表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

第八話 学校と話題

「どうしよう」


玲音が目を覚ますと、その状況に少し困ってしまう。


机の上には、人数分のティーカップと遊んでいたであろう、トランプやボードゲーム。自分の向かいのソファーには、神楽と舞がお互いを抱き合うように眠っている。その隣ではアーノルドとエレナが、肩を寄り添って眠っている。

そして、自分の膝の上には澪の頭が。


「うーん、どうしよう。朝食作らないとだし、学校用の弁当も…」


膝の上で眠る彼女を起こさないように、行動を開始する方法を考える玲音の頭の中に、最近で聞きなれた通知がなる。


「助かる!なになに?分身?そのまんまだな」


スキルを読み上げながら発動。読んで字のごとくな効果だった。


「分身ってどんなことできるんだ?」


それはただの独白であったが、それに答える声が玲音には聞こえていた。


『主様ができることは全て代行可能です。朝食のメニューや弁当の献立は考えていただければ、それに沿って調理が可能です。』

「なるほどね。それなら」


それからしばらく、食材を切る音や脂のはねる音、ガスコンロに鍋やフライパンが当たる音等、調理音が静かに、リズミカルに響いていた。




「んっ」


暖かな日差しと食欲を刺激するいい匂いに目を覚ます。


「あ、ここ玲音の」


目を覚まし、目に飛び込んできた光景に、ここがどこなのかを理解した。

理解したが、自分がどこで寝ていたのかを失念していた私は上から掛けられた声に顔を赤くした。


「あ、起きた?おはよう澪」


赤くして、理解した。私がどこで寝ていたのかを。


「お、おはよう。玲音」


体を起こしたくても、玲音の手が髪を撫でていて、起きれない。もっと撫でて欲しい。

そう思っていると、玲音の手が離れていく。


「あっ」


思わずそんな声が漏れてしまった。玲音の顔を見上げると、とってもいい笑顔だった。少し恥ずかしくて、玲音の顔から視線を逸らす。そうすれば、向かいで眠っていた姉妹と目が合う。


「神楽姉どう思う?」

「初々しいな」


姉妹がそう呟くと、それに続くように声が聞こえる。


「息子が大人になっていくなぁ」

「若い子はいいわねぇ」


澪はますます顔を赤くして、玲音のお腹に顔を埋める。玲音はそんな澪の髪を梳かしながら、全員に声をかける。


「みんなおはよう。朝食はできてるし、弁当もできてる。顔を洗ったら食事にするぞ」


「はーい」


澪を除く全員が返事をしながらリビングを出ていく。それを眺めながら、玲音は澪に声をかける。


「澪、朝食も弁当も一緒に作ったから、顔洗ってこい。親御さんに連絡も忘れずにな」

「わかった。後でいつもみたいに結ってよ」


頬を僅かに赤く染め、嬉しそうにリビングを出ていく。


「今日はどんな髪型にしようか」


そんなことを考えながら、玲音は一足先に朝食を食べ始める。


余談だが、この後戻ってきた面々が玲音の分身に驚く、といったことが起こる。しかし直ぐにそれを受け入れ、リオンと言う名前で呼ぶことになる。



「で、2人もこれからは同じ学園に通うんだな?」


朝食の席で玲音は前から話していたことの真意を確かめる。


「そうだぞ。ちなみに私は隣のクラス」

「私は一個下の学年です」

「そうか」


短く言葉を返し、食事を終えて支度をする。

遅れて澪や神楽、舞も食事を終え、支度をするために自室に戻る。


玲音は神楽と舞にバレないように家を出る。澪はそれを見越していたようで、髪型以外の支度を終え待っていた。


「行くか」

「2人はいいの?」

「どうせ、後で会うだろ」


そう話しながら学園へ向かう。



ハンター育成機関国立対魔獣ギルド『学園』

国が主体になって結成されたギルドで、各地に設立された。

学園という役割の他に、常時複数のハンターが常駐し、襲撃に備える為の重要拠点としての役割を持つ。


学園はハンターを育成する為の機関。その為、中等部、高等部のような組み分けは無い。入学すれば一年生。進学をしていけば二年、三年となっていく。国を守る為の戦力に年齢の制限はないのだ。流石に14歳より下は入学できないが。

