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探索者という職業がこの世界には存在する。
その主な仕事内容は、大陸に点在する地下遺跡の探索だ。魔物に特化した戦闘が可能で、古代遺跡などの造りや罠、古代語などを解する能力が必須とされる。勿論、その全てを兼ね備えている者は稀で、それぞれに役割分担をして何かを専門としていることが多い。
ステンド=イリマトゥーニという男は、そんな探索者と呼ばれる者の中でも優秀な部類に入る先導役だった。その役割は文字通り遺跡の先頭を進み、探索者の仲間を安全な道に導くことだ。罠士ほどその手の仕掛けや解除に長けてはいないが、いち早く危険を嗅ぎ取り、必要に応じて魔物にも対処しなければならない重要なポジションだ。探索者ギルドの階級別でA級であることからも、ステンドの有能さは裏付けられている。特級扱いのS級が大陸では数人レベルであることを思えば、通常の最上位であるA級であることは十分に評価されるだろう。
そんな人間がなぜベリオスのような辺境の町で雇われているのかと言うと、町の地下に古代遺跡があることが分かったからだった。
というよりも、ステンドは別口でその遺跡を探索していたところ、たまたまベリオスの町にたどり着いたという流れの方が正しい。数奇なタイミングの一致により、領主のクロウと出会ってしまったのだ。こんな展開になるとは思ってもいなかった。
軽い気持ちで魔法岩人形排除を申し出たところ、相手が想定外にしぶとく強かったため、これを完遂できなかった。最終的には領主のクロウがどうにかしたのだが、契約不履行となったことで、それを逆手に取られた形で古代遺跡探索の任務を押し付けられた。
一応新たな契約ではあったが、大分足元を見られた感があるのは否めない。ステンドとしても引け目があったので、なし崩し的に承諾してしまった形だ。仕事内容としては職業的に正当であるし不満はなかったのだが、何か引っかかるものがあったのは事実だ。
そのしこりのようなものの正体が何かは分かっている。
クロウの特殊技能だという使い魔ラクシャーヌの存在だ。
自律思考して動き回れる、どこか偉そうなその存在こそが苛立ちの元だった。幼女の獣人のようなその外見からは想像できないほど、ラクシャーヌは大人びており、何よりもその振る舞いはステンドを明らかに見下している節があった。例の魔法岩人形を倒せなかったことが原因だ。実際、ラクシャーヌが追い払ったこともあり、完全に下に見られている。
ラクシャーヌの言葉は未知の言語で理解できないのだが、その表情や身振りで時折何かけなされているような気配は感じられた。実に不本意だった。
クロウだけにはラクシャーヌの言葉が分かるらしく、気になった時は翻訳を頼んでいたが、最初の頃はまだ幾らか柔らかい表現に置き換えて教えてくれていたものの、最近は誰かの入れ知恵なのか、沈黙することにしたようだ。逆にそれで察せてしまう。
その性格面はともかく、ラクシャーヌが特殊技能としてはかなり破格な性能であることは間違いなく、当初はクロウを野良の転生人かと思っていたが、無所属と呼んでもかまわないと考え始めていた。
ちなみに、クロウは野良と無所属の違いも分かっていなかった。簡単に言えば、召喚の儀が何らかの理由で失敗して、召喚者のもとに出現しなかった転生人のことだ。召喚されたがその能力が期待値を下回った場合などに、国から放逐された転生人のことを野良と言う。総じてそういう者たちの能力は低く、転生人の落ちこぼれとして見られる傾向にあり、その蔑称のような形で野良の転生人と揶揄されたりもする。
一方で無所属とは、国に属さない転生人でありながら能力的には突出したものを持っており、一目置かれる存在の者を指す。基本的にはどこかの国お抱えの転生人であることが、有能の証となるのだが、稀にそこから外れても特殊技能が優秀であれば十分に役立つことを証明し、逆に国に囚われない人材として重宝されることもあるというわけだ。
ステンドが雇われているのは、同じ転生人としてのそうした知識を買われている面もある。
