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選択死  作者: 雲散無常
第十二章:裂傷
137/137

12-7

 

 闘技場もどき、と呼称されるのはその造りの荒さゆえなのだろう。

 円形の舞台とその周囲を囲む観客席。三段の階段状に設置されているが剥き出しの石のベンチ。最上段の貧客席も装飾もなく無機質な印象を与える。

 今日は開催していないらしく、客はそれほどいない。まったく皆無ではないのは、練習風景なども公開して闘技者のコンディションなどもチェックできるようにという配慮だ。

 それだけ熱心に通っている者がいる証拠であり、ここがそれなりに盛況だということだ。

 先程外で聞いた歓声は実際の試合のものではなく、人気選手のパフォーマンスに対するものだったらしい。奴隷中心の場で意外な一面だった。客層的にあまり偏見がないのか、それ以上の何かがあるのか。クロウは奴隷に含むところは何もないが、身分を気にする者が多いことは知っていた。身分社会は確実に存在する。

 そうでなければ、装石などでわざわざはっきりと明確にさせる必要はない。

 案内された一室で数分待っていると、相手はすぐに現れた。意図的に待たせるなどの駆け引きはするつもりがないようだ。

 「お待たせして申し訳ありません。ベリオス領主会のロウ=ダイゼル=シーリッジ様とその従者のウェルヴェーヌ様でよろしかったでしょうか?」

 部屋に入ってきたのは二人だ。

 女性にしては身長の高い軍人のような人物と、対照的に童顔で背の低いペアだった。身なりは小奇麗でしっかりとしている。

 「ああ、こっちこそ急に訪ねて来て悪いな」

 ベリオスの町代表としての視察という名目での面会だ。何か向こうからも連絡があったという話なのですんなりと通った。

 「いいえ。こちらこそ早速の訪問ありがとうございます。こちらがヤーブ奴隷商会の会長ヒルダ=オーサリドールで、私はその部下のマルギットです」

 小さい方が主体で進めるつもりのようだ。主のヒルダはただ黙ってクロウを見定めるように見つめてくる。

 くすんだ金色の髪の側面を刈り上げた凛々しい顔立ちで、奴隷上がりとは思えない立派な外見だった。左耳に平民の証である黄色のシジャラム鉱石、右耳には奴隷だった名残の茶色マカラム鉱石のピアスが埋め込まれているので、すぐに判別はできるのだが。

 たとえ奴隷ではなくなっても、両耳に埋め込んでいることでその経歴は隠せないのがこの大陸の習わしだ。対して、マルギットは元々平民らしく片方のみだった。身分的には主従が逆転しているように見えるが、ヒルダが元貴族の可能性もあるので何とも言えない。装石跡を見れば分かるものの、まじまじと観察するのは失礼にあたる。

 「そうか。領主の代わりに視察に来たロウだ。早速本題に入りたい。賭けで負けたやつを奴隷契約で取り込んでいるっていう話だが、本当か?」

 クロウは直接切り込んだ。回りくどいやり方は得意ではない。

 「……取り込んでいる、というのには語弊がありますが、事実ではありますね。それと奴隷契約というのも少し言葉が強すぎるかと思います。こちらとしては、未払い金の返済義務を確実に行ってもらうための救済措置と考えています。逃亡を阻止しつつ、効率的且つ無理のない返済を組める点で最適かと」

 マルギットは見た目に寄らず、大分教養のある話し方だった。

 「確かに奴隷云々については、まだベリオス側で環境整備が追い付いていないところもある。けど、実質的に奴隷のように扱っていないかどうかを調べたい。その契約書を見せてくれ。あと、直接本人とも話をしたい。かまわないよな?」

 立場的にはクロウの方が上位だと聞いている。高圧的に出ても問題ないと賢者からは助言があっために、質問ではなく確認で話を進める。

 「もちろんです。契約書はここに。後ほど、契約者本人とも話をする機会は設けます。こちらとしても、ベリオスの町の規律を乱すような意図はまったくございません。ただ、踏み倒されないための暫定的な処置として労働する場を提供しているだけですので」