そして玲音と澪、神楽は二年生。舞は一年生になる。


この学園は三年制となっているが、卒業後もこのギルドで講師として活動しながらハンターをする者は少なくない。

講師ではないが、ギルド所属のハンターとして籍を置く者も多い。


更に外部講師も存在している。『学園』には所属していないが、協力関係を築いているギルドは多数あり、協力する条件に外部講師としての仕事がある。『治療院』のギルドマスター、九條颯がその1人だ。国が関わっているギルドだけあって、薬の材料や医療機器なんかの手配はお手の物。それを、優先して分配してもらうために講師となった。現在は別の目的があり、颯は講師を勤めている。更にいえば、ギルドに所属していないアーノルドとエレナも講師の1人だ。ベテラン退魔師は無所属でも協力関係を持ち掛けられる。それほどまでに有力な人材だからだ。

授業内容は、中学や高校で習うことを教える基礎授業と対魔獣の事を教える戦闘教練の2種類。

学科もあり、戦闘科、医療科、生産科の3つ。どれも、今の国を支える大切な人材を排出している。



「玲音!聞いたか?!転入生の話!」

「知らね」


学校に着いた途端この話である。この時期の転入生は珍しいのだ。それも2人、姉妹である。注目を浴びないのがおかしい。


「なんだよ〜、もう少し興味もてって」

「あのなぁ、俺には澪がいるんだぞ?他の女に興味なんてねぇよ!」

「そう言いつつ、転入生が女子なのは知ってるんだな」

「うぐ」

「尚くん、玲音をあんまり弄らないでね?」


澪の髪を結いながらだったので、澪が会話に入ってくる。


「ありゃ、彼女さんに言われちゃあ仕方ない」


尚はおどけながら椅子に腰かける。


「玲音、今日の髪型はどうするんだ?」

「ツインテール」


座った後の最初の話題がこれだ。


「ツインテールねぇ〜。ファンクラブの反応が楽しみだな」

「そうだな。流血沙汰にならないことを願うよ」


澪は『学園』の人気者で、ファンクラブが存在する。彼氏の俺は何かと目の敵にされるが、この髪型については褒められる。


ファンクラブだが、以前に流血沙汰になったことがある。原因はポニーテール。それも運動服で、汗をかいた後。男女問わず血の海に沈んだ。一部、暴挙にでようとした奴は俺が血の海に沈めた。そんなわけで、流血沙汰にならないことを願うよ、はいつもの決まり文句になっていた。


