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禁煙マイスター

作者: 青水

 タバコを吸うことは、おそらくメリットよりもデメリットのことが多い。よって、喫煙者の中には禁煙したい、と強く思う者もたくさんいると思う。しかし、禁煙をするのは決して簡単ではない。禁煙しようとしてもできない、気がつくとタバコに手がのびてしまう、ニコチン中毒者の方々も多いと思う。そんな人々が禁煙する方法を求めて、この私――禁煙マイスターのもとへとやってくるわけだ。


 禁煙マイスターのこの私も、かつては喫煙者だった。私はこの業界トップクラスの実績を誇る。なんと、今までに一〇〇回の禁煙に成功しているのだ。他の業者は多くても一〇回、中には一回の禁煙しか成功してない者もいる。私の実績には到底及ばない。しかし、不思議なことに、私よりも彼らのほうが喫煙者人気があるのだ。実に不思議で不可解だ。どうしてだろうか? 量より質ということだろうか?


 今日も悩める喫煙者が私のもとへとやってきた。妻に禁煙するように言われたとのこと。もうすぐ子供が生まれるから、これを機に禁煙しなさい、というわけである。なるほど、赤ちゃんの前でタバコを吸うのはよろしくない。外で吸ってきても、服にはタバコのにおいが染み付いている。禁煙しろ、と言う彼の妻の気持ちはよくわかる。


「どうすれば、簡単に禁煙することができますかね?」

「そうですね。タバコの代わりに飴玉を舐める、ガムを噛む、などの方法がありますよ」

「失礼ですが、あなたは今までに複数回の禁煙経験がおありだという話を伺ったのですが……これは本当のことですか?」

「ええ、本当ですとも」私は胸を張って答えた。「なんと、今までに一〇〇回の禁煙経験があるのです」

「一〇〇回!?」彼は驚いていた。


 その圧倒的な実績に感嘆したに違いない。そう思った私だったが、彼は怒ったような呆れたような複雑な表情を浮かべてこう言った。


「それって、禁煙に一〇〇回失敗したってことですよね?」

「失礼な」私は憤慨した。「一〇〇回成功したと言いなさい」

「帰ります」


 彼は立ち上がると、金を支払うことなく、事務所から去っていった。

 失礼極まりない男である。あのような男はきっと未来永劫、禁煙に成功することはないだろう。彼は禁煙マイスターであるこの私の話を、きちんと聞くべきだったのだ。


 無性に苛立ちを感じた私は、テレビをつけた。ドラマがやっていた。サラリーマンがうまそうにタバコを吸っている場面だった。

 私は無性にタバコを吸いたくなった。机の引き出しからゴールデンバットを取り出して咥え、ライターで火をつけた。文豪が愛したタバコである。私は自分が文豪になったような気分になった。


 ふう、と煙を吐き出しながら、私は一〇一回目の禁煙を行うことを固く決意した。きっと、禁煙に成功する。そして、それが実績となるのだ。一〇一回の禁煙に成功した禁煙マイスターとして、私は喫煙者に禁煙の指導をするのだ。



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