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第五話 後悔と決意

「君、ちょっといいかな?」

「何か?」


校舎の前に立つ玲音に話しかける、怪しげな男。

玲音も怪しいと思ったのか、警戒心はMAXだ。


「入場者が使えるトイレの位置って何処かな?」

「……それなら、百八十度回ってもらって、一つ目の赤いコーンを左に行ってもらえば」

「おー、行き過ぎていたか。ごめんね。ありがと」

「いえ」


言われた通りに歩いていく後ろ姿。何か、違和感を感じる。


何だこの匂い。臭いな……何かを隠してる?わざわざこんな匂いを酷くするか?


考えて、微かながらも、覚えのある匂いに辿り着く。


「ざっけんな!」


すぐさま駆け出し、男を追う。


「っ!伏せろ!」


トイレに踏み込もうとした瞬間、強くなった火薬の匂いに、近くに居た子供に覆いかぶさりながら、声をあげる。


何人かは、護衛が混じっていたのだろう。玲音の声に気付き、理解出来ていなくとも、対象を守る為に動いた。近くの子供も巻き込むように覆いかぶさる。


次の瞬間、トイレから爆音と衝撃、燃え盛る炎や煙があらわれる。


「急いで避難誘導!消防に連絡と消化器もってこい!引火させるな!」


流石は金持ちの護衛達。すぐさま次の行動に移る。


「玲音!無事か!?」

「はい、隊長。無事です」

「よかった。それで、お嬢は?」

「お嬢様はまだッ!?」


隊長に答えようとして、微かに聞こえた音に反応して、弾けるように校舎に駆け出す。


「レックス隊長!セバスさん!至急応援要請を!完全武装でお願いします!」

「え?おい待てよ!」


隊長の制止の声を振り切って、校舎の裏手に回る。


「数は……15。多いな……人質は、端の空き教室か。なら良かった。緊急脱出用の梯子が合ったな」

「玲音、中は任せます。外は任せなさい」

「……セバスさん。気配消すのやめましょう」


いつの間にか、セバスさんが横にいた。

二人で、動きを決める。


恐らく、敵の要求は金と逃走用の何か。

人質は、まだ、殺さない。敵の意識が外に向いている間に、玲音が校舎に侵入して、人質の救出。


「では、これを渡しておきます」


セバスから、愛用のデザートイーグル一丁と予備弾倉2本。更にナイフを一本


「心許ないですけど、救出が目的ですからね」

「その通り。決して無理はしないでください」

「了解です」



別れた後は、なるべく人質のいる部屋に近い侵入箇所を探り、待機する。


「今かな」


見張りが入れ替わったタイミングで、校舎を駆け上がる。屋上まで上がり、鍵をピッキングで開けて侵入する。


「次のタイミングは」

「黙れって言ってんだろ!殺すぞ!」


一発。脅しの為に撃ったな。しかし、それでも泣き止まない。

まずいっ!



