『第2話 激闘!イマジワールド』 後編
ある意味今回からが本番かも。
「反撃されると予想できるのに、いつまでも同じ場所に隠れているはずがないだろう。本官の職務に対する妨害の意思を確認。これより実力行使による捕縛に移る。バトルスーツ、装着!」
台詞から一拍置いて、とある物陰でカッと強い輝きが生まれた。
「宇宙警察特任警官、ギャラクシア!」
「ほ、本物!?ええい、宇宙警察だろうが何だろうが構うもんかよ!こっちには奪ったばかりのイマジパワーだってあるんだ!」
あえて変身した姿を見せてつけてみたのだが、宇宙犯罪者の戦意を喪失させるには至らなかった。もっともそれは予想していたことでもあるので、ギャラクシアの動きが淀むことはない。
「スタンレーザー、ショット!」
「当たるかよお!」
腰部のホルスターから引き抜いた銃を片手で構えて発射する。わざと声に出しているのは威嚇の面もあるためだ。強い独自裁量権を持つ彼だが、だからこそ暴虐にならないようこういった形式に則った行動を心がけているのである。
「こいつめ!」
「ふんっ!」
反撃に伸ばされた触手の槍を、もう残る手で弾く。その手には十手が握られていた。拳銃タイプのスタンレーザーガンに十手の二種類の武装は、致命傷を避けて捕縛が基本となる宇宙警察において正式採用されている装備だ。
非殺傷をうたっているため戦力に乏しいと思われがちだが、実は「生きているならヨシ!」な考えに基づくえげつない攻撃を隠し持ったやべー武器でもある。
例えば、十手はダイヤモンドですらも粉砕できる宇宙超硬合金の『シ=トーナコ』で形成されているし、両者ともにスタングレネードのような――宇宙基準で――強烈な音と光を出す機能が搭載されていたりと、ニポン人からすれば十分に殺戮兵器と呼べる物騒な代物である。
まあ、周囲への被害と影響が甚大なものとなるため、チキューで使用できる機会はまずないだろうが。
「これでどうだ!」
「はっ!……たあっ!」
「ぬおわ!?」
カウンターを中心にした戦法でギャラクシアはしぶといことで有名なテンタクル種、その宇宙犯罪者に小さいながらも着実にダメージを与えて追い詰めていく。
しかも乱立する大型空調屋外機に被害が出ないように立ち回りながらなのだからその運動神経の高さと視野の広さ並びに空間把握能力は飛びぬけていると言える。特任警官に抜擢されたのも納得の能力だ。
「ぐ、くそう……。こうなったら!」
触手の間から飛び出してきたのは、虹色に輝く大人の掌大の物体だった。一見宝石の原石か何かのようだが、よくよく見てみるとその表面はプラスチック製のイミテーションか何かのような安っぽさがあることに気が付くだろう。その割に内部は発光しているかのように七色の光が渦巻いており、物体の価値を容易には測れなくしていた。
「想造石か……」
それを目にした瞬間、装着したマスクの舌でギャラクシアの目が鋭さを増していた。
イマジストーンとは、特殊な工程で作り出したイマジパワーを吸収・保存できる物体の俗称である。ストーンとは言いながらも鉱石というよりは樹脂に近い。加えて特殊な工程ではあるが人工的に大量生産できるものなので、安っぽく見えるのも当然と言えば当然だった。
なお、出来上がったばかりのそれは無色透明で、それこそプラスチック製容器と見間違えるほどだ。
それが今は七色の光を放っている。つまりイマジパワーを吸収してその内側に宿しているということだ。
「一応尋ねるが、そのイマジストーンをこちらに渡すつもりはないか?そうすればこれ以上の罪を重ねなくてすむぞ」
ギャラクシアがいくら大きな独自裁量権を持つとはいえ、犯してしまった罪をなくすことはできない。特にチキュー人からイマジパワーを奪い取ったことは、彼一人の胸の内に秘めて見過ごせる程軽いものではなかった。
よってこの問い掛けは彼にできる最大限譲歩した内容だったのである。
「てめえに渡すくらいなら死んだ方がマシだ!まあ、そんなことは起こるはずもないけどな!」
ギャラクシアの提案を一蹴して、ワーム宇宙犯罪者はイマジストーンを高く掲げた。
「うおおおお!俺に力を貸しやがれ!イマジパワー、解放!!」
刹那、イマジストーンから虹色の光が溢れ、奔流となって宇宙犯罪者だけでなくギャラクシアや周囲をも飲み込んでいく……。
〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆
光が収まった時には景色は一変していた。無機質なコンクリートや室外機は消え失せ、青々とした草に覆われた原野が広がっている、かと思えば次の瞬間にはごつごつとした岩肌がむき出しの洞窟のような場所に立っていた。またしばらくするとオーベーの古都を連想させるような石造りの街並みが広がり……。
