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選択死  作者: 雲散無常
第九章:予見
99/139

9-6


 久々に直接会う領主との面談の議題は、決して楽しいものではなかった。

 順風満帆を祝うだけの会合とは残念ながらいかない。

 拠点となるベリオスの町の発展は目覚ましいものがあるが、同時に様々な爆弾を抱え込んでいたからだ。人が集まる場所にはその数だけの利得が生まれる。その甘い汁に誘われるのは商人だけではなかった。一攫千金を狙う夢追い人、計算高く暗躍する裏家業の者、何がしかのおこぼれに預かろうとする怠惰な人間と色々だ。

 そして、そういう人々を食い物にしようとある種の集団や国家が動くこともある。厄介なのは得てして単独ではない集まりの方だ。当初の目的を失って暴走することもある。あるいは、初めから破壊目的、そうしたことも厭わない行動を取る者たちもいる。制御が利かなくなったときに破滅的な行動をしかねない。

 そんな暴発の危険性が正にいま、導火線に火がつきそうな状態でもたらされた。

 「よりにもよってタファ=ルラ教かいな……」

 ミレイはこれまでにないくらいの渋面で天を仰いだ。

 ウッドパック商会の屋敷の応接室で、向かいの席にはクロウとウェルヴェーヌが座っている。

 二人はS級探索者のヨーグ=アンヴァンドと会ってきたところだという。偶然に遭遇したとのことだが、とんでもない確率だ。もはや惹かれ合っているとしか思えない。

 なにより、その際に掴んだ情報の方が何倍も衝撃的だった。

 「布教活動をこの町で容認することが条件とは、なかなかに難題でございますね。それとお嬢様、そのような無作法な所作はお客様の前ではおやめなさいませ」

 傍らに立ったままの執事のノーランも苦笑交じりに溜息をもらす。相変わらずの不必要な小言も付け加えることを忘れていない。

 「そないなこと言っとる場合かいな。難題どころか無茶振りやろ。もう既にティラム教会があるんやで?あんな排他主義の伝道師でも来ようなもんなら、絶対もめるに決まっとるやろが」

 「だから、そうならないようにしたいところなんだが……」

 クロウは無表情に紅茶をすする。困っているという話を持ち掛けてきたのに、いつもと同じ表情で冷静だった。らしいと言えばそれまでなのだが、どの程度本気なのかが計りかねるのでもう少し表に出して欲しいと思う。

 それは使用人のウェルヴェーヌも同様だった。二人揃って厄介な問題を持ち込んだというのに、まったくその自覚がないような顔でしれっとしている。困っているようには到底見えない。

 「早急にそちらのお力で、オゴカン=ジャーハンについての弱みなどを握って頂けると助かります」

 普通にえげつない注文をしてきた。使用人という肩書はこの娘には不相応なのではないだろうか。

 「そら、優先度を最大にして対応はさせるけどな。うちの会員かて限界はあるで?狂信者に探り入れるんは骨が折れるんや。ただでさえ、最近はあちこちで間諜が入用でキリキリマイなんや」

 「その分、契約料もつい最近上げてさせて頂いておりますが?」

 「うぐっ、確かにそうなんやけども……」

 金勘定に関しては、このメイドは見かけ以上に商売人顔負けのいやらしい駆け引き上手だった。主導権を完全に握られているので、ミレイは下手に出ざるを得ない。

 「要約しますと、そのヨーグという人物は依頼主が取り下げるならば、その条件を破棄するということなのですね?そのために、オゴカンというタファ=ルラ教の伝道師について詳細な情報をご所望されていると」

 ノーランが要点を確認して本題に戻す。

 「ああ、そういうことだ。ヨーグは絶対に一度受けた依頼は自分からなかったことにしない主義らしいんでな」

 「えらい面倒なやっちゃな。けど、まぁ、S級探索者とかはみんなどっかおかしな信条を持っとるもんか。ほんなら、首尾よくその条件を外させたらそいつに遺跡探索は任せるいう話で確定なんか?」

