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第十五話 驚愕と剣

富士の樹海


ここは、魔獣が出現してから、常にその存在が確認され何かあるとされていた。だが、魔獣の数が異常に多く、誰も調査に向かえなかった。

さらに、この樹海は魔獣と関係なく、入ると出て来れないという逸話も存在する。と言っても、それは正規の手順で入らなかった場合の話で、富士山に登頂する為その前に少し散策を、違法投棄物の回収等の理由と手順さえクリアすれば問題は無い。

しかし、玲音達は手順を無視して進んでいく。理由は、天照に問題ないと言われたから。実際、道に迷うことも、魔獣に会うことも無く富士の樹海を抜けれた。



「さて、ここからは登山の時間だな」


目前に聳える富士山。今から登山するという発言に、ウルスとクレハは少しだけげんなりとする。


「安心しろよ。ゆっくりは行かない。むしろ最短で最速、一直線に駆け上がる」


どこかの歌いながら戦う戦姫みたいなことを言いながら、玲音は脚力を強化する。


それを見て不敵に笑い、2人も玲音に倣う。


「1番遅かったやつが、風呂掃除な」

「いいだろう」

「おもしろそうです」


そんな賭けをしながら、3人は構える。


風が吹き、木々を揺らす。そして、鳥が木から羽ばたく。


それを合図に3人は勢いよく駆け上がる。


玲音は、しっかりと踏み込める足場に飛び移り、一足で一気に上へ。そしてまた足場に着地、跳び上がる。その繰り返し。


ウルスは足場も道も関係なく、ただ一直線に駆け上がる。玲音と同じようなことはできるが、それでは味がない。と、このような選択をした。


クレハは山々で暮らしていた経験を活かし、ある程度の足場があれば軽やかに跳んでいく。


「やっぱ2人も速いな!」

「玲音様には負けませんよ!」

「玲音様よ!俺が勝ったら、様付け辞めるぜ!」

「ウルス!貴方はバカですか!?」

「いいね。勝てたら許可する」

「玲音様!?」

「いいね!玲音様!んじゃペースをあげるぜ!」

「待ちなさいウルス!貴方は勝たせませんよ!」


そう言うやいなや、一気に加速し、ウルスが先頭へ躍り出る。そして、ウルスの勝利を少しでも邪魔するために、クレハもペースを上げる。


「よし。渡り鏡」


ズルである。2人がいなくなった瞬間ズルである。

躊躇いがない。


「こういうのは、細かくルールを定めてないから有り」


そう呟きながら、玲音は富士の山頂を思い描き、鏡に写す。



「なぁクレハ」

「なんです」

「玲音様ってさ、八咫鏡があるよな」

「それがどうしました?」

「さっきの話だと、渡り鏡とか言うので」


そこまで言われて気がついた。


「え、まさかズル!?」

「やりそうだよなぁ。だって後ろから追ってこないし」


思わず脚を止めて、後ろを振り返る。


その視線の先からは、全くもって誰かの気配を感じない。それどころか


「なんか上で戦ってね?」


頂上から、剣戟の音と2つの声が聞こえていた。


「行きますよ」

「あぁ」


2人はペースを落とし、少しだけゆっくりと登っていく。


そして登頂。その先で目撃したのは、


「おらおら!どうした小僧!その程度か!?おい!」

「うるせぇなぁ!そっちの土俵で戦ってんだ!粘ってる方だくそが!」


なんか言い争ってる男2人。しかも互いにボロボロ。


「この短時間で何があった」

「簡潔に説明しますね」

「誰っ!」


呆然と立ち尽くす2人の横に、突然人が現れ、声をかける。


「驚かせてしまい申し訳ありません。私はあちらのむさ苦しい馬鹿の付き人で、シャウバ・エルファイトと申します。本来は八百万の所属ではありませんが、訳あってあの馬鹿の付き添いをしています」