 すらすらと答えるマルギットから、契約書を受け取ってウェルヴェーヌに渡す。メイド長の方が理解が早いだろう。

 オホーラもそこから確認できる。使い魔状態で会話できることは無闇に外部の人間に明かすことではないため、賢者はずっと使用人頭の頭に隠れて黙っていた。

 あちらの返答からして、あくまで借金返済のための労働だという主張のようだ。

 「具体的には何の労働だ?」

 「闘技の一つに激突戦の団体戦がありまして、そちらへ参加してもらっています。これは1チーム15人から組むものでして、個々の負担がそれほど大きくありません。個人戦ではさすがに向き不向きがありますから」

 「団体戦だとしても、要は肉体労働だろ?体格とか先天的なもんで不向きなやつもいると思うが?」

 「激突戦を見たことがありますでしょうか?主要な人数はその名の通り身体をぶつけ合う肉弾戦ですが、最終的には相手の掲げる旗を倒すというか奪う棒倒し的なものなので、小さくても素早く動ける者、全体を俯瞰して指令を出す者、軽度の魔法も使用可能なのでサポート役など、役割は色々とあります」

 「なるほど。そういう役回りがあるわけか。けど、15人は多いな。元々お前んとこの奴隷たちはそれほど多くなかったのに、最初から闘技の種類を間違えたんじゃないか?」

 「仰る通りですが、目玉となるものが必要でした。個人戦では飛び込みを許可しても、一試合に対する還元率はたかが知れています。総客数の母数をまずは広げるために、迫力があって目立つものが必須でしたので」

 「宣伝で団体戦か。俺は良く知らないが、確かに珍しいみたいだな。人数が多いと派手に見えるし、これも飛び込み参加OKとなりゃ人も集まるか。結果的に成功はしているし間違ってはいないんだろうな……」

 クロウはふむふむと頷いた。突撃戦というものは知らなかったが、30人が戦う様は迫力があるであろうことは容易に想像できる。

 「けれど、その団体戦が思ったより盛り上がっているからこそ、奴隷契約をする羽目になっているのではありませんか?」

 ウェルヴェーヌが契約書を一通り読み終わってから、鋭い視線をマルギットに向けた。何か掴んだらしい。

 「……それも事実ではあります。こちらで用意できるチームはどう頑張っても二つ。毎回この対戦では傾向と対策がすぐに取られてしまいます」

 賭けの対象である以上、それはまったくその通りだ。2パターンでは均衡していたら二分の一の確率でしかない。胴元としては、恣意的な操作なしでは儲けられないことになる。だからこそ、飛び込みも許可したのだろうが、それでも3チーム。目玉としては弱い。

 そこで大負けした人間を引き込んでチームに組み込むという荒技に出たということか。賭けていた側が賭けられる対象になるというのは、知り合いにとっても面白いものに映るだろう。見知った者が勝つか負けるか、そこに魅力が出る構図も分からなくはない。

 「それで、奴隷契約で無理やり出す今の状況になったわけか……」

 「訂正させて頂きますが、無理やりではありません。強制力はありますが、そこまでゴリ押しはしていません。他に返済の目途が立つのなら回避することも許可していますし」

 「その辺の実態は後で直接本人たちから聞こう。で、暫定的な奴隷契約と言っているが、最終的に返済ができなかった場合はどうするつもりなんだ?本当に奴隷に落とすのか?」

 今回の問題の本質はそこにあるとクロウは思っていた。

 ベリオスの町では奴隷に関する町葎がまだ定まっていない。今現在のヤーブ奴隷商会の見解を知っておきたい。

 そこで初めてマルギットが主のヒルダを見た。ここからは交代ということか。

 「ウチとしては、基本的に奴隷降格させるつもりはないわ。この町にまだその法がないこともあるし、個人的に一度奴隷に落ちることの厳しさは知っている。最終的な判断はそっちの町律ができたときに決断を下すつもりよ」