転生人が個人的な記憶の大部分を失っているのは、その特性上普通なことだが、クロウの場合は名前すら忘れているということでかなり珍しいことは確かだ。極端な秘密主義で、そう装っている可能性も疑ってもみたが、どうやら本当に何も覚えていないらしく、少し同情を覚えるほどだった。
ステンド自身、ほとんどの記憶を失くした状態でかなり不安になったものだ。それでも自分の名前やなんとなくの性格など、最低限のアイデンティティは保っていた。それがほぼゼロだったクロウの精神状態は想像するだけで恐ろしいと思う。
実際、クロウの感情というか精神面には通常の人間とは違った反応が見られることが多い。そのことを本人も気づいているのか、よくオホーラに相談していた。
現に今もなぜか、ステンドもその会話に巻き込まれていた。本来は別の用件で来たはずなのだが、道楽の賢者と名乗るこの識者と話していると、話題が様々なところへ飛ぶのはいつものことだった。
「……ってことは、普通はやっぱりためらうところだったんだな?」
「おぬしの言う普通が、一般大衆を標準にしたものならばそうなるな。一方で、他人を殺すことに何の感慨も抱かない者は多くはないが一定数はいるゆえ、そちらを基準にした場合はおぬしが何も感じなかったことに何の疑問もない。要は価値観の違いとなる」
オホーラが言及しているのは、先のクロウの特殊技能によって犠牲になった町の者たちへの感情だ。使い魔の魔力が足りない分を、周囲の人間の命で代替して対応したという。クロウはそのことに関して、まったく痛痒がなかったようだ。そのことが普通とは違うのではないかと自身で違和感を覚えているらしい。
記憶がないということは、そのような一般的に抱く感情、事象に対する反応として湧き上がる感情すら過去の経験から比較できないので、どういったものが正しいのか分からないということらしい。
ステンドも記憶を失っているとはいえ、そうした時の感情は曖昧としたものでも過去に同等の経験をしたという確信はあり、自分が抱く感情にそうした疑問を持つことはまったくない。クロウの記憶喪失はやはり特殊だと思わざるを得ない事例の一つだ。
「俺自身、そこら辺は気にしなくてもいいとは思ってるんだが、それでもやっぱ一般的な感覚は覚えておくべきだという考えがあるみたいでな。基準を知った上でそこから外れていると自覚するのはいいと思うんだが、それしか知らないからそれでいいというのが、どうにも気持ち悪く感じるというか……言ってる意味が分かるか?」
「完全に理解しておる。おぬしには記憶がないとはいえ、確固たる信念のようなものがあるのじゃろう。無意識的にその筋を通そうとしておるから、事あるごとに軸を外れた際に違和感を覚え、且つその違和感の実態を言語化できないことに不快感を感じる、そういったことであろうよ」
「ああ……確かにそんな感じだ。さすが、賢者と名乗るだけあって理解が早いな。俺の中で常にもやもやするのはやっぱ、自分が正しいと思っていても、その確信となる根拠とか理由に自分が納得がいくかどうかの判断、そいつが俺だけでできないことだな。お前に話すと、それがかなり明確になって助かる」
「ひょっほっほっ。わしにとってもおぬしの思考回路やそうした話は興味深い。利害が一致する以上、お互いに利用し合うのが健全であろう」
「なんだか意識高い系の話に聞こえるが、オレがいる場で話していい内容なのかそれ?クロウのかなりプライベートな部分がさらけ出されている気がするんだが?」
ステンドは自分が場違いな気分になっていた。
「こやつはそのようなことを気にする輩ではない。他人がどう思うかなどという卑小なことを気にしないからの。まぁ、だからこそあまり矢面に立つような役割にもふさわしくないのであるが」
「だから、領主代理なんてもんを作ったわけか。オレには政治的なもんはよく分からないが、今の話を聞くと頷ける部分はあるな。商談だろうと何だろうと、相手を見て話す内容は変えるもんだ。クロウの場合、そんな器用な真似ができる気がしない。というか、する気もなさそうな時点でダメだな」
「うむ、そういうことじゃ」
「なんか、馬鹿にされてる気がするな……?」
「気がするではなく、されておるのじゃないか?」