 「そうだな。腕は確かだと思う」

 「けど、クロウはんに簡単にあしらわれたんやろ?大丈夫なんか?しかも、一人でやりたがる派だとか。連絡途絶えたときとかごっつややこいことになりそうやけど」

 「さっきのは本気のじゃなかったからな。理由は良く分からねえが、アイツはなんかの縛りをつけた状態でやってたからどうにかなっただけだ。それとギルドの面子もあるみたいだし、できるだけアイツに任せる方向が望ましい、ってことらしい」

 最後の言葉尻でクロウ自身の思惑というより、ベリオスの町の意向のようだと分かった。政治的配慮だ。探索者ギルドの方でも想定外な事態になっているというのも真実なのだろう。

 元々S級探索者はギルド内でも完全には手綱を握れない駒の一つだ。他の探索者と違って管理下の人材ではなく、対等な立場に近い。それだけの影響力を持っている存在に対して、ギルド側から何かを強制することはできない。S級からの交換条件に関して干渉できないというギルドの立場も分かる。

 一方で、ベリオス側はギルドが仲介したS級探索者を無下に断ることもできない。ウィズンテ古代遺跡がある限り探索者ギルドは必須であり、互いの関係性は良好に保たねばならない。S級は大陸にそれほど数もいないこともあり、すぐに替えが利くものでもなく「やっぱりいらない」ではすまない。あちらを立てればこちらが立たず、実にややこしい問題だ。

 「さよけ。どうにかしてオゴカンに依頼を取り下げさせなあかんちゅうわけやな。了解やで。ほんなら、タファ=ルラ教についてはどの程度理解してるん?」

 「基本的なことだけだな。そいつらの信仰してるのが源導者ディカサーの上位存在で唯一の崇拝対象だということ。だから、源導者を信じてるやつらはみんな背信者で、改宗すべきって理論で信者を増やそうとしてること。その手段がわりと強引で問題をよく起こすことってぐらいだ」

 すらすらと出てくるということは、既に事前知識はしっかりと把握済ということだ。

 ミレイはひとつ頷いて、現状で分かっている情報を付け加えた。

 「ほな、そこに追加情報や。その上位存在っちゅうのがタファとルラって呼ばれて二人?って数えるんか知らんけど、とにかく二体おる。頭脳と肉体で別れてるらしいけど、そないな存在どこの古文書にも載ってへん。十中八九、勝手な創造物でそれが信仰対象やな。それと、国の元首兼教祖はミセダス=タファルラで性別も年齢も不明っちゅういかにも怪しい人物や。名前からしてあからさまやけど、誰もつっこまへんのかね。国民の数イコール信者数については今詳しく調べてるんやけど、前に聞いたところだと確か推定2、300人ほどやな」

 「ふむ、それは宗教団体としては多いのか?」

 「どうやろな。基本的にこの大陸じゃ源導者崇拝がほぼすべてや。その他の信仰ってのは母数が圧倒的に少ないってことを考えると、タファ=ルラ教は多い方に入るんかもしれへん」

 「そうか。逆に、源導者信仰の例えばティラム教会とかはこの町にもあるが、そっちはタファ=ルラ教についてはどう思っているんだ?」

 「そりゃ、まったく相手にしとらん。公式でその存在を完全に否定して認めてないっちゅうのが正確やな。源導者の上位存在なんてもんがあるはずがないって立場やから、世迷言としか思ってないんちゃうか。ちなみに他の源導者信仰の二派も同じやで」

 「相容れない立場であることは間違いないと思われます」

 ウェルヴェーヌは断言する。だからこそ、絶対に同じ土俵に立たせてはならないという話だ。

 「そうか。で、オゴカンとやらについての情報は何かあるか?」

 「そっちはまだ鋭意調査中や。現状で言えるのは、過激派の司祭の一人だってことくらいやな」

 「過激派?」

 「せや。どんな組織にも派閥はできるもんや。ほんで分かりやすく穏健派と過激派の二極化することが多い。オゴカンいうんはその過激派の方で、平たく言えば強引に信者を獲得しようとする迷惑なやつってこっちゃ。言葉じゃなく暴力でも取り込めばおーけーって考える輩とでも思えばええ。そっちのメイドはんが関わりとうない言うんは、そういう意味やろ?」

