第一話 玲音と澪の始まりの物語
異世界戦争、界渡り〜渡る世界は馬鹿ばかり?〜を読んでくださっている皆様、本作を初めて読む方もよろしくお願いします。
私が彼と初めて会ったのは、中学の入学前。
友達と遊びに出かけた帰り、家の隣に引越しのトラックが止まってるのが見えた。
近付けば、家の玄関前でお母さんが知らない人と話しているのが見える。
「お母さん、ただいま」
「澪、おかえりなさい。楽しめた?」
「うん。その人は?」
「今日引っ越してきたお隣さんよ」
「こんにちは。お嬢さん。私はエレナ、エレナ・ヴァンデルよ」
「はじめまして。御鏡澪です」
外国の人かな。染め…てないな。多分自前の銀髪。目の色も赤。まるでファンタジーの世界の住人みたいだ。
「エレナ、そろそろ戻ってきてくれ。出番だ」
「はーい。あ、代わりに玲音呼んでくれる?」
「だそうだぞ。玲音」
「…なんですか」
「お隣さんと挨拶しておきなさい」
エレナさんと入れ替わりで、同い年?それにしては背が高い。
さっきちらっと見えた、エレナさんの旦那さんは金髪だった。
金と銀の髪を持つ親から産まれただろうに、彼は黒髪黒目。身長を除けば、The日本人。
「玲音・ヴァンデルと申します。以後お見知りおきを」
「あ、はい。えっと私は、御鏡澪です。よろしくお願いします」
すごい綺麗な所作だった。喋り方もあわさって、何処かの貴族かと思った。いや、貴族なんてこの国にはいないけど。
「エレナさんから話は聞いたわ。玲音君って護身術できるんでしょ?良かったらなんだけど、中学通うの澪と一緒にしてもらえない?」
「お母さん?」
「だって、貴女よく人に声掛けられるでしょ?身長とか色々、あまり小学生や中学生に見えないって言われるじゃない?だから、悪い虫除けにどうかなって。あ、エレナさんは玲音君が良いって言えばって」
「そうですか。私は構いませんよ。澪さ…んがよろしければ」
「……必要ないよ。一通りあるところなら、無理矢理なんてことにはならないよ」
「…まぁ、貴女がそういうなら」
いきなり、初対面の人を自分のボディーガードみたいにしようとするのは、流石に抵抗があった。
確かに、背も150を超えて、胸もまぁ、言いたくないけど大きくなって、家の事情もあって大人びて見えるのはわかってる。
それでも別に、声をかけてくるのは、スカウトの話だったり、モデルの話だったり。ナンパとかゼロじゃないけど、こっちの年齢言えば、すぐ帰ってくれる。
学校帰りは友達もいるし、基本歩くのは人通りのある所だし、夜遅くになることもない。
「じゃあ私は部屋行くね。明日の準備もあるから」
「そうね。入学式の準備しなきゃよね。私も最後の確認しとかないと」
「えっと、玲音君…また、学校で?」
「はい。また明日、学校で」
最後まで敬語だった。なんて言うか、私より大人びて見える。
でもなんか、チグハグだ。よく分からないけどそう感じた。
「それじゃあ澪、お母さん達あとから行くから」
「うん。気を付けてね」
「貴女もね。いってらっしゃい」
「いってきます」
お母さんとお父さんは、仕事の関係ですぐには来れない。と言っても、入学式の開始には間に合うから問題は無い。
一人で学校に向かうことになるけど、途中で友達と合流するから寂しくはない。
「あ、澪〜」
「おはよ」
「おはよー」
5分もしないうちに、友人の咲、香菜、美羽と合流する。
彼女達の親も一緒に来ていた。少し離れて、親同士で話をしているみたい。
「クラス一緒だと良いね」
「そうだね」
「4人一緒もいいけど、新しい友達出来るの楽しみだね」
「香菜は仲良くなるの早いからね」
「目指せ友達100人!なんてね」
「ふふっ。香菜ならできるよ」
新しく始まる、中学生活に花を咲かせる4人。
学校に近付けば、学生が増え始める。
耳を澄ませて聞いてみれば、大体が明るい話をしている。
幾つか、新しい環境に臆している声も聞こえたけど
学校に着いたら、クラス表が張り出されていたので、自分のクラスを確認。同じクラスに、咲と香菜と美羽、そして玲音君の名前を見つける。
「玲音・ヴァンデル?外国からの留学生かな?」
「引っ越して来たとか?」
「それは、後で聞けばいいんじゃない?」
「それもそうだね!」
やはり、見慣れない名前だからか、彼女達の意識もそこへ向かったようだ。