シャウバ・エルファイトと名乗った女性はスカートの端を摘み、王侯貴族のするような見事なカーテシーをする。


「これはご丁寧にどうも。俺の名前はウルス」

「私がクレハと申します。失礼かと存じますが、シャウバ様は神なのですか?その、天照様やあちらの御方に比べなんというか」


そこから先の言葉が出てこない。


「クレハ様、そのことに関しては当然です。私は半神半人ですので、正真正銘の神である天照様やあの馬鹿よりは気配が薄いのです」


クレハの聞きたいことを察したシャウバは、それに答える。最後に「失礼にはならないので気にしないでください」と付け加えて。


「ところでよ」


2人の会話が終わったタイミングでウルスが口を挟む。


「玲音と戦ってる神様は誰なんだ?気配からして、相当位の高い神なんだろ?」

「そうでした、あの馬鹿の紹介がまだでしたね。あの馬鹿の名前は須佐ノ男、馬鹿と呼んでいただいて結構です」

「なるほど。天照様と気配が同等なのは主神クラスだからか」

「御名前はわかったとして、何故玲音様と勝負に?」


クレハは、ここに来てからの謎を聞く。

いきなり玲音が神と戦って、それを眺めるのにはデジャブを感じるから。


「それはですね」


渡り鏡で玲音は、山頂に現れた。そして、着地した場所に須佐ノ男が寝ており踏んづけた。いきなり現れ、踏んできた玲音を敵だと認識、攻撃しようとしたところ、天叢雲と八咫鏡が共鳴。天照に認められたことを確認し、天叢雲を譲渡。しようとして、踏まれたことの謝罪として戦うことに。


「なるほど。これは玲音様が悪いですね」

「擁護のしようもないほどにな」


そして2人はシャウバと共に観戦に回る。


玲音と須佐ノ男の戦いは過激になっていく。



「久しく本気になれるな!」


須佐ノ男の纏う気配が濃くなる。それも異常な程に。


「馬鹿!いくら、周囲に被害がないからってそれは使うな!」


その異変に気付き、何をしようとしているのか察したシャウバは大声で叱るが、須佐ノ男は止められない。否、止まらない。ここ数百年、須佐ノ男を本気にさせる相手は現れなかった。彼は、海神や嵐神、農耕の神としての神格を得ているが、彼自身の性格は好戦的。戦の神の神格がなくとも、戦の神と同等以上に戦える天才なのだ。そんな彼が、強敵を見つけ手加減なぞ出来るはずがない。本気でやらねば勿体ない!そう瞳が語る。


シャウバは玲音に声を掛けようとして、溜息をこぼす。何せ、玲音の顔には満面の笑みが浮かんでいたから。隣を見れば、ウルスとクレハも呆れている。


玲音との関係は短いが、その中で既に玲音の本質を大まかに捉えている。玲音は戦いを好んではいない。いないが、戦闘を避けるほどではない。むしろ、きっかけさえあれば自分から攻撃するだろう。『学園』の時もシェグナの時も、彼は自分から仕掛けた。無意識ではあるのかもしれないが、彼は戦闘狂の素質を持っている。そんな彼が強敵を見つけた。しかも、ハンデを背負った状態で戦っている。彼の神経は無意識のうちに研ぎ澄まされる。


「いい顔をするじゃねぇか!そんなお前にとっておきだ!来いよ!八岐大蛇!」


須佐ノ男は八岐大蛇を倒したが、殺してはいない。何故殺していないのか、それは彼女の状態が理由だ。なんと彼女は子を身篭っていたのだ。どうやって、という疑問は浮かぶが、それは置いておく。

須佐ノ男が殺さなかった理由はもうひとつある。それは、本来土地神であるはずの八岐大蛇をいつの間にか、異形の怪異と判断し排除しようとした人間の存在。その人間のせいで、彼女自身衰弱し、子も正常な姿で産まれて来れない程に深刻だった。

そこで、須佐ノ男は八岐大蛇を眷属とし保護。倒した証拠として、尾を斬り天叢雲を天照に献上した。その事で一悶着あったが、それはまた別の話だ。


今呼び出したのは、母親である八岐大蛇。土地神としての神格を所持、さらに須佐ノ男の眷属として海神、嵐神、農耕神の劣化神格も所持している。正真正銘神獣。そして、須佐ノ男の右腕に一つ首の蛇、八岐大蛇の子が巻き付く。その子も、母と同じ神格と守護の神格を所持。


