第十三話 国家と新たな任務
「ふぅー、美味かった」
口を拭い、だらーんと脱力する。
爆心地のすぐ近くに居たと思えぬ姿に、誰も何も言うことが出来ない。若干服に穴が開いているが。
「おっ、そっちは終わったのか?」
やっと尚也達に気づいた玲音が声をかける。
「えっと、玲音、これ」
澪がどうしようと悩みながら、とりあえず回収した血の入った容器を渡す。
それに合わせて、神楽、舞、颯、ルビア、アリアも玲音に血を渡す。
「助かる」
それを受け取り、1つずつ啜る。
「それで玲音。何があったの?」
1つ目の容器を空にしたところで、澪が代表して問いかける。
「あぁ、あれな。端的に言えば、奇襲された、無傷だった、殺した」
「端折るな」
適当な説明に、尚也が突っ込む。
「えーとなぁ、いつの間にか近くに居て、気づいたら攻撃されて、心臓滅多刺しにされて、壁を爆破して逃げようとしたから、逃がさないようにしたんだよ」
自身が把握しきれた所までを改めて説明する。
「まぁその辺はいいとして、周囲の敵な」
玲音が話を区切り、周囲へと視線を流す。
先程から忘れられているが、ノアの周りは敵だらけ。包囲されているのだ。
「撃ち落としますか?」
「いや、面倒だからいいや。降りる」
ルビアの問に玲音は最後の容器を空にしながら答える。
「降りるというのは?」
「ここで領地を造る」
それだけ言うと、ノアから飛び降りる。
残された者は、顔を見合わせ、次の瞬間には同じように飛び降りた。ルビアはノアを降下させながら。
その行動に、虚をつかれ、攻撃されると思った操縦士は咄嗟に距離を取る。しかし、攻撃はなく、ただ降下していくだけなのを見つめる。
「どういうことだ?」
「わからん。わからんが、海軍に要請だ」
「隊長!海軍より連絡!既に射程に収めている、着弾観測を求む。との事です」
「了解した。まだ待機するように伝えてくれ」
「ハッ!」
「全機、敵艦上空を旋回しつつ情報収集。但し、一定の距離は開けておけ。タイミングを見図り、同時攻撃を仕掛ける」
空中第1分隊の隊長が、他の分隊長と連絡を取りながら、部下に海軍への支援と命令を下す。
「範囲指定、空間固定」
スカイダイビングしながら、玲音は領地創造の為に意識を研ぎ澄ませていく。
「ルビア!ノアを顕現させ続けるのは可能か!?」
声が届くように強く呼びかける。
「可能です!負担も無いのでご心配なく!」
その返事を聞き、玲音はスキルを発動させる。
「形状確定、内装確定、外装確定、共鳴しろアトランティス!」
ゴゴゴゴゴゴ
地震、大波。何かが浮上するのに合わせて、地上と海上が荒れる。
玲音達を迎えるように、浮上するのは
「俺達の領土、アトランティスだ」
存在したと言われる海中都市。それが姿を変えてこの時代に蘇った。
富士山をそのまま逆さにしたような岩?を土台に、上には複数の建造物、畑や家畜を飼うための施設。他には訓練場や外敵排除用の設備。
「ルビア!あっちに工廠の入口がある!」
指差す方を見れば、巨大なゲートが開き、誘導用の信号灯までもが見えていた。
ノアをその前まで移動させれば、中からアームが伸びてきて、ノアを固定。領土内部へと格納する。
それを眺めながら、一同はアトランティスの大地を踏みしめる。
驚愕で辺りを見回す尚也達を苦笑しながら、玲音が催促する。
「俺も気になるところがあるが、それはあとにして、中に行くぞ」
トントン
つま先で地面を2度叩くと、玲音の後ろの地面がスライドし、階段が現れる。
