第九話 試験と敵
実技試験当日
「全生徒諸君おはよう。今日はいい試験日和だね」
ガンッ!ガンッ!
「明日には筆記試験があるが先ずは、今日の実技試験を頑張って欲しい」
グルぉぉぉぉ!グギャァァァァ!
「実技試験では魔獣とパーティー戦闘をしてもらう。パーティーの人数は規定はないが多くて20人~30人。まぁこの辺は事前通知があったからわかっていると思う。1つ例外が存在するみたいだが。さて、ここからは今日お知らせする内容だ。心して聞きたまえ」
ガンッ!ガンッ!グギャァァァァ!
「試験内容は簡単。ここにいる魔獣と戦ってもらう。予備の魔獣は協力ギルドが随時調達してくれるから安心していい。合否の判断は討伐の結果ではなく、その戦闘内容で決まる。戦術を組み立てる参謀や各々がどれだけ臨機応変に対応できるかを試すのが目的だからだ。そして、不合格だからといって何かある訳では無い。合格すれば、将来進めるギルドが増えると言ったところだ」
「そして、今日の試験は特別に世界同時生中継が行われる。理由は全員が知っているだろう。なので彼等には最初の一体と他のパーティーが終わった後、残った魔獣全てと戦ってもらう」
ザワザワ、ヒソヒソ
「最初の一体はわかるが、残ったの全部は無理じゃね?」
「いやそんなに残らないでしょ。30人居れば一体くらい余裕だって」
「それにしたって、複数体なんてプロのギルドでも死傷者を出す程なんだぞ?それを試験でなんて」
「諸君の言いたいこともわかる。だが安心して欲しい。今日は万が一の為に『治療院』の皆さんに来て頂いた。だから、安心して怪我をするといい」
校長が説明をしながら、生徒達の疑問に答える。
そして、『治療院 』の名前が呼ばれ、ギルマスや名高い副ギルマス達が姿を現すと、生徒達は全身にやる気を漲らせた。主に男子生徒が。
そりゃ当然。治療院のギルマスや副ギルマスは女性が多いのだ。活躍して、いいところを見せたいのだろう。それはパーティーメンバーの女子にもアピールするためでもある。多少無茶をしても大丈夫となれば、男子生徒がカッコつけるだろう、と予測を立てていた颯の予想は的中した。そして、これはギルド内で知らされていたため、『治療院』の副ギルマス達は苦笑するのだった。
「さて、それでは試験を始めよう。最初は玲音君、君達にお願いするよ。他の生徒達は客席で観ているといい」
校長が指す先には、一夜で作られた巨大な観客席があった。そして、観客席を覆うように、魔獣を閉じ込めているのと同じ結界が張られていた。
「この結界は人は通すが、魔獣は通さない性質を持つ。なので安心して見物するといい」
そう説明される間も、玲音達は静かに準備を始める。
「顕現、霧雨」
「双弓レヴナ、サリス顕現」
「顕現双鉄扇シェルド、シェリア」
「顕現エルドリーパー」
「相手は一体だ。だから手札は見せない。舞は防御だけに専念してくれ。神楽姉さんは周囲の警戒を。多分この上空に別個体が現れるはずだ。澪は俺と神楽姉さんを援護。基本は手を出さなくていい。だが、神楽姉さんの方を優先してくれ」
「「「了解」」」
「準備はいいかね?それではこれより実技試験対魔獣戦を始める。戦闘開始!」
ピシッ
戦闘開始の合図が出された瞬間、『学園』上空の空が割れた。
クルァァァァァァン!