本気の須佐ノ男。それは、自身の眷属と共に戦うということ。それと渡り合えるのは、世界を探しても片手で足りるほどしかいないだろう。


同時に9ヶ所からの攻撃、9連続の波状攻撃、それを玲音は捌き続ける。顔からは表情が抜け落ち、目は細められ、戦闘にのめり込んでいる。


防戦一方であるが、玲音の身体には傷が着いていない。最初こそ、対応しきれず攻撃を受けていたが、今は完全に捌いている。その戦闘センスには須佐ノ男も驚いている。更に、玲音は今目を閉じている。視覚を閉ざし、残る五感に頼っている。


感心しながらも、須佐ノ男は手を緩めることはない。どれほどの連撃を防いだだろうか、ある一瞬の隙間に玲音が動く。

攻撃の一つを誘導し、自身の正面に来るように調整、それを受け後ろへ飛び退く。


「よし、準備は出来た。始めよう」


目を開け、その瞳に八咫鏡を写す。


「我が神器は二刀一対。我が神が授け、我が神が与えた名は霧雨。此処に封印を解き、その真名を」


玲音が自身の神器を眼前に構え、詩を紡ぐ。


「守護の神格を授かり、守護神を宿す、護神刀早霧」

「妖を封じ、その妖気に当てられ変質した、破魔の神格、妖刀村雨」


その呼び掛けに応じ、『霧雨』が明滅する。そして、光の粒子となり、玲音の腰に左右に一刀ずつ姿を見せる。左に妖刀村雨、右に護神刀早霧。


「こっちも手数を増やしていく」


玲音が刀で手首を切りつける。


「武具生成、血刀」


その血を用いて刀を7つ生成する。


「抜刀護神刀早霧。神格解放ヴェルウェナノミコト 」


『早霧』を抜刀すれば、眩い光が溢れ出し、血刀を覆う。


「久しく起こされたと思ったら、おもしれぇじゃんかよ!相手はスサノオの馬鹿だし、俺の使い手は始祖の一族か!」

「はぁ!?ヴェルウェナ!?あ、じゃあその護神刀ってアノ護神刀か!」

「気づくのが遅せぇな!相変わらず」


『早霧』の顕現と共に姿を現した男がスサノオに話しかけ、それにスサノオが答える。

その会話を聞くに2人は知り合いなのだろう。


「てことは、そっちのはマジの村雨なんだな?」

「当たり前だな。俺とセットの妖刀なんて一つだけだ」


それを聞き、須佐ノ男の顔に焦りが浮かぶ。更に、シャウバも緊張に顔を強ばらせている。


「話は終わったか?終わってなくとも仕掛けるがな」


途端、須佐ノ男の身体に無数の傷跡が現れる。


「いつの間に!」


驚きはしたものの、落ち着いて距離を取り状況を整理しようとする。


「休む暇は与えない」


しかし、玲音の怒涛の攻撃が襲う。

先程まで、須佐ノ男が玲音にしていたように飽和攻撃、波状攻撃、同時攻撃。

須佐ノ男と玲音の攻撃の違いは技にある。須佐ノ男は圧倒的な力で攻撃をこなし、それを八岐大蛇がサポートしている。所謂ゴリ押しなのだ。それに対して玲音は、力で及ばずとも技術がある。

血刀に合わせての『鳴神』『紫電』『雷』『電』『迅雷』『炎舞』『火舞』『大蛇』『煉獄』『破水』『疾風』、更に『八咫鏡』の転移能力。今持ちうる全ての技を繋げる。放出系や刺突系の技を近距離で織り交ぜる。それだけで、相手の虚を衝くことは可能だ。更にいえば、玲音には『早霧』、いやヴェルウェナノミコトの力が付与された血刀がある。それらは、玲音への攻撃を自動的に防ぐのだ。どれだけ連携の隙間を狙おうとしても、一刀に妨害され、一刀に防がれる。


「こっのぉ!」


気合一つ。須佐ノ男が無理矢理玲音の攻撃を崩す。

距離を取り体勢を立て直すのを、玲音は深追いしない。


「おい!クシ…シャウバ!手伝ってくれ!1人じゃ荷が重い」

「嫌です。もう終わりにしてとっとと渡しなさい」


何か言い間違えた気がするのをスルーする。


「まだ村雨の力を見てねぇだろ!」

「知りませんよ!1回は見れたでしょう!それに、今何時だと思ってるんですか!」


時間的には夕方5時過ぎくらいだろうか?