玲音が先導する形で、その階段を下り、内部へと入った一同は更に驚愕する。
外部から見たより広く感じる内部とノアの横に並ぶ謎の艦船。そして、ノアの甲板上部や工廠を駆け回る人々。
「リオン!」
内部を驚きの表情で見渡す一同を置いて、玲音は通路を進みながら目的の人物を探すために呼びよびかける。
「主!」
玲音の呼び掛けに答えるように、上から声が聞こえる。
それに反応して、上を向こうとする前に、スタッという効果音付きでリオンが飛び降りてきた。
「状況報告」
「はい。主の指示で先に準備していた物は全て整っています。それから、ノアに連結させることで制御は安定しています。後は皆様の神器を登録させていただければ、空中移動国家の誕生となります」
「わかった。登録場所はブリッジでいいのか?」
「いえ、ブリッジではなく地下神殿に」
「地下神殿?そんなのあったか?」
「はい。共鳴したアトランティスに存在していたようで13種台座がありましたので」
「案内してくれ」
「こちらです」
「行くぞー」
話についていけてない者を置いてけぼりに、話は進められ、通路を進んでいく。
尚也達は慌ててそのあとを追う。忙しなく周囲を見渡しながら。
どれだけ地下に潜ったか、何人かはもう階段は嫌だと言うような顔をする。
「設計ミスだろこれ」
思わずと言ったふうに、設計者の玲音が呟く。
「この神殿に関しては、予想外の代物ですので、設計ミスとか関係ないと思います。ここまで繋いだの専門の者達なので」
リオンから補足が入る。
「そういえば、あいつらってどうゆう扱いなの?俺が手に入れた血液を元に創り出した眷属だけどさ」
「眷属という認識で問題ありません。それと同時にこの国を回していく人員であり、戦闘要員です」
思い出したように玲音が聞けば、リオンから詳細な説明を受ける。
「なるほど。ところでなんで全員受肉してんの?血液で構成したはずだから、肉とか皮膚とか無いはずだよね?だけど全員肉とか皮膚とかあったんだけど」
「それはアトランティスに眠る神代を生きたモノの身体ですね。一部の者は違ったものに受肉しましたが、問題はありません。むしろ好都合です」
神代を生きた人間の体に受肉した吸血鬼の眷属。
「それって普通に強くね?」
「強いと思います。調べていませんし、試してもいないのであれですが、舞様、澪様、颯様、アリア様の後衛組であれば互角の戦いができるかと」
大変な強さになってます。
「私は主の分身である為、戦闘力は少し低いくらいです。あ、皆様の次位の実力はあります。で、彼等眷属ですが、戦闘力が主の3分の1+依代となりますので、強いものなら私以上です」
リオン以上ということは、神器持ちに匹敵する実力者。しかも、澪、舞、颯、アリアの4人と互角に戦える奴もいる。
「主、神殿に着きました」
確認事項をしていたら、やっと到着したらしい。
工廠より10層下の巨大な空洞。その中心にその神殿は佇む。
「台座は?」
「神殿内部と囲むように」
玲音が一同に一瞬だけ目線を向ける。
その意味を理解し、位置に着く。
神殿の入口正面に澪、その左に神楽、右には舞。
神楽の左に颯、アリア、ウルス。舞の右にクレハ、ルビア。澪の対面に尚也。そして神殿内部に玲音。
各々が台座へと神器を翳す。ルビアはノアの艦首の槍を縮小して顕現させる。
神器を登録された台座が明滅し、神殿へと光を伸ばす。
その光に連動するように、台座の下に己の司る星座が浮かび上がる。
