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選択死  作者: 雲散無常
第四章:調整
33/137

4-1


 ネージュは自分が短気だということは嫌というほど知っていた。

 他人に比べてあまり我慢強くないことも分かっているし、そのために色々と厄介な目に合ってきたことも事実だ。

 その度にどうにかしないといけないとは思いつつも、結局のところ衝動的に何かを起こしてしまう。考えるより体が動くのだからしょうがない。一番気心が知れているユニスは「もう病気のようなものなのであきらめてますよ」と軽く受け流してくれるけど、赤の他人はそうはいかない。

 今回もベリオスの町の領主だとかいうクロウと、気が付いたら勝負をしていた。

 たいした筋肉もついていない平凡な男かと思っていたが、よくよく見たら転生人フェニクスだった。後から気づくとはよくよく注意力が足りない。悪いクセだ。あの時はいつものように怒りで周囲が良く見えていなかったのでしょうがないのだけど、そのせいで不本意な事態に陥ってしまった。

 このアタシが警備隊の特別主任だって?

 正直、どういう役職かは分かっていない。その辺りは今まで通りユニスに丸投げしている。何となく理解したのは、ベリオスの町の兵隊を鍛える兵長みたいなものだということだ。他人のために時間を使うなんて冗談じゃない。

 そう思ってはいるものの、正々堂々と勝負して負けた以上、それを反故にはできない。あれだけ派手に完璧にやられたのはいつ以来だろうか。悔しくて夜もたまにしか眠れていない。幸い、いつでもリベンジマッチをしてもいいという許可は取っている。少しでも早くこの汚名を返上して、くだらない仕事から解放されたい。

 今日もそのためにクロウのもとへ突撃していた。

 たまに顔を見せに来ると言ったくせに、未だに一度も警備隊の本部に来ていないからだ。現状ではまだ勝てないかもしれないけど、斬り合っていれば弱点もつかめるはずだった。今はその機会をより多く増やしていくことが先決だ。何より、殴り倒したい。一発でもあの澄まし顔の男にお見舞いしたい気持ちでいっぱいだった。

 「おぅ、おぅ!早速やろうぜ!」

 ネージュは開口一番殺気を漲らせて、クロウを睨みつける。いつでも臨戦態勢だ。戦う覚悟はできている。

 けれど、相手はまったくそんな状態ではなかった。あからさまに顔をしかめて――大分無表情なので、実際は微妙な変化ではあるけど――溜息をつく。

 「ネージュ。今日も来たのか。適当に訓練に付き合うとはいったが、さすがにまだ実力不足だろ?もう少し鍛えてからにしてくれよ」

 「はっ、アンタと戦うのが一番鍛えられるんだよ。いいから、やろうぜ」

 「相変わらず勝手な人ですね。クロウ様はこれから大事な商談があるのです。邪魔をしないでくださいませ」

 いかにもメイドという服装をした眼鏡の使用人が間に入ってくる。この女はどうも苦手だ。戦闘能力がそれなりにあるのが分かるし、実力的にはあたしより弱いのは確実なのに、妙な迫力というか無言の圧力的なものを感じる。腹立たしいけど、あまり手を出したくなくなる何かがあった。

 「商談だ?アンタから出向くのか?」

 現在地は領主の屋敷から少し離れた通りだ。進行方向的に、クロウたちは屋敷から出てきた位置である。

 「会合場所が向こうの拠点だからな。近いし、歩いて行こうかと」

 「せめて馬車を使ってくださいとお願いしたのですが、健康のために歩くと言い張られまして。運動なら、別にこのような形でなくともいいと思います。そもそも、本来はこちらが呼び立てていいものです。わざわざ出向くというのは、特別主任の方が驚くのも無理はありません。非常識ですね、非常に残念な決断です。人の話を聞く耳が腐っているようです」

