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空に浮かぶ雲が、頭の上をゆっくりと形を変えながら流れていく。
強い日差しを避けて日陰に寝転んでいると、時折緩やかな風が吹いて、目を閉じたまま眠ってしまいそうだ。
今日は一日、こんな風に清々しい天気なんだろう。
「何をしてるんだ、俺は……」
もうすぐ授業が始まる時間の屋上は、俺の他に誰もいない。
永瀬に会う決心がつかず、せっかく朝から登校していたのに、ここから動き出すことが出来ずにいた。
俺が好きになった永瀬は、言うなれば幻想で、どんな人間か知らないからこそ好きなのかもしれない。
ましてや俺の人間嫌いは根深くて、今でも完全に克服しきれていない。
俺から誰かに関わろうなんて、ひと月前なら考えられなかった。
そんな色々を考えていると、教室に行くことが躊躇われた。
そのまま、一時間、二時間と、時間ばかりが流れていく。
昼飯が終わった後も、何かと後回しにする言い訳を考えているうちに、生徒の声が聞こえなくなっていた。
もうすぐ昼休みも終わりだろう。
そう思ったのと同時に、チャイムが鳴った。
始業の合図だ。
今教室に行けば、確実に永瀬がいる。
怖いとも思うが、会いたい気持ちの方が大きいのも事実で。
少し勢いを付けて体を起こすと、そのまま校舎の中に続く扉を開いた。
教室に行くこと自体が久しぶりだった。
高橋が副担任だって事以外、自分のクラスの顔ぶれだって知らない。
俺が行くことで皆がどんな反応をするのか、心配にならないわけじゃないが……
それでも今度は立ち止まって考え込んだりはしない。
静まり返った廊下を進み、たどり着いた教室の引き戸の先に永瀬の姿が見える。
隣の空いている席は、俺の場所だろうか。
迷いはない。
一つ息を吐いて、戸に手を掛ける。
そうして、新しい自分への一歩を踏み出した。