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僕の精一杯の犯人さがし

作者: 遥 かずら


 隼汰(しゅんた)は小学生になってからいつもうんざりすることがあった。

 毎日何かの宿題との戦いに備えなければいけないからだ。

 どうしてやらなくちゃいけないのか。


 きっと自分以外のみんなが同じことを思っているに決まっている。

 そんな毎日を過ごす、とある日の教室で。


隼汰:はぁぁ。宿題って終わりが見えないんだよね

大地:何だよ、今さらそんなこと言うなんて遅くね? オレら、もう小5じゃんか。終わりも何も、中学も高校に上がっても宿題はずっと続くんだぜ!

隼汰:ええ? そ、そんなぁ……

大地:そんなこと言ってるけど、お前はマジメに忘れないでやってるじゃん! オレなんていっつも、忘れて親に怒られるんだぜ?


 隼汰は怒られたくないからやっているだけなんだと思った。

 嫌なものは嫌だ。何とかならないのかなと強く願った。

 せめて週一回だけにしてくれるだけでいい、そんな願いを誰か聞いて欲しいと思いながら。


 隼汰は小学5年になり、あと2年で中学生になることに何も期待していなかった。

 何故なら宿題がずっとつきまとうから。

 宿題なんてそのうち消えてしまえばいい。そんな夢のようなことを願っていた。


 夢のような毎日が送れるようになる。

 この時の隼汰はまさかあんなことが起こるとは思ってもみなかった。


宇美:忘れちゃ駄目でしょ! それは怒られて当たり前なの。分かってる?

大地:へいへい、宇美委員長のお出ましだ~。おっと、そろそろ先生が来ちまう、また後だ~!

宇美:ちょっと、わたしの話はまだ終わってない! もう、隼汰くんもあんな不良と友達なんてダメだよ!

隼汰:大地は不良なんかじゃないよ。むしろカッコいいしうらやましいよ! だって、宿題を忘れて来ても楽しそうにしてるんだよ。僕にはあんな風に出来ないよ


 宇美は低学年からずっと同じクラスの女子。

 真面目な彼女は委員長で宿題も忘れたことが無い優等生だ。

 

 少しだけ怖いものの、隼汰にとっては優しくて可愛くて、何より宿題を見せてくれる大事な存在。


宇美:いい? 隼汰くんは、わたしが認めてあげてる真面目で優しい男の子なの! 不良になったら承知しないんだからね! 約束してね?

隼汰:う、うん


 担任の先生が教室へ入ってくると、いつものように宿題を集めることになった。

 後ろから手渡しで前の席に集められ、先生が座る席へと集まって行く宿題。


 その間は少しだけ騒がしくなる教室内。

 隼汰の席は、廊下側の真ん中で隣には宇美がいる。

 

先生:よーし、集まったな! ん? ひとりだけ出してないのがいるぞ?


 もしかして大地のことだろうか。

 隼汰が思うよりも先に、大地から「オレじゃないです!」といった声が聞こえてきた。


 隼汰のクラスには生徒が40人ほど。

 そんな中、宿題は39人分しか出ていなかった。

 先生が声を上げても、誰も手を挙げない。


先生:今言えなくてもいいから、後で先生のとこに来るようにー!


 隼汰はいくら宿題が嫌でも嘘はつかない。

 もしうっかり忘れていたとしても、出していないなんてことはあり得ない。

 そう思いながら、授業はその後、何となく終わり放課後になって先生が声を張り上げる。


先生:今の今まで誰も来なかったんだが、出してなかった生徒の名前を言うのは良くないことだから、今日の宿題は連帯責任で多く出したぞー! 明日は全員持って来なさい

みんな:えええー!? 


 隼汰を含め教室中で声があがった。

 一体誰なのかと、周りが騒ぐ中で隣の委員長は黙っている。


 宿題を忘れて提出しない生徒がいる。

 誰なのかを言わない先生の優しさに甘えたのか、翌日、またその翌日。この事件は続くことになる。

 今日の時点で隼汰も委員長も、大地も誰もがみんな予想出来なかった。


 これは単純に宿題を忘れただけで済むような問題じゃなかったからだ。


 宿題が行方不明になるなんて、誰も思い付かなかった。

 提出するのが当たり前だと思っていた隼汰。

 それがまさか、毎日起こることになるなどと。


大地:おーい、隼汰! 計ドリやってきたか?

