2-8
黒い魔物の名はアテルと命名された。
ラクシャーヌが適当に付けたものだ。というより、名前を当ててやるというような言葉が曲解されてそのまま名前になったという経緯らしいが、実際にどういうやり取りがあったのかは定かではない。あまり興味がないクロウだったので、そのままそれを受け入れただけだ。
本人も気に入っているようなので問題はないだろう。
そのアテルが、ウェルベーヌの問いに自ら答えた。
「はい、ワタシはアテルです。ニンゲンのことを色々学びたいと思っています。よろしくお願いします!」
何者かと尋ねたものの、まさか得体の知れない何かから直接返事が来るとは思ってもいなかったメイドは、珍しく絶句したように一瞬ぽかんと口を開けたが、すぐに我を取り戻した。
「……ご丁寧にどうも。私は領主クロウ様の使用人ウェルヴェーヌ=ニカク=シーリッジと申します」
反射的に、魔物に向かって自己紹介をした。
「ご主人様に!?では、ワタシと同じですね!ナカマというやつです!」
ラクシャーヌの頭の上でアテルが跳ねた。喜んでいるらしい。
現在のアテルは黒い球体に申し訳程度の短い手足らしきものがついた形状をしていた。その球体のやや上方に発話のための口という体で穴が小さく開いている。アテルの自然な状態はどうやら霧のような液状にも近いもので、自由にかたちは変えられるものの自身で固定化はできない性質だった。なんとか一定の形を保ちたいという本人の希望に沿って、ラクシャーヌが今は魔力で固定化させている状況だった。
それは最終的にクロウの血のエネルギーによるものとも言えるので、そんなことに使うなと言う気持ちなくもないのだが、べちゃっとした何かのままというのも据わりが悪い。致し方ない消費かと思いつつ、やはり気になるクロウだった。
一度触れ合ったからなのか、ラクシャーヌとアテルはなぜか魔力の波紋がある程度一致しており、そういった不可思議なことも可能だというオホーラの説明を受けたが、まったく理解はできていない。魔力というものは個々人でまったく違うある種の力の波であり、たとえ血族であっても波紋は同一にはならないというのが世界の常識だ。魔物であってもその規則は適用されると考えられていただけに、オホーラは新発見だと興奮していた。要するに普通はあり得ないということなのだろう。研究欲に火がついているのも無理はない。
とにかく、そうした相性の良さもあってか、アテルはラクシャーヌと共生することを望み、結果的にそのラクシャーヌと運命共同体であるクロウのことも主と認めているという流れだ。
「……クロウ様、ご説明を懇切丁寧に明瞭に今すぐお願いいたします」
ウェルベーヌのいつになく真剣な口調に、クロウは少し後ずさりながらすぐに経緯を語った。この眼鏡メイドを怒らせてはいけないことを本能的に悟っていたからだ。今も、いつもの無表情な顔と態度ではあるが、どこか苛立ちを募らせていることは察せられた。何が気に入らないのかクロウにはさっぱり分からないが、従うべきときは弁えている。
「なるほど……つまりは勝手についてきたわけですね」
「はい。でも、一応許可はもらっています!」
アテルはその小さな手のような棒状の何かをぴこんと上へ向けた。挙手という概念はあるらしい。
「!!……な、なかなかに可愛らしいですね……けれど、愛嬌ではごまかされません。無害とはいえ魔物がクロウ様につきまとっている、などという噂を流されるのは困ります。目立たぬよう何か手を打つ必要があると思います」
「何を気にしておるのやら。わっちと同様、使い魔ということにしておけばよかろ?」