親と別れ、教室へ向かい、この後の動きを簡単に説明される。自己紹介なんかは、入学式の後にやるそうで、すぐに入学式の開始準備にはいった。
入学式は特に言うことは無い。校長先生やPTA代表の長い話を聞いて、各クラスの担任を紹介されて、クラス毎に退出していく。
クラスに戻ってからは、教科書や問題集の配布。年間行事の書かれた紙やその説明を受け、自己紹介をして、親の方の話が終わるまで自由時間となる。
自由時間となれば、みんなが初めて会う人物の所へ集中する。
「玲音君って海外に住んでたの?」
「背高いね?いくつあるの?」
「なぁ玲音。好きなスポーツってあるか?」
もう少し落ち着かないと、彼が困りそうなものだが、彼は気にして無さそうだ。
一つ一つ丁寧に答えてる。
途中で親達がやってきて、解散の流れになる。
やっと開放された玲音君は、少し疲れた顔をしていた。
私達の親も来て、そこでエレナさんに旦那さんのアーノルドさんを紹介してもらって、咲達も玲音君と挨拶をした。
その時もやっぱり、口調は固く敬語のまま。さっきクラスメイトに囲まれてた時も敬語だった。
「ねぇ、玲音君。玲音君はどうして敬語なの?一応クラスメイトだから、多少は砕けた喋りでもいいんじゃない?」
咲がそんなことを聞いたのは、入学してから一年が経った頃だ。
「敬語は駄目ですか?」
「駄目ってことは無いけど、なんか壁を感じる。一年も一緒のグループだったんだよ?もう少し…こう、フランク?でもいいんじゃないかなって」
確かに、彼はどんな時も敬語を崩さなかった。
プライベートで遊んだこともあれば、一緒に出かけたこともある。
その時も、親といる時ですら彼は敬語だった
「……そっか。もう一年も経つんですね。なら、いい…のかな」
少し、柔らかくなった?
「ごめんなさい。初めて会う人ばかりで、緊張してたのと、昔って言うほどでもないんですけど、その時の癖が中々抜けなくて」
ヘラッて笑う玲音君。何気に、初めて笑った顔を見たかもしれない。
「玲音君…笑うことあるんだ」
「そりゃあるよ。見せたことは無かった気がするけど」
咲とのやり取りに、2年になって入れ替わったクラスメイト達が頷いている。
ちなみに、今年も咲、香菜、美羽、玲音とは同じクラスだ。
それから、少しずつだけど玲音君の敬語は減っていった。
時々敬語が出てくるけど、敬語が出てくのは先輩や先生、地域の人と話す時。それは当たり前のことだし、クラスメイト達と話してる時に敬語になっても、皆は堅苦しいなんて思わない。
玲音君も敬語になる度、あっ、て声に出すから、ちょっと面白い。
見た目や雰囲気だけで言うなら、優等生でゲームやアニメなんかは知らない。って思っていたけど、実際はそういう知識も持っていて、普段とのギャップもあって、クラスで一番の人気者だ。
委員会の仕事で他クラスの人とも関わるから、実は玲音君の人気は学校を通して高い。
彼を好きだと言う人も多くいて、地味に同じクラスの女子達は羨ましく、妬ましく思われている。
私は別に、彼のことは好きじゃない。好きじゃなかった。
だけど……
「ねぇ、君、可愛いね。一緒にお茶しない?」
「ほんとだ。すっげぇ可愛い」
「俺達が奢るからさ」
この日は、委員会の仕事と習い事で帰りが遅くなってしまった。
近道をしようと、公園を通ったのが間違いだった。
見るからにチャラい3人組に囲まれてしまった。
ただお茶しようって言ってるけど、この視線は違う。気持ち悪い。
「ごめんなさい。私、まだ中学生なので、そういったお誘いは遠慮します」
こう言えば、今までは平気だった。
だけど、コイツらは違った。
「へぇー中学生」
「育ちいいんだな」
「たまにはそういうのもいいかもな」
その瞬間に、自分の失敗を悟った。
「大人しくしてくれれば、優しくするよ」
雰囲気が変わった気がする。身体目的なのを隠そうとしない視線とねっとりした言葉。
全身を襲う寒気に、身体を抱くようにして震えを抑える。
それも失敗だった。
怯えてるのを理解したのか、無理矢理腕を掴んで、木陰に連れ込まれる。
腕を抑えられ、脚も広げられた。一人は見張りのつもりなのか、コチラに背を向けている。
「大人しくしててね」
年上の男二人に押し倒され、抑え込まれては、中学生の自分には何も出来ない。
泣きたくなるのを必死に堪え、精一杯の抵抗として、脚を閉じようとする。
「言うこと聞けよ。ガキが」
「アッ」