とにかく目まぐるしく周囲の映像が移り変わっていた。
「これは……、想造世界が展開されてしまったのか」
イマジワールドとは、イマジパワーが制御できずに暴走した際に生じる一種の隔離空間のことだ。持ち主や利用者はその内部に取り込まれてしまっている状態となる。また、今回のギャラクシアのように周囲の人間が巻き込まれてしまう場合もある。
景色がやたらと変化しているのは、被害者たちからイマジパワーが奪われた際に混ざり合ってしまったためであろう。
余談だが、チキューにおける神隠しや予期せぬ瞬間転移といった現象は、イマジワールドの発生が原因となっているのではないか、というのが今日では専門家たちの主流の意見になりつつある。
「力を貸せ、なんて曖昧な命令だったから暴走したようだ」
イマジパワーを純粋なエネルギー以外の形で利用する場合には明確なイメージが必要となるのだが、ワーム宇宙犯罪者はそのことをド忘れしていたのか、それとも最初から知らなかったのか。
「強引なやり方に中途半端な知識……。単独犯を装わせながら、その実裏で糸を引いている奴が居るのかもしれない。やることは山積みだな」
チキューへの無断未入星も巧妙さを増してきているし、本格的に裏社会の組織がイマジパワーの強奪に乗り出してきている可能性もある。
その犯人を見失っておいて悠長過ぎる態度ではないかと思われるかもしれないが、これはギャラクシアの策だった。それというのも宇宙犯罪者の、特に単独犯には強い自己顕示欲を秘めているケースが少なくない。
だからあえてこのように他のことに気を取られた素振りをすると……。
「俺様を無視するとはいい度胸じゃねえか!」
このように自ら姿を現すことが往々にしてあるのだ。他にも複数のイマジパワーが混ざり合った状態であることや、暴走したとはいえワーム宇宙犯罪者の命令を受けていたことなどから、下手に動き回るのは危険だと判断した等の理由もある。
クリーンでエコな性質のために宇宙では爆発的に利用量が増しているイマジパワーだが、新種のエネルギーのためまだ判明していないことも多いのである。
「へえ。これはまた随分と派手なイメチェンだな」
さて、現れた宇宙犯罪者だがギャラクシアが口にした通りその姿は大きく様変わりしていた。何と一見すると首のない筋骨隆々な巨人のようになっていたのだ。その実態は細い紐をより合わせて太い縄を作るかのように、触手が捩じり合わされ人型を形成しているようだ。
「はっはっは。ここはご機嫌な世界だぜ。どんな姿でも思うがままになるんだからなあ!!」
「くっ!?」
言い終わるや否や、ワーム巨人は拳を叩きつけてくる。見た目に反して高速で迫りくる攻撃を地面に身体を投げ出すようにして間一髪で避けるギャラクシア。
「ぎゃっはっは!どうした?宇宙警察の特任警官様が手も足も出せないってかあ?」
「……なに、腕の可動範囲の広さに驚かされただけさ。だが、ヒューマン種に擬態したいのならもっと人体構造について学ぶべきだな。そんな動きじゃ、すぐに偽物だとバレてしまうぞ」
「チッ!口だけはすらすらと動きやがる。上等だ!その口もろとも全部ぶっ壊してひき肉にしてやるぜえ!!」
その宣言を真実にしようと、巨人はドカンドカン!と地響きが立つ勢いで両の拳を交互に叩き付け始めた。現実であれば地形が変わる、いやそれ以前に拳が壊れてしまいそうなものだが、イマジワールドではどちらも発生することなく狂ったように地面を叩き続けていた。
そう、地面なのである。
圧倒的優位に立っているにもかかわらず、ワーム巨人はギャラクシアに致命的な一撃を与えることができずにいた。思い通りになるはずの世界なのに、上手く事が運ばないことに不満が沸き起こる。その不満は徐々に苛立ちへと変わっていった。
「くそっ!なんでだ!なんで当たらない!?」
その疑問への答えは主に二つだ。
一つは、潜り抜けてきたの数が圧倒的に異なること。要は経験値の差である。ギャラクシアは特任警官として抜擢されるだけの数多の実績を持っている訳で、その中には当然のように暴力沙汰の鎮圧といった腕力を要求される事例も含まれているのだ。
加えて、宇宙警察では犯人を非殺で捕縛することが求められる。これは単純に勝つだけよりも難しく、相手よりも数段高い技量が求められると言われている。まあ、「生きているならヨシ!」が基本なので重傷者多数というのはざらだったのだが。