「はい、できた」

「ありがと」


手鏡を渡すと、嬉しそうにそれを覗き込む澪。


「そろそろ、他の髪型にも挑戦したいんだが、如何せん知識がない」


そうなのだ。いくつか知ってはいるものの、知らない髪型の方が多い。在り来りなものしかやったことがなく、自分でも飽きを感じていた。


「私はこれでもいいよ。玲音に髪を触ってもらうの気持ちいいから」

「それならいいけど、いつか他の髪型も挑戦しような」


突如桃色空間が広がる。


「いつも通り甘ったるいねぇ」


それを当然のように受け止めるクラスと担任。


「ほら、そこのカップルHR始めるぞ」


担任が声をかけると、今気付いたと言わんばかりにクラス全員が静かになる。


「起立、礼」

「おはようございます!」

「はい、おはよー」

「着席」


澪(委員長)の言葉で、朝のHRが始まる。



「えーと、そんなわけで近々魔獣試験があるから、それまでにパーティー決めておけよ。HR終了!」


担任が教室から退室する。すると、教室はまた騒がしくなる。


話題は試験のことや転入生のこと、昨日のテレビの話等。


「みんな、1時限目はグラウンドで模擬戦でしょ?支度してね」

「はーい」


澪が良く通る声で、1時限目の事を伝える。そうすれば、思い出したように皆が移動を開始。


更衣室で着替え、澪と尚也と並んで移動する。


「今日の授業って確か合同だっけ?」

「確かなぁ〜。うちの学年2クラスと下の学年2クラス」

「転入生のいるクラスらしいよ」

「は?」


澪の言葉で一瞬で頭が冴える。

嫌な予感しかしない上に、面倒なことになるのは確定。急に逃げ出したくなるが、それはそれで面倒なことになる。だから玲音は、覚悟を決めてグラウンドに向かうのだった。




グラウンドには既に全員が揃っていた。転入生を囲うようにして。


「神楽さん、試験のパーティー一緒に組みませんか!?」

「おいバカ!いきなりすぎるぞ」

「そうよ男子!下心丸出し過ぎ!」


「舞ちゃん、私達と一緒に試験受けましょ?」

「舞ちゃんは私たちのパーティーに入るの!」

「それを決めるのは舞ちゃんでしょ!何言ってるの!」



「なんつーカオス」

「2人とも人気だね」


身内2人を取り巻く現状に玲音は頭を抱えることしか出来ない。


「その感じだと、2人は知り合いなのか?」


尚が面倒なところをついてくる。


「なんで聞いてんだよ!」

「えぇ」


心の声が漏れていたようだ。なんて答えるか、少し悩む


「まぁ知り合いっつーか、なんつーか」

「パッとしねぇな」

「ア、ハハハハ…」


「あ、澪姉!」

「お、澪!」


すると、2人が澪を見つけて近寄ってくる。


「2人ともさっきぶり。もう既に人気者だね」


2人を迎えながら、澪は微笑む。


「す、すげぇ。なんだあの3人」

「やべぇよ。輝いて見える」

「ねぇ、聞いた?舞ちゃんが澪姉って」

「うん!きっと姉妹なのね!」

「三姉妹!素敵!」


それにより更にカオスになる。


「澪姉、お兄は?」


舞の一言で、その場が凍る。


「えっとぉ…」


口ごもる澪。周りの反応を見て、即答できなかったようだ。


「ねぇ、今の」

「聞き間違いじゃないよね?」

「確かにお兄って…」

「舞ちゃん、お兄ちゃんがここにいるの?」


舞のクラスメイト達がその手に武器を握りしめ、舞に問いかける。


「いる。神楽姉と澪姉と同い年」


ジャラッ、シャキン、カチャ、ガン!、ギリギリ


今の一言で、その場の全員が武器を手にした。


「なぁ玲音」


あ、終わった。そう直感する。


その呟きを拾ったのだろう。2人の視線は玲音に向き、それを追いかけるように全員の視線が玲音に向く。


「お兄!」

「玲音!」


飛び込んでくる2人を避けながら、玲音は叫ぶ。


「顕現!霧雨!」


己の武器を顕現させ、構える。


「死ね!玲音!」


124人対1人。授業が変更されるほどの戦闘が巻き起こった。


「玲音!先生は羨ましいぞ!」


訂正。教師が参加したことによって126対1だ。


「楽しそうだな」

「お兄、すごいね」

「あははぁ」


当事者の2人と澪、尚也はその光景を眺めていることしかしなかった。


1時間後


「はぁ、はぁ。おわっ、た」


授業終了の鐘がなると同時に玲音が倒れる。


「澪、回復、頼む」


息も絶え絶えに、澪に助けを求める。


「はーい。癒せ、双弓サリス!」


その手に弓を顕現。矢をつがえずに弦を引き絞り放つ。そうすれば、玲音の傷は癒え、息も落ち着いていく。


「助かった」

「いえいえ。それよりお疲れ様」


澪の差し出すタオルを受け取りながら、玲音は神楽と舞の方を向く。


「神楽姉さん、舞、帰ったら」


何かを言いかけようとしたその時


ドドドドドドドド


「ん?」


校舎の方から地響きと土煙と共に何が向かってきた。


「あ」


それが何かわかった瞬間、玲音は死んだ魚のような目になった。

全校生徒(教師含む)が武器を手に向かってきているのだ。その目は血走っている。


「…帰りたい」


刀を構えながら、玲音は涙を流す。


「私も手伝うよ」


澪がそう言いながら、玲音の後ろに立つ。


「双弓レヴナ、サリス顕現!」


その手に、自身の扱う神器を構えながら。


「そりゃ助かるよ」


玲音は深呼吸して、刀を構え直す。


「顕現エルドリーパー」

「顕現双鉄扇シェルド、シェリア」


背後から、さらに2人の声が聞こえる。


「お兄のために力を貸す」

「まぁ、元はと言えば私たちが原因だしな」


神楽と舞も自身の神器を手に構える。