そして、全員が無意識に魔力を流し込む。
そうすれば光が強くなり、視界を白く染めあげる。
全員の魔力が尽きるまで、光は消えることなく空間を染め上げた。
「で、結局なんだったの?」
「さぁな」
「というか玲音は?」
「まだ出てこないな」
魔力が尽き、光が収まり、なんの変化もないので神殿の入口で未だ出てこない玲音を待つ9人。
不意にリオンから声をかけられる。
「皆様、主からの伝言で先に戻って周囲の敵を追い払ってくれ、との事です」
「ん?玲音からの伝言?」
「あれ?リオン、神殿の中に入った?」
「いいえ。主からの思念です」
玲音が自身の分身とのみ行える思念通話。距離や時間、妨害等を一切受け付けず、死んでいなければ使用可能な会話術。
「了解。それじゃ先に戻るか。リオン案内お願いできる?」
「かしこまりました」
そうして、リオンの案内の元、9人は玲音を置いて先に地上へと戻っていく。
「神々の戦争ではなく、人と人による神々の代理戦争。人と人?」
玲音が見ているのは、神器登録によって出現した古代文書。
表紙をひらき、最初の一文を読み、玲音は硬直する。
"この書で示す事柄は全て事実であると先に記載しておく"
"このアトランティスには多くの人が生きていた。普通の人が生きていた。だがある時、その身体に変化が起きた。正確に把握出来た訳ではないが、凡そ半分の者が、姿形を変えたのだ。そして、彼等を区別するため、エルフ、ドワーフ、人魚、ミノタウロス、獣人、吸血鬼、魔人、天使、悪魔、小人、天狗、人間とし、変化した家畜や猟犬、ペット等を成獣と称した"
「待て待て待て。エルフも天使も魔人も元は人間?だとして、何故変化した」
玲音はページを捲りながら、自身の仮説を立てていく。
「可能性としては、魔力の変化や環境変化。だけど、そんな温い影響でそこまでの変化が起きるのか?というか、変化ってより変異だろ」
そして、目的のページを見つけ出す。
"先に述べた変化だが、理由が明らかになった。
の によって "
「掠れてる?いや、何かに故意的に消されてるな」
ページを捲っている間にも見つけた、読めなくなっている部分。
そこから先も、度々文章が途切れたり、ページそのものが真っ白だったり、何者かに読むのを邪魔されている印象を受ける。
「妨害か?それとも阻害か、忘却か…。残りの神器を登録すれば読めるだろ。多分」
そう結論づけ、その本を持ち神殿を出ようとして気付く。
神殿の中、今さっきまで自分がいた位置と真逆の場所。そこに現れた階段に。
「まだ階段があるのか?」
一瞬降りるのを躊躇ったが、玲音は1歩を踏み出す。
10メートル程降ったところで階段は終わり、広場が現れる。
「これは、墓地か?いや違うな、これは武器庫?」
至る所に石碑が立てられ、墓地を彷彿とさせるが、その石碑に書かれている名前から、玲音は武器庫だと予想する。
玲音は一通り石碑を見て周り、一際大きな石碑の前に立つ。
「マジでなんなんだここは」
石碑の前に立ちながら、玲音はぐるりと周囲を見渡す。
「封印か保管か知らないが、ここに眠ってる神器全部おかしいだろ」
右手を額に当て、頭が痛そうにする。
「有名なグングニルとかゲイボルグ、ニョルニルや天の逆鉾、有名どころ以外にも俺の知らないのがある」
もう一度見回して、玲音は不意に1つの石板を見つける。
「なんだこれ?封印神器リストと封印不可神器リスト?」
その石版を一通り見て、途中で止まる。
そこにあった神器の名前に見覚えがあったから。