私達は、人質として捕らえられて、校舎端の空き教室にまとめられた。

女子生徒が12人、男子生徒が7人。しかも、大半が小学低学年の子達。

何処で捕まえたのか知らないが、相当計画的だ。

さっきの爆発音も、この男達の仲間の仕業だろう。


「大人しくしてれば、殺さないでやる。だから、黙ってろよ?」


見張りは常に五人。窓際に立って、外を警戒する一人。廊下を二人。一人が私達、人質の正面。もう一人は、教室の入口に。


「う、うぁぁぁ」

「大丈夫だよ。大丈夫。きっと助けが来るから」

「あぁぁぁ」


泣き始めた子供は、中々止まらない。どれだけ私が大丈夫だと言ったところで、安心できるはずがない。


「黙れって言ってんだろ!殺すぞ!」


一発。泣いていた子の足元。


「ママァァァ」


ダメだ。恐怖が更に募って、もう止まらない。


男が舌打ちして、狙いを子供に定めた。


「死ね」


助けられるか分からなかったけど、私は咄嗟にその子の前に飛び出した。


ダァンダァンダァン


銃声が響いたのに、私の身体に痛みも衝撃も訪れない。


「え?」


それどころか、目の前の男が崩れ落ちた。

更に、連絡して二発、いや音が大きすぎてよく分からないが、教室内に居たもう一人も崩れ落ちる。


「颯、その勇気というか度胸は褒めたいとこだけど、防弾チョッキも無しに銃口の前に飛び出すなよ。いや、着ててもやめて欲しいけど」


聞き慣れた声。この場に合わない、少し明るめの優しい声。


「玲音?」

「お傍を離れてしまい申し訳ありません。お嬢様専属護衛玲音。戻りました。お叱りは後程受けますので、今は脱出を」


一瞬で切り替わった玲音に、何故だかとてもホットした。


「セバスさん、はい、玲音です。お嬢様他人質の確保成功です。このまま、緊急脱出用の梯子で降ろしますので、下で待機お願いします。はい。自分は上で足止めします」


小型無線機。今日1日、服に貼り付けていたのか。それで、下にいるセバスに連絡をしているらしい。

それと、この教室の外には緊急脱出用の梯子があるのを忘れていた。


「脱出します。自分は最後まで残るので、先に先輩方お願いします。脱出出来ると分かれば、他の子も続けると思うので」


低学年の子達は、相変わらず恐怖で震えている。

玲音が来て、男達が全員排除されたことで、多少はマシになったようだけど。


「わかった。みんな、大丈夫だ!俺が先に行くから、見てろよ!」


こうゆうときに率先できる男がいるのは助かる。


そうして、半分が脱出出来た頃、複数の足音が近付いてくる。


「流石にこれは音がデカイですよね。ほんとなんでこのチョイス。いやまぁ、人質を確保出来た場合、敵に察知されて撃ち合いになる可能性もあるから、ダメじゃないか。数多そうだし、武器奪お」