ちなみに、尚也は流れ弾を受けない為に離れた位置にいる。傍観の構えだ


「死ね!ハーレム男!」

「くたばれ!お姉様を誑かす変態!」

「私達もそんな風になってみたかった!」


生徒(教師)達が怒りと妬みと悲しみの混ざった声で叫びながら突っ込んでくる。


神器と人器のぶつかり合い。


滅多に起こらないはずの出来事が、今日この時起こった。

この出来事は、ニュースに取り上げられ、日本を駆け巡った。


余談だが、授業は全て変更。怪我人は全員。『治療院』から緊急で颯と副ギルマスが数人駆け付ける程の事態となった。


さらに余談だか、玲音、澪、神楽、舞は怪我等一切なく、戦闘中に昼食を取る始末。

舞の結界と神楽の結界、澪の無差別範囲攻撃によって誰も近づけなくなったためだ。

この結界の強度やコンビネーションから

【流麗堅美】神楽・舞 、【狩猟委員長】御鏡澪、【抹殺対象】【現代の新選組隊士】【剣豪】玲音 と言う異名をつけられた。

1人だけ何かおかしいのは触れてはいけない。




「だァーくそ疲れた!」


襲い掛かる敵?を薙ぎ倒し、全員昏倒させた為帰宅した玲音は、部屋に着くなりベットに倒れ込む。


「玲音、布団が汗で汚れるよ」


それを苦笑しながら注意する澪。


「清浄の門を使ったとはいえ、風呂に入って無い体で倒れ込むのは如何と思うぞ」

「そうですよお兄。それではまるで、誘っているみたいです」


神楽がまともな事を言うと、舞は反してよろしくない発言をする。


「誘ってねぇし、襲い掛かろうとするな!?」


飛び起き、窓の鍵に手を掛ける。いつでも逃げられるようにするためだ。


「舞ちゃん、先に私達がお風呂入ろっか」

「ん?お兄も一緒じゃないのです?」

「えっ」

「えっ?というか、付き合ってるのですから、裸を1度や2度はムグッ」


またしても舞がよろしくない発言をし、澪を硬直させる。それ以上はいけないと、神楽と玲音が口を抑える。


気まずい空気が流れる中、リビングの方からエレナの声が聞こえた。


「みんな〜ご飯できたから、早くシャワーだけでも浴びちゃいなさい」


朝食や弁当は玲音が作る。晩御飯は基本的にエレナが振る舞う。それがこの家の決まりの1つ。

注意しなければならないのは、エレナがご飯を作った時は、家族揃って出来たてを食べること。よほどのことがない限り絶対遵守。じゃないと機嫌がどうなるのか分からないのだ。


「だそうだ。先に行ってこい」


そう言いながら、玲音は木刀を手にする。気まずい空気から逃げるように庭へ向かう


「玲音、素振りでもするの?」

「ああ。試したい動きもあるし」


短く言葉を交わし、玲音は部屋を出ていく。


「じゃあ入ろっか」


それを見送った澪は気を取り直し、神楽と舞を促してシャワーを浴びに向かう。



「さてと」


庭先にて腰を落とし、木刀に手を添え、イメージする


「相手が四方から同時に迫ってくる状況。刀は未だ納刀。ここからの手は…」


言葉を口にしながら、脳内で何度も試行錯誤する。しかし、木刀は1度も振らず。


「今使えるもの全てを使って…」


自身の持つスキルを思い浮かべ、使えそうなものを試す。そして、辿り着く。


「抜刀鳴神」


脳内で試行された動きを現実でも試す。


抜刀の勢いそのまま正面の敵を切り上げ、返す刃で右の敵の首を撥ね、後ろの敵を袈裟懸けに、最後の1人は逆袈裟に。

速度は脳内と違えど、その精度と動きは正しく試行したものと同じ。


「よし。いい感じだな。あとは霧雨で試すだけ」

「今日はそこまで。空いたよ」


木刀を置き、霧雨を顕現させようとした玲音に声がかかる。


「あ、澪。見てたのか」

「最後の方だけね。それより、エレナさん待ってるよ」

「玲音〜」


そう言う澪の後ろから、エレナが顔を出す。


「了解。なるべく急ぐから待っててくれ」


母さんのあの笑顔を見たら急がないと。玲音は心の中でそう言葉にし、風呂へと向かう。



「いただきます。」


後で風呂は入るとして、5分で汗を洗い流した玲音。玲音が席に着けば、家族と澪が揃って席に着き、食事が始まる。


「そういえば、ニュース見た?」


今日は珍しく、エレナから話題が振られた。しかも学校でのことだろう。


「当事者なんだから見たくもないだろ」


答える玲音はげんなりとしていた。


「それにしても、皆カッコよかったなぁ!父さん感激!」


興奮しながらアーノルドがテレビをつける。映し出された番組は


『緊急特番!【学園】で起きた謎の乱闘。その原因は?』


だった。


「は?なにこれ」


玲音が画面に釘付けになる。澪や神楽に舞、アーノルドとエレナでさえも釘付けなのだ。

だって、画面をつけたらいきなり自分達(の子の顔)が映し出されてるんだ。何事かと画面を凝視するだろう?先程まで放送されてたニュースは、上空のドローン撮影によるものなので、顔や姿はよくわからなかったが、これではしっかり見られてしまう。


「私の息子が、『学園』に所属してるんですけどね?聞いた話だと、綺麗な女子3人を侍らす奴がいて、そいつを倒すためにギルド一丸となって戦ったらしいですよ」

「教師もそんなことを言ってましたね。真実なんですかね?」

「それを、今から解明して行きたいと思います。それでは本日のゲストを紹介しましょう!『学園』のギルドマスター兼続校長と『治療院』のギルドマスター九條颯さんです!」

「よろしく」

「よろしくお願いしますわ」


「えぇーお話を聞く前に、こちらの映像をご覧下さい」


司会進行役がそう言うと画面が切り替わり、戦闘シーンが映し出された。


昼間の玲音、澪、神楽、舞のパーティー対全校生徒(教師含む)だ。

しかもこの映像……角度的に撮影者尚也じゃね?


