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第13話 蹴散らしてやりました

「フラウを離せ!」

「おっと、動くんじゃねえぞ」


 俺が一歩踏み出すと、男は鋭い眼光で睨みつけて牽制してきた。フラウは地面に押さえつけられているようだ。男の右腕には腕輪が巻かれており、緑色の光を放っていた。恐らく何らかのマジックアイテムで、それがフラウがドラゴンに変身するのを阻害しているようだ。


 気づくと男の仲間と思しきオーガたちが、多種多様な武器を構えながら俺たちの周囲をぐるりと囲んでいる。完全にしてやられた!


「くそっ!」

「大人しくしてれば命までは取らないでおいてやるよ。ただし、妙な動きをしてみろ。こいつの喉笛を引き裂いてやるぜ」

「卑怯な……」


 俺は唇を噛んだ。目の前の男は明らかに戦闘慣れしており、しかも人質まで取っている。フラウは変身できない。万事休すかと思われた時、ふとフラウの声が聞こえてきた。


「ロイ、私のことは気にしないでください。私ごとこの人を斬っちゃっていいですから」

「そんなことできるわけないだろ!」

「大丈夫ですよ。私はそう簡単に死にませんから」

「しかし……」

「心配はいらん。そっちのドラゴンの女も言ってるが、俺もそう簡単には死なねぇからな」

「ぐぅ……」


 確かにそうだ。強靭(きょうじん)な肉体を持つオーガを俺が一撃で仕留められる自信もない。

 てっきり人間の夜盗かと思っていたが、オーガが夜盗をやっているなんて想定外だった。俺は自分の思慮の浅さを恥じた。


「へっ、やっぱりできねぇみたいだな。それでいい、そうでなくちゃあな」

「ちくしょう!」

「さてと……」


 オーガはニヤリと笑うと、俺に近づいてきた。フラウは「やめてぇ! ロイを傷つけたら許さないんだからぁ!!」と言って抵抗するが、所詮はオーガの馬鹿力の前では全く意味を成さなかった。


「お前ら、俺たちを討伐に来たんだろ? 森にいるフェンリルと違って簡単に倒せると思っていたか? そりゃあ残念だったな」

「何が言いたいんだ?」

「俺達もそれなりに修羅場はくぐり抜けてるってことだ。相手がどれだけ強いかだいたい分かる。どうすれば相手を倒せるかも分かるんだよ」


 オーガは俺の耳元で囁くように言った。


「さて、取引といこうか。お前が欲しいのはこのドラゴンだろう? だったら、それなりの物を出せ」

「金なら持っていないぞ」

「んなことは分かってるよ。もっと簡単な方法があるじゃねえか」


 オーガはフラウの服に手をかけるとビリっと引き裂いた。彼女の白い肌と下着が露わになる。


「きゃあああっ!」


 フラウは悲鳴を上げた。


「やめろぉっ!」


 俺は咄嵯に飛び出そうとしたが、他のオーガたちに阻まれてしまう。


「おら、これでどうする?」

「わ、わかりました。ちゃんと払いますから……ロイには手出ししないでください」


 答えたのは涙目のフラウだった。

 彼女は顔を真っ赤にして羞恥に耐えていた。


「おい、何を勝手に決めている!?」

「うるせえぞ人間! 黙って見てろ!」

「ぐっ……」

「さあて、まずはどうするか……」


 オーガは舌なめずりをしながらフラウの体を舐めるような視線で見つめる。その顔は完全に理性を失っていた。


「よし決めた。まずはその綺麗なおっぱいから頂こうかね」


 オーガはフラウの胸に手を伸ばしたのと、フラウがオーガの目の前に光り輝く宝石を差し出したのは同時だった。

 そういえば彼女は宝石を出せるんだった。でも一瞬、彼女が下着から宝石を取り出したように見えたのは目の錯覚だと信じたい!


「これで勘弁してください!」

「……は?」


 呆気にとられるオーガたち。その隙に俺はフラウを捕まえているオーガの右腕に飛びかかった。


「──『解呪(ディスペル)』!」


 バリンッ! と音を立てて腕輪が壊れる。やはりマジックアイテムだったようだ。

 と同時にフラウが守護龍に変身した。


「グハァアアッ!?」


 変身の際に発生した衝撃波によって目の前のオーガは吹き飛ばされ、廃屋に叩きつけられた。

 これで形勢逆転かと思いきや、オーガたちは包囲を解かなかった。


「この野郎、よくもやりやがったな!! ドラゴンだろうが構わねぇ! やっちまえ!」


 リーダー格のオーガは激昂すると、剣を抜いて襲いかかってきた。オーガの仲間たちも後に続く。ドラゴンライダーといえども、強靭な肉体と怪力を誇るオーガをあれほどの数相手するのは流石に骨が折れそうだった。

 でもやるしかない!


「フラウ、やるぞ!」


 俺の呼び掛けにフラウは咆哮で応えた。


「『龍鎧(ドラゴンスケイル)』! ──うぉぉぉぉぉっ!」


 俺は龍鎧をまとうと、雄叫びを上げてリーダー格のオーガに向かっていった。

 フラウが炎を吐いて周りのオーガちを牽制している間に、俺はオーガの懐に入り込んで拳を叩き込む。だが、オーガの分厚い胸板の前に俺の攻撃はほとんどダメージを与えられなかった。


「ぐっ!?」


 逆にカウンターの一撃を食らって息が詰まる。龍の鱗越しにダメージを与えてくるなんて、やはりオーガの怪力は馬鹿にならない。


「ふん、そんな攻撃効かんぞ!」


 そう言うとオーガは再び大振りな剣撃を繰り出してきた。俺はそれをバックステップで回避して距離を取る。そして、俺はフラウの方を見た。


「フラウ、やれっ!」

「グルルゥ……!!」


 フラウは小さく鳴くと口から激しい火炎放射を放った。それはオーガたちの足元で爆発し、辺り一面が火の海になった。


「ぐぁあああっ!?」

「熱いぃいいいっ!」

「た、助けてくれぇえっ!」

「ひゃああっ、死ぬぅうっ!」


 オーガたちは悲痛な声を上げながら地面を転げ回る。さっきまでの威勢の良さはどこに行ったのか、その姿は無様で滑稽(こっけい)だった。強靭な肉体で打撃や斬撃をものともしないオーガでも、ドラゴンの炎は耐えられなかったらしい。


 フラウが吐いた火柱は、オーガたちを焼き尽くすには十分すぎる威力があった。生き残ったオーガたちも戦意を喪失したのは明らかだった。


「さて、まだ続けるかい?」

「チィッ……覚えていやがれ!」


 捨て台詞を残して逃げていくオーガたち。

 なんとか追い払うことに成功したけど、フラウの炎で廃村の一部が燃えてしまった。


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