ラクシャーヌの言葉を伝えてやると、
「存在の説明はそれでいいとして、見た目が丸くて悪くはありませんが、やはりそこまでむき出しに黒いままでは怪しさが隠しきれませんし、何より裸のままでは無用に驚かせてしまう可能性があります。その形に合わせて服を作りましょう」
真面目な声で良く分からない主張をし出した。魔物に裸の概念があるのか、そもそも誰も裸だと考えてはいなかったのだが、一時間後、ウェルベーヌはアテル用のエプロンドレス型の服を裁縫して納得顔だったのでよしとしよう。
古代遺跡について今後の方針を決める必要があったのだが、色々と疲労がたまっていたのでその日は解散となった。
翌日。
昼食を終えてから、一行は再び古代遺跡について話し合うことになった。
「まず一つはっきりさせておくべき点がある。この町の地下にあるウィズンテ遺跡が最上級と仮定した場合、先の封印優先権の対象である審問の間が、中層のものである可能性が出てきた。ゆえに、万全を期すなら中層の審問の間を攻略する必要がある」
オホーラが冒頭から重い一言を放った。
「マジかよ!?でも待てよ……既存の最上級は確かデヘテア魔法遺跡、ニンガルンガ魔獣遺跡だよな。そいつらは国が管理してたはずだが、下層まで到達したって話は聞いた覚えがねーぜ?中層の審問の間にすら行ってるかどうか、不明じゃねーか?」
「うむ。ステンドの言う通り、最上級の古代遺跡に関して、公式に中層の審問の間に関する情報というのは未だにない。じゃが、先の二つとも封印優先権でかの国が管理しているわけでもない。領地内であること、上層の審問の間やある程度の中層を探索した実績があっての主張であるため、今回の件とは単純に比較できぬ。ゆえに、最悪の想定をしてわしは話しておる。封印優先権を主張した際の反論として、中層ではないことを盾に取られる可能性があるのじゃ」
「なるほどな。封印優先権ってのは中層の審問の間を封印できて初めて成立するって話だったか?」
「だけどそれって、普通の古代遺跡の場合でしょ?最上級みたいに、上層と中層の二つに審問の間がある場合って適用されるかどうか分からないよね?ああ、だから、可能性って話なのか。それで、他の二つとの違いか……うーん、確かに前例がないと、どう転ぶかどうか分からないよね。特に利権が絡むとなると、都合よく解釈されそうだし……」
「実際のところ、テオニィールさんの言うように、こちらの主張が通らないというか、反論される可能性は高いのですか?さすがに詭弁というか、最上級の古代遺跡の中層攻略を条件にされるのは無茶が過ぎる気がするのですが?」
ロレイアの疑問にオホーラは即答した。
「十中八九、無茶でもその論を通すじゃろうな。最上級の古代遺跡となれば大陸でもまだ三つ目だ。強引でも自国のものにしたい魅力と価値が十二分にある。封印優先権で推し進めるためには、是が非でも中層の審問の間までの封印が欲しい」
「待て待て待て!ウィズンテは最上級なんだぞ?爺さんは今、S級探索者でもまだの前人未到の下層到達をやれって言ってるんだぜ?正気じゃねーよ!」
中層というのは上層における地下遺跡や地下迷宮の趣きとは違い、広大な地下世界が広がっているとも聞く。そんな場所で審問の間を封印するというのは、見つけることそのものが難しいという知識はクロウにもあった。
「難易度はさておき、そいつができればとりあえず一番上手くいきそうな案なんだよな?」
「そうじゃ。この街が今後も独立してやっていく上で最適な一歩となる。それに、難易度に関してもそうじゃな……勝算はそれなりにあると思うておる」