「わかりましたか?そういうわけで終わりです。玲音は…よさそうですね」


須佐ノ男に対して言っていたシャウバが、玲音の方を振り返るが、当の玲音は既に納刀しており、瞳も元に戻っている。


「疲れたから帰りたい。澪の手料理が食べたい」


真顔で言う玲音に、その場の全員がツッコミを入れる。


「惚気けるな!」


惚気けてるのかは曖昧だが、ご馳走様といった感じか?須佐ノ男的には、そんな理由で!?と言ったところだ。


「まぁ十分に理解はできたしな。ほれ」


頭を掻きながら、祠に置いてある『天叢雲』を投げる。


『天叢雲』は玲音に向かいながら、その姿を変えていき、手元に届く頃にはネックレスへと変化していた。


「鏡は瞳で剣はネックレス。珠は何になるのやら」


受け取ったそれを身に付けながら、玲音は1人期待に胸を膨らませる。


他の面々は、玲音の身に何も起きなかったことを安堵したり、『天叢雲』に認められるとあの姿になることに驚いていた。


「天叢雲がネックレスになるのも相当だが、八咫鏡が瞳に同化するってのも驚きだな」

「はい。その2つは過去の記録にも、誰かを使い手に選んだことは無いと記されています」

「珠は確か、ブレスレットだったか?」

「そう記されていますが」

「どうした?」


途中で言葉を切ったシャウバに須佐ノ男は視線を向ける。


「何となくですが、彼が珠に認められると、また違った姿が見られるのではと思いまして」

「…なるほど…な」


シャウバの答えに、須佐ノ男は頷かざるを得ない。

過去誰も認められることの無かった2つの神器。それらに認められ身に纏う。何かあっても不思議はない。

シャウバと須佐ノ男、2人は近いうちに起こる事態を思い描き、笑みを浮かべた。それと同時に、彼等のこれからの事を想像し、表情を曇らせる。



「おい玲音!」


ウルスとクレハと話す玲音をしばらく眺めて、区切りの着いたタイミングで声をかける。


「珠の守護神からの連絡だ。急げ、少しでも早く、力に馴染ませないと。だそうだ。意味はよくわからんが、アイツがそういうんだから、相当厄介なことになるんだろう」

「よくわからんがわかった。ウルス、クレハ急いで戻るぞ。計画の変更が必要になった」


理解していなくとも、急いだ方がいいことだけは把握した玲音は瞳の力を解放する。


「渡り鏡」


玲音の後ろに位置取るウルスとクレハの少し後ろに、どこかの景色を浮かべる鏡。


「自分だけの移動ならこうする必要はないんだが、複数人だと必要になるみたいだ」

「便利ですね」

「玲音1人なら奇襲も簡単にできるし、戦闘中に消えたと思ったら背後からなんてこともできるってことか?シンプルに強いな」


ウルスとクレハは鏡の有用性を示され、関心したように玲音と会話を始める。それを眺める2人は


「認められてやっと発揮出来る本領という感じですかね」

「だろうな。俺達がやろうとしても、1人が限界。しかも、1人でも鏡を必要とするだろう」


玲音が平然と行使している力が、如何に自分達と掛け離れているかを実感していた。



「素戔嗚尊様!ありがとうございました」


しばらくして、玲音、ウルス、クレハが頭を下げた。


「玲音の敬語とか慣れないからやめろ。あと、感謝されるようなことはしてない」


そう否定するが、満更でもないのか、少しだけ視線が泳いでいる。


「いいだろ別に。感謝する時は敬語くらい使う。それに、これまでコイツを護ってくれてただろ?それに関して、コイツからのお礼だ。受け取ってやれ」


玲音は素戔嗚の反応に苦笑しながら、ネックレスになった『天叢雲』を指さす。


「それじゃ急がないといけないらしいから」


言いたいことだけ言って、玲音は鏡の中へと消えていき、ウルスとクレハも追うようにして消えていく。







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