3-6
イスパーラは信じられない思いでその圧倒的な力を見た。
戦場であるにもかかわらず、あろうことか我を忘れて見ていることしかできなかった。
それほどまでに素早く、力強い一撃で見惚れてしまったと言ってもいい。いや、その場にいる部下たちも全員、同じ気持ちであっただろう。あり得ない奇跡のようなものを目の当たりにして、呆然と立ち尽くす以外の行動を取れるだろうか。
誰もが声もなく見つめている中、かろうじて声を絞り出せたくらいだ。
「なんなのだ、あれは……」
その声に反応できたのは、オルランド王国のアッパータリヤーだけだった。
「転生人の特殊技能としか考えられん……しかし、それでも――」
あまりに強すぎる。
呑みこまれた言葉を誰もが想像した。
結界の外に出てそこが山腹らしいと確認した一行は、ロスファ――猪系の魔物――を発見してこれを駆逐した。確かに見た目以上のレベルで決して弱くはなかったが、手こずるほどではなかった。ベリオスの連中が強調するほどの強さではないと思っていたところに、魔法岩人形が出現した。斥候部隊がその報告をしてきたので分かってはいたが、先のロスファ同様に対処できると高をくくっていた。だが、その強さが尋常ではなかった。
林が乱立する動きにくい中で、しかし魔法岩人形は慣れているように思いの外素早く移動していた。その力も強大で、編隊を組んだ騎士たちが防御に徹してもかろうじて堪えられたくらいだ。盾役の騎士の盾がありえないほどに凹んでいた。それでも、隙を見つけて反撃はうまく行っていた。魔法生物である魔法岩人形を倒すには、魔核と呼ばれる心臓部を壊すことが有効だが、その位置が固定ではないために探し当てるのは難しい。
全身が魔力で動いているものの中から、一際強い魔力を持つ魔核だけを特定するのは至難の業だ。ゆえに、魔法岩人形対策としては魔力切れを狙って手足を破壊し、自壊することを待つのが定石だった。とりわけ、近くで魔法士が操作するタイプの魔法岩人形ではなかったことから、その方法で間違いないはずだった。
ところが、手足を破壊して戦闘不能にしたはずの魔法岩人形が、しばらく経つとなぜか復活して動き出した。千切れた手足を魔力で再びつなげたのだ。数体の魔法岩人形がいることから、倒しても倒してもまた蘇るという悪循環に、疲弊した騎士たちは体力を消耗して削られるばかりだった。
負傷した者を下がらさせていることもあり、戦力は減る一方でジリ貧だった。それでも、騎士団の威信にかけて出てきたために、おめおめと撤退するわけにもいかない。両国とも、せめて相手が先に退いてくれたならどうにか面目も立ったのだが、同じ思惑でいる以上その均衡は崩れなかった。
そうして、どうすべきか迷っている間にあの男が飛び込んできたのだ。
ベリオスの町の領主クロウだ。
転生人であることは装石がないことから明白だったが、無所属というより野良の匂いがするほどあまり存在感がなかった。清潔感はあるものの、村人と変わらぬ質素な服装であまり特徴はなく、取るに足らない人物という印象だった。賢者を名乗るオホーラの方が威厳があってよほど領主のように見えたほどだ。
そんな男が今、目の前で魔法岩人形を一撃で屠ってゆく。
よほど優れた武器なのかと思うが、どこをどう見ても量産品の剣だ。特別なところは何もない。その動きに関しても、表立って分かる特殊技能を使っての戦い方ではなく、ただ普通に剣を振るっているだけにしか見えない。ただ、その攻撃力が破格だということなのだろう。
相手は複数いるため、クロウが討ち漏らしたものはその他のベリオス勢が片づけた。とても戦い慣れた様子で、水系の魔法から大楯の連続攻撃と見事な連携で少数精鋭の如く確実に仕留めてゆく。自分たちの攻撃と何が違うのかと言えば、おそらくはそこに込められた魔力なのだろう。それほどの違いがあるのか、認めがたい事実ではあった。
辺りが静かになったところで、軽い口調の声が告げる。