「いやいやいや!賢者だってのにその目は節穴かよっ!?あの階段降りただけで相当やばかっただろ?ここにいる面子がほぼこの町の最高戦力なのに、てんでダメですぐに引き返したじゃねーか。初歩でつまづいておいて、勝算とかあるわけねーだろ。探索なめんなよ?」
ステンド一人が強く否定しているが、遺跡に関しては第一人者であることから、それだけ難しいということは分かる。
だが、クロウとしてはそこまでの脅威は感じていなかったというのが本音だ。先日は様子見気で準備不足だったため、その場で引き返したという認識だ。
「なめてるわけじゃないが、そこまで無理筋かどうかは疑問だな。十分に準備していけば、どうにかなりそうな気はしている」
「その自信はどこから来るんだよ!?それこそなめてるって証拠じゃねーか!」
「うーん、確かに前人未到の快挙と共にウィズンテ遺跡発見をぶち上げれば、この町の評判は一気に上がって各国も下手に手を出せないほどにはなるかもね。それで、勝算というからにはオホーラ翁には何か妙案があるんだよね?僕の魔法と占いをもってしても、さすがに今の戦力じゃ少し足りない気はするよ」
「ひょっほっほっ。おしゃべり小僧の戦力などあてにはしとらんわ。魔法関連で言えば、当然このわしが老骨に鞭を打って参加してやるわい。じゃが、それでも足りぬ要素があるのは事実ゆえ、一人肉壁を用意しようと思う。そしてステンドよ、おぬしの人脈で運用係を一人呼ぶがよい」
「はァ?腕のいい運用係は確かに必須だけどよ……本気でやろうってのか?」
「当然じゃ。この際、探索者ギルドにも探索と同時に知らせてしまおうとも思う。立会人として誰か同行させれば後々面倒がなくてよい」
「そんな無茶に付き合うヤツはいねーよ!というか、立ち合いってのは基本的に審問の間の安全が確立されたかどうかを確認するためで、一緒に攻略までするなんてのは聞いたことがねーし、ギルド側もそんなの絶対断るだろ」
「そこはおそらく大丈夫じゃ。ねじ込める自信はある。じゃから、後はお前さん方のやる気次第じゃ。死ぬ気で成し遂げる気概さえあれば、わしが成功を保証してやろう」
道楽の賢者が自信満々に言い放つと、一度はしばし沈黙した。良く分からないがお膳立てはどうにかなるらしい。ならば、後はそれぞれがどうするかだ。
(遺跡探検か。なかなかに楽しそうじゃのぅ)
ラクシャーヌは楽観的で前向きのようだった。
(死ぬ可能性があるのにか……これに賭けてみる価値は本当にあるのか?)
クロウとしてはどうすべきか迷うところだ。成り行きで領主になっただけで、その立場に固執するつもりはない。いざとなったらすべてを捨てて逃げ出してもいいと思っている。一方で、半端に投げ捨てるような真似もあまりしたくないという気持ちもあり、揺れていた。
(この町に留まるつもりならば、避けて通れぬ道なのではないか?あの老いぼれを信用するのならば、じゃがのぅ)
(信用は一応してるが……どうにも自分以外の何かで勝手に流れが決まってる気がしてならねえんだよな……)
あるいはそれが呪いとやらなのかとクロウは疑ってもいた。次から次に問題が起こり、その解決に駆り出される形で何かを強いられている。そんな構図が続いてる気がしてならないのだ。 (わっはっはっ。それこそ運命とやらじゃのぅ。わっちとおぬしが出逢ったのも何か意味があるやもしれぬし、そんなことを考えていたら何でも結びつくものではないか?考えすぎてもろくなものではなかろう。やりたいか、やりたくないか、それだけで選べ。失敗したときは死に物狂いで逃げればよい、単純でよかろ?)