 はきはきとした口調でヒルダは結論をずばりと言った。内容的には様子見だが、方針ははっきりとしていた。

 「であるならば、焦点はこの間の契約者たちの扱いが奴隷的であることをベリオス側が許容するか否か、ということになりますね」

 「そうなのか?」

 クロウはいまいちよく分かっていなかった。思わず聞き返すと、ウェルヴェーヌが物凄い目で睨んでくる。今の反応は失言だったようだ。

 「ロウ様。良くお聞きください。奴隷関連の法整備が遅れているのは確かにこちらの落ち度ではありますが、だからといって勝手に奴隷のような立場にするこのような契約を認めては、悪しき前例となります。本来なら、この契約を交わす前にこちらに連絡があって然るべき類の内容ですので」

 「ウェルヴェーヌ様の言い分はごもっともですが、こちらとしても負債者が逃亡してしまうリスクがあったため、連絡が遅れたことを補足させていただきます」

 「その連絡はついさっき届いたのですが、それまでに既に何十人も契約を結ばれていますよね。包み隠さずリストに載せているのは結構ですが、随分と悠長な報告ですね」

 「人手不足でして申し訳なく思います」

 まったく反省していない様子でマルギットが首を垂れる。この辺は外交術のような形式的なやりとりのようだ。

 クロウにはまったく理解しがたい世界をウェルヴェーヌは淡々とこなしてゆく。どうやらオホーラの入れ知恵が入っているようで予定調和に進んだ。

 皮肉と婉曲的な問責に対して表面上だけは謝罪して言い訳する問答がその後もしばらく続き、最終的にはベリオスの町律で奴隷に関する規定が決まるまでは暫定的にヤーブの契約書を有効とするが、その保証権利はベリオス側が持つことに落ち着いた。実質的にヤーブ奴隷商会の奴隷候補をベリオス側の管理下に置くという搾取のような形だった。

 ヤーブ側として認めがたいと思われたが、契約自体がベリオスの不手際の隙間をついたもので合法かどうかも怪しいことは自覚していたのだろう、ヒルダたちはあっさりとそれを認めた。敵対する意思はないというアピールでもあるようだ。

 初めから落としどころとして想定していたのか、この進行を当然のものとしてマルギットが次の話題を切り出してくる。

 「それでは次に、こちらが報告した亜人の件に関してはいかがでしょうか?」

 さらりと聞き慣れない言葉が出て来て、クロウは一瞬固まる。

 アジンとは何か。

 そう口に出しかけて先程ウェルヴェーヌに睨まられたことを思い出して踏み止まる。同じ轍は踏むまい。亜人とは獣人のことらしい。少し冷静になってすぐにその意味に思い当たる。

 オホーラが敢えて何も言わなかったのはこちらの方だったようだ。今後も含めて、これらの問題にどう取り組むのか自分で考えろということだろう。

 つまり借金を抱えた亜人がいて、その取扱いに困っているという推測が立つ。奴隷同様、その辺りもまだきっちり決まっていないということか。

 「ああ……それも一度、直接話をしてからだな」

 クロウがそう言うと、ヒルダ自ら案内をするように「こっちだ」と先導し出した。この展開も想定内らしい。無駄なく、動きが早い。

 何だか自分だけが何も知らないまま、踊らされている気がしてきたクロウだった。




 大陸内における亜人の占める割合は少ない。

 昔はもっと交流も盛んだったらしいが、今は一部を除いてほとんど断絶している。

 とはいえ、まったくいないというわけではなかった。大陸の西地方ではそれなりに見かけたり、要職についてる者もいる。

 その仲で一番多いのは探索者かもしれない。ミーヤのような上位階級は少ないが、戦闘職で活躍している者が多いというのが一般的な大陸人の認識だった。

 翻ってベリオスの町ではどうか。

 圧倒的に希少な存在だった。大陸の東全般でと言い換えられるほどだ。ほとんど見かけることはない。

 詳しく聞いたことはないが、ミーヤが普段からその耳を隠しているのも土地柄のせいなのかもしれなかった。

 人は自分と違うものを排除しがちだ。区別と差別の違いが曖昧な人間は多く、明確にそれを自覚して行う者もいる。つまりは、獣人を忌避する傾向が強い。その背景を踏まえて、ヤーブ側はこちらに連絡してきたのだろう。