「さてさて、とりあえず皆さん結界内に戻りましょう。こいつら、一度ぶっ壊しても時間で回復しちゃう面倒なやつなんでね。あっ、うちらとの戦力比較で劣等感とか感じる必要はないからね。ウチの領主は転生人でもかなり特殊なんで、比較するだけ無駄無駄ってことで。あと、色々聞きたいこともあるだろうけど、安全圏に戻ってからってことでよろしくー」
確かに色々と引っかかるものがあったが、撤退の機会を得たことは確かだ。
イスパーラが部下たちに撤退命令を出すと、オルランド側も追随した。お互いにここは一時休戦だと目配せで悟る。
一番警戒しなければならないのは、どうやらベリオスの町の連中のようだと理解していた。
「それで、あの番人形というのは一体何なのだ?」
ドネスク司教が苛立ちを滲ませた声で言った。
騎士たちは結界内に完全に撤退しており、この場所の安全性は証明されていた。クロウたちはわざと一体、番人形をそのままにして放置したため、何度かその攻撃を受けていたが、その悉くをしっかりと結界は防いでいたのだ。
「何と言われても、そういう魔法生物だとしか言えぬ。この地下世界の至る所で出没するようで、ある意味、ここを象徴する魔物ではあるな」
「至る所で?他の場所でも遭遇したんですの?」
「ええ、皇女様。厄介なことにあれは出没自在のようで。何かを守るように作られておるのか、特定の領域に入ると排除しに来るような動きをするのじゃ。逆に、その範囲から遠ざかると勝手に消えたりもする」
「消えるですって?」
「左様。これはわしの推測に過ぎぬが、番人形は召喚魔法陣から現れ、またそこへ帰って行くようなものと見ておる。更に言えば、その召喚魔法陣が魔力供給元にもなっており、魔核を完全に壊さない限り、何度も復元する、そういう仕組みじゃな」
「召喚魔法陣まで……それもまた古代遺物の一つですわよ?」
しれっとウィズンテ遺跡の価値を上げながら、オホーラはここで畳みかける。
「そういうわけで、先に提示させてもらった調査権についての購入の可否を是非とも聞きたい。こちらが提供したすべては事実であったことはもう確認できたと思う。いかがか?」
ここまで案内したのは、転移魔法陣を確認させるためだ。その目的は既に果たしている。
たった今遭遇した番人形は無関係で、どんなに気になっても今は主題ではない。正論ではあるが、急にわき道から戻されたようで、問われた方は穏やかではない。結界の有用性もしっかりと思い知らされた。ベリオス側が用意した事実、その技術と質の高さはどうあがいても否定できない。すべてオホーラの掌の上だったことは容易に想像できる。
「いや、まだその判断は早すぎではないか?こちらとしてはもっと十分に検討したい」
ドネスクが待ったをかけるが、賢者は取り合わない。
「検討と言うが、他に何を望むんじゃ?既に起動方法を教え、実証も済んでおる。実を食べ尽くしてもまだ足りぬというのは、食い逃げの所業と変わらぬと思うが?」
「しかし、これは軽々に決めていいものではない。一度持ち帰っての判断を――」
「ひょっほっほっ。これは異なことを。今回の視察には前もって調査権のことは伝えておる。司教殿ほどの地位で裁定権がないなどと冗談は聞きませぬぞ。持ち帰ってもらっても結構じゃが、次に同じ条件で買えるとは思わずに頂きたい。あるいは、権利自体がないことも覚悟の上で退いてもらうしかありませんぞ。この権利を欲しがる国は、まだまだ無数にあると確信しておるのでな」
丁寧なようでどこか脅しめいた物言いではあったが、間違ってはいない。オルランド側の動揺を見たためか、ニーガルハーヴェ側は少し落ち着いて応対した。
「転移魔法陣の調査権には、研究の間の安全性の保障が含まれていましたわね?それはつまり、ここの結界のことを表わしていると思っていいのかしら?」
「いかにも。先の番人形の厄介さは身をもって分かって頂けたものと信じておる。外に出ない限り、アレのことを気にしなくていいというのは相当な利点であることは確かじゃろう?」