シンプル過ぎる考えにも思えるが、一つの真実でもありそうだ。遺跡探索。興味がないわけではない。
「さて……じっくり考えて、と言いたいところではあるが、残念ながら猶予は余りない。手配をするなら今すぐやらねば、この町の破綻が先に来てしまう。この場で答えを出して欲しい」
「そこまで事態は切迫しているのですか?」
「ひょっほっほっ。常に最悪を想定するのが最善の策ではある。楽観するより悲観して物事に当たるのがわしのやり方でな。準備にも時間がかかるゆえ、急ぎたいというのが本音じゃ。何にせよ、古代遺跡の存在は町の者にも知られておる。これからどのくらいの速さで町の外に知れるかは分からぬが、外部の手が伸びる前に手中に収めておかねば、この町にとっては厳しいものとなるのは必至じゃろう」
「確かに、地盤を固めておかないとこの町はすぐに乗っ取られるかもだね。金脈が見つかったようなものだもの、今までは何にもないから放置されてたけど、もうそうはいかないよ。僕はクロウがやるなら協力するよ。領主付き筆頭占い師として、ね」
まだその役職は有効だったのか。得意顔で目配せを送ってくるテオニィールから顔を背けながら、クロウは自分の考えを述べた。
「勝算があるならやる価値はあると思う。俺は探索するつもりだ」
その一言で天秤は傾いたようだ。全員参加の方向で話が進んだ。ステンドは最後まで「無謀すぎるぜ」とぼやいていたが、降りる気はないようだった。最上級の遺跡探索という仕事は、探索者にとっては魅力的なことに違いはないからだ。
その後の展開は早かった。
探索者ギルドには秘密の通信方法があるらしく、ステンドとオホーラはそれを使ってすぐに必要な要員を派遣させた。最上級候補の遺跡発見となればギルドも優先的に人をまわしてくれたようで、七日後には仮の探索者ギルド、ベリオス支部が出来上がっていた。この驚異的な手配にはオホーラの手回しがあったようで、ステンド曰く「あの爺さん、ヤバすぎる」と畏敬の念を抱いていたのが印象的だ。
立会人というか、実質的なギルドの同行者としては、ミーヤという外見上は魔法士のローブ形状の服で全身を覆った少女も決定した。フードまでかぶって顔部分しか露出がないという怪しい出で立ちだが、正式な探索者ギルド側の承認兼探索者として参加してくれるそうだ。前代未聞の決定らしくステンドが驚いていたが、馴染みのないクロウには良く分からない。
また、オホーラはもう一人戦力として盾役の戦士を呼び出しており、見るからに筋肉自慢の大男も到着していた。大楯に「美」という意味の文字を大きく刻んだ独特の装備で、普段から戦闘装備だという変人の名はブレンといった。嘘か本当か、鎧を着たままでこの町まで走ってきたという。オホーラのお墨付きなので強いのだろうが、到着した途端爆睡していたりと扱いには難ありな気がしている。
更に、ステンドの要請で運用係として、イーデットという探索者がベリオスの町に来たものの、道中で魔物に襲われた際に厄介な毒を受けたらしく、絶対安静状態で隔離が必要になってしまった。そこで、代理としてなぜかウェルベーヌが立候補してきたので、試しにイーデットの知識などを伝授してもらうと、短期間でそれなりの形にして役立ちそうなことを証明してしまった。元々何をやらせても器用だとは思っていたので、本人の強い希望もあり代行を任せることになった。
こうしてウィズンテ遺跡の攻略隊が出揃った。先の三人を加えて、クロウにステンド、ロレイアにテオニィール、生身のオホーラという総勢8人だ。オホーラは今回のために特注のオトラ椅子を作っての参加だった。オトラというのはモグラとネズミを足して二で割ったような魔物で、小動物ながら力があることで知られており、車輪の代わりに椅子の足元にオトラ配置して移動するという仕組みだ。機能は凄いが見た目的には禍々しいので、町中ではとてもじゃないが走らせられない代物だった。
どのくらいかかるか未知数だが、その間の町は領主会の方で切り盛りしてくれる手はずになっている。
見送りに来た商人長のナキドは、その一行の奇抜な状況を見て「噂に聞く仮装パーティーの類かね?」と漏らした。鎧男に全身ローブ少女、奇妙な椅子に座った老人に、メイド服に籠手や胸当てをつけた使用人という編成を目の当たりにすれば、そう思うのも不思議ではないだろう。