 ヒルダとマルギットに連れられた場所には一人の獣人がいた。壁際の鎖につながれている。

 犬系のシーナ族で、獣人では一番多い代表種だった。半獣のような外見でほぼ全身が茶色の毛皮で覆われていた。手足と顔がまだ人間の姿で、かろうじて理性は保っているといった様子だ。浅い呼吸にうなだれた格好と、見るからにぐったりとしている。

 「やたら衰弱しているようだが、どういう状況だ?」

 一見すると監禁状態で痛めつけた後に見えるが、そんな惨状をわざわざ見せつけてくるはずがない。

 「彼女の名前はフェンマオ。賭けで負けた分を雑用で払うってことで働いてもらってたんだけど、一部で揉めて暴走した。獣化して暴れて手を付けられなくなったんで、こうして拘束している」

 ヒルダが淀みなく説明する。

 「知っているとは思うけど、獣化ってのは先祖返りとも言われるほど今では超貴重な能力だ。彼女はそういう意味でもこっちの手に余る存在だし、その能力も使いこなせていないように思える。おまけに、ベリオスの町で亜人の取り扱いがどうなっているか不明だった。だから、判断を仰ぎたい」

 奴隷の次は亜人の扱いについて、ということか。

 クロウは頭が痛くなってきた。領主なんてなるものじゃない。知らない問題が勝手に押し寄せてくる。聞かなかったことにしてもう眠りたい。

 などと現実逃避しても意味がない。真正面から向き合うしかなかった。

 獣化というのはココの時に知った。亜人は普段は人間の姿だが、元来の獣に近い形態にもなれるというやつだ。それが暴走して制御できないのは確かに問題だろう。確か肉体強度などが人間に比べて格段に力強くなるという話だ。鎖につながれている理由は分かった。

 今度は、その扱いについてベリオスの町律ではどうなっているのかだ。知らないことは聞かねばならない。

 ウェルヴェーヌに視線を向ける。実際はオホーラに、だ。すぐに察してくれる。

 「基本的には獣人、亜人も人間と同じ者として扱います。これはオルランド王国属領時から同じです。特殊な事由がない限り区別はしません」

 「獣化ってのはその特別な事由に入りそうだな?それとも、人が乱心して暴れるのと同じ扱いか?」

 「……獣化しているのはその姿から分かりますが、その過程が不明です。揉めたというのは具体的にどうのようなものですか?」

 ウェルヴェーヌの疑問にマルギットが答える。

 「亜人差別の類です。フェンマオが料理の用意を手伝っている際に、亜人が人間の食事に関わるなと罵倒されたことがきっかけで争いになり、エスカレートしたという感じです。突っかけた方が怪我する事態になって、喧嘩両成敗でいいのかどうか、というところで難しい判断で下せません。傷害事件ですがその原因は自業自得であり、一方で獣化までしたのは過剰暴力とも言えまして……付け加えると、その獣化がおそらく無意識で故意ではなく、未だに解けていないのも良く分かりません。それで体調を崩していますが、こちらの治療士は亜人については知識が足りていないとのことで役立ちませんでした」

 亜人自体がレアなのでその治療知識となれば更にハードルが高い。そのこともあって連絡を寄越したわけか。

 「怪我した方は手を出していなかったのか?」

 「掴み合い程度にはなったようですが、直接的に殴ったのは亜人のみだと聞いています」

 差別的発言でかっとなって思わず獣化して怪我をさせたというならば、怒らせた方が悪いと思う反面、手を出していない相手を一方的に殴った事実はあまりよろしくない。だが、それほど激昂させた侮辱だったと考えると、単純に物理的な比較で決めていいのか分かり兼ねる。直接的な肉体への攻撃でなくても、精神的な傷というのも過小評価すべきではないと聞いている。