体験して分からせることに意味がある。事前にオホーラがそう断言していたことが、今につながっていた。両国の騎士たちの中には既に負傷している者がいる。絶対に否定はできない状況だった。
「確かにこの結界が強固なものであること、転移魔法陣が使用可能であることは確認できましたわ。けれど、まだわたくしたちは実際に起動を試していませんですわよ?あなた方以外の、詠唱による転移の実践を確認したいですわね」
皇女はオホーラのペースに引きずり込まれまいと、強かに抗弁する。
「それは購入した際にお試しして頂こう。買う気のない者にそこまでサービスしては、あまりに気前が良すぎるのでな。詠唱の言葉そのものに、どれだけの価値があるかはお分かり頂けると思うが?」
即座に返されてエルカージャは反論しようとするが、思い留まった。ここでその詠唱が嘘だった場合のリスクを指摘しても、この状況で詐欺などしないことは明白で無意味だ。無理に文句をつけるなどということは、大国としてあり得ない。堂々とした態度で、毅然と向き合わねばならないのだ。
「……調べた結果について、調査権を有する国、あるいは団体との情報共有の強制というその意図はどこにあるのかしら?」
「そのままの意味じゃ。転移魔法はこの大陸にとって有益なもの。どこか一国が占有するようなことがあってはならぬ。それは危険極まりない顛末を生む」
「それは当然、あなた方にも適用されると考えていいんですの?」
「もちろんじゃ。既にこうして分かったことは話しておるじゃろう?」
ごほんと咳払いして、ドネスクが割って入った。
「だが、その状況共有には但し書きがあるようだな?『開示する情報について、その範囲については特に定めないものする』これは要するに、一部のみを公開して他を秘匿することも可能なことを示唆しているように思えるが?」
黙っていてはオルランド側の損失になると判断したのか、動揺を抑えて政治家の顔になっていた。
「そのような取り方もできるやもしれぬ。じゃが、何かを隠したとして、いずれ他がそれを見つけた場合には非難されよう。姑息な国として晒し者になる覚悟があるかどうか、良く考えてもらいたいものじゃ」
それでも情報を独り占めしようとする国はあるだろうし、情報開示の時期をずらすという方法も考えられる。いずれにせよ、そうした隙をわざと作ることによって旨味を匂わせることがこの規定の目的だとオホーラは明言していた。どんな厳格なルールも必ず破られるものである以上、初めからある程度の余白を作っておくのが最善だと。
その余白があることによって、権利そのものがより魅力的になり、後にそこから様々な駆け引きが生まれて副次的な利益が生じることもあるという。深大な目論見はクロウにはまったく馴染みがなく、そういうものなのかと思うことしかできなかったが、こうして取り沙汰されているところをみると、効果はあるようだと何となくは感じられた。
「率直に言えば、この調査権は転移魔法陣の仕組みを解明することのみじゃ。詰まるところ、誰もが目指すであろう新規作成に関しては何も定めておらぬ。線の引き方が分かったとて、それを組み合わせて何を描けるかはまた別の話であろう?」
最終的な目的は転移魔法陣、ひいては転移魔法の構築だ。この場所の転移魔法陣がどのように動いているかを知ることと、それを自国で作ることは決してイコールではない。オホーラははっきりとそう口にした。あくまでこれは、前段階の工程に過ぎないのだと。
「何より、貴国らはこの貴重な調査をどの国よりも先駆けて行える利点がある。この場で決めない手はあるまいて」
完全に場を支配した賢者の言葉に、決断を下したのはエルカージャ皇女だった。
「分かりました。我が国、ニーガルハーヴェ皇国はウィズンテ遺跡の転移魔法陣調査権を買いますわ。先程の話に嘘偽りがないのなら、たった今からその権利を行使してもいいということですわよね?」
