『第1話 ギャラクシア、出動せよ!』
こちらが本編一話目です。
突然だがチキュー人類は狙われている!
想像は創造に通じる。
宇宙では想像力から生まれる力、その名も『想造力』が安心安全クリーンでエコなエネルギーとして広まっていた。
そのイマジパワーを大量に生み出す稀有な能力をチキュー人類、とりわけニポン人が強く有していることが判明してしまったのである。
チキューが第三種発展途上惑星――もう少しで「おお!こんな所に宇宙の同輩が!」と偶然を装って接触できるレベル――で大掛かりな警護守備隊を配置できないのをいいことに、宇宙犯罪者のヤベー奴らがこぞってチキューへとイマジパワーを求めてやって来ていた。
だが、銀河連邦もただ手をこまねいていた訳ではない。大々的な部隊の代わりに、逮捕拘束に始まり強い独自裁量権を持つ特任警官を宇宙警察から派遣することになったのだ!
「ギャラクシア、チキューでの特別任務に着任!」
〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆ 〇 △ ◇ ☆
ニポンのとある地方都市。
映画でロケ地になったことを皮切りに、サブカルチャーを用いて地域振興を行うこととなった。
何番煎じなのか数える気も失せるほどではあるのだが、その分だけノウハウは蓄積しているとも言える。アニメやゲームで人気のキャラクターを観光親善大使任命したり、ご当地アイドルやご当地ゆるキャラ、更にはご当地ヒーローを誕生させたりと事業は拡大、それに伴い多くの人や物が呼び寄せられることになったのだった。
と、ここまでであればそれなりの成功例の一つでしかなかったのだが……。
呼び寄せられたモノの中にはよろしくない者たちも含まれていた。
日が落ちるにつれて急速に薄暗さを増すある路地裏の奥で、それは起きてしまった。
行き止まりの壁に背中を預けるようにしてへたり込んでしまっている女性がいた。どちらかと言えば少女と呼称した方が相応しい外見だ。
そんな彼女の恐怖に満ちた瞳が向けられた先には、嫌らしい笑みを浮かべながら一歩また一歩と近づいてくる不審者の姿が。濁った眼は生気を感じさせずに不気味さを助長しており、薄く弧を描く口元は警戒と嫌悪しか抱かせない。
仮にその人物が友好関係を築こうとしていたとしても、全てが裏目に出てしまっていた。もっとも、この不審者が築こうとしていたのは友好関係は友好関係でも、一方的で高圧的な女性の側の意見を完全に無視したものでしかなかったため、今の状況はなるべくしてなったものと言える。
「た、助け……」
声を出そうにも恐怖で歯の根が合わなくなり、まともな発声が難しくなっていた。そんな女性の様子に不審者の気色の悪い笑みが強まる。見たくもないのだが、硬直してしまった体では目を逸らすことすらできない。
手こそ出されてはいないが、この時点で女性の側は拷問を受けているに等しかった。その上、
「ぐ、ぐえへへへ……。お嬢ちゃん。お、おっちゃんとええことしようや」
アウトの見本のような台詞を口走ってくる不審者。思わず悪い夢だと気を失ってしまいたくなった彼女を責めるのは酷というものだろう。
そんな絶体絶命の状況に救いの手が差し伸べられる!
