第六話 変化と目覚め
「……ここは?」
目が覚めると、そこは辺り一面真っ白な空間。
「在り来りな発想をするなら、死んだか?俺」
最近話題の死んだら転生的なあれか?
「起きたみたいですね。あと、その愉快な発想はやめてください。死んでません。生きてますよ貴方」
「誰だ」
「今はただ、神とだけ」
「姿は見せないのか?」
「それも今はまだ、と」
「胡散臭い。けど、その胡散臭さがぽいんだよな」
「だいぶ失礼ですね」
「名前も教えてくれない。姿も見せない神様に遠慮がいるのか?んで、何のようで呼び出したんだ?」
「いえ、呼び出しというより、保護が目的ですね」
「保護?」
「凡そ半年前、最初にこの世界に干渉した際、私ともう一柱の神が貴方に種を与えました。私の種が守護の力、奴の種は破壊の力。そのどちらも、貴方は先日、開花させました。開花させるだけなら問題ありません。私が保護したのは、昏睡状態の貴方にこれ以上の奴からの干渉を防ぐ為です」
「破壊と守護。それに、干渉を防ぐ?」
「ステータスに限った話ではありません。神器や秘められたスキルの本領を発揮する為の条件みたいなものです。破壊する為に力を、守護するために力を発揮するということです。そして干渉とは、奴の力によって貴方の力を意識を奪われない為」
「ん?奪われる?」
「神々に与えられた権能です。奴の権能の名は破壊と簒奪。玲音、貴方にはその力に抗えるだけの成長を期待しています。この空間を存分にお使いください」
「は?おい待て!まだ途中だぞ!」
まだ話が続くと思っていたのに、聞こえていた声が一切聞こえなくなる。
「マジかよ。もう少し聞きたいことあったんだが。まぁ、いい。そのうち、また会えんだろ」
玲音・B・ヴァンデル Lv??? 17歳 種族 吸血鬼
体力???
攻撃力???
防御力???
瞬発力???
判断力???
幸運50
神器 二刀一対霧雨()・三種の神器(封)
「は?意味わからん。しかも、幸運の値減ってんじゃねぇか」
ステータスを確認すれば、ほとんどの表記が???になっており、何も分からない。
幸運の値に至っては、100から半分になっている。
「種族も吸血鬼に変わってる。それに三種の神器?(封)ってことは、封印状態?何処で手に入れた?」
所持神器欄に表記されている三種の神器。
天叢雲剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉。
しかし、玲音はそれらしきものを拾った覚えも、入手した覚えもない。
「考えても仕方ない。他を見るか」
ステータス画面を上にスクロールする。
すると、所持スキル欄が現れる。
「スッキリしてるな」
所持スキル一覧
・武器術
・武術
・体術
・空歩
・属性魔法
・気配遮断
・遮音
・影
・急所探知
・魔力感知
・魔獣探知
・結界術
・血の従者
・血の契約
・血操術
・自然治癒
・魔力自動回復
・血液高速生産
・分身
・霧化
・変化
・飛翔
・日光耐性
・各種状態異常耐性
・各属性耐性
・物理ダメージ半減
・魔法ダメージ軽減
「色々と検証しないとだな。まずは、武器術、武術、体術」
スキルをタッチして、詳細を確認する。
武器術…扱ったことのある武器を、思うがままに使用可能
武術…あらゆる武術の型や技を扱え、組み替える
体術…武器術、武術を十全に発揮する為に身体を制御する。
「つまるところ、武器はなんでも使えて、流派毎の技や型を使えて、それを組み替え流れとする。んで、それを使う為の身体制御の為ってことか。いや、でも俺、型とか技知らねぇや」
とりあえず、色んな動きを試してみる。