隼汰:おはよ、大地。うん、やってきたよ。僕、計算は好きだから。でも、作文は苦手だよ。長いから

大地:作文はさすがに見せあいっこ出来ないもんな~。長いのはやだよな。で、いつものやつ、頼む!

隼汰:え? また忘れたの?

大地:忘れたんじゃないぞ。分からなかったから書けなかっただけだ!

隼汰:そんな威張って言うことじゃないけど、いいよ。始まる前までに写しておいてね

大地:おうよ! うしっ、俺、走って行くから。お前は遅刻に気を付けてゆっくり歩いてていいぞ

隼汰:うん、じゃあ頑張ってね!


 朝の通学路。

 大地は宿題のことでいつも隼汰に声をかけてくる。そんな時は大抵宿題をやって来なかった時。

 特に計算ドリルの時はほとんど忘れてくるのが当たり前だった。


 教室に入ると、すぐに宇美が声をかけてくる。


宇美:おはよ。ねえ、今日も誰か宿題忘れてくると思う?

隼汰:ううーん。僕には分からないけど、提出し終わった後じゃないと分からないことだし……。僕らが心配してもどうしようもないっていうか、ごめんね

宇美:隼汰くんが謝らなくていいよ。誰かが忘れてくるのが悪いんだし、わたしも隼汰くんも真面目に宿題を出しているじゃない。だから、気にしないでね

隼汰:うん、何だかごめん

宇美:あはっ、朝から謝ってばかりだね。おかしい~


 宇美との話は他愛のない話。

 そんな大したことが無い話でも、隼汰にとって心地いい朝だった。

 

 教室。

 隼汰と宇美が席に着くと、大地が駆け寄って来た。

 

大地:隼汰、サンキュ! マジ、助かった

隼汰:うん


 大地と隼汰のやり取りを見て、宇美はすぐに何かを察して声をあげる。


宇美:ちょっと! 大地、またなの? 朝からズルとかしないでよ!

大地:忘れて来るよりはマシじゃん? それにオレ無理やりじゃないぜ~? な、隼汰?

隼汰:うん、嫌じゃないよ。汚して返してくるわけじゃ無いからね


 屈託のない笑顔で返事をする隼汰。


大地:ほら見ろほら見ろ~! はっはっは!

宇美:んもう! 男子って何なの? きみもきみだよ! 駄目だよ、甘やかしたりしたら。大地のためにならないんだよ? だから、約束して? もう貸さないって!

隼汰:え? う、うーん


 宇美の言うことはもっともなこと。

 それでも大地は仲のいい友達。宇美に言われても、次から気をつけようと隼汰は思うだけにとどめた。


隼汰:分かったよ。いつも貸さないようにするよ

宇美:うんっ! それなら許してあげるね


 そんなやり取りをしていたら、教室が静まり返っていた。

 黒板前に立つ先生がみんなに向かって声を上げる。


先生:よぉーし、今日は忘れてないよな? すぐにみんな、提出するように!


 直後、声が上がる。

 声を上げるのは基本的には、まだ宿題を写し終えていない男子が中心だ。

 こういう時に、隼汰はふと大地の方を見るも隼汰に向かってピースサインを見せてきた。


 いけないことだと思いながらも、隼汰は笑顔で返すしかなかった。


先生:よし、集まったな。じゃあ、持って行くからな


 宿題の束を先生が職員室へ一人で持って行く。

 その手伝いとして、委員長である宇美が付き添っている。

 宇美が気になったのか、隼汰も付き添って宿題を運ぶことになった。


宇美:先生、今日は全員分……?


 宇美が先生に聞いている。

 先生は首をかしげながら、答えに困っているように見えた。

 先生が自分で言ったこととはいえ、40人分の宿題を3倍に増やした負担は相当らしい。


宇美:先生、もし今日も全員分無かったらまた増やすんですか?


 気になって仕方が無かったのか、宇美が先生に聞く。

 先生の表情だけで判断した隼汰は、やはり増やしそうなそんな気がした。

 しかし、


先生:いや、分からん。まずは全員分出しているか確かめないと何とも言えないな。よし、ここまででいいぞ! ふたりは教室に戻っていい

宇美:はい、先生

隼汰:はい


 体育の先生のプライドがそうさせるのか、先生は大量のプリントを一人だけで運んで行く。

 

隼汰:ところでどう思う?

宇美:宿題忘れのこと?