 「はい。理屈が通らない人間とは交渉もまともにできません。口より手が出るなら尚更です。利己的な正義を振りかざず相手には、共通の前提条件が成り立たない場合がほとんどですし」

 ゆえにまともに会話が成立しない。

 ウェルヴェーヌの言葉は真実だ。対話というものは共通の土台があって始まる。その段階でずれていては噛み合わないのが道理だろう。

 「なるほど。面倒臭そうなヤツだってことは分かった。けど、そいつがなんでウチにやって来るって話になったんだ?国自体は大分南の方でずっと引っ込んでいたんだろ?」

 「それが謎やねんな。急に布教活動を広げたんは何か理由がある思うけど、まだ情報不足やわ」

 「たとえどんな理由があろうと、頭ごなしに布教をしようとしている時点で言語道断です」

 メイドの言葉に力がこもっていた。無表情なだけに余計強調される。

 「おお、怖っ。クロウはんよりメイドはんの方が怒ってるやんか。領主様としてそれでええんか?」

 「何がだ?」

 本気で分かっていない様子でクロウに問われて、ミレイは苦笑する。

 「いや、ほんまにあんさんはアレやな……せやから、本来はまず領主であるクロウはんとこに布教活動させてください言うてくるのが筋ってもんやろ?それもせんと、S級探索者使うて認めろって先制パンチ打ってきたんやで?礼儀がなっとらんどころか、無礼な宣戦布告みたいなもんやろが」

 「そうなのか?」

 ここまで言われてもほとんど意に介していないクロウに対しては、ただ呆れるしかなかった。自由都市とはいえ一国の主として侮辱されているという感覚はないのか、それでもなお気にしていないのか。おそらくは後者だとは思うのだが。

 「クロウ様はベリオスの町の威信や矜持というものに対して、もっと敏感になって頂く必要があるかと思います」

 「そう言われてもな……成り行きでやっているだけでまだ何の整理もついていない。自分自身のことすら放置気味でいっぱいいっぱいだぜ?」

 「う……それを言われますと何も……申し訳ありません、出過ぎたことを言いました」

 「いや、別に謝ることはない。そういう考え方自体が俺には良く分からねえから、進言してくれるのは有難い。ただ、さっきの話じゃないが、共通の前提条件っていうのが俺にも曖昧なもんが色々あるみたいでな。普通の反応ってのが分からないことがよくある」

 淡々と語っているが、相当のストレスなのではないだろうか。クロウ自身についての境遇はある程度聞いている。記憶も何もない状態の精神というものがミレイには想像もつかなかった。

 「飄々としてるもんやから忘れそうになるけど、クロウはん、まだこっちに来てそんなに経ってへんねんな。おまけに記憶もぶっ飛んでいるんじゃ、確かに多くを求めすぎなんかもしれへんわ」

 転生人フェニクスとしてこの大陸に降り立ってから、まだまだ短い期間しか経ってないように思う。あるいは十分に慣れる時間は経ったと見るべきなのか。いずれにしても、本人が言うように成り行きで領主になってその雑事に今も追われている状況だ。ずっと忙しない生活を送っていることを考えれば、十分によくやっていると誰もが認めるところだろう。

 「それは別にいい。やるべきことならやるだけだ。で、話を戻すとこのタファ=ルラ教のやつらはウチに喧嘩を売ってるってことなのか?」

 「いや、そこまではっきりとはしとらんよ。ただ、そう取られてもおかしくない行動を平気でやってるんは確かや。最悪、敵に回しても気にしとらんちゅうか……」

 「もめると戦争になるって話か?」

 「ちゃうちゃう!そこまで過激なもんちゃうて!国を名乗ってる言うても、非公式なもんや。それほど人口もおらんし、そないな無謀なことはせえへんよ」

 領主が軽々しく戦なんて単語を持ち出さないで欲しい。ミレイは即刻否定した。ただの勢いとノリだけで口にした冗談紛いの『戦争』という言葉で、過去に本当に一触即発のところまでいった苦い経験がある。責任ある立場の者は、滅多ことを口にするものではない。どこで誰が耳にして、歪んだかたちで広まるか分かったものではないのだ。

