鯨
三題噺もどき―よんじゅうご。
お題:店員・電車・鯨
「お疲れ様でしたー。」
仕事を終え、最寄りの駅へと向かう。
まあ、仕事といっても、アルバイトのコンビニ店員なのだが。
しかし、なかなかにキツイ仕事である。
覚え事も地味にあるし…煙草はほんとに番号で言ってほしい。
元々、人付き合いの苦手な人間なので、全く知らない赤の他人と、一瞬であろうと、言葉を交わすのはそれなりに疲れる。
しかし、この現代を生きる上でお金を稼がない事には生活できないのだ。
―飲食店よりはマシだと思って、コンビニにしたのだ。
(あーもう辞めたいー)
そんなことを思いながら、電車にのる。
バイトに行く度、思っていたりするけど…。
なかなか抜けてくれない疲労に、身を委ね電車に揺られる。
ガタン―ガタタン―
疲れきっていて、特に何をすることも無いので、外を眺めていた。
携帯をいじる気にすらならなかった。
いつもならイヤホンで音楽でも聴いているところだが、今日はなんとなくそれもしなかった。
それほど人が乗っていなかったので、視界は、それなりに広い。
ぼーっとしながら、夕焼けで紅く染まりつつある空を眺めていた。
―この時間にしては人少ないなぁなんて思いつつ。
すると、突然、巨大な何かが、空を横切った。
(鯨……?)
何故、そう思ったのかは、分からない。
なんとなく、直感で、そう思っていた。
疲れていて、雲がそう見えたのかもしれない。
その後、すぐに雨が降り出した。
まるで、鯨が潮吹きした後に、水が落とされたみたいに。
通り雨だったようで、雨はすぐに止んだ。
(あ……)
雲が晴れて、真っ赤に染まった空に、巨大な雲が一つ。
広い、広い海を悠々と泳ぐ鯨のように、その雲は夕日に向かって進んでいった。