「ッ!学生諸君戦闘たい」
「舞!神楽姉さん!」
兼続校長が指示を取ろうとするのを遮るように玲音が声をあげる。
「「了解」」
そして呼ばれた2人は、事前の取り決めの通り動き出す。
「フゥー。範囲指定。範囲固定。展開開始!築き上げなさい!龍門!」
息を吸い、吐き出す。舞は全力で玲音と澪、神楽と自分を除くこの場にいる全ての人間を守護する城壁を築く。
舞の作り出す結界は、結界に対する舞のイメージが強く反映される。
城壁型にしたのは、守りに秀でた形という舞のイメージによるものだ。
「な、なんだこれ!」「すげぇ!」「城壁をこんなにあっさりと!?」等
城壁の中からは驚きの声が上がる。
舞はその声を聞きながら、城壁の頂点に仁王立ちする。
「お兄!」
「そのまま頼むぞ!」
先程までの神器を振るう凛々しい喋り方から一変、普段の兄に甘える喋り方に戻る。
そして、玲音はその仕事ぶりに感謝しながら、自身の敵へと接近する。
「神楽姉さん作戦変更!上のやつ、澪と協力して早めに仕留めて!」
「いいのか?」
「嫌な予感が唐突に来た。肌がひりつく様な、とにかく頼む」
「わかった。澪!」
「聞こえた!援護する!一矢!鏖殺」
飛行型魔獣の頭上に矢を放ち、その全てが1体に降り注ぐ。
「今日は属性付き!爆ぜろ!」
矢が魔獣に当たると、当たった箇所で小規模な爆発が連続する。規模はC4くらいか
澪の攻撃によって動きを封じられた魔獣のその真下で、神楽は神器を構える。
「喰らい切り裂け!エルドリーパー!」
エルドリーパーに風の魔力を纏わせ、振り上げるようにしてその魔力を魔獣に放つ。
魔力は魔獣を覆うように拡散し、次の瞬間、魔獣は幾重にも切り裂かれる。
そして、魔獣は叫ぶことも出来ずに絶命した。
「ナイス援護澪」
「神楽も流石だね」
合流した2人は、少し後ろに下がり、舞の護衛に着く。
「向こうは終わったみたいだな」
振り下ろされる魔獣の前足を微動だにせず受け止める玲音。その視線は魔獣ではなく、自身の仲間を捉えている。
「なら俺も」
仲間から視線を外し、正面の敵を見据える。
「シッ!」
腰に携える鞘を魔獣の足に叩きつける。
グギャ!
ダメージはないものの魔獣は一瞬怯む。
その隙に玲音は距離を開けて構える。
「今放たれるは絶死の一刀」
言葉を紡ぐ。
この一撃は、眠っていた一ヶ月の間に編み出した、属性魔法とその属性を操ることの出来る神器との合わせ技。
「切り裂くは我等に害なすもの」
その言葉が紡がれる事に、玲音の周囲に雷が降り注ぐ。
特殊な磁場では無く雷と同一化し、その速度を持って敵を斬る
「我は此処に王として、守護者としての力を見せる!」
一際大きな雷が玲音に向けて降り注ぐ。
制御を誤れば、死に至る可能性すら秘めた技。あの空間での修行がなければ、実行すらしなかった奥義の一つ
「雷帝抜刀カザミノタチ!」
雷が玲音に直撃した瞬間、雷は直角に折れ魔獣へ
グギャァァァァァァァァァ!
雷に焼かれ叫ぶ魔獣の背後には刀を振り抜いた姿勢の玲音。
「塵も残さず消えろ」
言葉と共に納刀。すると魔獣は塵も残さずに消えていく。残るのは雷に焼かれ焦げた地面と納刀し、息を吐きながら歩く玲音の姿。
「なんだよ今の」「魔獣が一撃で」「あいつ、あんなに強かったのかよ」
「玲音」
「お兄やばすぎないですか?」
「私達も十分やばいと思っていたがあれはおかしいだろ」
生徒や教師に混じって澪や舞、神楽も今の一撃には驚いている。
当の本人は「今できる全力全開を試して見たが、もう少し火力上げられるか?」なんてことを考えている。
「校長」
玲音は観客席に移動しながら、校長に呼びかける
その声で我に返ったのか、進行を再開する。
「あ、あぁ。えっと、玲音パーティーの実技試験を終了する。次のパーティー前へ!」
そうして、実技試験は進んでいく。
「ねぇ玲音、さっきの一撃」
「お兄、あれはやばくない?」
「そうだぞ玲音。仕組みを教えろ」