最初は、玲音1人で4クラス全員を昏倒させる映像が流れ、次いで4対多数の映像が流れる。


「この男子生徒、えーとぉ」

「玲音君ですね」

「本名は?」

「私も知らないんですよね」

「校長なのにですか?」

「えぇまぁ。ハンターとしての登録名=学籍名なので、偽名の可能性もありまして」

「あぁ、玲音の本名知られてないんですね」

「その口ぶりからすると、颯さんはご存知で?」

「えぇまぁ。言ってもいいか分かりませんが、まぁ許されるでしょう」


「おい」なんてツッコミも届くはずなく


「彼の本名は玲音・ヴァンデル。アーノルド・ヴァンデルとエレナ・ヴァンデルの息子ですわ」

「あのアーノルドとエレナですか?」

「えぇ。あの、退魔師アーノルドとエレナですわ」

「どうりで」

「なるほど。退魔師の両親を持ち、幼い頃から武術の指導を受けていたわけですか。それなら、あの身のこなしも納得だ」

「というか、颯さんはどうしてそのことを?」

「それは秘密ですわ。彼との約束がありますので」


ここで1つ、余談をしよう。

この放送、インターネットでタグをつけたコメントを画面下に表示しているのだが、今の一言で大変なことになる。


#乱闘解明#玲音死すべし

明日覚えてろよ?


#乱闘解明#玲音死すべし

お前…本当にハーレムを作ってるんだな


#乱闘解明#玲音死すべし

乱闘の原因がわかった気がする。玲音って奴は許せないな


等など、多くの人の発言が偏ったものになった。

というか、#乱闘解明の横に必ず#玲音死すべしが付くようになった。


「玲音君もさることながら、残りの3人も凄いですね」

「えぇ。私も実力を把握している訳では無いので、これにはびっくりしました」

「双弓を構えているのが御鏡澪、鉄扇を構えているのが玲音の妹で舞・ヴァンデル、鎌を構えているのが玲音の姉で神楽・ヴァンデルですわね」

「え?あそこの4人のうち3人がアーノルドとエレナの子供なのですか?」

「正確には神楽さんと舞さんは養子ですわ」

「そうなんですか。しかし、その3人に合わせられる御鏡澪さんも凄いですね。何者なんですか?」

「玲音のお隣さんで玲音の彼女で、アーノルドさんとエレナさんの稽古を受けている。それが御鏡澪さんです」

「あぁなるほど。乱闘の原因がわかりました」

「教師達から聞いていたが、その通りだったのか」

「まぁでも確かに、同世代にこんな可愛い子が3人もいて、それが全員同じ人物と接点がある。しかもかなり親密。となれば嫉妬するのも当然ですね」

「それにしても、教師達は自重して欲しいがなぁ」

「兼続校長はなんとも思わないのですか?」

「思うところが無いわけではないが、それよりあの実力に驚いている」

「確か、【流麗堅美】神楽・舞、【狩猟委員長】御鏡澪、【現代の新撰組隊士】【抹殺対象】【剣豪】玲音でしたか?」

「的確な異名だと思う」

「あ、盛り上がってきたところなのですが、お時間となっしまいました!本日はここまでですが、また次回特番という形で彼等4人の戦い方を見ていきたいと思います。その時には試験の様子も見れるということなので、対魔獣戦ではどのような連携を見せてくれるのでしょうか。ゲストのお2人も本日はありがとうございました。」

「こちらこそ」

「えぇ、ありがとうございました」

「それではまたお会いしましょう」



「ご馳走様でした」

「はい。お粗末様でした」


途中から、テレビを見るのをやめて食事に専念していた玲音達。面倒なことになったのを感じたのか、アーノルドとエレナも何も言わない。


「神楽姉さん、舞、澪、明日は全員で登校するぞ」

「そうだな」

「お兄殺されるかもだし」

「この感じはね…」


玲音が身の危険を察知し、3人に助けを求める。

3人ともそれを了承し登校するのだが、一緒に登校する行為自体が生徒達をさらに過激にする。

今はまだそんなことは知らないのだが。





とある公開laneグループ玲音抹殺の会


あれは許せない


許せないってか羨ましいわ


あいつの通学路どこだっけ


通学路はやめとけ。迷惑がかかる


なら校門で待ち伏せだな


待ち伏せするとして、どうやってあの姉妹の結界を破るんだ?