 「しかし、国としてはそうでも、オゴカン率いる過激派だけで特攻してくる、という可能性はゼロではない気がします。狂信者は時に合理的な判断を超えて暴走することがありますので」

 「そういう意味でも、お前は警戒していたわけか」

 メイドの言に納得したようにうなずくと、クロウは少しだけ考えるように目を瞑った。珍しい思案顔だ。

 「クロウ様?」

 その様子に何かを感じたのか、ウェルヴェーヌが声をかける。

 「ん、そうだな……タファ=ルラ教の奴らが話が通じないっていうなら、徹底的に叩くことも考えておかなきゃな。そのためにも情報収集を早めに頼む。話し合いの余地もないロクデナシ共って結論なら、速攻でお引き取り願おう」

 その決断のための間だったようだ。優柔不断な為政者より好感が持てるが、潔すぎるのも危険ではある。

 「ええんか?最悪、タファ=ルラ教国と敵対関係になるで?」

 「今も別に友好的ってわけじゃねえだろ?国境っていうか、隣接してるわけでもなし、軍事力もそれなりに整ってきた今なら気にすることはない。というか、南の方の村とかって所属はどうなってるんだっけか?小さな集落とか村が幾つかあるだけで、基本的にどこの国の領地にもなっていないみたいな話を聞いた気がするが……」

 「はい。ベリオスの町以南の地域は、実質的に無主地です。特筆すべき資源も作物もない土地なので、どこの国も領地として欲しないことから放置されている状態ですね。細々と村がいくつか存続はしていますが、基本的に関わりはありません。だからこそ、タファ=ルラ教徒も勝手に国を作れたとも言えます」

 「ああ、非公認とか言ってたな。例のナゼン皇国みたいなもんか」

 「はい。あちらも国を名乗っていますが、実質どことも外交的な動きはしていません。閉鎖的な町がそのまま国になったようなものですので、国民もどれだけいるのやら。自給自足で賄えるほどでしょうから、たいした数もないとは思われますが……」

 「ナゼンも東南の方だったか。そういや、南方面は無害って意味ではあんまり気にしなくていいって感じだったな。だからこそ、オホーラはいま西方面の外交に精を出してるわけか」

 「あ、それやけど、今スレマール王国の使者が来とるんやったな。同盟はもう締結したんか?」

 「さすが耳が早いな。その方向でまとめてるところだ。どうせ先読みの巫女の文言もつかんでいるんだろ?何か思うところがあれば教えてくれ」

 「それなぁ……確かにうちも見てはみたけども、宣託みたいなんは暗号とはまた別物や。論理的に読み解けるもんやない。いきなり蹴鞠まで出て来て、こいつ何言うてんねん!ってのが正直なうちの感想や」 

 「ああ、革でできたボールの遊びだよな?貴族ぐらいしかしないって聞いたが……ああ、いや、今は考えてもしょうがない。巫女お膝元のスレマール側が手を結んでいた方がいいってんなら、とりあえず従っておくんでいいだろうよ。敵より味方を作るべきなのは俺でも分かる」