隼汰:うん。今日はさすがに大丈夫だよね? だって3倍だし。このまま毎日増えて行ったら先生も大変だと思うんだ

宇美:そうだよね。さすがにこれ以上増やすと親たちから苦情が行っちゃうし、今が限界だと思う。計算ドリルだけなら出来そうだけどね

隼汰:出来るけど嫌だなぁ

宇美:それじゃあ祈ろうよ。誰も忘れてきませんように!

隼汰:うん


 放課後になり、昨日返してなかった宿題を返すと言って先生が一人ずつ名前を呼びだす。

 一人だけ忘れてきて出さなかった日の宿題だ。

 名前を呼ばれなければそれが誰なのか分かってしまう。


 隼汰の隣にいる宇美が珍しく声をかけてくる。

 

宇美:隼汰くん、宿題忘れって結局誰だと思う?

隼汰:うん……。大地じゃないことは確かだけど。大地だったら忘れて来ても、はいはい~! って、むしろ自分で名乗りを上げるし。他にやってきてなさそうなのは分かんないよ

宇美:もしさ、今日出した宿題も出してない人がいたらさ、わたしたちで見つけない?

隼汰:ええ?

宇美:しっ! 犯人探しをするの。誰かが本当に忘れてきたら先生だって、さすがに注意すると思うの

隼汰:よく分かんないけど、誰なのか名前も言わないんだよ? 実は先生が見落としていただけかもしれないし、数え間違いかもしれないし

宇美:宿題が見つからないなんておかしいよ。きっと、誰かが隠してるんだよ


 犯人は悪い事をした人のことだ。

 宇美はもしかしたら少年探偵アニメでも見たのだろうか。


隼汰:それって、アニメの影響?

宇美:そんなことない! とにかく決まり! わたしと隼汰くんなら宿題の行方を探せるよ


 何かの影響を受けたのは間違いない、顔を赤くして恥ずかしがる宇美を見て隼汰は納得した。

 隼汰もまるでゲームみたいなことが始まると思うと、途端に嬉しくなった。

 

 そんな表情で宇美と話をしていた隼汰の前に、いつの間にか先生が立っていた。


先生:隼汰、委員長、先生はどうすればいい?


 どういうわけか、困ったような表情をして二人に声をかけている。


隼汰:ど、どうしたんですか?

宇美:先生、何があったんですか

先生:昨日な、宿題出さなかった奴を呼び出して聞いてみたんだ。そしたら、出したって言うんだ。その宿題はじゃあどこに行ったって言うんだろうな? 

隼汰:まるでナゾナゾみたいですね……

宇美:ほら、やっぱりだよ


 席から教壇に移動して、先生と話をする隼汰と宇美。

 その様子を見て判断したのか、早く帰りたいから宿題を返して欲しいといった声が教室中に響く。


玲央:俺はみんなにノートを見られたくない!

芽瑠:これから劇を観に行くんです。だから、帰りますっ!!


 そんな中、滅多に声を出さず大人しい生徒として知られている男子、玲央(れお)と女子の芽瑠(める)が、声を張り上げた。


 教室のみんなは、二人が声を張り上げたことに驚いて静かになった。

 そのまま先生から強引に宿題を奪い取り、教室から出て行ってしまう。

 

先生:み、みんな、机から自分の名前のノートを持って、そのまま帰っちゃっていいから


 先生の合図とともに、一斉に自分のノートを探すみんな。

 見つけた人から先生に挨拶をして教室から出て行く。

 すると、


大地:先生! オレ、オレのノートが見つからない! 珍しく真面目に答えを書き写したのに!

先生:大地、お前……

大地:げっ!? し、しまった。と、とりあえずさよなら、先生~~オレ、今日は帰る!


 不正をしてしまったことを自ら言い放った大地は、慌てて教室から出て行った。


先生:ったく、あいつは困った奴だな

隼汰:あの、先生

先生:ん? どうした

隼汰:朝に出した宿題は全員分あったんですか? 大地のプリントノートはもしかしたら、玲央くんか芽瑠さんが間違って持って帰ったんじゃ?

先生:あったはずだが、どうだったかな。それに大地のプリントノートを間違えて持って行ったんなら、明日返すだろ


 先生の言葉に疑問を持つ隼汰はすぐに宇美に助けを求める。


隼汰:全員出してるはずなのに先生の元にたどり着く前にどこかへ行ってしまってる。宇美、分かる?