委員長の範囲攻撃も懸念事項だぞ


いや、本人の戦闘力が未知数過ぎる


玲音の情報なんかねぇの?


あるぞ


あるのかよ


早く出せ


一か月前の首都奪還、あれに招集されてたから、ランクは500以内。その後、作戦遂行時に活躍しランクは216に繰上げ。

唯一の刀型神器で、入学当初から戦闘科の成績は優秀。それでも上の下くらいだった


ランク500以内で上の下は節穴すぎる


手抜きか?


本当の実力を隠してた、ってことに気付かされたよ


現状ランキング216ってことは、学園内だとどうなの?


ランキング216はもう上位勢だろ?ギルドの勧誘とかどうなんだ?


学園に所属する講師やハンターの中で、玲音よりランキングの高い人は……残念ながら居ない。

これまで、高くて300ちょいの人が数人だった


学園内にランカーがいた事もそうだけど、あいつの動きを捉えられなかったことに驚いてるわ


何?そんな早いの?


抜刀術みたいな、後の先を取る技ならまだしも、動き出しや牽制の為の投石なんかも見えなかった


は?


え?それスキルとか?


んー?スキル…だとしてどんな効果だ?


まぁそれはいいとして、明日どうする?


狙うなら登校時?


学園の敷地入ってからだな


背後との挟撃にする?仕事行く前に手伝う


いやいや、遅刻しないでくださいよ?