ラクシャーヌがぬっとクロウの身体から這い出てきた。何度見ても、その光景は奇妙だとステンドは感じる。子供が見たら軽くトラウマになってもおかしくなレベルだ。相変わらず、何を言ってるのかは分からなかったが。
「おい。なんで出てきた?」
「どうにも話が逸れている気がしたからの。気泡集積というやつじゃ」
「……軌道修正って言いたいのか?そういや、ステンドの持ってきた話の助言をもらいにきたんだっけか」
クロウは本題を思い出したように軽く肩をまわした。
「ああ、チビ助が何を言ったか知らんが、もうその話をしていいのか?」
ステンドはようやく自分の出番だと思い、この機を逃すまいと食い気味に言った。
「誰がチビ助じゃ!こやつ、まだ自分の立場を分かっておらんようじゃのう」
ラクシャーヌがしゅっしゅっとパンチを繰り出してステンドに殴りかかるが、その額を片手で抑えつけられてリーチが届かない。
「ぐぬぬ!!おい、クロウ!わっちへの侮辱はおぬしへの侮辱でもあろう。こやつを殴れ!」
「知るか。話が面倒になるからお前はちょっと黙っていろ」
「何たる裏切り!おぬし、あとでこっそりたっぷり血を吸ってやるからな!」
「その脅しは洒落にならねえからやめろ」
二人の言い争いの雰囲気は感じるが、ラクシャーヌの言葉が解せないステンドにはやはり状況が良く分からない。
「それで……オレの話をしていいのか?」
「ああ。気にしないで進めてくれ」
未だに自分を攻撃しようとしているラクシャーヌを無視するのは難しいが、また関係のない話を聞かされるのも御免だったので、ステンドは地下遺跡の奇妙な空間について、オホーラに意見を求めた。
「ふむ……その空間なぞどうでもいい。それよりも、兼ねてより考えていたことがある。遺跡を利用すべきじゃ」
オホーラは珍しく書き物の手を止めて顔を上げた。普段は人と話すときも絶えず何かを書き連ねている賢者は、マルチタスクが得意らしく常に書物を読み漁るか研究をまとめて記述をしている。時間がもったいないということで、合理的な考えではある。特に自室にいるときは顕著で、会話をしていても一度も視線が合わないことは日常茶飯事なほどだ。周囲はもうそういうものだと気にしなくなっていた。
「ど、どうでもいいってそりゃないだろ!?」
やっと本題を告げたものの、一瞬で蚊帳の外に置かれてはたまらない。ステンドは食い下がろうとするが、クロウにも遮られる。
「どういうことだ、オホーラ?」
「ここベリオスの町の財源状態を把握しておるか?前任者が無能だったせいでまともな帳簿もないのだが、少なくとも収入源に関しては領主会の聴取からもたいしたものがないことは分かっておる。つまりは復興資金が足りん」
「ああ、基本的にこの町は自給自足で金の流通自体が少ないってのは聞いてる。閉じたコミュニティ、要するに自分たちだけでどうにか成り立ってるって話だろ?」
「その通りじゃ。ゆえに、平常時以外で資金が必要になったときには外貨獲得が必須になる。大陸での通貨は基本的に王国通貨か帝国通貨じゃが、ここは東部地域に属するため王国通貨で、その獲得の手段が重要になってくるわけじゃな」
「修繕費とかの予算の捻出に、外貨ってやつが足りないって話になるのか?そんな報告を受けていた気がする」
「ものを直すためには人件費も材料費もかかる。当然、その調達もな」
クロウはその意味がようやく分かりかけてきた。町や土地そのものが損害を受けている状態だ。平時のようにそこから資材を持ってくるわけにはいかないということだ。町の外から調達する必要があり、そのためには金が必要となる。
「この町は独立都市のような運営をしながら、周囲との交流がほぼない。それなりの人口がありながらも、実態は僻地の村社会という状態じゃ。災魔による被害で使える人手や材料も削られているゆえ、まさに泥沼状態なことをあまり皆理解しておらん。このままではすべてが立ち行かなくなる」
「なるほど……けど、それと古代遺跡がどんな関係があるんだ?」
「おいおい、爺さん。まさかここの古代遺跡を開放しようって話なのか?」
ステンドは賢者が言わんとする内容を理解して、思わず先に言葉にしていた。
「腐っても探索者のようじゃな。まさしく、わしはそうすべきだと進言しておる」
「開放?どういうことだ?」
クロウは未だに話についていけていない。ステンドが説明を始める。