試験を眺めながら休む玲音に、澪達は先の一撃について詰め寄っていた。
「仕組みと言われてもなぁ。えーと、迅雷や雷、鳴神と違って周囲に磁場を発生させるのではなく、自身を雷と同一化させて敵に向かって行き、すれ違いざまに斬るだけ」
玲音は霧雨を呼び出し、軽く雷を纏わせながら説明をする。
以前、誰が玲音の神器は雷を操る力があると認識していたが、間違いではない。間違いではないが正解でもない。まぁそれはおいおい説明するとして、今回の「雷帝抜刀カザミノタチ」だが、神器を持ってしても、下手をすれば自身を殺すかもしれない諸刃の剣だ。吸血鬼の体だからこそ耐えられるのもあるが、玲音自身無意識の内に完全に雷をコントロールしている。
「意外と単純?」
「舞ちゃん、そんなことないからね?」
「そうだぞ舞。そんなことできるのはバカ玲音だけだ」
「神楽姉さん、その言い方は酷くない?」
そうして、当たり障りのない話を続けながら、試験の終わりを待つ。
多くのパーティーは15人~30人のレイドパーティー。基本はこの人数で魔獣に挑むのだが、稀に少数で魔獣を相手取る者もいる。玲音や澪、舞と神楽がそれにあたる。他にもいるが、最大でも1人1体が限界。2体以上となると、考慮しないといけない事象が増え、1人では対処しきれなくなる。喧嘩では一対多をこなせても、相手が大きく数が増えると途端にこなせなくなる。なんて言った者が何人もいた。
パーティー内の振り分けはオーソドックスなもので、15人パーティーで前衛7中衛5後衛3。30人だと、前衛10中衛8後衛12。中衛を含まないパーティーだと、9.6や16.14等の編成をする。
前衛も防御役と攻撃役に別れる。その辺の人数もパーティーによって変わるが、中衛の人数はオーソドックスな人数か0かの2択しかない。
そも、中衛というのは、前衛としての仕事もこなし、後衛の仕事もこなせる者しか出来ない。中衛を務める職としては、弓使い、槍使い、暗殺者がいる。時々盾術士なんてのもいる。
弓使いは副武装に短剣や脇差しを持っていることが多い。槍使いは槍を媒体に魔法を使用することが出来る。暗殺者は身のこなしや気配操作で巧みな攻撃ができることから、中衛を務めていることが多い。盾術士というのは、両手に盾を装備し、前衛で攻撃を防ぐ盾役。後衛では味方に堅牢なバフを付与する術士として活躍する。(ただし存在が稀)学生のうちは中衛を含むパーティーは10あればいい方だろう。
そうこうしているうちに、試験は終わりを迎えようとしていた。
「玲音、どうしたの?」
「お兄、さっきから顔が怖い」
「嫌な予感がどうとか言ってたがそれか?」
「あぁ」
魔獣が偶然にもこの場所に出現したこと。その時に感じた悪寒。それが今では感じられず、更には魔獣の出現したタイミングがあまりにも良すぎた。それが玲音にとって、未だ不安を拭えない要素になっている。
「気にしすぎなんじゃないの?」
「そうだといいんだけどッ!?」
澪に返事を返し終わる寸前、慌てて玲音が顔を上げる。すると
ピシッ。バキッ。ピキっ。
学園の上空に複数の割れ目が出現した。
「まずい!」
玲音は悪態付きながら、客席を猛スピードで駆け下りる。
今現在、試験が終わるという間際で、殆どの生徒が結界の外にいる。このままでは多くの生徒が事態に対応できずに、死ぬかもしれない。
「舞!」
どうするか、考えるよりも先に頼れる仲間の名前を呼ぶ。そうすれば、それに応えるように行動を起こす。
「再び堅牢なる城壁を築き上げろ!龍門」
結界に重ねがけしていた結界に更にもう1つ重ねる。
「全員急いで結界の中に!」
城壁の中央、その頂点で舞は声を上げる。兄の呼び声に答えるために。
その声を聞いて、生徒達は急いで結界の中へと戻る。
神楽と澪は舞と生徒を守るように、結界の両端、その頂点に立つ。