いきなり首を絞められる。
すぐに力は緩められたが、今ので恐怖心が限界に達した。
逆らえば、殺されるかもしれない。
なら、大人しくした方が……涙を堪えることが出来なくなり、嗚咽することしかできない。
今になって思う。一年前、玲音に頼んで一緒にいてもらえばよかった。
きっと、彼なら今日みたいな日も、一緒に帰ってくれる……
「なんだお前?奥で連れが小便してんだよ近付く痛ってぇ!てめぇいきなり何ガッ」
声が聞こえる。それに、何かが倒れる音。
「おまえらさ、年下に何してんの?それ犯罪ってわかってる?」
聞こえた声、聞き覚えのある、優しい声。
「誰だおま」
「ガキが!」
途中で途切れた声。身体の自由が戻り、声のした方を見れば、腹を抱えて蹲る男が3人。
「れお…ん」
「澪、大丈夫…じゃないな。安心しろ、俺が守ってやる」
「うん」
「今は休んでろ」
「う…ん」
そこで私の意識は途切れた。
その後に、何があったのかは知らない。
聞いた限りでは、起き上がった三人を気絶させ、縛り上げて警察に連絡。私の家と玲音の家にも連絡を入れてくれた。その少し後に私も目を覚ました。
迎えより先に、警察の人達が来て、事情を説明。
公園の入口にあった監視カメラを確認して、私の証言が正しいことの確認もすぐ取れた。
玲音に関しては、少しやり過ぎ感が否めなかったが、最初の一人がナイフを持っていたことから、正当防衛と判断されお咎めなし。それどころか、3人組が最近巷を騒がせていた犯罪者であったこともあり、表彰されることに。
私を危険な目に合わせたことで、辞退しようとしていたが、大々的に表彰ではなく、感謝状を渡すことで落ち着いた。
私は家に帰って、翌日に病院へ行き、怪我をしてないかの確認とカウンセリング。
しばらくは家での療養を指示されて、大人しく従うことにした。
出かける際は、私の家族か玲音君の家族と一緒に。
まだ少し、大人の男性に恐怖心が残っているけど、隣に玲音がいることが何よりも安心出来る。
もちろん、お母さんとお父さんも安心出来る。けど……
「澪は玲音君のことが好きになったみたいだね」
「そうね。ピンチを助けてくれる王子様だもの」
「……うん」
あの事件以来、私は玲音に惚れている。
大好きと言っても過言ではない。
私が好意を隠さないで過ごすから、玲音を狙う他の女子とバトルしたこともあった。
玲音鈍感説が一時期言われていたが、別に鈍感だった訳ではなく、どう反応すればいいのか迷っていたらしい。後日、そう聞いた。
中学三年生になってから、玲音も私も後輩や同級生に告白されることが多くなった。
私は、好きな人がいるからごめんなさいって断り続けた。
中々返事をしてくれない玲音より、自分の方がって言う人もいた。
だけど、私は知ってる。玲音の想いを。玲音がどうやって告白を断っているのか。
「ごめん。俺、澪が好きなんだ。今は、受験勉強があるけど、同じ高校に入学して俺は澪に告白する。だからごめんね」
私にも直接、合格して同じ高校に決まってから。
そう言ってくれた。だから、私もその時を待っている。
そうして、受験の時期になり、私たちは無事に合格した。
「同じ高校だね」
「そうだな」
「ねぇ、玲音」
「待たせてごめん。澪、ずっと言わなきゃいけないのことがあったんだ」
高校の入学式…学校に向かう途中にある河川敷の桜並木。1本の桜の下で、二人は向かい合う。
「…初めて会った時から好きでした。色々、言い訳して逃げてきた俺だけど…澪、俺と付き合ってください」
衝撃の告白だ。初めて会った時から好きだったなんて…
「ううん。玲音が色々考えてくれてたのは知ってるよ。それに、私も玲音にちゃんと好きって言ってなかったもん。同じように逃げちゃう私だけど、私を玲音の彼女にしてください」
……確かに、澪は好意を隠そうとしなかったけど、明確に好きだと言われたことはなかったな
額を合わせて、二人で笑い合い、徐々にその距離が近くなる。
「俺でよければ」
「私で良ければ」
「「あなたの彼氏(彼女)にしてください」」
この回は、タイトル通りに玲音と澪の始まりの物語です。
あまり本編に関係ないと言えば無いのですが、改定前には二人の出会いがなかったので、折角だし追加してみました。次話から、改定前で読んだことのある展開になっていくと思います。
改訂版 異世界戦争界渡り もよろしくお願いします