「古代遺跡ってのは俺たち探索者にとっては宝の山なわけだ。古代って言われるだけあって歴史的に重要な遺物とか、失われた技術が記された石板だとか価値が高いものが眠ってる。単純に金銀財宝、高威力・高魔力の魔道具とかも見つかる。そんな価値の高いもんがわんさかあるって分かってる場所だぜ?当然、そこが領地内であれば国がその権利を主張する。自分の敷地の金鉱をよそにただでやる馬鹿はいないだろ?」
「つまり、金を取って開放するみたいな話なのか?」
「そうだ。地下遺跡ってのは魔物の巣窟ってのが常識で、実際、ただ歩いてりゃ宝が見つかるってはずもねー、危険と技術が伴う調査活動が必要だ。そのための探索者って職業なわけだが、オレたちは基本的にはギルドに登録していて、正式な依頼や契約の元で遺跡の探索を行う。だから、まずは今回の遺跡を通達してギルドから人を派遣してもらうって話だな。そうすれば一定数の探索者が調査発掘して、宝物は基本的に国のもんだ。発見者に配分しても儲けは莫大だぜ。それに探索者が増えれば町は賑わうし、商売人も嗅ぎつけて来る。人も物も流通は爆発的に増える。爺さんはそれを狙っているんだろ?」
「ひょっほっほっ。おぬし、なかなかに世の中の仕組みが分かっておるの。今のは探索者方面に限っての話じゃが、古代遺跡の上層辺りは基本的に魔物も少なく、安全が確保できていれば、昔の建築物やら意匠やら見所はなかなかあってな。高尚な歴史の研究でも興味本位の物見遊山でも、金のある者は自然と集まってくる」
「……良いこと尽くめの話に聞こえるな。けど、さっきのステンドの反応だと、何か面倒なことがありそうだな?」
クロウは、ステンドの最初のリアクションに引っかかりを覚えていた。諸手を挙げて歓迎、というような雰囲気ではなかった。
「ああ、前提が問題だ。今回この町で見つかった遺跡は未知のものだから、これから正式にそれをベリオスの町のもんだって主張しなけりゃならない。普通は国としてそれをやるわけだが、この町はオルランド王国の領地内でも、実質的には完全に独立してやってきたわけだろ?納税もしていなかったみたいだし、絶対に揉めるぜ。ベリオスの町主体で主張すれば、権利問題でオルランド王国が介入してくるだろうし、逆にオルランド王国を経由すればその利益はほぼ全部持ってかれる。どう転んでも今の状態は崩れる」
「崩れる?」
「この体制で町を運営ってのは難しくなることが確実ってこった。ここに金になる木があると分かれば、クロウの領主っていう立場も剥奪される可能性が高い。ここぞとばかりに本国の息のかかった貴族を管理官として送ってきて、好き放題利権を貪るだろーよ」
領主という立場に執着はないが、散々放置していたくせに突然我が物顔でおいしいところを奪っていくというのは腹立たしく思う。クロウはその辺りをどう考えているのか、オホーラに訊ねる。賢者がその程度のことを理解していないはずがない。
「古代遺跡の権利に関しては、どの場所に属するのかという意味合いは大きいが、それだけでもない。たとえば、そう、封印優先権という概念もある」
オホーラはステンドが持ってきた遺跡の地図の端を指で叩く。
「まず第一に、この先がどこなのか、それが重要じゃ」
「どういうことだ?」
指し示している先には当然記載などない。紙からはみ出ている場所だ。
「そこのステンドがいったいどこから来たのか。地下遺跡から現れたということは、どこか別の入り口があったということじゃろう?」
「それは別の地下洞窟からって話だっただろ?たまたま横穴がここの遺跡とつながってたっていう……そうだったよな?」
「ああ。前に話した通りだ。元々オレは、偶然見つけた洞窟を調べてたら、ここにたどり着いたってだけだ。でなけりゃ、たった一人で遺跡探索なんかするはずがない。無謀すぎる」
「うむ。じゃから、その場所が一つ問題になる。領地的にはそこはベリオスの町ではない。おそらく、オルランド王国の領土でもないはずだ」
「そうだな……多分、キージェン公国の辺りだったと思うぜ」