普段やっている稽古の時と同じように、ストレッチ、素振り、アーノルドやセバスに教わって自分のものへと昇華させた技の動きをなぞる。
「ふむ」
身体が温まってきたら、少し動きを加える。
飛んだり跳ねたり、仮想敵を作り出し、それと模擬戦をする。
「種族が変化した影響なのか、動体視力もなんか変わったな。景色の流れがスムーズに捉えられる」
玲音は主に、4つの歩法を使い分ける。
1つ、誰もがやっている普通の歩き方。音は出るし、そこに誰かいることを知らせてしまう歩法。
2つ、その音を一切出さない隠密の歩法。この歩法をもちいるとき、衣擦れや武器を取り出す音すら消える。
3つ、極端な前傾姿勢から踏み出し、前に進む力を最大限引き出し、敵との距離を一瞬で詰める歩法。縮地と便宜上呼んでいる
4つ、複数だろうが単体だろうが、敵の意識の隙間に潜り込み接近する歩法。玲音は虚隙、きょげき と呼んでいる。
3つ目と4つ目の歩法、特に3つ目は景色が急激に変化する為、脳の処理で若干のラグが存在した。しかし、今はそれがなく、連続で縮地を使える。
虚隙も、見える景色が変わったように感じている。
「人の無意識、普通と違った別次元みたいな感じか?」
玲音が虚隙を使った回数は数える程しかない。その理由は、脳の処理能力の限界。
虚隙は、玲音が視覚から得る色の情報を排除することで、一応の実現に至っている。
敵の小さな無意識を探り当て、自身の気配が敵に捉えられないように偽り、一ミリのズレも許されない身体制御。ほんの少し、少しミスをするだけで虚隙は効果を失い、ただの走りになる。
「虚隙を使おうとしても、色がちゃんと認識できてる。脳の処理能力も向上してるのか」
時間の感覚が無く、どれだけこの空間で能力を確かめているのか分からない。途中から、魔獣に似た何かが現れ始め、実戦の中で動きを能力を身体に馴染ませた。
「んー。流石に飽きた」
同じ敵の同じ行動。数は増えても、動きが単調な為、そこまで苦にならなかった。
「なら、そろそろ出ますか?」
「……見てたんなら、もう少し早く声掛けてくださいよ」
「ごめんなさい。私も色々忙しいんですよ」
「まぁ、いいか。じゃ、帰らせて貰えますか?」
「はい。では、頑張って生きてくださいね」
視点が定まらなくなる。身体がふわついて、クラクラ揺れているように感じる。
視界が暗く染っていく。神様が何か言っている気がするのに、上手く聞き取れない。
「頼みますよ。始祖の血筋。その最後の後継者」
「……病院だな」
目が覚め、ぼんやりと周囲を見る。天井が白だったので、まだあの空間かとも思ったが違った。
自分が寝ていたベットの横に、テレビやリモコン、小物等が置かれている棚。ベットを挟んで反対側には、見舞いの品らしき果物や千羽鶴。他にも、奪還作戦の活躍に対しての賞状。家族みんなで撮った写真が飾ってある。
「んー1ヶ月。長すぎたか?いや、馴染むのに時間掛かったししょうがないな」
テレビのリモコンの横にスマホが置いてあった。
いつでも使えるように、充電もしてある周到さ。
それを起動して、日付と時間を確認すれば、奪還作戦から1ヶ月経っている。時間は朝10時。病院で働く人の気配を多く感じる。
「くぅー、っはぁ」
ベットから降り、身体を伸ばす。
あの空間で動いていたが、それとこれとは別のようで、身体はとても重い。それでも、違和感は僅かだ。
「これなら、すぐ元に戻るな」
病室なのを忘れて跳ねたり、片手逆立ちしたり、バク転、側転、宙返り。
身体と精神のズレを擦り合わせる。
「……ここ、病院なのだけど?起きて早々無茶しすぎじゃないかしら。玲音」
何処か聞き覚えのある声。そして、自分のいる場所を思い出して、病室の入口に目を向ける。
「…颯お嬢様?」