2人には玲音が「舞と結界を守ってくれ!まだ何か起きる予感がする」と言われていた。その為、周囲の警戒をしながら、何時でも玲音の救援に駆けつけられるようにしていた。
そしてその玲音は、
「抜刀迅雷!鳴神!」
雷の力をフル活用し、敵を屠り続ける。しかし、魔獣の出現は止むことなく増加し続ける。
「クソっ!効率が悪いな。だったら」
発生させていた特殊な磁場を消し去り納刀。
別の力を引き出す。
「抜刀炎舞!」
再び鞘から抜かれた刀身は、碧炎を纏い煌いていた。
「大蛇!」
碧炎に煌めく刀で敵を一体切り裂く。すると、刀を覆う炎が消え、切った魔獣に纒わり付く。そして、魔獣を灰にするまで残った炎は次の瞬間、大蛇の姿を取り、次々と魔獣を喰らい始める。
大蛇…敵を喰らい続ける程、その体は大きくなり、炎は勢いを増す。1度喰らった相手と同じ種族の者を喰らい続ける特性があるため、自律行動が可能。玲音が操作して、動かすことも出来る。
「これでしばらくは」
一息つこうと、納刀した玲音の背後に突如として水の槍が現れる。
「お兄!」
「ッ!」
舞がいち早くそれに気付き、声を上げたことにより、玲音は紙一重で回避が間に合った。
「どこから!?」
「分からない!」
「突如現れたんだ!」
「私にも分からない!突如現れたとしか言えないよ!」
周囲を警戒し続けていた、澪と神楽でさえ攻撃の予兆を掴むことが出来なかった。
「んなことあるかよ」
玲音は再び、磁場を周囲に発生させ、即席の探知装置とする。
「後ろッ!」
真後ろに向けて刀を振るうが、そこには水が浮いているだけ。
「下か!」
ブシュッ!
咄嗟に身を捻ったものの、左肩を貫かれる。
「クソッタレ!」
迅雷を使い、即座に結界まで後退する。
「玲音見せなさい!」
下がった玲音の下に颯が駆けつける。
「癒したまえ、其は全てを包む光なり」
玲音の左肩を暖かな光が包み込む。傷は途端に消えてなくなり、元通りの状態へと戻る。
「助かる」
「今の貴方なら回復はいらないでしょうが、知られない方がいいでしょうから」
緊急事態でも、そういった配慮を忘れていない颯に感服する玲音。玲音自身はそんなことすっかり忘れていた。
「玲音!」
「お兄!」
「玲音!」
肩を回し、問題ないことを確認していると、澪達が集まってくる。
「まずいぞ。マジでどこから攻撃されてるのかわからねぇ。自分の周囲だけなら大丈夫だが、全員を守りきるのは無理だ」
「魔法とかの可能性は?」
「魔力の残滓を感じられなかったから、魔法ではないな」
「だとするとどこから」
周囲を警戒しながらも、現状把握の為に話し合いを続ける。
「舞、結界の持続時間は」
「土台の結界が優れ物なので、一日は持つかと」
「颯、負傷者は」
「問題ありません。軽傷者はいましたが、全員治療済みです」
「澪、学園周囲の人は」
「校長が直ぐに避難警報出したから、半径2キロ以内にはいないよ」
「神楽、さっきの攻撃を見て何か感じなかったか?なんでもいい」
「魔法じゃないとして、どうやったら水が突然現れる?現代兵器じゃ魔獣に通じないんだから、そんな技術革新のような力はいらないだろう?」
「少し待ってろ」
少し考えたあと、玲音は磁場を発生させ結界の外にでる。
そして、磁場の範囲を限界まで広げ、出力を高める。先程攻撃を察知するためのセンサーとして用いたのを、今度は見えない敵を発見するために使う。
水の槍が出現した瞬間、磁場に穴が出来たような感覚を覚えた。それなら、その場に誰かいたのなら、そこは大きく穴が空くはず。
その玲音の推測は正しかった。
「抜刀迅雷!雷!」
磁場の中に見つけた穴に目掛けて急接近し、攻撃を仕掛ける。
「うっそ、バレた!」
攻撃された側は、見つかったことに驚いていたが、玲音の攻撃を全て受け流した。
敵はすぐさま距離を取る。玲音も距離を詰めはしないが、何時でも攻められるように構えを取る。
「お前ら、何者だ?」
「それは私達が聞きたいのだけど?」
玲音の質問に質問で返す女。