「妖刀村雨と護神刀早霧、二刀一対の神器、神刀霧雨?幻刀ではなく神刀?」
自然な動作で霧雨を顕現。
すると、本日何度目かの光が視界を覆い、光が収まるとそこには1人の女性が立っていた。
「霧雨を持つ貴方がどういった人かは知りえません。ですが、その神器に認められたということを信じて、私は真実の一端を教えしましょう」
誰だ、と問いかける前に一方的に話され、あまつさえ頭の中に直接情報を送り込まれた。
「グッ」
あまりの情報量に頭を抑えながら蹲る。
「神殺しの剣、天叢雲。神写しの鏡、八咫鏡。神縛りの珠、八尺瓊勾玉。それらを見つけ、神を打倒するのです。それが貴方達に与えられた使命なのだから」
その女性は玲音の回復を待つことなく、告げることだけ告げて消えてしまった。
残ったのは、未だ痛みに蹲る玲音とその横で輝きを放つ霧雨と封印された神器達。
幾分か回復し、地上へと戻りながら、玲音は情報を整理する。
整理しながら、次の行動を決めていく。
「今1番にやらなければならないのが、三種の神器の回収か?情報によれば、東京の中心、皇居に八尺瓊勾玉、富士の霊峰の何処かに天叢雲、そして八咫鏡が伊勢」
玲音は今後を考えながら、作戦を練っていく。
「1番最初は鏡だな。権能の1つに神器探しがあるみたいだから、それを使えば他の探索が楽になるだろう」
行動開始はすぐの方がいいと思い立ったものの、戦力確保の目処が立たない。
「しかし、探索どうするか。あっちこっち探すのに人員がなぁ。それに、皇居はどうするか」
「ならいっその事日本に協力させては?」
「うおっ」
集中していたため、すぐ近くから聞こえてきた声に、驚き飛び退く。
「失礼しました。主」
「あぁ、リオンか。というか戻って来てたのか」
気付かなかったが、既に工廠の2層下の食料庫付近まで戻ってきていたようだ。
「日本に協力って無理じゃないか?」
玲音はそう考えるが
「すんなり行くと思いますよ」
「颯。どういうことだ?」
一緒に待っていたのか、颯が話に入ってくる。
「実は、玲音が参加した奪還作戦の後、再建中に再び魔獣が出現。都心中央が陥落。政府は即座に東京再度奪還作戦を立案。最終確認の段階まで来ています。治療院にも招集が来てましたから、本格的に行われると思いますよ」
「なるほど、そこに俺らが協力すると。アイツらが受けると思うか?」
「さぁ?それは分かりませんが、楽になるのは確実ですし、なんなら利用だけすればいいんです」
玲音と颯は2人で作戦を詰めていく。
「なら俺と澪、神楽と舞は派手に注目を集めて、その間に尚也とクレハで神器の捜索か?」
「クレハとルビアを連れてお前が探しにいけよ。注目を集めながら協力するのは俺が行く」
そこへ尚也が加わり、役割をチェンジするように口を挟む。
「いいのか?」
「良いも悪いも何も、その神器見つけるのにお前のそれが役に立つだろ」
「そりゃそうだろうけど」
「なら決まりだ」
そうして、1つの作戦の目処が立ち、残りの2つの計画を立て始める。
「神宮ならこのまま行けば良くないか?防衛にはアリア、ルビア、颯、澪、尚也、神楽、舞。探索には玲音とクレハ、俺でいいじゃねぇか」
「私もそれでいいとおもいます。私とウルスは防衛より攻勢に出る方が得意ですし」
会話に更にウルスとクレハが加わり、その後ろから敵の迎撃を行っているはずのメンバーが全員やってくる。
「あれ?敵は?」
「終わったよ」
終わったらしい。それなりの戦力が展開していたはずなんだが?