「このような場合、つまりは遺跡が複数の国の領土にまたがる場合という意味だが、その含有面積やら主要遺跡物――価値の高い建造物や古代の品のことじゃ――その比率が多い方という風に決めるのが通例じゃ。じゃが、それぞれが主観的に主張するために明確には判断はできない。そこで分かりやすく権利を主張できる制度として生まれたのが、封印優先権じゃ」
オホーラの説明を要約すると以下のようなものだった。
古代遺跡は通常、上中下の層に分類される。地上に近い上層は比較的安全なため観光地とし、中下層が探索者が調査する地域となる。では、この中層や下層の判別を何で行うか。その境が実は明確に存在しており、それが審問の間にある篩の大扉と呼ばれるものだった。古代においてそれが正確にどのような目的があったのか不明だが、その大扉を開けるには特殊な解錠方法をしなければならない。時に謎解きや鍵となる魔道具が必要であったりと、通常の開け方はできない造りであった。
ゆえに、遺跡の所有権を巡って争う際には、この大扉を初めて開けた者がその権利を得る法を定めている。それが封印優先権だという。封印と銘打っているのは、一度開けた大扉の仕掛けはそれ以降機能しないため、新たに所有権を持つ国が再度封印処置を施すためだ。その封印をした国がすなわち、その遺跡の所有者だという証になる。
遺跡が魔物の巣窟になっている以上、隔離しておく必要があるので理にはかなっているだろう。
ならばそもそも、大扉を開けるなという話ではあるが、貴重な宝の山が眠っているとなれば、放置するなどという選択肢は欲深い人間にはないため、妥当な落し所としての封印とも言えた。もちろん、この封印は探索者のために任意で解除できるようになっている。
何にせよ、この封印を行ってしまえば、国ではなく町だとしてもその権利を主張できるというのがオホーラの本筋だ。
「なるほどな……じゃあ、探索者ってのはかなり重要な職業なんじゃないのか?」
「ピンキリではあるが、概ねそうだと言える。そのために国が直接召し抱えている探索者もいるくらいじゃからな。まぁ、それはそれでギルドと色々揉めるようではあるが……」
「それな。国直属だと、当然ギルドの仕事は受けられなくなる。そんで、かち合った時だけ対立関係で探索者同士でもギスギスしちまうって問題があるわな。有事の時だけしかまともな仕事ができなくなって、張り付き虫って影口叩かれる始末だ。いくら高給貰っても、探索者としては不名誉になっちまうことの方が多い」
「張り付き虫?」
「大扉の時だけ出張ってきて、宝物に執拗に張り付くって嫌味さ」
「ああ、そういう……それはともかく、オホーラが言いたいのは、じゃあ、この地下遺跡の大扉を見つけて先に開けちまえば、後はなんとかなるってそういう話か?」
「うむ。少なくとも所有権はそれで確保できよう。どちらにせよ、新たな遺跡の通達によりオルランド王国との関係は清算というか、今後のことを含めて一度話し合う必要はある。向こうも僻地で放置していたとはいえ、領土内にある町が勝手に遺跡運用を始めて各国に喧伝したとなれば、見過ごすはずもない。しっかりとした基盤、資金力や人材に及ばず、確固たる指針を持って、こちらの立ち位置を確立させておかねば、併合吸収される可能性も十分にある。そうなれば、実質的に所有権もオルランド王国になるだけじゃ」
とてもややこしい話になってきた。ベリオスの町は実質的に独立状態ではあるが、オルランド王国領土内にあることは事実で、今は何の益もないから放置されているだけだ。古代遺跡という資産が手に入ったことを知れば、王国も黙ってはいないだろう。
「……ひっそりとやり過ごす方法はないのか?」
面倒ごとは避けたいクロウは、わずかな希望を込めて尋ねてみるが、一刀両断される。
「ない。ちなみに、この方法以外にこの町が生き残る術もないというのがわしの見立てじゃ。遺跡を手に入れ、それを運用できる力を示すことで、この町が国とも対等に渡り合えることを周辺国に証明する。そこがまずは重要な一歩となるじゃろう。そういう意味で、この遺跡は資金繰りも含めて千載一遇のチャンスじゃよ」
「マジか……心から関わりたくねえ……」
クロウの深いため息と重なって、どこからか呼吸音がした。
見ると、壁にもたれて眠っているラクシャーヌの寝息だった。災魔は途中から話を理解することをあきらめ、いつのまにか夢の世界へと逃げ去っていた。