「えぇそうよ。久しぶりね玲音」
「お久しぶりです、お嬢様。ところで、ここ何処ですか?」
「ふふっ。ここは、貴方の今の住まいの近くにある病院よ。ギルド治療院のね」
状況を把握しきれない玲音と、久しぶりの再開に微笑みを絶やさない颯。
その状態は1分程続き、玲音は状況を把握出来た。
「あの後、治療に来てくれたんですね?」
「そうなのだけど、そろそろ敬語辞めない?前と同じでいいわ。貴方、私の執事じゃないのだし」
「それもそうか。助かった。ていうか、颯が来るほど酷かったのか?」
「酷いってもんじゃないわね。怪我のない所を探す方が難しかったわ。骨も殆どヒビ割れ、筋が切れてたり、至る所から出血。ほんと、なんで死んでないの?」
「えぇ?」
「冗談よ。生きてて良かった。貴方に痕がつかなくて良かったわ」
「ありがとう。本当に助かったよ」
颯が左眼の件を深く後悔していたのは知っている。それが原因で、医療の道に進み始めたことも知っている。セバスさんやレックス隊長に教わって護身術も身に付けた。
「相変わらず、努力の天才ですね」
「誰かさんに追いつく為だもの。さ、話はここまでよ。チェックがあるから、ベットに寝なさい」
「りょーかい」
「…………怪我は完治してるわね。骨も異常なし。血管も完璧。脳や筋肉のダメージも酷かったけど、この感じなら平気ね。あ、そういえば」
魔法のような力で診察していると、何かを思い出したように玲音に告げる。
「貴方の家族が見舞いに来てるわ。受付にいたから、そろそろよ」
言うと同時、部屋の近くに見覚えのある気配と声。
「もう1ヶ月か」
「流石に寝坊助だな」
「ん。お兄はそろそろ目覚めるべき」
「まぁ、回復には向かってるって、颯さんが言ってたから。そのうち起きるよ」
随分と懐かしく感じる。澪と神楽姉さんに舞の声。
「見舞いに来てくれたのか」
「えぇ。ほぼ毎日。アーノルドさんとエレナさんも、週三で来てるわ」
「仕事があるだろうに」
「だから週三なのよ。明日は来るそうよ?ちなみに明日には退院可能よ」
「そりゃ早いな」
「貴方の場合は目覚め待ちだからね」
仕事が忙しくても、必ず見舞いに来てくれていた両親に嬉しく思い、少しだけ悪いなとも思う。
早く退院して、元気な姿を見せてやろう。
その前に、澪達に挨拶だな。
「最初の一声は何がいいかな?」
「知らないわよ。おはようとかでいいんじゃない?」
「ま、在り来りにそれだわな」
颯と話していると、話し声が外に漏れていたのだろう。3人の足音。特に澪の足音が早くなる。
「玲音!」
扉は開けっ放しだったので、勢いを上手く殺して、滑り込むように病室へ入ってきた。
「おはよ、澪」
「うん……おはよう、玲音」
まだ、家に帰れてないから、ただいまは言わない。という意味を込めてみれば、澪はそれを汲み取ってくれた。
それは、つい来てた2人も同じだった。
「寝坊助」
「遅刻魔?」
「いやいやいや。その表現は無いだろ。寝坊助はまだしも、遅刻魔は」
「ん。まだ一回だもんね」
「だが、一日1回の約束を1ヶ月過ぎたとすれば?」
「ん。やっぱり遅刻魔」
反論したいところだが、明日から一緒に鍛錬しようと言って1ヶ月。遅刻魔と言われても仕方ないのか?と思い始める。
「まぁまぁ二人とも。起きてくれたんだから、これからは約束守ってくれるよ」
澪が宥めれば、二人は大人しくなる。随分と仲良くなったな。
まぁ、1ヶ月もあれば変わるか。
「颯、明日退院でもいいんだよな?」
「えぇ。身体も手続きも問題ないわ。明日の10時に退院でどう?」
「それで頼む。澪も父さんと母さんに伝えてくれるか?」
「うん。わかった」
明日の退院が決まり、澪達は暫く玲音と談笑する。