 「その味方が獅子身中の虫にならん保障もないんやけどな」

 「そのためにお前たちみたいな『目』がいるんだろ?」

 「くっくっく。こりゃ、一本取られたわ。ナイスポイント追加や――ん?」

 と、その時。部屋の天井から何かが降ってきた。

 「おっ、丁度いい具合に報告が来よったか」

 それは報告の手紙だった。来客中なことに気を遣って、天井から差し込まれたようだ。ミレイは素早く目を通すと軽くうなり声をあげてから、その内容をクロウたちに伝えた。

 「どうやら、話題のオゴカン司祭、クロウはんの粛清対象になりたがってるみたいや。ミカサ村っちゅうところを完全に占拠したらしい」

 「何だと?というか、調査結果が出るの早すぎじゃねえか?」

 少し驚いているクロウの顔は珍しい。基本的に無表情だが、感情がないわけではない。あまり表に出てこないだけだ。

 そんな変化を引き出せたことに少し満足したものの、ミレイは報告内容に関しては不満があった。

 「周辺情報は常に探らせてるさかい、たまたま合致しただけやで。せやけど、まだ重要度が正しく伝わってないねん。いまいち浅い情報ですまへんな」

 「かまわない。で、どういうことなんだ?」

 「ええと、実はタファ=ルラの司教がどっかの村で布教活動してる報告は既にあったんや。それがまさか話題のオゴカンやったとは思わんかった。ちゅうか、裏が取れてへん状態でクロウはんに報告もでけへんかったんやけど、これではっきりしたっちゅうことや」

 「先程占拠と仰られましたか?」

 ウェルヴェーヌは不穏な単語を聞き逃さなかったようだ。

 「せや。何を考えてるんか分からへんが、タファ=ルラ教の一団はその村を完全に乗っ取って夜な夜な洗脳っぽいことをしとるようや」

 「洗脳?」

 「本人たちは立派な不況活動の一環とか言い張りそうやけどな。実質監禁状態で四六時中タファ=ルラ教のことばっか聞かされたら頭おかしくなるやろ?そんな状況から逃れたい一心でとりあえずでも信者になります言った途端、もう抜け出せんようなるって寸法らしい」

 「強引な勧誘方法ってやつか。けど、その村にはどのくらいの村人がいるんだ?それ以上の人数でタファ=ルラ教のやつらは動いてるってことか?」

 「ちゃうな、報告では10数人って話や。ここも曖昧で申し訳あらへん。きちんと数を報告するよう教育してんねんけどな」

 「その点については、先程お嬢様も申し上げた通り、重要度がまだそれほど高くない状態でしたので致し方ないかと。報告が概要的なものになっているのはそのせいでございます」

 ノーランが主人の言葉を補足する。

 「どっちにしろ、10何人かで村を占拠なんかできるもんか?」

 「ああ、それはタファ=ルラの連中の他に協力している一団があるっちゅう話や。身なりや言動からしてどっかの傭兵団って報告や。いまその正体についても探らせてるわ」

 「傭兵団……そんなのを用意してたってことは、最初から何か企んでいたってわけか」

 「せやろな。ちゅうか、この町で布教始めようって目論んでいるわけやから、自衛手段として雇ってたんちゃうか。オゴカンいうのがどないバカでも、自分らが反発受けることはある程度想定しとるやろ。クロウはんからお墨付きもろたところで、町の住民感情が歓迎ムード全開とは思わんはずや」

 「だとしても、なぜ村を占拠したんだ?」

 「別に不思議なことやないんとちゃうか。布教活動が目的なんやから、こっち来るまえに数を増やそうとしとるだけやろ」

 「占拠までする必要があるか?」

 「狂信者の過激派ですから、普通の感覚で考えてはいけません」

 ウェルヴェーヌの忠告で何となくクロウは理解した。

 「ああ、奴らからすれば占拠している自覚もなく、ただ信者を増やそうとしているだけって認識か……」

 「その辺含めてもっと情報を集めなあかんっちゅうことやな」

 「……そうか」

 そこでまたクロウはしばし考えてから、

 「もしオゴカンが死んだ場合、ヨーグは今回の依頼をどう扱うんだ……?」

 何気なく物騒な仮定を呟いた。

 「なるほど。その場合にヨーグ様の条件が続行となるかどうかは確認する必要がありますね。本人による依頼取り下げが必須であるなら、何としてでも生け捕りにしなければなりません」

 メイドも容赦ない意見を被せてくる。ベリオス側は完全にオゴカン排除の方向で動くようだ。

 暴力的解決も厭わないスタンスは小気味よい。理想論だけで身動きが取れない雇用主とはあまりミレイは反りが合わないからだ。

 何にせよ、会員にもっと発破をかけて情報収集に力を入れる必要があるようだ。

 ミレイは会員たちの効果的な采配を脳裏で巡らせ始めた。


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