ体を預けているか、もしくは机に突っ伏しているかだった。その様はまるで糸の切れた人形のようで、先ほどまでとは打って変わった静けさとも相まってとても不気味な雰囲気を醸し出していた。


「全員脈拍は正常で意識だけがなくなった、眠らされただけようだ」

『室内の全員が一斉にとなると、散布系の薬剤が使用されたのかもしれません。注意してください』


 状況を把握しつつ、銀は神経を張り詰めていく。いくらロイとの通話を行いながら潜んでいる宇宙犯罪者の特定に意識を割いていたとはいえ、気が付かない間に睡眠薬を使用されてしまっていたのだ。特任警官としては大きな失態である。


「この状況を作り出した犯人だが……。あいつじゃなかったのか」


 一番に怪しんだのは室内で唯一眠らなかった者、銀たちが宇宙犯罪者だと当たりを付けていた人物だったのだが、当人は困惑した顔のまま硬直しており、彼ら以上に現状が理解できていないよう見える。


『イマジパワーの反応もありません』

「つまり、奴はまだ仕事を終えていないということか」

『別の宇宙犯罪者が横取りしようとやってきたのかもしれません。光学迷彩があるからと過信は禁物ですよ』


 現場に到着して以降は、宇宙犯罪者に目星をつけたこともあって周辺への警戒がおざなりになっていた可能性がある。最悪の場合、睡眠薬をまいた第三者には存在が知られているかもしれない。最大限の警戒をしながら成り行きを見守る。


「……まさかこの特性睡眠薬が効かないなんてね」

「な、何者だ!?」


 どこからか聞こえてくる声に、室内でただ一人意識のある推定宇宙犯罪者が誰何する。


「何者?それはこちらの台詞ね、偽物の渡貫洋(わたぬき よう)市長」


 開け放たれていた窓の一つから、ふわりと重さを感じさせない動きで人影が飛び込んでくる。それを見て偽物と呼ばれた人物が目を見開く。

 それはそうだろう。ここは五階であり窓の外はほとんど凹凸のない垂直の壁となる。更に窓も安全のため高い位置に設置されている上、全開にしても体を横にすることでようやく通り抜けられる程度の狭さなのだ。


 その人物だが、なかなかに奇抜な格好をしていた。一応正体を隠す方針なのだろう、マスクのようなもので口元が、飾りメガネのようなもので目元が覆われている。逆に言えばそれ以外は露出している訳で、長い黒髪をポニーテールにして無造作に後ろに流しているのが分かる。


 一方の体の方はというと、手袋に靴を除くと、さすがに肩から胸にかけてと腰回りは和服をモチーフにしたようなセパレートの衣装で隠されていたが、それ以外は黒っぽい伸縮性のあるタイツのような布地に覆われているだけときている。そのため女性らしい凹凸のある体のラインが露わとなってしまっていた。

 セパレートの衣装もギリギリを攻めたようなつくりで、胸部分はビキニのハーフカップほどしか隠されていない。腰回りも同様で股下が数センチしかない上に動きやすさを考慮しようとしたのか、両サイドに深いスリットが入っている。

 つまり一言でいうなら、セクシー系ニンジャガールのコスプレ状態だったのだ。


「本物の市長はどこに、いる……、くちゅん」


 ニンジャガールが問い詰めようとする途中で小さくくしゃみをする。それはそうだろう。長期連休が終わったとはいえ季節はまだ初夏にもならない春の最中だ。日中はともかく日が暮れてから夜にかけては冷え込むことも多い。あのような薄着だと寒いのは当然である。


 三人の間に気まずい空気が流れる。

 まあ、銀は未だに他の二人からは視認されてはいないのだが。


「答えなさい。本物の市長はどこ?」


 そしてニンジャガールは先ほどのことはなかったことにしたらしい。

 対して宇宙犯罪者は白を切ることにしたようで、「何のことやら」と知らぬ存ぜぬの態度を取っている。それどころかニンジャガールに向かって、名乗りもしない不審者だ不法侵入者だと(わめ)き立て始めた。


「いいわ。問われて名乗るのもおこがましいけれど答えてあげる」

「え?答えるの?」


 まさかの反応に、隠れていることも忘れて思わず小声でツッコんでしまう銀である。幸い離れていたので対峙する二人には聞こえることはなかった。


「私はカゲニン。闇に潜む悪を打つ、カゲニン・シノブ!」

――『篠って呼んでください。代わりに私も銀さんって呼ぶので』――


 ポーズを決めて名乗りを上げるその姿に、記憶にある人物が重なる。


「ってあれ、篠ちゃんじゃないか!?ロイ、スキャンデータを送るから照合を――」

『する間でもありません。共有していた映像並びに音声データから、九十九パーセントの確率でニンジャガールが景宮さんであると判明しました』


 言われてみれば口元を覆っているためこもって調子で聞こえていたが、その声は篠のものに酷似している。他にも背丈や体格、長い黒髪など共通項がいくつも存在していた。


 さて、銀たちがニンジャガールの正体を突き突き止めてしまったのと時を同じくして、ニンジャガールの方も宇宙犯罪者の正体に迫りつつあった。


「あなたが偽物である証拠も掴んでいるわ」


 と言ってどこからともなく一枚の写真を取り出す。そこには篠と同じく二十歳前後の女性が写し出されていた。


「……その写真が何だというのかね」

「やっぱり。娘の写真を見せられて何の反応も示さなかったことこそ、あなたが偽物だという紛れもない証明よ!」


 種明かしをされて、これ以上は誤魔化すことはできないと悟った宇宙犯罪者が顔を歪ませる。

 そして、後がなくなった者が取る行動というのはだいたい似通ってくるもので。


「ちっ!こうなったら口封じだ!」


 叫びながら宇宙犯罪者が取り出したのは、七色に輝くイマジストーンだった。しかし、先日の一件のものと比べるとかなり小さい。恐らく本物の渡貫市長から奪ったイマジパワーを封じ込めたものなのだろう。


『いけない!犯人はイマジストーンを呼び水にしてこの場にいる人々から強制的にイマジパワーを引き出して、イマジワールドを展開するつもりです!』

「イマジワールドの中で篠ちゃんを害しようと?そうはさせるか!」


 ロイの忠告を受けて銀が部屋の中へと走り出す。

 しかし、宇宙犯罪者の動きの方が一足早かった。


「悪夢へと引きずり込んでやる。イマジパワー、解放(リリース)!」

「きゃあああああ!?」

「とどけ!」


 銀が伸ばした手がニンジャガールに触れたのと、虹色の光の奔流が部屋の中を満たしたのは同時のことだった。


後編は明日の18:00に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ロイによって宇宙仕様の魔改造が施されているため出力その他もろもろ全てがとんでもないことになっていたりする。ただし、頑丈性重視のため分離や変形といった機能は搭載されていない。 >「ロボにもパ…
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