 「……ウェルベーヌ、最近結構ちょっと毒が強くなってないか?」

 「そんなことはございません。正直に申し上げているだけです」

 領主と使用人の会話とは思えない内容だけど、そんなことはどうでもいい。

 「その会合とやらが終るまではダメってことか。しょうがない、アタシも付き合うよ」 

 このまま逃げられるのはしゃくだ。用事を待つくらいの寛大さを見せてやる。

 そう思ったけれど、またもやクロウの眉根が寄った。嫌そうな雰囲気だ。生意気なやつめ。どちらかというとメイドの方が頑なに拒んできたけど、アタシは引き下がらなかった。

 断固としてついていく意思を見せ、同意させた。当然だな。

 「んで、どこへ行くんだ?」

 「ウッドパック武器商会のところだ」

 どこかで聞いたような名前の商会だった。



 その武器屋は大分変っていた。

 指定された場所に着いたクロウは、思っていた店の佇まいとはまったく違うことに驚いた。こういう形式もあるのだと感心を覚えたほどだ。つまり、その店は巨大な馬車に引かれた小屋だったのだ。移動式店舗というものらしいが、丈夫そうな車輪と車体とはいえ、これで交易路以外の荒れた道を走れるのだろうか。

 小屋とはいっても、外壁は模様など装飾も凝っており安っぽい感じはまったくしない。そんな店舗が三つ並んでいる。移動以外の場合は、連結できるように作られているのか、足元を見なければ立派な店として申し分ない造りだった。

 ネージュは外観よりも入口に立っていた案内人らしき人物に興味があるようだ。ねめつけるように正面に立って「テメエ、何か変だな。何もんだ?」と威嚇し始めたのですぐに引き下がらせる。何者もなにもない、明らかに店員の服装だ。前掛けにウッドパックの文字がしっかりと入っている。

 余計な揉め事は起こさないようにウェルヴェーヌが苦言を呈していると、あちらからも苦情が入る。

 「すみませんが、そちらの方のような粗暴な方を入れることはできません。お約束の領主様とそのお付きの方のみでお願いします」

 しっかりと制裁を受けた。もっともな意見なので受け入れる。もともと、ネージュは勝手についてきただけだ。売り言葉に買い言葉で、ネージュも「誰がこんなところに入るかよ!」と外で待機することになった。帰る気はないらしい。

 ステップを登って通された店内は、入ってしまえばなるほど確かに武器屋だった。偏った品揃えに見えるが、ここがその専門のものを扱うコーナーであれば納得はいく。

 あまり愛想のない案内人は更に奥に進むと、一つの扉をノックしてから、どうぞと道を譲った。

 言われるままにその部屋に入ると、木製の丸テーブルを挟んでソファが置かれており、一人の少女が踏ん反り返って座っていた。

 「よく来てくれはったな、領主殿。うちがこの商会の会長ミレイ=ウッドパックや。あんじょうよろしゅう」

 開口一番、予想外の自己紹介を受ける。

 どう見ても外見は子供だ。いや、見た目がそうなだけで実際はもっと歳がいっているのだろうか。白藍色の髪で切れ長の紅い瞳と灰色の瞳のオッドアイが印象的だ。貴族の娘が着るようなフリルの多い黒と白を基調としたドレスは、明らかに児童用のそれにしか見えなかったが。

 予想外の会長の姿にすぐに返答できなかったクロウの脇をつつきながら、ウェルヴェーヌが先に答える。

 「ご挨拶ありがとうございます。こちらがこの町の領主クロウ=ベリオスでございます。わたくしはその使用人頭のウェルヴェーヌと申します。以降、お見知りおきを」

 丁寧に頭を下げるメイドだったが、その態度とは裏腹にすぐに不満をぶちまけた。

 「早速で恐縮ですが、こちらを領主と知りながら呼びつけた挙句、座ったままでの応対というのはいささか失礼がすぎませんか?」

 恐怖の笑顔とも言われて密かに恐れられているその微笑を前に、ミレイという少女は快活に笑った。

 「くっくっくっ。いきなりダメだしかいな。あんさん、なかなか言うやないか。うちは全部中身で判断する主義やさかい、肩書はなんぼ持ち出されても響かんよ。いずれ、それなりの人物いうんが伝わってくれば自然と敬意ってやつも生まれるやろ。そういうわけで、最初のうちは堪忍な」