「そこまでだ」
「だ、誰ぐわっ!?」
不意に背後から聞こえてきた言葉に、誰何の声を上げて振り返ろうとした不審者だったがその途中で崩れるようにして跪いてしまう。
その間に悠々と脇を抜けて女性の元へと辿り着いたのは、派手なオレンジの半被を着た男性だった。
(そういえば表の商店街で福引をやってて、そのスタッフの人たちが似たような半被を羽織っていたような……)
とぼんやりと記憶を漁る。
その一方で整った顔立ちに加えて若干脱色したような灰色じみた黒髪と、なかなかに印象に残りそうなものなのだが、後日女性がその顔を思い出そうとしてもぼやけた輪郭が浮かんでくるだけだったという。
「大丈夫だったかい?変な奴に会って災難だったね。後はこっちで何とかしておくから安心して。……そうだ!福引所の隣でこのチケットを渡せば温かい飲み物がもらえるよ。そこで一息ついてから帰るといい」
女性に、もちろん不審者にも有無を言わさずそう言い切ると、彼女をそっと立ち上がらせて表通りの方へと誘導していく。
当然、不審者からは邪魔が……、入ることなく女性は無事に表通りへと静観することができたのだった。
『被害女性を確認しました。ドリンクチケットを口実にして一時的にこちらで保護します』
「トラウマになりそうならカウンセリングも頼む」
女性の後ろ姿が見なくなった直後どこからともなく声が聞こえてくるが、驚いた様子もなく男は追加で指示を出す。
『心得ています。それと、その路地の入口付近に誘導障壁、通称『人払い結界』を構築しました。しばらくの間は邪魔されることはないと推測されますが、職務質問は手早くお願いします』
「了解した。まあ、職質だけでは終わらないだろうけどな。俺たちが割って入ったから未遂に終わっただけで、放っておけば確実に手を出していたはずだぜ」
『いくらあなたが強い独自裁量権を持つとはいえ、マニュアルに沿った手続きは必要です。我々は彼らのような無法者ではないのですから』
「元よりそこまで落ちぶれるつもりはないさ」
男の言葉に満足したのか謎の声が聞こえなくなり、薄暗い路地裏に再び沈黙が戻ってくる。
「お、お前、何者だ!?いきなりスタンレーザーを撃ち込んでくるなんてこの星の人間じゃないだろう!」
しばらく経ったところでようやく動けるようになった不審者が溜まっていた鬱憤をぶちまけるように叫び出す。もっともその行動は織り込み済みだったらしく、男は軽く耳を抑えることで大声を受け流していた。
「なかなか洞察力があるようだな。それならこれを見れば納得するか」
「んなっ!?」
半被のポケットから取り出したスマホのような掌サイズの物体を見た瞬間、不審者は絶句してしまった。より正確に言えばそこに描かれていた紋章――金色の正五角形の中に五芒星が描かれている――を目にしたことで言葉を失ったのだった。
「宇宙警察所属、特任警官のギャラクシアだ。職権によりパーソナルデータの提示を求める」
正体を告げた瞬間、獲物を前にしたハンターのように男ことギャラクシアの眼光が鋭くなる。
「ま、まさか本物!?宇宙警察がチキューに特任警官を派遣したって噂は本当だったのか!?」
「情報収集が甘いな。それは噂ではなく真実だ」
『ついでに情報の管理も甘いですね。今の不用意な一言でそこにいる不審者は第三種発展途上惑星への密入星犯罪者であることが判明しました』
「!?」
「極々少数とはいえ正規ルートでのチキュー入星者には俺たちの情報は伝えられる手筈になっているからな。それを知らない時点で密入星犯罪者なのは決定的だということさ。という訳でパーソナルデータの提示はもういいぞ。どうせ宇宙犯罪者御用達の偽装屋の作った偽物だろう」
『いえ、それはそれで偽装屋の摘発に役立つでしょうから提出を求めるべきです。それとデータベースとの参照が完了しました。透過撮影による骨格等の形状からイグル星系で指名手配されている人物との類似性が高いことが判明しました。およそ九十八パーセントの確率で本人であると推定されます』
着々と不審者、いや宇宙犯罪者の素性を丸裸にしていくギャラクシアと謎の声。
「決まりだな。身柄を拘束させてもらうぞ。大人しくしているなら身の安全は保障する」
「ふ、ふざけるな!こんな辺境にまでわざわざ来たのに、イマジパワーの一つも手に入れられずに捕まってたまるか!」
「おっと、逆上するパターンだったか」