こんな会話が繰り広げられ、毎日毎日作戦会議が開かれることになる。




「もしもし」


夜、虫も静まり静寂の訪れる時間、玲音のスマホに1件の着信が。


「玲音か?夜遅くにすまん」

「気にすんなよ。で何の用?ニュースになってる映像の件か?」

「いや、それはマジで申し訳ないと。じゃなくて」

「ま、今すぐ伝えないといけないなら待つが、そうでないなら明日聞くぞ?その方が纏まるだろ」

「……そうする。本当にすまん」

「いいって気にすんな。おやすみな」

「あぁ、おやすみ」


短いやり取りをし、通話を切る。


「なんだか嫌な雰囲気だな」


夜空を見上げ、月が照らす街並みを眺め、玲音は布団へと潜り、眠りにつく。




「アイヴィア、本当に行くのか?」

「えぇ行くわ。そろそろ本格的に侵攻したいもの」

「心配なら私が着いて行こう」

「いいの?リジェル」

「構わない」


どこか分からない空間で話をする3人。

1人は水瓶座の称号を持つ魔者、アイヴィア。

もう1人、山羊座の称号を持つ魔者、リジェル。

最後に、蟹座の称号を持つ魔者、シェグナ。


「2人で行くなら問題は無いだろうが、他の称号持ちには気を付けろ」

「わかってるわ。射手座と蛇使いは持ち主がわかってるし、乙女と天秤は暫くは動けないでしょうから」

「警戒するのは獅子と魚、蠍と牡牛」

「誰が所持しているのか分からないうえ、あの4種族は協定を結んでいる」

「そうだ。今どこにいるのかも分からないから気をつけろよ」

「じゃあ行ってくるわ」

「行ってくる」


そう言って、リジェルとアイヴィアは境界を渡って行った。


「牡羊もこちらが所持してるとは言え、活動できない状態・・・。まだ死ぬなよ」


残されたシェグナはそう零し、その場を後にする。



「ねぇリジェル、下で面白いこと起ころうとしていない?」

「確かに。面白そう」


境界を超えた2人が目にしたのは・・・




「いってきまーす」

「いってきます」

「いってくる〜」


三者三葉の挨拶をしながら家を出る。


「玲音、神楽、舞ちゃんおはよう」

「おう。おはよ澪」

「おはよう澪」

「おはよ〜澪姉」


3人は家を出てすぐ澪と合流する。


「澪、今日の分の弁当」

「ありがと玲音」


玲音は澪の為に作った弁当を手渡す。


「さて、危険な学校へ向かうとするか」


そう言って通学路を歩き始める玲音の後ろを、澪達3人は談笑しながら続く。


「そういえば、試験って明日だっけ?」

「実技の方は明日だな」

「楽勝です」

「まぁ俺らは4人で組むから楽だろう。そうだ、昨日言い忘れたけど、称号のことは誰にも言うなよ。あと隠蔽しとけ」

「はーい」


途中からは玲音も話に混ざりながら【学園】に向かう。


「何事もなく到着したね」

「心配しすぎだった?」

「授業中にしか仕掛けてこないのか?」


3人は周囲を見て判断するが、玲音は気配を探る。


「いや、これは待ち伏せだな。それも大人数。背後にも控えてるから、校門を超えたら襲ってくるつもりだろ。後ろのは退路を絶つためかな」

「玲音、そんなこともわかるの?」

「気配を探れば3人でもわかるさ」

「・・・あ、ほんとだ」

「お兄それスキルじゃないの?」

「スキルもあるが今は自力」

「どうするの?」

「気にせず行くだけ。顕現、霧雨」

「双弓レヴナ、サリス」

「双鉄扇シェルド、シェリア」

「エルドリーパー」


4人はそれぞれの神器を呼び出し、校門を超える。そして、本日最初の戦闘が始まる。



「後ろは無視でいい。今回結界は無しだ。神器と体術のみで乗り切るぞ」

「「「了解!」」」


後方を無視した理由、それは単純だ。攻撃はしてこないのだから無視する。攻撃してきても、避ければいいのだ


「狙撃隊!やれ!」


校舎の屋上より弓やライフル、クロスボウに大砲等を用いての集中攻撃。

それに対し


「打ち払え」


舞が鉄扇を一閃。風が吹き荒れ、悉くを打ち払う。


「1番隊から4番隊前進!狙撃隊!援護しろ」


敵の指揮官が指示を出せば、隠れていた半分が姿を見せ、陣形を取りながら接近する。それを援護するように、狙撃隊が砲撃を続ける。


「1人1部隊な」


玲音はそれだけ指示を出し、砲撃を避けながら正面の部隊に自分から向かっていく。



「来たぞ!」

「死ね!玲音!」


玲音の接近に気付き、武器を構える前衛2人。


「槍と斧か」


武器を確認後、玲音は急制動。刀の間合いの外で腰を落とし、構える。


「その距離では当たりませんよ!そこはこちらの間合いです!」


槍使いが叫びながら槍を繰り出す。

繰り出されるは高速の6連突。

それを玲音は


「抜刀雷」


周囲に特殊な磁場を発生さて、抜刀した刀を光速で切り返し、無傷で捌く。

その間に接近した斧使いが、上段からその斧を振り下ろす。


「ふん!」

「ふっ!」


しかし玲音はその斧を刀で真っ向から弾き返す。


「なんと!?」


驚く相手を放置し、玲音は次の行動に移る。


「抜刀迅雷」


特殊な磁場を拡大し、先程から様子を伺う後衛に急接近。


「っ!来るぞ!」

「フレアバレット!」

「アイスバレット!」

「ウォールバレット!」


後衛は咄嗟に攻撃魔法や防御魔法を唱えるが、雷とは光だ。光速を迎え撃つなら光速でなければならない。


「遅い」

「速っ」


刀の間合いに敵を捉えた玲音は昨日の技を繰り出す。


「抜刀鳴神」


抜刀と同時に1人を斬り伏せ、返す刃でもう1人、最後の1人も袈裟懸けに。そして納刀。

本来は4連撃だが、今回は3連撃で終わった。

その間、槍使いと斧使いは見ていることしか出来なかった。