更に重要なのが二つ目だ。公表されてはいないがイマジパワーには適合性とでもいうべきものが存在していた。人由来のものであるためだろうと考えられているが、今のところ詳しいことは不明である。
そしてギャラクシアこと河瀬銀はこの適合性が極めて高く、他人が暴走させて展開させたイマジワールドですらもアクセスして自身の力に変えることができる程だったのである。
「はあ、はあ、はあ……。く、くそう。チョロチョロ逃げ回りやがって……!」
「もう終わりか?それなら今度はこちらの番だ!……フォームチェンジ!」
「な、なんだとう!?」
叫ぶと同時にギャラクシアは人の形をした光の塊に変化し、次の瞬間にはググッと一回り大きくなっていく。
「むんっ!」
頭上へと持ち上げられていた両腕のうち、左手が勢いよく振り下ろされると青く染まった左半身が姿を現す。
「はあっ!」
続いて右腕が振り下ろされると、今度は真っ赤な右半身が登場する。白銀だった部分鎧は虎縞の野趣あるものへとへと変貌していた。
「オーガ、ファイター!!」
そして空気を震わせるほどの大音量が轟き鬼面の瞳がギラリと光る。額からは鋭い角が一本伸びており、もちろんその顔も左右で青と赤に分かれていた。
『オーガファイター』。ニポンの様々な昔話に登場する鬼をモチーフとした超重量級のパワーファイターで、イマジワールド内限定で変身することができるギャラクシアの必殺のフォームである。
「ふん……」
右手を背中に回すと、張り付いていた背丈並みの巨大金棒を掴む。その様はまさに鬼に金棒。誰にも負けることのない貫録を漂わせている。
その雰囲気にあてられたのか、ワーム巨人は自身も気が付かないうちに一歩後退っていた。
「そ、そんなこけおどしに騙されるかよお!」
「こけおどしかどうかはすぐに分かるさ!」
ワーム巨人の腕とオーガファイターの金棒がぶつかり合う。が、拮抗したのは束の間で、すぐに触手腕は弾き飛ばされてしまった。
元より経験値に大きな差があったのだ。技量や力が等しいかそれ以上になった今、ギャラクシアの側に負ける要素はなかった。
「ぐ、このっ!くそっ!ちくしょおおおおおおっ!」
それでも後はないと理解しているためなのか、ワーム巨人は破れかぶれに腕を振り回し続けた。対するオーガファイターはそれを確実に迎撃していく。
やがて触手束の両腕は、肘に該当する辺りから先が消滅してしまった。
「お、おれのうで……、俺の腕があああああああ!?」
「安心しろ。イマジワールドは夢のようなものだ。現実のお前の体に異常はない」
パニックになる宇宙犯罪者に諭すように伝える。『非殺』のはずなのに『必殺のフォーム』なのはこのためだ。
「しっかりと記憶には残るからトラウマくらいにはなるかもしれないけどな。まあ、これも再犯予防の一環ということで」
両腕で持って金棒を振り上げると、
「……へ?」
「ギガントクラッシュ!!」
間の抜けた声を漏らすワーム巨人へと力一杯振り下ろす!
「『砕』!!!!」
「ほんげえええええええええええええええええええ!?!?」
衝撃でもうもうと上がっていた土煙が消えると、そこには小規模のクレーターだけが残されていた。
「基点となった人物の消失を確認。これよりイマジワールドの収縮に入る」
宣言するや否や周囲の景色に変化が生じ始めた。木や草や大地、岩肌や建物などが消えては光の粒になっていく。
同時にギャラクシアもフォームチェンジが解かれて、オーガファイターから一回り小さな普段の恰好に変わる。やがて彼らも光の粒となり、そんな無数の光もまた一つまた一つと消えていくのだった。
〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆
現実へと帰還したギャラクシアには、大きな仕事が残されていた。気絶しているのだろう身動き一つしないワーム宇宙犯罪者へと近づくと、
「逮捕完了!」
その触手に光子製の特製手錠をかけるのだった。
『お疲れさまでした。逮捕者を留置所へと移送します』
「頼む。……ところで被害者の様子はどうだ?」
『全員起き上がるどころか目を覚ます気配すらありません。かなり大量のイマジパワーを奪われたようです』
「そうか……。やはり病院に移送された後で折を見てイマジパワーを返すしかなさそうだな」
『混ざり合ったイマジパワーですか。命に別状がないと判明しているとはいえ、経過を観察する必要がありそうです』
「やれやれ。また仕事が増えるのか……」
数年後、とあるグループが自主制作した特撮物風映画が世間を賑わすことになるのだが、それはまた別の話である。
次回更新は未定ですが、なるべく早く投稿できるように頑張ります。
感想・評価等もよろしくお願いします。