『少々追い詰め過ぎてしまいましたか?』
「いや。この手のやつらは少しの逃げ道ですら強引にこじ開けようとするものだからな。そこで二次被害や三次被害が起きたら目も当てられない。きっちり逃げ場を塞いでおくのが正解だ」
謎の声との会話を続けながらも、ギャラクシアはいきり立って殴り掛かってくる宇宙犯罪者の拳をひょいひょいと軽いステップで右へ左へと躱していく。
「くそっ!ヒューマン種がウロチョロしやがって!」
「おいおい。そんな種族差別的なことを言っていると現代宇宙じゃやっていけないぞ?」
『私のようなアンドロイドや機械知性体にまで一個人としての権利が与えられる時代ですからね』
「うるせえっ!」
「やれやれ。聞く耳もなしか。まあ、素直に反省できるようなやつならチキューくんだりにまでやって来てはいないわな」
『それもそうですね』
「バカにするなあ!」
紙一重とまではいかないが余分な力を使わないように最小限の動きだけで避け続けるギャラクシアとは裏腹に、大振りで殴りかかっていた宇宙犯罪者は徐々に息を荒げていく。
そして、そろそろ捕縛の狙いめかと思われた時のことだ。
「はあ、はあ、はあ、はあ……。くそっ!こうなったら奥の手だ!全部ぶっ壊してやる!」
言うや否や宇宙犯罪者の姿が変化していく。巨大化して破れた服の中から現れたのは、ゴツゴツとした鉱石めいた体だった。
「どうだ、ヒューマン種のお前じゃ手も足も出ないだろう」
「ブロック種の宇宙人か。なるほど正面からぶつかり合うのは不利だな。それならこちらも一枚カードを切らせてもらおうか。人払い結界を密に頼む。これより実力行使での捕縛に入る!」
『了解しました』
「特任警官の力を見せてやる。バトルスーツ、装着!」
再び取り出した掌大の物体を左胸に押し当てると、路地裏にカッ!と白銀の光が満ちる。
「ぐお……。う、うあ……」
視界を取り戻したブロック種の宇宙犯罪者が見たのは、全身に沿う白い光沢のあるスーツの上に頭部や胸部などの部分鎧を装着したギャラクシアの姿だった。その左胸には宇宙警察の紋章が輝いている。
「いくぞ!」
踏み込む動作だけで数メートルの距離を詰めると、がら空きの腹部に拳を叩き込んでいく。それは先ほどまでとは正反対の光景だ。
「ふっ!はっ!たりゃあ!」
「ゴフッ!?ゲハッ!?ドブッフォ!?」
もう一つ真逆だったことがある。固い体表も何のその、ギャラクシアの攻撃は全て有効打として宇宙犯罪者にダメージを蓄積させていたのだ。
「これでトドメだ!」
「ぢょ、まっ……」
「ロックブレイクナックル!」
「グワアアアアアアアアアアアアア!!!?」
渾身の力によって腹部に叩き込まれた正拳突きが引き抜かれると同時に、宇宙犯罪者は糸が切れたように地面に倒れていった。
「逮捕、完了!」
その両腕に光子製の特別手錠をかける。
『逮捕者を留置所へ移送、並びに太陽系外部に展開する部隊への連絡を行います』
「頼んだ。……とはいえ、こいつが乗って来た宇宙船の捜索もあるし、引き渡しにはまだしばらくかかりそうだ」
『ブロック種の宇宙人ですから留置期間中の食料を送ってもらわなくてはいけませんね』
「考えるだけでも面倒だ……。だが、協力者や仲間がいるかどうかを探る手掛かりにはなりそうだな」
『それを加味して尋問計画を立てておきます』
「そっちは任せた。俺は……、そろそろ福引会場に戻らないとな。昼から休みなしだったとはいえ休憩には長過ぎた。この星の住人に成りすますのも一苦労だぜ」
バトルスーツを脱いで愚痴をこぼすギャラクシアだったが、オレンジの半被は違和感がないくらいには似合っていた。
『そういえば、一つ質問をしてもよろしいでしょうか?』
「なんだ?」
『最後の技ですが、そのようなものがあるという話は聞いていませんでしたし、仕様書にも書かれてはいませんでしたが?』
「思い付きで叫んだだけだからな。郷に入るなら郷に従えってやつさ」
『……チキューの、ニポンの文化に影響を受け過ぎではありませんか?それと、ロックブレイクもしくはブレイクナックルの方が語呂が良いと進言します』
「お前も十分に影響を受けているじゃないか……」
イマジパワーを狙う宇宙犯罪者がいる限り、ギャラクシアの戦いは続く!
明日は『第2話』(前・後編)を投稿します。
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