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第四話 重傷と二人

「慎重に!だけど急いで!」

「九條さんに連絡入れて!」

「玲音さん聞こえますか!?」

「九條さんもう向かってるそうです!」


首都奪還作戦、その負傷者達を受け入れている病院では、逼迫した状況が続いていた。


「医者も治癒士も足りない」


既に24時間通しで働いている。そろそろ限界に達しようとしている。


「お待たせしました。援軍も連れてきましたよ」


そんな病院内に、凛とした女性の声が響き渡る。


それは、先程名前が上がっていた、九條颯。

九條家の一人娘でギルド治療院のギルドマスター。


「九條さん」

「ランクバラバラですが、人数はそこそこ居ます。ランクの低い方は軽傷者、高い方は重傷者にあたるように。医師の方々、もう少しお願いします」


九條颯の登場で、院内は安堵に包まれた。


「私に直接見て欲しいという患者の所へ案内してください」


颯は、ここに来るまでに聞いていた、自分にしか治療できない者の居場所へ向かう。


そして、案内されたのは集中治療室。


その扉の前には、見覚えのある二人がいた。


「アーノルドさんとエレナさん?まさか」


我が家に預けられていた彼の両親。5年ぶりの再会だが、そんな喜ばしい状況じゃない。


焦る気持ちを必死に抑え、集中治療室の扉を潜れば、治療台の上に横たわる、一人の男性。


当たって欲しくなかった予想。その人物がそこにいた。


「っ!状況を!」


跳ね上がった心臓を抑え込むよう、胸に手を当て、治療にあたっている人から、今の玲音の状態を聞いていく。


「九條さん!…全身から出血。太い血管からの出血はありませんが、出血箇所が多すぎます。左腕の骨、肩から指先に掛けて砕けてます。両脚の筋肉もズタボロです。一体何をしたらこうなるのか…」

「…ほんとに重症じゃないですか。治療の進み具合は?」

「出血を抑えるのがやっとです」

「経過時間は?」

「運ばれてから2時間です」

「深く探ります。少し休んでください」


今まで治療していた人を休ませる為に、玲音の状態を詳しく調べていく。


「表面上の出血だけじゃない。内出血も起きてる。なんで生きてるのか不思議なくらい。肋骨、胸骨、いやもっとだ。全部と言ってもいいくらいの骨が砕けたり、罅が入ってる。筋肉のダメージも酷い。なんで一人だけこんな重症に」


普通に考えれば、いくらステータスが合ったとしても、このレベルは死んでいてもおかしくない。


「それにしても、なにかおかしくない?これだけ探っても出血箇所が見当たらない。出血していたのは確認できたのに、その痕がない。どう…え?」


そこで、颯は気付く。今この瞬間、玲音の損傷が少しずつ治癒していることに。


誰も治療していない。回復系の魔法の反応もない


「自然治癒?そんな馬鹿な。ここまで強力なはずが無い。いや、それは後でいい。今は、これを利用して素早く治癒する!」


人器マギア


颯の獲得した人器だ。その能力は、医療知識と回復魔法


「マギアを使って治療を進めます。皆さんはサポートお願いします」

「はい!」


休憩から戻ってきた面々に声をかけ、玲音に向き直る。


「大丈夫。絶対助ける」




「玲音…」

「お兄…」

「まだ、仲良くなれてないんだぞ」


澪、舞、神楽の三人は、肩を寄り添うようにして、震えを抑える。


「あなた」

「…今は、九條のお嬢様と玲音を信じるしか無い。大丈夫。あいつは帰ってくるよ」

「えぇ。そうね」


アーノルドとエレナも、身を寄せあい、玲音の無事を祈る。



魔法や神器といった存在のおかげで、現代の医療は進化した。いや退化したとも言えるのだが、救える命は増えた。


玲音もまた、その恩恵を受けた。


颯が治療に参加してから2時間。玲音の治療に掛かった時間は合計4時間


「アーノルドさん、エレナさん。玲音は一命を取り留めました」

「…よかった。よかった、れおん」

「ありがとうございます、お嬢」

「いえ、お礼なら最初から最後まで担当してくれた、この三人にお願いします」


颯の後ろに控えていた三人。玲音が運び込まれてから、付きっきりで治療をしていた。

アーノルドとエレナが三人にも感謝を述べる。


「アーノルドさん、エレナさん、伝えなければならないことがあります。玲音は一命を取り留めました。しかし、当分は目を覚まさないでしょう。それ程までに、人体や脳へのダメージが大きかったようです」