宇美:これはもう、事件よ! きっと誰かが宿題嫌だ! やりたくない。だから消しちゃったんだよ!

隼汰:委員長も分からないんじゃどうにも出来ないよ。犯人探すって張り切っていたのはどこにいったの? 

宇美:さ、探すもん! 隼汰くんとふたりで!

隼汰:僕、分からないよ。こんな謎解きみたいなの……


 隼汰は犯人の気持ちが分かっていた。

 自分と同じ事をずっと考えていたからこそ、気持ちが分かると。

 

先生:期待出来ないが、委員長と隼汰で何とかしてくれ。先生は疲れた。とにかく、明日は今日の分のノートを返す。そんでまた宿題を出す。そういうことだから、ふたりともよろしくな!

隼汰:えええ? せ、先生……僕たちにどうしろと


 疲れ果てた先生は犯人を探すことはせず、疲れた様子で職員室へ戻って行く。


宇美:いいじゃない、期待されてるんだよ? 犯人探そうよ

隼汰:ええ?

宇美:とにかく! 明日大地のノートを持ってきてくれることを祈ろうよ。玲央くんか、芽瑠さんのどっちかだと思うし

隼汰:それしかないかなぁ


 先生に問題を丸投げされてしまった隼汰と宇美は悩んでいた。


 隼汰は謎解きは苦手で、悩みたくない。そもそも謎でもなんでもない気がしていた。それなのに宇美はいつになく張り切っていて、目を輝かせながら隼汰に話しかけている。


宇美:隼汰くん、わたしたちで見つけようよ! 先生だって喜ぶよ

隼汰:そんなこと言われても僕は分かんないよ。それに多分だけど、事件でも無ければ犯人がいるわけでもないと思うんだよ

宇美:つまんないこと言うの禁止!

隼汰:えー

宇美:でねでね、わたし思ったんだ。玲央くんと芽瑠さんが怪しいと思うの

隼汰:疑うのは良くないよ。どうして怪しいと思うの?


 宇美はよほど探偵みたいなことを続けるつもりがあるようだ。

 しかし隼汰は同じクラスメイトが犯人だなんて思いたくなかった。


宇美:だって急いで帰ったし。慌てて帰るなんて変じゃない?

隼汰:本当に急いでたかもしれないし、考えすぎだよ

宇美:じゃあさ、ふたりに聞いてみようよ。大地のノートを間違って持って行ったのって、どっちかだと思うし。ね、そうしよ!

隼汰:んーきみがそこまで言うなら、聞くしかないじゃないかー

宇美:やった! さすが隼汰くん。じゃあ、明日教室でね~バイバイ

隼汰:うん、じゃあね


 教室の中はすでに隼汰と宇美しか残っていなく、先生も戻って来なかった。

 翌日。


大地:おっす! 昨日は参ったよなぁ~オレのノートが行方不明だよ。おかげで宿題が出来ないぜ

宇美:無くなって逆に良かったんじゃない?

大地:まぁな~このまま先生が宿題出さなくなれば最高じゃん! 隼汰もそう思うだろ?


 宿題のことについては、隼汰はずっとそう思ってきた。

 しかし前日に先生が言い残したことを大地に伝えるのが怖いと思いながらも、頷くしかなかった。


隼汰:思う。でもウチの先生って宿題を出すのが好きだから、無理だよ

大地:だよなぁ……まぁ、嫌だけどオレのノート帰ってこないと困るし、玲央か芽瑠のどっちかが持ってきてくれんだろ、たぶん

宇美:こら、大地! 隼汰くんを困らせたらダメでしょ

大地:困らせてねえし。てか、宇美って隼汰のこと好きすぎじゃねーの?

宇美:それはそうでしょ。真面目だし優しいもん


 言われて悪い気がしないと思った隼汰は、表情を緩めるも真面目な自分を気に入っているだけなんだと心を落ち着かせる。


 教室ではウワサにしていた玲央と芽瑠が来ていた。

 大地はすぐにふたりに向かって声をかけたのを見て、隼汰と宇美も一緒に話を聞くことに。


大地:オレのノート持ってったろ~? 返してくれ


 ふたりに対し、大地は力強い勢いで手を差し出した。

 そんな大地に対し、


芽瑠:知らない。昨日急いでたのは劇を観に行ってたからだし

大地:じゃあ、玲央。お前だな?