「ひょっほっほっ。もちろんではあるが、まずは契約書を交わしてからにして頂きたい」
「我がオルランド王国も購入する意志はある。しかし、その前に我らは話し合うべき条件がある。そもそも、ベリオスの町は我が国の領土であるということだ」
ドネスクの言葉でついにその問題に切り込むときが来たようだ。
事前の取り決めで帰属問題については転移魔法陣の確認後という話にしていたため、話題に上げられなかったのだが、ことここに至っては保留ではすまされない。公正を期すために第三者としてニーガルハーヴェ皇国も立ち会うことに同意はなされているため、エルカージャ皇女は黙って耳を傾けていた。本来は無関係な他国の内情ではあるが、調査権にも関連してくるので無視もできない。
当然、それも見越しての招待でもあった。
「形式上そうなっているだけで、実質はもう何十年もの間、ベリオスの町とオルランド本国との間に渉外活動はなかったはずじゃ。散々放置していた土地に、たまたま金鉱が眠っていたからといって、我先に掘り起こそうとするのはいささか虫が良すぎではないか?」
「たとえ長年荒れ放題の庭だったとしても、その所有者が変わっておらぬ以上、その庭のものは所有者に帰属するのは当然であろう?」
ドネスク司教はオルランド王国の国相でもあり、政治的要職も兼ねている。外交術にも長けていた。
一方で、オホーラも外交大臣としてベリオス側の代表だ。弁論では負けていない。
「その庭が無人であったのならば話は分かるが、実際にはその長年ずっと手入れをしてきた者がおり、実績がある。その功績を無視して所有権のみを主張するのはいかがなものか」
「面白い話だ。手入れとやらの聞こえはいいが、実際には他人の庭に無断で居座っていた盗人ではないのか?詭弁でごまかすのはやめてもらおう」
「いいや。手入れをしていたのは、そちらが雇ったことを忘れているだけの、言わば真面目に働いていた臣下じゃろうて。無償で勤め上げていた己の臣下を盗人呼ばわりとは酷い主人もいたものじゃな」
皮肉交じりの応酬が続く。オルランド側は、遺跡の価値を知って自ら手に入れようとしているのは明白だった。
ここでエルカージャ皇女が口を挟む。ニーガルハーヴェとしても、いつまでも他国の平行線の話を聞いている暇はない。
「一つ確認してもいいですの?そもそも、オルランド王国がベリオスの町を支配下に置いた経緯はどういったものでしたの?遺跡の存在も知らなった状況で、このような辺境を治める利益があったとは思えませんけれど?」
「それは……あいにくと昔のこと過ぎて資料も残っておらぬのですよ、エルカージャ皇女殿下。ただ、領土に含まれていることは確実で徴税していた事実もあるゆえ、ベリオスの町が我がオルランド王国所属であることは歴然とした事実なのだ」
「なるほど。それならば、その徴税をやめた理由と時期は分かっていますの?」
「それは……」
一気に詰められてドネスクは沈黙した。判明していないのは明白だ。エルカージャ皇女はお飾りの姫ではなかった。こういった場で象徴としてのみの存在ではなく、実務もこなせるからこそ視察隊の代表として訪問してきたのだ。この適切な質問の切り口にオホーラは便乗する。
「こちらにも正確な記録は残っておらぬが、裏を返せばそのくらい遠い昔から既に従属関係は断たれていたことになる。これを期に白紙に戻しても何ら問題はなかろう?」
「否っ!さすがにそれは勝手すぎる横暴であろう!そもそも、長らく納税を申告せずにいたというのは重罪だ。その義務を怠っていた罪をなかったことにはできぬ」
「それを言うなら、国として徴税も管理できていないそちらに非があるじゃろう。そもそも論を持ち出すならば、税とは国の庇護を受けるために納めるものであろう。その恩恵を一切受け取っておらぬまま数十年を過ごしてきたこちらからすれば、その義務という論理も承服しかねるな」
「ぐっ、だからといって……」
「少しいいですかしら?」
興奮気味のドネスクを遮るように、エルカージャ皇女が間に入る・