 身分は頓着しない宣言ということか。クロウ自身もその辺りは別に気にしていないので、「そうか」と短くうなずいて納得した。

 「どうぞ、おかけになってくださいませ。私はお嬢様の執事を務めさせて頂いております、ノーランという者です。お嬢様の言動が多少、一般的な礼儀から外れることは謝罪させて頂きますが、我が商会の流儀としてどうか御寛恕して頂けると幸いです」

 ノーランと名乗ったのは初老の男だった。執事というだけあって燕尾服に白手袋といった恰好が印象的だ。ミレイの後ろにそっと立って控えている。ただ者ではない気配が立ち振る舞いから漏れ出しており、武術の心得もあることが窺えた。護衛も兼ねているのだろう。貴族然とした物腰と態度が、ミレイと対照的で場違いにも思えた。

 クロウがソファに腰を下ろし、その側にウェルヴェーヌが立つ。同じような構図になった四人は早速本題に入った。

 「ほいで、うちらからの提案は呑んでくれるんやろ?お互い、損はせんから断る理由もないやろうし」

 要求が通ることが当然という態度のミレイは、変わった形の容器で飲み物を飲んでいる。取っ手のない器だ。カップではなく湯呑というものだと、知識が引き出される。東方文化のものらしい。静かにノーランがクロウたちにも同じものを用意してくれる。

 珍しいので好奇心からそれを口にすると、やはり飲んだことのない味のお茶だった。不思議な味を堪能しながら、クロウは答える。

 「お前らの商会に独占販売を認めるってやつだったな?ものは確かに良いっていう評価だが、どうして独占にしなきゃならねえんだ?他と比べて優秀なら、別に競合がいようと関係ないだろ?」

 報告書の中で、ウッドパック武器商会が、ある武器の種類について独占販売の許可を求めているというのがそもそもの発端だった。その武器とは暗器の類で、ベリオスの町でその種類の武器の一切をウッドパック武器商会のみが取り扱うという契約だ。

 「関係は大いにある。うちは粗悪品が出回るのは我慢ならんねん。暗器そのものが下に見られてるっちゅう度しがたい現状がある上に、質までこき下ろされたらかなわん。この業界はうちが引っ張って最高品質を保ちたいっちゅう話やな」

 「……なるほど」

 暗器というのは身体に隠し持つような小さな武器の総称だ。護身用に携帯するのが主な用途ではあるが、暗殺などにも用いられるため、邪道な武器などと忌避されることも多々ある。ウッドパック武器商会はこの暗器に特化した武器屋だった。普通の武器屋でも暗器を取り扱ってはいるが、ミレイからするとそのどれもが質が悪いという判断なのだろう。

 「志は立派ですが、だからといって他の武器屋の販売を差し止める理由にはならないかと思います。悪貨が良貨を駆逐するように、粗悪品であれば自ずと消え去ることでしょう」

 「そないなことはうちも分かってるで。けど、それじゃあ時間がかかりすぎる。どうせ消えるんなら、最初から並べるなって話や。何より、そないもん見かけたら気分悪うなるやろが」

 最終的に個人的な理由が飛び出してきた。ミレイが気に入らないから、というのが本当のところなのだろうか。合理的ではない根拠を持ち出されては、なかなか話はまとめられない。ナキドが厄介だと投げてきた理由が分かってきた。