そこに颯も加わり、昔話に花を咲かせる。
「玲音の左眼にそんな過去があったなんて……」
「知らなかったですか?」
「玲音は、自分の不注意で怪我をしたとしか教えてくれなくて。九條様の家で働いていたこともあの日に初めて知ったくらいで」
「あら?玲音ったら、彼女さんに話したくない理由でもあったの?」
「理由ばかりだろ」
玲音の過去と言えば、颯の護衛をしていた時期。あの日、アルバムでも見た玲音とそこに映る颯。二人の関係や当時の話は、根掘り葉掘り聞かれた。
コンコン
話をしていると、部屋の入口がノックされた。
「失礼します。颯様、こちらに入院している玲音さんのお見舞いに来られた方がいるのですが、これを見せて欲しいと言われまして」
そう言って取り出されたのは、見覚えがある。
「なるほど。お通しして大丈夫です。玲音もいいわね?」
「大丈夫です。喋りは変えます?」
「そのままで」
呼びに行ったのを見て、神楽が不思議そうに聞いてくる。
「今のはなんだったんだ?」
「あれは、我が家の隊紋です。それも隊長の物」
「つまり、隊長が来たわけか。お久しぶりですね。レックス隊長」
足音は聞こえていた。気配も感じた。だから、声をかければ、丁度入口に立っていた。
「よ、玲音。久しぶりだな」
少しチャラそうにも見えるが、これは玲音とセバス、颯にしか見せない彼の素である。
「お嬢が暫く帰って来ないってんで話を聞けば、お前さんが瀕死の重体ときた。こりゃ見舞いにでも行ってやるかと」
「なるほど。それにしても、ご当主さまが来ることはなかったのでは?」
玲音が感じた気配。複数のうち、一つはレックス隊長。そして、もう一つは
「相変わらず、その察知能力はずば抜けているね。久しぶり。呼び方は龍千でいい」
九條家当主、颯の父親であり、父と母の友人で、俺の元雇用主。九條龍千
「龍千さんが来るなんて、何かありました?」
「あぁ、それはね。セバス、アレを」
わざわざこの人たちが来るほどの事かと思って聞けば、何かあるようだ。龍千がセバスを呼ぶ。
「……気配は感じなかったんですけど、セバスさん」
「まだまだ甘いですね玲音。いくらでも偽る対象はあるんですよ。龍千様、こちらを」
玲音に挨拶代わりのアドバイス。そして、何か封筒を龍千に渡す。
「さて、玲音。今回の奪還作戦において、君は英雄と呼ぶに相応しい働きを見せた。それを踏まえ、君のハンターランキングを216位に繰り上げすることになった。これは、全作戦参加者と上層部の意見の合致によるものだ。ありがたく受け取ってくれるかい?」
ランクの繰り上げ。部屋に飾ってある賞状でわかっていたことではある。
「謹んでお受けします」
「良かった。今回、私が選ばれたのは、颯がいることと、君との面識があるから。今回は特に引き抜きはないが、今後は気をつけるといい」
「はい」
「……では、私達は帰るよ。あまり長居するのも悪いからね」
龍千は要件だけ伝えると、レックスとセバスを連れて帰って行った。
颯も、仕事の続きがあるので戻っていき、澪達も学校がある為帰宅した。
「折角だし、魔獣探知ってのを試すか」
あの謎の空間では、魔獣がいなかったから使えなかったスキル。
索敵範囲は半径30キロ~1キロ
探知範囲が広がれば広がる程、魔獣の位置が正確じゃなくなる。
「まぁ、敵の位置がわかるのは便利だな」
その後、他のスキルもちゃんと機能するのか確認をして、晩御飯を食べて眠りにつく。
「散々、人間離れしているとは思ってましたけど、本当に人じゃないとは驚きですね」
玲音の病室から出ていく人影。彼女の人器は、彼の情報を正確に読み取った。
「伝承を信じるのであれば、私の血を用意でもしておきましょうか」