「先に質問したのはこっちなんだが?」
「こうゆうのは男の方から自己紹介するものでしょう?」
どちらも頑なに自己紹介をしようとしない。
「アイヴィア準備出来た」
突然、女の近くにもう1人現れた。
「ありがとリジェル」
「これも仕事」
この時、玲音は動けないでいた。先程からずっと磁場による索敵を行っていたのに、なんの前兆もなく現れたのだ。驚かない方がおかしい。
「それにしても、リジェルに名前言われちゃったわ」
「まずかった?」
「そんなことは無いけどね。まぁいいわ。自己紹介がてら、いいもの見せたげる」
アイヴィアと呼ばれた女が両手を天に向ける。
「私の名前はアイヴィア。この星を奪うために侵略する魔獣達の4人の王が1人。水瓶座のアイヴィアよ。その力とくとご覧あれ」
口上を述べ、天に向けた手を振り下ろす。
すると、空に無数の水の槍が出現する。それらは全て結界で守られる生徒達の真上。
「ッ!全員防御体勢!」
何をするのか察知した玲音は、即座に叫ぶが、理解して行動出来たものは僅か。澪と神楽、舞に颯、そして、治療院の副ギルマス数人、学園の校長だけだった。
反応できた者は、自身の神器で弾いたり、受け流していた。が、反応のできていない生徒達は、体を槍に貫かれ全員が、重症患者となった。
「うわぁぁぁ!腕がァ!」「いやぁぁぁぁ」「ァァァ足が、足がぁ!」
そして、結界内は地獄絵図とかす。血は飛び散り、千切れた体の一部がそこかしこを飛び交う。
……悲惨な状況に陥るが、ある意味仕方ないと言える。三重の結界をすり抜けて攻撃されたのだ。むしろ、反応出来た者を褒めるべきだろう
「てめぇ!」
「あらあら、この程度でこれだけの人数が落ちるのね。残念です」
「流石アイヴィア。やることが的確」
その光景を見ていることしか出来なかった玲音は、これ以上後ろにちょっかいを出させないために、神器を構え直す。
「そうだ。私も自己紹介しよう」
それを眺めながら、もう1人が自己紹介をする。
「アイヴィアと同じく魔獣達の王が1人、リジェル。山羊座のリジェル。」
「称号持ち2人。しかも魔族か!」
「へぇー。貴方知ってるのね?もしかしてあの二人の関係者かしら?」
玲音は内心で物凄く焦っていた。
「なんでこんな早くに現れるんだ!しかも同時に2人だと!?ふざけんな」という具合に。
「お前らが会ったというあの二人は俺の親だ」
「そうなの。でも、貴方に称号が移っていないところを見ると、まだ生きているのね。そして、貴方はあの二人以上に強くはないと」
「これは楽勝」
玲音のステータスを読み取ったのかそう話す2人。
「それじゃあ、早く片付けて」
「この一帯を制圧し」
「一矢鏖殺!」
セリフが終わる前に、2人目掛けて矢が降り注ぐ。
「玲音!」
「こっちには来るな!」
後方から援護した澪が近づこうとするが、玲音はそれを止める。
「効いてないし、そっちの守りを頼む!」
それだけ言い、玲音は視線を前に固定する。
「リジェル、見てくださいあれ」
「む?千切れた腕や足が治ってる?」
「凄腕の医師がいるみたいですわね」
「医師というか医者?」
「まぁその辺はいいですわ」
爆破の属性を付与していた為、砂埃や煙で見えていなかった2人の姿が見えるようになる。
「水を用いた防御膜か」
「正解。水瓶座は水を操ることを得意とするの」
「山羊座は精神支配が得意」
防御に使っていた水をそのまま攻撃に利用したのか、無数の鏃が現れる。
「そろそろ貴方の名前を教えて貰えます?」
鏃を玲音を囲むように展開しながら、こちらがしたのだからそちらもしろと名前を聞いてくる。
「玲音」
「玲音ですか。では、蛇使い座と射手座の息子よ、死になさい」
その一言をトリガーに鏃が一斉に襲いかかる。
「我は此処に王として、守護者としての力を見せる」「雷帝抜刀カザミノタチ!」
対する玲音は先の問答から密かに唱えていた詠唱を終わらせ、絶死の一刀を放つ。
斬!