「ありかよあんなの」

「あの人器おかしいだろ」


2人は今の一連の動きは神器の齎す効果だと思い込んだらしい。

そして、2人はもう一度武器を構える前に意識を断ち切られる。



「指示だけ出して先に行った」

「仕方ない。私達もやるか」

「私と舞ちゃん後衛職なんだけど?」


そんなことを言いながら、3人もちゃんと1部隊を倒しに向かう。



「近づかれる前に仕留めないとね」


静かに双弓を構え、弦を引く。

弦を引くのは、自身ではなく、魔力だ。魔力を持って弦を引き、それを放出する。それが双弓レヴナとサリス。


「今回は精密射撃の練習。一矢・鏖殺」


放たれた矢が空中に留まり、数を増やす。


「上空警戒!」


部隊長が警告するが。


「遅い」


澪がその手を振り下ろすと同時、矢が降り注ぐ。


「総員回避!」


部隊長の指示で部隊全員が回避するが、1本目を避けたと思えば避けた先に2本目が落ちてくる。そして、何も出来ずに第2部隊は倒された。


「加減しても良かったかな?」



「さて、エルドリーパー、仕事だ」


神楽は手に持つ鎌を構える。その構えは居合抜きのように体を捻り、鎌を肩に添える。


「あの鎌の情報も無い!が、推し通るぞ!」

「おう!」


迫る部隊。全員が近接武器を手に突っ込む。しかし、この鎌相手に無謀な突進は止めるべきだった。情報はなくとも、使い手が神楽というだけで警戒するべきだった。


「切り裂けエルドリーパー!」


神楽がエルドリーパーを薙ぎ払う。遠心力の働きが加えられたその切っ先から、特大の風の刃が放たれる。

風は脅威である。竜巻が起これば、風によって物は巻き上げられ、吹き飛ばされる。鎌鼬はその鋭さを持って人を傷付ける。水がダイアモンドを切るように、エルドリーパーの巻き起こす風もまたダイアモンドを切れるのだ。


「かいひ」


部隊長が指示を出す前に倒される。それを認識した時には他の部隊員も倒されている。

神楽の操る鎌の最大射程は1km。既に射程内なのだから、勝ち目など無いのだ。


「もう少し、強いのとやりたいな」


鎌を片手で回しながら、そう零し歩を進める。



「攻撃手段はあまりないんだけど」


舞の持つ双鉄扇シェルドとシェリア。この2対は攻撃より防御に偏っている。攻撃手段が無いわけでは無い。が、限られてくるのだ。


「仕方ない。封じなさいシェルド」


左手に持つシェルドを振りかざす。そこから放たれる光は、魔法を封じ、近接戦を余儀なくされる。


「返しなさいシェリア」


右手に持つシェリアは横に振り払う。


「ごめんね!舞ちゃん!」


謝りながら武器を振り下ろす部隊を、舞は一瞥もせず


ドォン!


倒した。


「シェリアの反撃結界は強力すぎますね。あの程度でこの威力とは」


1の力で攻撃された結界は、20の力で反撃する。それも、全てを合算した威力で。つまり、1の攻撃が5あったとすると、20×5で100の威力になって返ってくる。それも1人あたり100で。



「総隊長!報告します!1番から4番隊全滅!敵、未だ健在です!」

「くっ」


校舎の入口にて、待機する総隊長に伝令が走り込む。その報告に、総隊長は顔を歪める。


「残り全部隊で一斉攻撃!狙撃隊も合わせろ!後方の魔術隊も合わるように伝えろ!」

「承知しました!」


そうして伝令は再び走る。

しかしてこの決着は……


この日はその後、昼休みと放課後に戦闘が発生したが、この結果も言わずもがな。但し、放課後の戦闘では玲音にかすり傷を負わせたとか



とあるグループ


やっぱあいつ強い


玲音もそうだけど、姉妹と委員長も尋常じゃない


舞ちゃんの鉄扇、一薙しただけで狙撃隊の攻撃撃ち落とすし、魔法系無効にされるし、最後のあれ反射か?やばい


神楽姉様の鎌も凄いわよ。近接武器なのに間合いがとにかく広い。普通の鎌にはあんなことできないわ


委員長の弓もエグいだろ


あれは弓って言うより、委員長自身の読みの深さだろ。避けた先に別の矢が降ってくるんだぜ?未来予知に等しい予測だよ


いや、玲音の技を食らった身としては、どれも優しく感じるな


同意。でも、玲音以外も十分やばいのはわかった


で、玲音はどうだったの?


なんて言ったらいいかな?


一言で言うなら速いじゃね?


速いだけじゃないだろ。戦斧を正面から弾いたんだぞ?


は?刀で?無理だろ普通


いや、それがやられたんだよ。マジで


あとなんか技名?みたいなの呟いてたな。えーとなんだっけ?


俺の槍を受け流した時は抜刀雷とか言ってた気がする


私達後衛を攻めた時は抜刀なるかみ?だったかな?あとなんかもう1つ


あの一瞬で移動したあれな?


そうそれ

なんだっけ?


いやわかんねぇ。けど、どれも尋常じゃねぇ


学園最強の槍使いの6連突を完全に相殺するとか正真正銘のバケモンだよ


自信なくすよ。あんな簡単に受け流されて、何も出来ずに気絶させられるとはね。まぁでも、人器の能力はある程度把握出来たんじゃない?


だな


特殊な磁場を発生させて、自身の動きを加速させる。そんな感じ?


多分


だとすると、迎撃するなら同じ雷系統の使い手がいいのか?


明日試してみないと、って明日は試験だからやめとこう


そうだな。試験で魔獣相手に色んな能力使ってくれるかもしれないし


明日の試験のあと、また作戦会議だな!


おう!おつかれさん


おつかれ〜


おつかれー



そうして今日が終わっていく。明日に実技試験を控えて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