92 探索の旅(王国編-58)
聡慈を除いてライオホークたち四人は先に孤児院に戻ることになった。
聡慈だけは魔物の核を持って探索者組合へ向かう。
「ソージ先生、お気をつけて」
「ああ。リオも三人を無事に連れ帰ってくれよ」
「はい、任せてください!」
帰る頃には真っ暗になるだろうが、討伐のことは早めに知らせた方が良いだろう。
それに暗くなっても所詮は街中だ。
明かりの魔法も使えるし、野山で過ごすのとは恐怖感が比べものにならないぐらい低い。
小走りで組合へ向かいながら、聡慈は先の戦闘を振り返る。
(防御の魔法はあの魔物の技能だ)
技能とは魔法の発動を簡易化・自動化した術だと考える聡慈は、盾の魔物の防御技能も再現できると思った。
(土と水の属性を組み合わせて、魔法陣をそのまま盾にするようなイメージだな)
効果時間は短いが、使いどころは十分にありそうだった。
それらしいものが発動できないか試みる。
(一朝一夕にはできないか。まあいい、ドラさんの魔法書の内容と照らし合わせてじっくり工夫してみるさ)
属性、効果範囲、重さ、速度、方向等々、魔法を構成する要素を魔力印で刻み魔法陣として描く。
魔力を込めた独特の文字で描かれる魔法陣。
その文字を覚え魔力を込め、論理的に配列すれば魔法はしっかり発動するのだが、意外なほどこの世界で魔法を使っている人は少ない。
魔力印の配列が論理的だと考えることができず、丸暗記した魔法陣しか描けない人が多いためである。
一方聡慈は前の世界で高い教養を身につけており、ミルドラモンの魔法書は、魔法に関する基本事項や、様々な魔法陣の構成を説明したレシピのような物に感じられた。
若しくは命令を実行するプログラムか。
だからこそ彼は、この世界の一般人がミルドラモンから学ぶよりも、遥かに物覚えの良い生徒であることができたのである。
盾の魔物が使った防御魔法を実行するためのプログラムを考え、魔力を込め試行する。
命令は適切なはずだが実行されない。
もしかして実行するための動力源――魔力――の問題だろうか。
防御の魔法も白と黒の魔力の配分が特定されている可能性がある。
聡慈は色々考え試行しながら進み、気が付いたら探索者組合の前まで来ていた。
ちょうど良く探索者組合は憲兵が巡回の拠点としていた。
魔物を二体討伐したと伝えると疑わしげな態度を取られたが、魔石と魔物の核であった斧と盾を提示するとその態度は次第に変わっていった。
目撃情報が斧と盾の魔物と言う点で聡慈の供述と一致し、提示された斧も盾も魔力を含むと判明。
すると聡慈は一転、事件解決の功労者として称賛されることとなった。
「魔物討伐にご協力いただき感謝する」
場を仕切る憲兵の責任者から礼を言われ、聡慈は報酬を受け取った。
次に探索者組合の職員が問う。
「魔物の核はどうされますか?」
魔力のある武具は希少であり、売るなら交渉次第で値幅は大きく違ってくるようだ。
組合でも買取りをしているが、一般の業者と上手に交渉した方が高値がつく可能性が高いらしい。
それでも聡慈は組合に買い取ってもらうことを選んだ。
嫌な魔力の残滓を感じる斧と盾を持って帰りたくはなかったし、買い取ってくれる業者に心当たりも無いからだ。
報酬と売却代金で合計千二百銀を受け取った聡慈は、ここに来るまでと違って考えごとは少なく帰りを急いだ。
聡慈が帰り始める頃、既に孤児院に帰り着いていたリースたちは心配していた子どもたちに囲まれていた。
「リースお母さん!」
「良かったあ……もう! 帰るの遅過ぎるよ!」
子どもたちに涙目で責められリースは小さくなるしかない。
「ごめんね……ごめんねみんな。心配かけてごめんね」
「で、何でこんなに遅くなったの?」
無事に帰り着けて気の緩んだベスはふと尋ねた。
「あ、あうあう……それは、あのね……」
リースはうろたえる。
まだ子どもたちにどう説明するか考えがまとまっていなかった上、トラブルに遭遇したショックですっかりお金のことを忘れていたのだ。
「ご、ごめんなさーい!! 実は……」
そして子どものようにわんわんと泣きながら、子どもたちから預かっていたお金を税金の支払いに当ててしまったことを告白した。
「……」