「必ずや前代未聞の下層到達を成し遂げて来るよ!」
「お前が仕切るなっ!」
「前人未到というのが適切かと思います」
テオニィールが号令をかけた途端、即座に突っ込まれながら、攻略隊は出発した。
「とりあえずオレが前、その次にブレンのおっさん、クロウと続いて魔法士連中って感じになるが、後ろの物理担当がいなさすぎか?」
例の審問の間まではほとんど魔物もいないので、作戦を立てながら歩いていた。
それぞれが準備で忙しかったこともあり、まともに作戦会議もしないまま勢いでこの日を迎えた一行だ。最上級の遺跡攻略に対してありえないほどの突貫編成だが、それを問題視している者はほとんどいない。勝手が分かっていないこともあるが、妙に自信家が多いこともその理由の一つだろう。更に言えば、まったく根拠のないどうにかなる精神が根底にあるのは、オホーラの存在があるからだ。
「わしがおれば問題なかろう。ウェルベーヌ嬢も思いの外戦闘ができるようじゃし、安泰じゃろうて」
「恐縮です。殿はしっかりと務めさせて頂きます」
眼鏡のフレームをくいと上げながら、地下遺跡にまったくそぐわないメイドが返事をする。この二人には謎の安心感があった。
「ふふふ……前方からの敵は我の肉体美ガードで完璧に華麗に防ぐから安心召されよ」
「肉体美ガード……伝説の無駄に鎧がパージする謎仕様の技……」
「おおっ、ミーヤ殿は我のビユーティフルな美技を知っておいでかな?」
「噂で。伝説の傭兵騎士団イェゼルバイドの防衛美士」
「伝説の傭兵騎士団?」
気になる単語だったので、クロウは口を挟む。
「今は解散したって話だが、最強のフリーな傭兵の集まりだった奴らだ。てか、マジで所属してたのかよ、ブレンのおっさん?」
「後ろは振り返らぬ主義だ。過去に栄光なぞない。何より前を向いてこそ美しいというものだよ」
「というか、皆さん軽装ですけど、こんな手ぶら状態で本当に大丈夫なのでしょうか……?」
ロレイアが疑問に思うのも当然だろう。何日もかけて地下に潜るために準備してきたはずだが、誰もたいした荷物を持っていない。かろうじて運用係のウェルベーヌが何かを詰めた大袋を背負っているぐらいで、他に荷はない。運用係がそのためにいるのだとしても、8人分をあれだけで賄えるとは思えなかった。
慎重なロレイアは最低限、自分の分くらいはと精査を重ね、邪魔にならない程度の食料やら薬草やらを詰めた麻袋を腰にぶらさげてはいるものの、それでも心もとない状態だった。探索の基本が分からないのでステンドに聞いたのだが、どうにかなるとまったく助言もしてくれなかったのだ。
「遺跡探索ってのは基本、現地調達って言っただろ?魔物を食ったり皮を剥いだりして、寝床にするんだ。水だけは確保しなきゃなんねーが、たいてい地下水脈があるし、地下世界には川とかもある。濾過したり魔法でどうにかすりゃ、飲み水も確保できるってわけだ。下手に荷物を持ってても戦えねーし、運用係の姉さんが他は補ってくれるわけさ」
その説明は聞いてはいたが、それでもやはり不安になる。
テオニィールがその肩を叩いて、大丈夫だよという風に親指を立てているが、ロレイアは無視した。このお調子者の魔法士はあてにしていない。今回も早速しゃべり倒してきて、うるさいという満場一致の裁定で沈黙の魔法で黙らされている。まったく学ばない男だった。もともと、攻略メンバーには入っていなかったのだが、一応連れていくというオホーラの一言で参加している状況だ。何かの役に立つ日が来るのだろうか。
「何にせよ、臨機応変にやるしかないじゃろうよ」
「賢者は遺跡攻略経験者?」
ミーヤは意外におしゃべりなのか、質問をすることが多い。あるいは、参加者のことを探っているのかもしれない。合流してから日が浅い。今日がほとんど初対面に近いのだ。
「遠い昔に何度か、じゃな。古代魔法の研究で足を運んでおった。その時にブレンとも知り合ったんじゃよ」
「ふふふ、懐かしい思い出ですな。あの頃はまだ我も若かった」
そんな会話をしていると、あっという間に審問の間に到着した。ここまでの魔物は少ないので、何の障害にもならなかった。
「さて、それじゃあ、こっからが本番だ。覚悟はいいな?」
ステンドを先頭に、中層への階段をゆっくりと降りて行くのだった。