 「仮に、仮にだぞ?お前の気分を上げるために他の店舗から暗器を取り上げたとして、こっちには何のメリットがあるんだ?」

 「はっ、決まってるっちゅーねん。うちがあんさんらに高ポイント付与しちゃるってことや。どや、いい話やろ?」

 「はぁ?何のポイントだよ?」

 「うちからのナイスポイントに決まってるやろ。ポイント低いやつには何も売らへんさかい、ないと困るでー?」

 本当にそうなのだろうか。クロウは暗器がどれだけ売れるものなのか分からない。メイドに視線を送ると、正しく察知したウェルヴェーヌが淀みなく答える。

 「探索者のうち、暗器を使用するパーセンテージはおおよそ全体の7%ほどで、ウッドパック武器商会がおらずとも、そのほとんどは既存の武器屋からの調達で賄えますね」

 「なんだ、あっさり否定されてるぞ?」

 「ちょい、待ちーや、そこのメイドの姉さん!その暗器はだから粗悪品や言うてるやろ!そないもん使ってたら命落として、結局損やで、損!うちのもん使わな、無駄死にが増えるっちゅうことや。数字だけで物事見てたら痛い目にあうで、ほんまに」

 一理はあるような気がする、とクロウは思った。

 ミレイは見た目こそ子供だが、話す内容はそこそこまともだ。感情的な面が多くみられるとしても、商人としての損得勘定の方はきっちりできている、気がする。どうしたものかと試案していると、焦れたようにミレイが溜息をついた。

 「なんや、見所はありそうやねんけど、決断が遅いな。ほいなら、ちっとこっちから試してみるわ」

 そう言うや否や、部屋の空気が一瞬で変わった。

 どこから現れたのか、いつのまにいたのか、クロウたちの背後に音もなく影が現れたのだ。

 ウェルヴェーヌは素早く反応して、その影が伸ばしてきた腕を振り払う。クロウも飛んできた何かを素手で叩き落とした。ナイフの類であったなら危険な行為だが、アテルの分離の効果が物理的な衝撃にも利くことは検証済だったので、問題はない。本当はその効果も相性みたいなものがあってすべてに有効ではないので、賭けには違いなかったが。

 「おいおい、試すって殺す気なのかよ!?」

 第二波の近接攻撃を交わしながら、クロウはミレイに叫ぶ。小さな会長は澄ました顔でお茶を飲んでいる。この状況でまったく動じない姿勢はたいしたものだ。

 「クロウ様、暗器のデモンストレーションのようです」

 ウェルヴェーヌは先の探索用の鍛錬で相当鍛えられたのか、彼女自身が隠し持っていた短刀で器用に相手の小型ナイフのようなものにきっちりと応戦していた。その一つをクロウに向かって見せて来る。矢じりのように尖ったその金属は、不気味に光沢を放っていた。

 「ちなみに痺れ薬を大サービスしちょるから、気を付けてーな?」

 かすってもダメだということらしい。

 クロウはいっそミレイを捕まえようかと思ったが、ノーランが油断なく構えているので簡単にはいきそうにない。

 近距離から攻撃してくる謎の男は黒ずくめの変わった服装で、その裾やら懐から不意に武器が飛び出してきて襲い掛かってくる。まさしく暗器の使い手なのだろう。先程の小さな武器といい、それらに品質など関係あるのだろうか。当たりさえすれば相当のダメージな気がする。

 とにかく、実戦方式で売り込みに来たということだ。方針は分からなくもないが、実際に自分が対象だと煩わしいことこの上ない。ラクシャーヌを起こしてこの部屋ごと壊してしまおうかと一瞬考えたが、ミレイには何か裏がありそうだと思ってもう少し付き合ってやることにする。

 何事も短気は損だとオホーラにも言われている。賢者の言うことはいちいちもっともだと感心させられている今日この頃なので、助言にはできるだけ従うことにしていた。

 「どうせなら、執事に相手をしてもらおうか」

 それまで受けに徹していたクロウだったが、一気にギアを上げて攻勢に転じた。素早くソファを回り込み、襲ってきた男の首筋に手刀を叩きこんで昏倒させる。それまでの緩急の差で相手は一瞬クロウの姿を見失ったことだろう。かまわず、続く次の一歩でウェルヴェーヌの方に向かう。鎖のようなもので拘束しようとしていた男は、突然の横手からの風圧に気づいた瞬間、吹き飛ばされて壁に激突。受け身も取れずに脳震盪でやはり気絶した。