 クロウにはその辺の機微は分からないが、トッドの件もあって人間の心情というものも軽く見てはいけないと学んでいた。

 難しい問題だとクロウが考え込んでいると、オホーラの助言らしきものをウェルヴェーヌが代弁してくる。

 「確かに怪我をさせたのは行き過ぎに見えますが、その差別発言がどれだけ亜人にとって屈辱的なのかは人間の観点では推し量るのが難しいでしょう。軽々に断じるには亜人の文化を知りません。まずは本人から事情を聞いてみたらいかがでしょう、ロウ様」

 元々そのつもりでここに来たのだった。先に概要を聞かされてすっかり忘れていた。

 クロウはフェンマオに近づいて尋ねる。

 「聞こえるか、フェンマオ?お前の言葉で事の経緯を話してくれないか」

 「……マルギットさんの説明、だいたい合ってる。ただ、あの毛なし野郎はあたしのジランカを馬鹿にしやがったんだ……それは許せない……」

 「ジランカ……?悪いが、その意味を知らない。教えてくれ」

 「無理。あんたらの言葉には多分……ない。先祖からの誇り、栄誉?他人が……口出していいものじゃ、ない……まして、バカにするなど、死罪……」

 良く分からないが、どうやら亜人の禁忌に触れたらしい。地雷を踏んだというやつか。

 「なるほどな……けど、そのバカの肩を持つわけじゃないが、そっちの常識を分かっていない事情も汲んで欲しい。事前に知っておくことがベストだろうが、そうできない時もある。今も俺はお前のジランガが何なのか、どこにあるのかすら分からないから、知らずに悪く言っちまう可能性がある」

 「ジランカ、だ。分かってる……だから、一度は許した……あの毛なしはそれでも繰り返した……殺されても、文句は……言わせない」

 フェンマオは苦々しい口調でそう吐き出した。今更ながら、その掠れた声は女のものだと気づく。顔の部分も随分と犬に同化しているので分からなかった。

 「そうか。それならお前は正しい。今回は悪ノリでお前を貶した方が悪い」

 「それで、あの毛なしが納得、するか……?決闘でもいい……あたしに、殺させて、欲しい……」

 そこまで言わせるほどの屈辱なのか。今後のためにも知識として広めておくべきだと思っていると、ウェルヴェーヌが別の質問をする。

 「然るべき罰を与えますが、殺人を許可はできません。それよりも、貴方様のその獣化をご自身で解くことはできるのですか?暴走の危険がないと確認できない限り、この拘束から解放することが難しいですし、治療もまともに受けられないかもしれません」

 「あたしにも……分からない……こんな変態したのは、初めてだ……ごほっ、ごほっ」

 フェンマオはそれから激しくせき込んだ。つながれた鎖がきしみ、つられて勝手に身体が引っ張られる。あまりに痛々しい様子だった。

 「とりあえず、ベッドで寝かせる形にしてやれ。この状態じゃ回復も厳しいだろ?」

 「その気持ちは分かりますが、また暴れられると本当に困るのですよ。こうして抑えるのにも、ウチの力自慢が5人ほど必要だったのです」

 マルギットが心底申し訳なさそうに頭を下げた。

 相当派手に暴れ回ったようだ。そこまで怒らせたバカはやはり重い罰でいいだろう。

 「そう言うな。とりあえず、いざとなったら俺が抑える。それと、オホーラ。ミー……探索者ギルドの例のヤツに連絡してくれ」

 ミーヤと言いかけて言葉を飲み込んだ。本人は獣人だと知られたがっていなかった。今回のような話を目の当たりにすると、その警戒心も分からないでもない。

 「……失礼ですが、賢者様とつながっているのでしょうか?」

 オホーラの名はがっつりと口に出していた。クロウはしまったと思ったが、今更いい言い訳も思いつかない。

 「……賢者様とは特殊な通信手段があります」

 ウェルヴェーヌがそう説明してくれるが、クロウに向ける視線はどこまでも冷たかった。ただし、口元にはあの微笑。

 これは後で説教されるやつだと悟る。

 なかなかうまくはできないものだとクロウは嘆息するしかなかった。


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