「……わかりました。本当にありがとうございます」

「感謝は、玲音が無事目を覚ました時に。それと、玲音はこの後、別の病院へ運びます。玲音の住んでいる近くに」


移動先の住所と部屋番号。颯の連絡先が書かれた紙をアーノルドが受け取る。


「助かりますお嬢。あーそうだ。こんな時にあれですが、家の新しい家族になった、神楽と舞です。ハンターとして活動もしているので、いつかお世話になるかもしれません」

「あら?養子とか預かり子ですか?」

「その辺はまぁ触れないで頂けると」

「そう。わかったわ」


颯は三人を連れて、職員用の休憩室に向かった。

その後、玲音も治療室から運び出され、一時的な病室へと場所を移した。


「玲音…ちゃんと、帰って来てね」

「玲音また来るぞ」

「玲音。帰ったら美味しいご飯食べましょうね」

「……約束守ってもらわないと困るぞ」

「お兄、待ってる。家で待ってるから」


玲音に一言ずつ声を掛け、五人は帰路に着く。


翌日、病院を移した玲音の病室には、見舞いのハンター達がひっきりなしに訪れ、千羽鶴や玲音のランク勲章、花や果物で一杯になった。


「……貴方の映像みたわよ。全く無茶ばかりするのは、変わらないのね」


戦闘記録要員として同行していたハンターから得た映像。


それは、玲音が単騎で上位魔獣を倒し、四体を圧倒した時のもの。

そして、最後にでてきた魔獣との戦闘。最初から最後までだ


「一歩間違えば、全滅していたでしょうね。玲音ってば、相打ちが好きなのかしら?いえ、生き残っているのだから、相打ちとは言えないのかしら?」


玲音の病室で可笑しそうに笑うのは颯だ。


「もう二度と、玲音にあんな怪我はさせない。私が生きているうちは、どんな怪我も治してみせる」


颯の手が、玲音の左目をなぞる。

その目は、以前から固く閉ざされている。


小学生時代のあの事件。

初めて、玲音に泣き付いたあの日。


「もう、守られるだけは嫌なのよ」





「運動会って、なんでやらなきゃならないのかしら。運動が苦手な子もいるのよ?」

「そこは、この国の方針ですから」

「それがおかしと思うのよ。なんで順位付けするの?」

「わかりやすい指標だからかと」

「続けて」

「人を見る上で、数字という評価は便利でわかりやすい。求める人材を10として、7あれば合格。5あれば教育次第。それ以下は不要。そう決めることで、手間を省く。運動会というのも、それに近いものだと思います。結局、ここで活躍するのは、スポーツ界の次世代児。親がプロだったり、既にジュニアとして活躍している。そういった子を見せ、将来の採点場にする」

「なるほど。少しあれだけど、理解できるわ」

「あと、順位という明確な称号があれば、人は競い合う。そうして、より優秀な人材を作り上げるんですよ。そして、上ばかり見ていて、下の優秀な人材に気付かない。気付いた時には遅く、食い潰される……なんてこともある訳です」

「あー。さっきの徒競走ね?」

「えぇまぁ」

「あれは痛快だったわ。いつも煩いアイツを黙らせた」

「お嬢様からの要望でしたので」

「それは良かったのだけど、次は勧誘が煩いわね」

「そこは今、セバスさんと隊長が対応してますので、今はお昼を楽しみましょう」

「そうね。あ、この唐揚げ美味し。柚子胡椒?」


会話にあったように、今日は運動会。保護者が来ることもあって、子供達は張り切っている。

まぁ、そんな子ばかりではないのだが


「玲音?お嬢様にそんなネガティブなことは…」

「?いえ、間違ったことは言ってませんよ?周りを見てください。この催しを楽しんでるの半分くらいですよ?」


颯のお世話係メグの言葉に、そう返して周囲の声に耳を傾ける。


「お父さん、今日楽しくないよ」「そうだな。お前は、運動が苦手だもんな。大丈夫、お前は他で活躍出来るもんな」

「お母様?どうして私が運動会にでないといけませんの?」「学校の定めたルールだからよ」「……面倒くさいですわ。最初から、運動のできる子が集められた組の勝ちは、決まってるじゃないですか」

「はぁ、かったるい。サボりたい。本読みたい」「気持ちはわかるぞ。父さんも、お前の歳の頃はそう思った。この行事に意味はあるのかね?」


親までも否定的だな。


「事実、ポイントを見れば一目瞭然。運動出来る子が集まった組の独壇場。茶番劇ですね」

「……運動会というより運動発表祭の方が、ご家族にどれだけ出来るか見せる、という意味になって良いかもしれませんね」


結局、メグもそう思っていたようだ。


「さて、俺とお嬢様は一度教室に戻らないと行けないので」

「わかりました。私達は午後も見ていきます」

「ありがとう。お父様とお母様は?」

「お嬢様の走りを見た後、悔しそうにして帰っていました。仕事を抜けてきたそうですから」

「そうなの?ビデオ撮って置けばよかった?」

「そこは抜かりなく。既に撮っております」

「流石ね。それじゃ行ってくるわ」


そうして、一度教室へと戻り、必要な荷物を補充したり、女生徒は着替えや化粧等の身だしなみを整える。


その間、玲音は校舎の入口で待機している。



「颯さん。彼、かっこよかったですね!」

「あんなに走るの速いなんて、びっくりです」

「ふふ、そう?私もちょっと驚いたわ」


彼女達の興味は、やはり玲音。普段は物静かで、どれだけ上級生に絡まれても、反撃しない事勿れ主義。

九條家の、それも一人娘である颯の専属。それを羨む者も妬む者もいる。

直接玲音に手を出すやからも居るし、玲音を通して颯に近付こうとする者もいる。


「というか、彼って伊達眼鏡だったんですね」

「あれね。なんでも、眼鏡の方が知的に見えるでしょ?って」

「えー?」


インテリ系ですよ。弱いですよ。と見せ掛ける為らしいけど。

それに、あの眼鏡のおかげで、玲音に変な虫が付かなくていいのよね。

ま、今日ので何人か怪しいけど


そうして、身支度を整えていた。


油断…だろう。校舎の入口には、玲音がいる。学校自体も、簡単には侵入出来ない。そう思っていた。

だから、犯罪者が潜んでいて、私達が人質になるなんて思ってもみなかった。


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