「取った!」
「取れてません」
玲音の手は確かに手応えを感じた。それなのに、アイヴィアは倒れていなかった。そして、玲音は直撃を貰うことになる。
「水槌」
まだ中に浮く鏃が高速でアイヴィアの手に集まり、巨大な槌の形をとる。それが玲音に命中する。
「ガッ!」
防御する間もなく吹き飛ばされ、地面を転がる。
「玲音!」
倒れる玲音の体を見て、澪と颯が声をあげる。
そして、治療するために近づこうとする。しかし、敵がそれを
「許すわけがないでしょう?」
「あ、」
「颯!」
グサッ
颯は無数の水の槍に体を貫かれ、そして玲音と同じように槌で弾かれる。玲音の隣に。
「颯!しっかりしろ!」
身体を起こし、颯に寄り、呼び掛けるが応えがない。
それを眺めていたアイヴィアが視線を切り、リジェルと合流する。
「アイヴィア、終わった?」
「えぇ。当分は大丈夫ですわ」
「始める」
リジェルを中心に魔法陣が浮かび上がる。
「対象指定。条件指定。呪われた声を聞け。精神を蝕む虚ろな声」
黒い波紋が結界の中に広がる。
「さぁ、欲望のままに溺れろ」
ドクンッ、ドクンッ
「あ、あぁぁ、あぁあああああああぁああああああああああああああああああああぁぁぁ」
生徒や教師達が一切に声を荒らげる。
「何事?!」
「皆!落ち着いて!」
「お前たち!生徒に何をした!」
無事な面々のうち、治療院の副ギルマスがリジェルに問いかける。それをアイヴィアと一緒に笑らいながら答える。
「フフっ。簡単なこと、その子たちの精神を蝕み、その子たちの心に抱く欲望を強化してあげた」
「つまり、そこにいるのは欲望のままに動く獣ですわ。お嬢さん方、どうなってしまうのでしょうね?」
「玲音ばかり女に囲まれて」「羨ましい」「妬ましい」「自分のものにしたい」「澪を」「神楽を」「舞ちゃんを」「治療院の人も」
「「「「全部自分のものに!」」」」
「まずい!」
「舞ちゃん!」
「風乱障壁!」
突如として味方に襲いかかる生徒達と自分たちの間に即席の壁を作り、無事な面々は合流する。
「どうする!?」
「どうもこうもない!全員無事に正気に戻すのだ!」
「そんなの無理よ!此処には精神支配を打ち消せるほどの実力者はいない!」
「なら、術者本人を!」
「待って!壁からでたら!」
1人が早まって結界からも、壁からも出てしまう。
そうすれば当然
「がぁぁぁぁ!」
複数の生徒に取り押さえられる。
「いやぁぁ!」
取り押さえられた女性は、
「痛い!痛い!離してよ!誰か助けて!」
その体を喰われていた。
「誰か助」
ブシュッ
喰らい付いていた1人が首筋を噛みちぎり、絶命した。
「ヒッ」
「ウッ」
「うわぁぁぁ!」
澪や神楽、舞に学園の校長はその光景を見ても耐えることが出来たが、治療院の副ギルマス達はそうではなかった。恐怖に頭が混乱し、その場から逃げようとしてしまった。そうすればどうなるか。わかっていたにもかかわらず、その場から離れたいという欲に負けた。
そうして、捕らえられる。だが、副ギルマス達は運が良かった。喰われて死ぬことは無かったからだ。代わりに、
「いや!やめて!」
「離して!見るなぁ!」
服を引き裂かれ犯される。
「痛い!」「やめて!」「いやぁぁ!」
生徒達は欲望のままに全てをぶつける。
「隙ありですわ」
その光景も見ていることしか出来ない4人の背後に、アイヴィアが現れる。
「水刃」
「グゥっ」
その一撃は、校長を切り裂き、舞の壁を破壊した。そして、
「さぁ、蹂躙なさい」
壁に阻まれていた生徒達が一斉に澪と神楽と舞に襲いかかる。
「欲望のままその子達を犯すといいですわ!」
「そのまま堕ちるといい。我ら次代の母胎となれ」
「一矢鏖殺!」「返しなさいシェリア!」「風刃鎌鼬!」
3人は抵抗するが、数が多くあっという間に取り押さえられる。
「嫌っ」「お兄!」「玲音!」
服に手がかけられ、引き裂かれる寸前、声が響く。
「偽装解除」
ゴウッ!言葉の後に、光が迸る。
「抜刀カザミノタチ」