小心者マーク
「ここここ、こんにちは」
「はい、こんにちは」
「今日は、よよよよ、よろしくお願いいたします」
「はい、よろしく」
この人は、何で来たのだろう。
まだ、平地の何も怖くない場所にいる。
なのに、震えている。
バンジージャンプに一人で来た人の、震えじゃない。
「あの、本当にできますか?」
「できますよ」
「どういう理由で、ここに来ら・・・・・・」
「変えたいんです」
食い気味だった。
それで、ここに来た悔いはないのだと、感じた。
ジャンプする台に来た。
ずっと、目をつむっている。
何も発さないでいる。
そして、怖がる様子は、ほとんど無い。
首には、いくつものヒモが掛けられている。
そのヒモには、赤や青のお守りが付いていた。
そこには、安全祈願と書かれている。
ざっと数えて、二桁はあった。
それは、小心者を表していた。
小心者マーク、といったところか。
掛け声を掛けて、カウントダウンした。
無言で、揺られるようにダイブしていった。
首に掛けた大量のお守りが、美しく暴れていた。