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巡り求めて  作者: みおま ウス
96/164

96 探索の旅(聖都編-1)

 聡慈とヴィザーレは大陸間を運航する大型船のある港町、ソテーズで乗船手続きを済ませ、ティディエル行きの船に乗り込んだ。


「海洋系野人種、でしたっけ?」


 船員は魚のヒレのような物が肘や耳に付いていたりする者が多い。

 聡慈の問いにヴィザーレは頷く。


「そうだな。これは船の上だからと言うわけではない。王国では我々草原系野人種で大多数を占めていたが、これから行くティディエルは雑多な野人種がいる。その影響だろう」


 どの大陸にも草原系野人種は多い。

 だが王国はその中でも群を抜いて多く、排他的とまではいかないが、草原系以外の野人種の居心地が良いとは言えないのが現状であった。

 そこへいくとティディエルは元が森林系野人種ほか、様々な野人種が入り交じる土地だけあり、些細な容姿の違い程度は心の垣根にならないぐらいの寛容さがある。


 ちなみに聡慈やミルドラモン、エウリアは草原系の容姿で、森林系は尻尾が生えていたり頭の上に耳が付いていたりする。


 野人種が少なければエウリアに似た人物の情報も入り易いのではないか。

 彼女の身に不幸が――とはなるべく考えないようにし、聡慈は期待して船旅を送っていた。




「ソージさんは勤勉だな」


 聡慈が剣で素振りをしていても魔力の操作を練習していても、魔法陣の研究をしていても、ヴィザーレは酒瓶を片手にそれを見ては一々感心した。


「学者の私よりもずっと勉学に費やし、兵士のように鍛錬している。全く頭が下がるよ。もしや高名な騎士や魔法士ではないだろうか?」

「ははは、まさか私のような者が。高名な騎士や賢者の知り合いならおりますが、彼らと比べるととても私など」


 ヴィザーレはお世辞を言っているつもりはなく、聡慈も謙遜しているつもりはない。

 ただ確かに聡慈は勤勉で身嗜みにも気をつけていたので、船旅を共にする者の中には、彼を学者か高僧かと勘違いをしてくる者もいた。


「どうかこの子の頭を撫でてやってください」


 幼い子を連れた親が聡慈に徳を分けてもらおうとやって来ると、聡慈はいつも苦笑して誤解を解こうとした。

 しかし孤児院で散々子どもたちのあれやこれやの疑問に答えていたからか、親に連れられて来た子が何かしらの問いかけをしても滞りなく答えることができてしまう。

 そのため親としては「やはり名のある僧のお忍びの旅では」と思ってありがたがるのだった。


「いや、やはり大したものだよ。私はやはり幸運に恵まれたようだ。この旅ではきっと得るものが多かろう」


 一人頷くヴィザーレに「参ったな」と頭を掻く聡慈。



 そんな穏やかな船旅も半月が経過し、船はティディエルの港町ネトゥミに到着した。






 長い船旅のせいで、まだ水上にいるような不確かな足取りになった乗客たちが桟橋を渡る。


「うわあ! ねえ、あの坂の上におばあちゃんたちのお家があるの!?」

「そうだよ。もう一息がんばろうね」


 砂ぼこりを立て元気良く、幼い子どもが剥き出しの地面に降り立った。

 聡慈に頭を撫でられた子である。


 船着場からしばらくは平坦な土地が続き、白や灰色がかった建物やテントが建ち並んでいる。

 その先の方は赤や緑といった色とりどりの屋根がなだらかな坂に沿って建っており、カラフルな階段のように見えた。

 地味な色の建物は市場の区画で、カラフルな建物は民家らしい。


 そんな説明を聡慈にして親子は聡慈たちに手を振って去って行った。


「さあ、我々も行くか」

「酒場ではなく宿ですよ」

「大丈夫、酒場のある宿に行けばいいのだよ」


 ヴィザーレは船で「やることが無いから」と毎日酒を飲んでいたのに、降りたら降りたで「せっかく陸に上がったんだから」とか「新しい土地の鮭を飲まねば」と言うのだ。

 まあ酒飲みとはそういうものかと、聡慈は苦笑して肩を竦めた。






 酒場は一仕事終えた水夫たちで賑わっている。


「おう、学者先生方じゃねえかい! こっちで一杯やろうぜ!」


 船の上ではいつも酒瓶を持って徘徊していたヴィザーレと、甲板で素振りをしたり武術の型をしたり、時には怪し気な薬を調合したりしていた聡慈は、水夫の中ではちょっとした有名人だった。

