表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

まあ、中学の時から陸上の顧問には信用されていて、喫煙していてこの身長と体力は無理だという認識があるらしい。

信じてもらえるのは有り難いが、自分で喫煙するのも副流煙を自ら吸いに行くのも同じようなものだ。

結局、俺の成長は止まっていないから効果は無かったのだが、健康面で言うなら間違いなく悪影響のはずだから、いずれ止める必要があることも分かっている。

今はまだその必要性を感じていないから本気で止めようとも思っていないし、行動にも移していないだけだ。


いずれにしろ、もっと暴力的な荒れた性格を想像していたらしい周りの認識は簡単に覆り、逆に好意的に映ったのは俺にとって幸運で、おかげである程度好きなように跳ばせてもらえたのは、予想外の反応だった。

それに、周りと競いながら跳ぶという状況に今までとは違った楽しみを見出せたのは、強制とはいえ練習に参加したおかげと言える。


大会に出れば他の競技者と競うことになるのは当然だが、記録を伸ばすことが日々の練習の目的になるわけだから、大会で成績を出すこと以上にモチベーションの維持は難しい。

俺が跳躍種目を選んだのは個人競技だからというのが一番の理由だったから、初めから練習も一人でやるのが当然だったが、今の状況は不本意ながらも悪くない経験になった。

高橋からの強制を抜きにしても、最近は自主的に参加しているような面もある。

そうして周りとの関係も良好な状態を維持しながら練習しているうちに、陸上部の中で広まっている噂話を何度か耳にするようになった。


それは、ある冴えない女子のこと。

制服を真面目に着こなし、すっぴんでセットした様子のない髪、極め付けにメガネという地味な恰好。


『永瀬さくら』


その名前と、どうやら俺と同じクラスだということも噂話の中で知った。


彼女には、不釣り合いな彼氏がいるという。

毎日のように男が迎えに来るらしく、その様子を見た奴が何人もいた。

俺も、他校の制服を着た男が校門の前に立っているのを見かけたことがある。

確かに目鼻立ちの通った、人目を惹く顔をしていたと思う。

その二人の関係が、部員たちの中では謎になっていた。


もともと俺自身が噂される側だったから、他人の噂なんて今まで気にしたこともなかった。

でもこれだけ周りで騒がれれば、嫌でも意識が向いてしまう。

自然と部活中でも校門の方に視線がいき、そこに向かって永瀬の走る姿を見ることが多くなった。


それまで見覚えもなかったが、第一印象は話の通りダサい女。

太いフレームでよく見えないが、メガネを外したら実は美人だとか、そういった漫画のような期待は不要そうだ。

要するに十人並みの容姿。

比べて、男の方は派手な奴で、ピアスをしていれば髪も金髪。

でも決して嫌味ではなく、長身痩躯のその男には似合っていると言えるだろう。

永瀬が注目を集めるタイプではないことを考えると、これだけ噂される原因はこの男だ。


それに、噂通り二人が親しい仲だというのは遠目にも分かった。

部活に毎日出るようになってから、正確には二人の噂を聞いてから、その姿は毎日のように見ている。

だからこそ疑う余地もない。

そうして気が付けば、いつの間にかバーを跳ぶことより、毎日決まった時間に現れる他校の男と、彼の元に駆け寄る永瀬の姿を見ていることが増えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