「澪姉と神楽姉が凄い一撃を放ったから」
「付け加えるなら、ノアの一斉射と舞ちゃんの障壁が」
「理解した。でも、ノアって格納したよな?」
「武装だけを簡易召喚できますので」
「便利だな」
舞の障壁によって攻撃は全て防がれ、澪と神楽、ノアの攻撃は防御を諸共せず艦隊を崩していく。
そうなれば撤退するまで時間はかからない。
「で、どうするの?」
全員の視線が玲音に集中する。
「わかった。ウルスの案を採用する。細かい動きを決めるから、30分後に全員地上のホームに集合」
「了解」
「リオンは防衛設備の各部門の責任者と通信員、それと操縦員も連れてきてくれ」
「かしこまりました」
各々が準備をするために散っていく。と言っても、向かう先は大体同じだが。
30分後地上部分の中心にあるギルドホーム
「今から、各部門事の動きを指示する。基本はそれに従うように。不測の事態が起きた場合は、リオンと尚也、ルビアに全権代理権限を譲渡しておくから、その3人の誰かに指示を仰ぐように」
リオンと尚也、ルビアの左腕に銀の腕輪が装着され、全権代理の文字が刻まれる。
「ルビアは防衛設備の責任者と協力しつつ、国の防衛を担当してくれ。尚也は司令室で操縦員と通信員と一緒に戦力の把握と全体状況の把握。リオンは戦闘員の5分の1を率いて周辺警戒」
「了解」「かしこまりました」
「アリアはこの後着水した周辺に罠の設置。舞と神楽はその護衛に。設置が終わったら、ルビアの指揮系統に入ってくれ。颯は尚也の指揮で動くように。澪は単独で動いてくれ。多分その方がいいと思う」
「了解」
「ウルスとクレハは俺と一緒に伊勢の神宮に降りて、八咫鏡の捜索。発見次第確保し、天叢雲の探索に移る。出来れば4日以内に見つけて戻ってこれるようにしたい」
「その理由は?」
「5日後には東京奪還作戦が開始されるらしい。それまでに1度合流して、もう一度行動方針の確認をしたいからだ。ただ、間に合わない可能性を考慮して、ある程度は今のうちに伝えておく。尚也、神楽、舞、澪の4人は、4日経ったら政府の本部に乗り込んで話を持ちかけてくれ。断られたら協力しなくていいから、東京で暴れてくれ。残りのメンバーの役割はほとんど一緒だ。ウルスだけはこちらが終了次第、防衛に参加。状況に応じて、防衛戦力を残し全員で攻勢に出る。以上だ。何か意見があれば言ってくれ」
話を区切り、全員を見渡す。
「玲音様、ノアの横で整備されていた戦艦と空戦機はどういたしますか?」
「あれは、何が何だかわかってないから、動かさないように。空戦機の方は動かせるなら使っていいよ。これ、リオンから上がってる空戦機の情報ね」
ルビアの質問に、返答し紙束を渡す。
「もうすぐ着水地点に到着する。ウルスとクレハは俺と共に着水前に降りるぞ」
駿河湾沖合40km程の地点上空。
「リオン、尚也、ルビア任せたぞ」
「任せろ」「お任せを」「かしこまりました」
その返答にサムズアップで返し、玲音はウルスとクレハを伴って出撃する。
「隠れる気もないのか、堂々と龍に乗って行ったね」
「まぁ玲音様は、そういう所を考えてるのかわからない節がありますね」
「主はしっかりするところはしっかりしてますが、適当なところは適当です」
見送った3人は、苦笑しながら己の役割を果たす為に戻って行く。
「着水まで10秒!総員対ショック!」
国内放送で流れる尚也の声に、全員が衝撃に備える。
アナウンスから5秒後、予告通り着水による衝撃がアトランティスを襲う。
しかし、その衝撃は舞の結界によって中和され、無いものになる。
「各員、事前の指示に従い行動開始。以降、何かあれば、尚也、ルビア、リオンの3人に指示を仰ぐように。以上」
放送が終わり、役割を与えられた面々は慌ただしく動き始める。
この国は大きい上に、色々と注目されているので、当然監視も付いているし、いつでも攻撃できるように、付近(と言っても、人影を視認するには難しい距離)には戦艦が数隻常駐している。
それらに悟られないように、罠を設置していく。