廊下の二人分は危険だから放置。教室内の三つの死体から装備を剥ぎ取り、装備していく。サイズは大きいが、多少工夫すればなんとでもなる。


デザートイーグルの弾倉も変えて、教室の前に簡易のバリケードを作る。


作り終わったタイミングで、何かが投げ込まれた。


「伏せろ!」


教室に飛び込みながら、そのまま床に伏せる。

残っていた颯も即座に反応。他の子も、少し遅れたが、伏せることが出来た。


そして、爆発音。グレネードだ。バリケードは破壊され、教室の入口もボロボロ。


「足止めするので、構わず降りて!」


お返しにこちらもグレネードを一つ、爆発音のすぐあとにもう一つ。

入口は、出入りは可能。身を低くし、煙の向こうにとりあえず発砲。マガジン一本撃ち切る。

教室に戻り、空のマガジンを捨て、新しいのを装填。


「セバスさん、こちら玲音。5階空き教室前で敵と交戦開始。足音の数的に、五人はいます。上で五人先にやってるので、残り五人かと。速やかな突入お願いします」


伝えるべき情報を伝え、通信を終える。向こうの返信を聞いてる場合では無い。駆け出した足音が聞こえた。


入口から、銃と手だけ出して、狙いも付けず引き金を引く。


当たらなくてもいい。少しでも脚を止める。


後二人……


「玲音!」

「っ颯!行け!」


最後の颯が梯子に手を掛けたのを視界に捉える。そして、入口のすぐそこに敵の気配も感知する。


奪ったアサルトライフルを入口に向けて投げる。

更に、装備を外して、デザートイーグルとナイフ、奪ったハンドガンだけを持つ。


向こうが突入しようとする気配、それに合わせて、こちらから廊下に飛び出す。


すれ違いざまに一人、ナイフで首を斬る。


最初の一人を蹴り飛ばし盾とする。その一瞬で、ナイフを咥えて、デザートイーグルを手に持つ。


身長は150ちょいの玲音。死体を盾に、更に下を行く。


デザートイーグルで二発。一人の両脚を撃って機動力を奪う。

更に、脚に力が入らなくなって倒れて来るので、顎を膝で打つ。


ここで、ようやく反撃が来る。三人からのアサルトライフルで一斉射撃。

床や壁、天井を駆使して、それを避ける。何発か掠めるが、気にしない。


この距離でアサルトライフルは不利だと思ったのか、ナイフに持ち替えるが


玲音は、最初に廊下へ投げたアサルトライフルを拾って撃つ。

防弾チョッキを着てないのは、さっきの五人でわかっているので、狙いは適当だ。


一人、アサルトライフルを手に持ったのがいたので、デザートイーグルのクイックショットで心臓と頭を撃ち抜く。


残り二人も、複数の弾丸を受けて、動けなくなっているので、武器を奪い取って心臓、頭の計4発撃ってトドメを刺す。


そして、聞こえて来た外の騒がしい声に嫌な予感がして、外へ飛び出す。


すぐ下の階。颯が男に捕まっている。


「シッ!」


奪っておいたナイフを男に向けて投げる。

ナイフは男の左肩に刺さる。怯んだ瞬間に、手摺を掴んで4階に侵入。颯を掴んでいた男を素早く処理して、颯を抱えて飛び降りる。


「少し我慢してください!」


下に、セバスさん達がマットを広げているのが見えた。

玲音が飛び降りるかもしれないことを見越した準備だ。


着地と同時に、身体を横にして転がることで、余計な衝撃も流す。


上からは銃撃戦が始まったのだろう。激しい発砲音が聞こえる。


かなり危なかったが、無事終わりそうだ。

そう思って息をついた。


「くそぉがァァァ!」


茂みの中から、ナイフを振り回しながら男が飛び出てきた。


狙いは、颯。いまここに銃を持った者は、玲音しかいない。

しかし、その射線上には颯が被っている。


「馬鹿が!」


すぐさま飛び出して、颯の手を思い切り引いて、自分と位置を入れ替える。


ズボンと身体で挟むようにしていたデザートイーグルを手に持って構えるが、無造作に振り回されたナイフに顔を切られる。


それに構わず、太腿、心臓、最後に口に銃口を突っ込み発砲。


倒れてきた死体を横に押し出し、玲音は膝を着く。


「なんて失態」


二度もお嬢様を人質に取られ、あまつさえ、油断して負傷する。護衛として、してはならない失敗だ


「玲音!」


お嬢様が駆け寄ってくる。レックス隊長とセバスさんもいる。


「ふぅー」


ようやく、一息つけた。


テロ事件として片付けられたこの一件は、一人の護衛によって解決に向かった。

しかし、世間や同学校の生徒の保護者からは、

人殺しを躊躇わない人が学校にいるのは嫌だ。

そんな子供を外に出していいのか?

等の否定的な意見も多く見られ、学校側の対応として、玲音を退学にするという処置が取られた。

国側の処置は、九條家の力もあって特に何もなく終わった。



玲音は、事件の怪我で左眼を失明。他にも複数の傷が確認されるが、いずれも軽傷。

飛び降りた時に抱えられていた颯も、用意したマットと玲音のおかげで、捕まった時の軽い切り傷と打ち身程度で済んだ。



「学校には、別の護衛をつける。しかし、それ以外は今まで通りだ。玲音に頼む」

「かしこまりました。主様」

「今回のは、お前の失態では無い。むしろ、一人でよくあそこまでやったと褒めるべきだ」

「そうよ。玲音君。颯を助けてくれてありがとう」


九條家からのお咎めも無く、玲音は颯の専属護衛を続けることになった。


この時の玲音の負傷。それが、颯の将来を決定づけた要因であり、彼女の消えることの無い後悔の記憶なのだ。

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