 酒場に入るなり二人は水夫から席に招かれた。


「おお、水の上の友よ、よく誘ってくれた! 今行くぞ」


 ヴィザーレはもう酔っているかのような勢いで水夫の輪に飛び込んで行く。

 そして聡慈も船旅で水夫たちの豪快な気質には慣れていたので、ヴィザーレのノリにやれやれと思いながらも、物怖じせずに彼らと同じ席に着いた。



「うめえぇぇ!」

「おいおい、飲み過ぎて行くと姉ちゃんたちに嫌われるぞ!」

「がははは、たまに陸に上がった時ぐらいハメ外しちゃっていいじゃねえか!」


 水夫たちは酒を飲み、保存食で無い獣肉を食らい騒いでいる。

 この後は色街に繰り出して派手に遊ぶ計画を立てている者も少なくないようだ。


「先生方もパーッと遊びゃいいのによお!」

「バカ野郎、あちこちで姉ちゃんにフラレまくってまた海に戻るのは俺らだけで十分だろうが!」

「ぐわぁ! それを言ってくれんじゃねえ!」

「ギャハハハ」

「ガハハハ」


 酒場中に品が無くも明るく楽しげな声が響く。



「先生方は大陸中を旅すんだろ? なら言っとくがな、『護衛に雇わねえか』って声をかけて来る奴には気をつけろよ」


 若干絡み酒の嫌いがある水夫が言った。


「と、おっしゃるのは?」

「いるんだよ。どこの組合にも属してない奴が、それっぽい格好で近づいて護衛のフリして強盗に……ってな。まあ先生方みたいなゴツい人にゃあ中々声はかけて来ねえだろうが」

「なるほど。助言痛み入ります」

「おう、元気でな」


 水夫たちを見かけたヴィザーレに押し切られ酒場に入ったが、そろそろ宿を探さねば。

 昼間から飲んでいるのでまだ余裕はあるが、聡慈たちは水夫に礼を言い酒場を出た。






 その後、日暮れまでに何とか宿を確保した二人は宿で一泊。

 馬車の手配は明日以降ということに決まった。


「明日はお酒を飲む前に色々と行動しましょうか」

「分かった、分かってるってソーさん。だからそんな堅苦しい言葉はやめてくれって」

「しょうがないなヴィーさんは。そんなに酔ってては旅の途中で何かに襲われても対応できないぞ」


 酒場で聡慈の知己が聡慈のことをソーさんと呼ぶと聞いたヴィザーレは、早速その呼称を使っていた。

 そして自分のことはヴィーさんと呼んでくれと申し出ていた。

 聡慈も酒の勢いはあったが、あまりヴィザーレに旅の主導権を握らせては、旅が進まないばかりか危険だと判断して、彼と対等の立場で接することにした。


 ヴィザーレは嬉しそうだったが、聡慈は密かに溜息を吐くのだった。






 翌日、酒の代わりに薬湯を飲んで渋い顔をするヴィザーレを連れて聡慈は宿を出た。

 そして宿の主人から教えてもらった旅馬の斡旋所にやって来た。


 だがヴィザーレの望む長期の契約は承諾する者がいない。

 彼が行こうとする場所は遠い所で行くだけで一月、しかもろくに町や村瀬の無い辺鄙な場所らしい。

 そんな所に行くのは過酷な旅になるに決まっている。

 下手をすれば途中で飢え死にしたり、盗賊や獣、魔物に襲われる危険だってあるのだから。


「困ったぞソーさん。まさかいきなり躓くとは思わなかったなあ」

「馬だけでも借りられたら良かったのだが。まあ徒歩の旅でも私は構わないが」

「それは大変じゃないか」


 旅とは楽なものではないのだが。

 ヴィザーレが旅を嫌いになって途中で帰っても自分一人でその場所に行き着けるのか。

 聡慈がそんなことをかんがえていた時。


「あの、馬車代わりのものがあるんですけど……」


 聡慈たちに話しかけてくる声がある。


「君は? お父さんとお母さんは?」


 話しかけてきたのはまだ幼い少女だった。

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