罠の種類は多岐に及び、接近を妨げる為の罠3種類。敵艦を行動不能にする罠2種類。敵艦を破壊する為の罠1種類。それらは、海上、海中、海底に設置され、海からの接近を完全に阻む。
空からの敵には、備え付けられている対空砲での迎撃になる。
「ルビア、さん。罠の設置、終わり、ました」
「了解しました。そしたら戻ってきて、領土の外縁の守りを固めてください。舞ちゃんには結界を展開して欲しいから、司令室までお願いします。神楽さんは引き続きアリアさんの護衛で」
「了解」
「尚也君、少し水瓶座の力を試してきてもいい?」
「戦闘が起きるまではやることないだろうし、いいかな?できるだけ、すぐ戻ってこれる位置にはいて」
「尚也様、ルビア様、定時報告致します。周辺の敵は確認出来ず、視認できている艦船も動きはありません。以上報告終わります」
「了解。そしたら、索敵範囲を狭めて領土周辺を警戒。それより先は、アリアの罠で索敵をする」
「かしこまりました。部隊を下げます」
1時間毎の定時連絡で、周囲の異常がないことから、尚也は領土の周辺のみを警戒し、緊急時には防衛機構を活用する布陣に切替える。
「尚也様、ルビア様、主からの連絡です。鏡発見、剣の捜索に移る。との事です」
「え、もう?」
「まだ3時間しか経っていませんが?」
「詳しいことは後程教えて頂けるそうです。それと、この調子で上手く剣が見つかるなら、計画を変更するそうです」
「それなら、全員をホームに集めとくか」
「では、私は一足先に戻っています」
「ルビア様に主より伝言がございます」
「私にですか?」
「戦艦を富士に向けて出して欲しいとの事です」
「?私1人で運ぶのですか?」
「いえ、主によれば艦橋に自動航行システム用端末があるので、それを起動してくれれば良いそうです」
「なるほど。わかりました。尚也、私は遅れて戻りますので」
「了解。放送はしたから、先に待ってる」
「自動航行システム…というかAIですか」
ノアの横で整備されていた戦艦2隻の艦橋に辿り着くなり、ルビアはその内装に驚きを隠せない。
「艦名はノースと何これ?」
1隻の艦橋内で2隻のコントロールを行えるらしく、操作しようとコンソールを開いた瞬間、目に映った2隻の艦名。
「ノースは多分、今私がいる方の艦の名前。それなら、この文字化けしたような名前はもう1隻?」
文字を読み解こうと、艦名と睨めっこを始めそうになる前に、国内放送で敵機接近の報せが響く。
「ギルドホームより至急連絡!北西32キロの地点に敵艦多数確認。さらに南西より敵機複数接近!防御機構全稼働、戦闘員のうち防衛戦力3割南西に!残りは周辺警戒と南西側の救援の為待機!主要メンバーは至急、北西方面の光の柱に集合!」
尚也の声が途切れると共に、エマージェンシーコールが響き渡る。
「アリアさんの罠があるとはいえ、警戒は必要ですか。それより、まずはこの戦艦を玲音様の元へと」
先程までの事を一旦追いやり、ルビアは自身の役割を果たす。
「尚也、玲音様の戦艦、出撃します。援護を」
「了解。出撃用のハッチは」
「北西方面。丁度いいので、居るメンバーで援護お願いします。こちらもノアを動かしますので」
「わかった。航行システムを一時ダウン。これより、航行は手動で行う。司令室に待機中のメンバーは至急操舵室に」
行動は迅速に。3分で全員の準備が完了。ハッチが開く。
「戦艦、 抜錨」
工廠内に、機械音声が流れる。
信号灯が外へと伸び、固定アームが外れた2隻は、ゆっくりと航行を始める。
戦艦ノースの外見は、巡洋戦艦のそれだが、この戦艦の本当の姿は外装の中にある。
しかし、それを知るものはおらず、その2隻を目撃できたのは、その瞬間のみとなる。
その理由は、次の瞬間には消えてしまったからだ。
空間跳躍
前触れなく、その場に存在しなかったかのように消える様は、敵味方を混乱させ、玲音から連絡が来なければ、全員が慌てふためく寸前だった。
「敵艦隊まもなくアリア様の罠に接触」
そのアナウンスに、全員の緊張感が高まる。
そして、爆音と共に大きな水柱が幾つも上がり、戦争の火蓋が切って落とされた。