「このままでは感情論になりそうなので、ドネスク国相に尋ねたいことがありますわ。オルランド王国では属領における町をどのように定義しているのかしら?」
「どのように、とは?」
「我が国ニーガルハーヴェ皇国では、一つ、領土内にあること。一つ、中央政権から派遣された管理官が常駐していること。一つ、国道でつながっていること。一つ、法で定められた税を納めていること、などが必須項目としてありますわ。貴国がどのような定義かは存じませんけれど、近代国家として対外的にも明示できる確固とした論拠がなければ、正直に申し上げますと、現状ではベリオスの町の主張の方が筋が通っているという判断にしかなりませんわ」
「………」
ドネスクはあんぐりと口を開けて一瞬固まった後、何か言い返そうとしてまた口をつぐんだ。おそらく、指摘されたほど明確な定義がないためだろう。ニーガルハーヴェ皇国のような大国であれば法整備もきっちりと整えられているだろうが、大陸に数多ある小国は独裁による支配体制も少なくなく、そうした規定は曖昧に運用されている。示せる論拠などないはずだ。
オホーラはここが勝負の時だと悟った。
「時に、ここウィズンテ遺跡が最上級の古代遺跡であることは探索者ギルドからも正式に認定される運びとなっておる。つまり、ベリオスの町には交易路が通せるということじゃ。これが何を意味するか、ドネスク司教殿にはお分かりじゃろうか?」
「なに?交易路……?確かに、主要な古代遺跡ともなれば、そこまでの道は確保されるべきものだが……今、それが何だというのだ?」
「例えベリオスの町が独立したとしても、その交易路の一部はオルランド領土を通ることになる」
「っ!!!」
その意味するところにようやく気づいたようだ。交易路は大陸の主要道であり、その名を冠する道には一定の条件がある。交易路でつながっている都市や国というのは、それだけで重要な場所であり人や物が集まるランドマークにもなり得る。交易路が領土内にあるかないかでは、経済効果、国の価値、あらゆるものに雲泥の差が生まれるのだ。
「原則的に交易路はつなげる特定の場所のみではあるが、特例としてその領地内の王都あるいは主要都市にあたる場所までは、当事国の負担であれば分岐させてもいいことになっておる」
「しかし、それではますますベリオスの町が独立するとあっては、オルランドには益が……」
「じゃからこそ、その時期を『調整する』というのがこちらの申し出じゃ。オルランドの王都へ交易路を分岐、敷設後にベリオスの町の独立を認めてもらいたい」
「……なるほど。それが交換条件ということですのね」
ベリオスの町がオルランド領土内にある内に交易路を自国の王都までつなげてしまえばいいと、オホーラは提案したのだ。勝手にそうすればいいという意見もあるだろうが、交易路はそうした分岐に関しては、本来の固定地点からの承諾がなければ許可していない。これは余計な分岐があると機会損失のリスクが高まるためだった。
逆に言えば、オルランド側はベリオスの町の独立を認めなければ、交易路はつなげないということだ。
ドネスクは少しだけ考えさせて欲しいと自国の者で固まって議論していたが、最後にはやがてこれを受け入れた。ベリオスの町の所有権を主張するには分が悪いことと、交易路の価値を鑑みて折れるしかないと判断したのだろう。
「では、両国とも転移魔法陣の調査権をお買い上げ頂けるということで、よろしいな?」
こうしてオホーラの目論見は見事に成功したのだった。
後に、この時のことをクロウはこう評している。
「重要な町の独立についての議論だったのに、何で立ち話で決めちまったんだろうな?」
まったくその通りだと、誰もが同意したのは言うまでもなかった。
一方で、テオニィールが提唱した「ウィズンテ遺跡の井戸端会議、立っては話して独り立ち」という歴史的イベントの命名については、満場一致で却下されたことも付け加えておく。