 「くっくっくっ。なんや、あんさんやるやないか。ノーランでもこれは手こずりそうやなー」

 「はい。実は既に数度、仕掛けようとしてできませんでした。隙があるようでまったくありません。一瞬で様変わりしましたな。いやはや、転生人でもこれほどの御仁はなかなかいないかと」

 部下が倒されたのを見ても全く動じない二人はしかし、その視線だけは鋭い。

 いつでも動き出せる状態であることに気づいて、クロウはミレイ自身も戦闘能力があることに驚いた。様変わりと言われたが、それはミレイにも当てはまる。ただの生意気な子供だと侮っていたが、なかなかどうして手練れの雰囲気がある。

 「お前も暗器が使えるみたいだな?」

 自分が狙われていることを感じて、クロウは唇を歪めた。暗器使いとの戦闘経験はない。先程の男たちは弱くはないが、目の前の二人とは比べ物にならない。そのくらいの差を感じられるほどに、圧倒的な何かがあった。

 現にウェルヴェーヌは金縛りにあったように動けないでいる。下手に動けば、何かが飛んでくることを察しているからだ。それを防げるかどうか自信が持てないのだろう。

 「何も命まで取ったりせんから安心してーな?ただ、思うてたよりつよつよやから、うちらも手加減はできへんねん」

 「ここで止めるっていう選択はないのか?」

 「ないなー。もう分かってる思うけど、うちは暗器売買の他に、こういう隠密的な傭兵稼業も請け負っておんねん。その実力、きっちり見せつけなあかんやろ?」

 クロウたちを打ち負かした上で、その有用性をもって営業する魂胆ということらしい。大分過激なやり方だが、身をもって知る体験は言葉よりも雄弁な証ではある。

 もっとも、とクロウは唇を歪めた。

 「思い知るのはそっちだと思うがな」

 クロウは目の前のソファを蹴り飛ばした。二人の視界を一瞬でも奪えば、それでいい。そのままミレイの腕を取りに行くと見せかけ、それを当然の如く阻もうとするノーランの腕をこそ絡め取る。

 「――っ!!?」

 軌道を変えたクロウの体捌きに合わせてノーランも反応するものの、ミレイをかばおうとした初動の動きが仇となった。伸ばした腕から身体のバランスを崩され、執事の身体は宙を舞っていた。ミレイもさる者、咄嗟にクロウに攻撃を仕掛けるべく、手首の袖から仕込み針のようなものを飛ばそうと右手を振り上げるが、丁度ノーランがその射線に立ち塞がってクロウの身体を隠した。

 そこまで含めての投げ技だったのか、ミレイがあっと思った次の瞬間、その身体も浮き上がっていた。

 何事かと思えば、座っているソファごとクロウが蹴り上げたらしい。

 空中では姿勢を制御することは難しい。攻撃どころではなくなって、身体をひねって無事に着地しようとして、ミレイは見た。

 ノーランを床に叩きつけたクロウが既に、自分を狙っていることを。

 すぐさま足首に仕込んでいる小型ナイフを発射させようとするが、その動作も見抜かれていた。空中にあるその軸足を掴まれて方向が逸れる。ならば、奥の手の口裏に潜ませた針で一矢報いようと頭を振るが、その姿が見当たらない。見えるのはソファの茶色い生地だけだ。

 いつのまにか、そこに顔面を押し付けれられていた。奥の手もバレていたらしい。地面に着地するのを感じた時には、ソファごと身体が拘束されていた。完全に制圧された形だ。

 「さて、こんなもんでいいか」

 その優位性をクロウはあっさりと手放すと、元の位置にソファを戻して座り込む。

 横倒しになったソファに背中を預ける格好のミレイと、床から起き上がって頭を振るノーランを前に、クロウは静かに言った。

 「で、もう一度聞くか、こっちには何のメリットがあるんだ?」

 違う返事を聞かせろという、確かな意図がそこにはあった。

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