玲央:いや、俺は


 玲央は言い辛そうにしているようで、大地の呼びかけに目も合わさない。

 そこへ宇美が近づいて、玲央を問い詰めるようだ。

 犯人と決めつけているのもどうかと思いつつも、隼汰も協力することにした。


宇美:玲央くん、大地の宿題ノートを間違えて持って帰らなかった?

玲央:大地のノートは俺、知らない

宇美:ふぅん、大地のは知らないんだ? じゃあ他のは知ってるの? 誰が出さなかったのとか

玲央:……え、えっと


 様子がおかしい。

 犯人とかというより、宇美に対し玲央は話しづらそうにしている。


大地:えーー? オレのノートマジでどこに行ったんだよ


 みんなで玲央に問い詰めていた所に先生がやって来た。


先生:よし、席に着けーって、そこで何してるんだ?

大地:先生、オレのノートが見つからない

先生:お前のノートな。答えが間違ってたから職員室に置いたままだった。すまん!

大地:なんだよ~~じゃあ、隼汰がミスってたんじゃないかよぉ


 自分のせいにするのかと、隼汰は慌ててしまう。

 しかし大地のノートは先生が持っていたことに隼汰は胸を撫で下ろす。

 そうなると、宿題を出さなかったのは玲央ということになるのだろうか。


宇美:先生、宿題出さなかったのって玲央くんですよね?

玲央:……


 委員長である宇美の言葉に玲央は黙って下を向いている。

 この反応に対し、先生は。


先生:んー? あー、いや、まぁ……そうなんだが

宇美:じゃあ犯人は玲央くんなんですね! 事件解決だよ、隼汰くん!


 犯人が確定したことに目を輝かせ、宇美は隼汰に笑みを浮かべる。

 そんな宇美に首を振る隼汰。


隼汰:犯人って、それは違うと思うよ


 すると、先生から意外な言葉が飛び出す。


先生:いや、玲央は悪くないんだ。実はな、提出されなかった宿題たちの行方な、毎日たくさん宿題出されるのが嫌だったらしい玲央が、全てのページを埋めて提出してきたんだ。他のみんなの分のノートも含めて。だから、何と言うか先生が悪かったんだ。そこまでみんなを宿題で苦しめているとは思わなくてな

隼汰:ええ? じゃあ、宿題の答えはすでに全部書いちゃったから出せなかったってことなの?

玲央:……うん。俺、毎日たくさん宿題をやるのがすごく嫌だったんだ。だからやらなくてもよくなるように、全部の問題の答えを埋めて先生に出したんだ。俺のだけじゃなくて、他のみんなの分も……だから、全員が提出しなかった日があったんだ。ごめん、勝手な真似して


 そんなこと思い付くはずもない、と隼汰は思った。

 毎日たくさん宿題やるのは嫌だった。しかしまさかこれから出される前に全ての問題を解いちゃって答えを埋める真似なんて、自分には出来ないと。


宇美:そ、そうなの? 犯人でもないじゃない! ただの真面目すぎた玲央くんなだけだったんだ……


 宇美が何故か残念そうにしている。

 犯人と呼ぶにはおかしな出来事だったからだ。

 まさか宿題を出される前にやってしまうなんて思いつかない。


先生:まぁ、なんだ。玲央や他のみんなも苦しめていた宿題についてだが、これからは一日置きに出すことにする

隼汰:やったー! のかな? 毎日じゃなくなったけど、出るのは出るんだ……

宇美:なーんだ、事件でもないし犯人でもなかったんだ。残念だったね、隼汰くん

隼汰:僕は最初から犯人だとか事件だとかなんて思ってなかったよ。宇美はそうなって欲しかったの?

宇美:ううん、そんなわけないでしょ

先生:まぁ、なんだ。玲央、ごめんな。埋めた問題ノートは消す必要ないから、先生が新しくお前にあげるからそれで許してくれ

玲央:……はい


 結局宿題ノートが見つからなかった事件はあっさりと終わる。

 事件も犯人も、そして推理する暇もなかった。

 悪いのは先生じゃなく、たくさん出た宿題が悪かったんだと隼汰は思うしかなかった。


 玲央がやったことは褒められないものの、結局また新しく宿題が出るのは変わらない。


 そんなこんなで、毎日の宿題は玲央のおかげで一日置きに変わる。

 隼汰と宇美の犯人探しはこれで幕を閉じたのだった。

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