「……」
堰き止めていた流れを解放したように懺悔を一気に吐き出したリースと呆然とする子どもたち。
家の中には重苦しい沈黙が下りている。
「リースお母さん」
「は、はいっ!!」
どんな罵声を浴びせられるか。
いや、それよりも落胆し悲しませるのが辛い。
リースは正座して拳を握りしめ歯を食いしばった。
少し大人びてきた最年長のメグが前に出て言った。
「リースお母さん、ダメだよ。ちゃんと勉強しなきゃ」
「……へ?」
「計算の勉強ちゃんとして、家計簿つけないから大きな出費に慌てちゃうんだよ」
「うぐっ!」
メグの説教は懇々と紡がれ、リースを打ちのめした。
「そうだよな〜。市場に行ってリースお母さんが指折って代金の計算してるの見た時、俺なんか悲しくなっちゃったもん」
「うぐぐ!」
「分かる〜。リースお母さんが一生懸命お釣り数えてるのをお店の人が苦笑いして見てる時とかねえ」
「ぐうう……」
「税金は絶対払わないといけないんでしょ? だったら私たちが稼いだお金を使うのもしょうがないし当たり前だけど! それはともかくリースお母さんもこれからちゃんとお勉強してください!」
「はい……すいません」
これほど情け無いことがあろうか。
面倒を見ていたと子どもたちに恥をかかせていて、お金の面でも心配をかけてしまった。
税金のことは許されたがリースはもっと泣きたくなるのであった。
「ただいま……?」
「あ、お帰りなさいソージ先生!」
帰宅した聡慈が見たのは、机に座って半泣きになりながら何かを書くリースの姿だった。
「どうしたんだリースさんは?」
「あれです、税金の支払いの……」
「あれか。う〜ん、だが、何だろうな?」
何か様子がおかしいと首を傾げる聡慈に、ライオホークは少し前のやり取り――子どもたちからリースに対する説教のこと――を説明した。
「ああ、なるほど。それはさぞ堪えただろう」
正論とは言え、まだまだ子どもだと思っていた子に説教されるのは心にグサリと来るものだ。
聡慈にも経験がある。
――子の成長は嬉しいものだとしても、だ。
「リースさん、明日からお暇な時には勉強しましょうね」
「……はい」
「しかし子どもたちがしっかりしているようで喜ばしいですね」
「……はい、本当に」
リースはものを書く手を止めずに、半泣きで微笑む複雑な表情で答えた。
「リースお母さん、一年の支出の予定も書いてね」
「はい……」
彼女が書いているのは家計簿。
今はほとんど現金が無いが、年間支出予定を書き出しているところだ。
子どもたちはリースがお金を使ったことにきちんと納得している。
それでいて今後は彼らも生活を成り立たせるべく家計を考えようとしているのだ。
聡慈はある意味で安心した。
そして心からリースを励ますことにした。
翌日から魔法の授業も追加された。
ベスはフウカといつも一緒にいるためかそれとも元来の資質か、魔力を直感的に理解し風の魔法を早々に身につけた。
またフウカはベスと聡慈とに限っては魔力を共有できるようで、聡慈たちは【技能】のように風を操ることができるようになった。
聡慈はこれを“フウカの加護”と呼んだ。
子どもたちの魔言語の習得、フウカの野人種語の習得もコツコツと進んでいる。
やはり生で異なる言語に触れている環境が学習の進度に良い影響を与えているようだ。
孤児院の子どもたちは充実した毎日を送っている。
そうして聡慈たちが王都で生活するようになり早くも七か月が過ぎた。
「あ、ソージさんおはようございます。依頼されていた関係の情報が入ってますよ」
聡慈がいつものように探索者組合を訪れると、すっかり顔馴染みになった職員がそう声をかけてきた。
聡慈の闘級が上がった。
聡慈は技能を習得した。【風精契約】
入間聡慈
闘級 7→8
体力 362→417
魔力 191→227
力 67→76
防御 88→101
速さ 77→89
器用 78→88
精神 116→133
経験値 1500
技能
⚪︎魔言語★5
⚪︎魔視★5
⚪︎自然回復上昇・中
⚪︎魔力自然回復上昇・小
⚪︎見抜く
⚪︎反撃
⚪︎第六感
⚪︎流し斬り
⚪︎状態異常回復
⚪︎風精契約
称号
⚪︎薬師★5
⚪︎被虐者(克服)
⚪︎轡取り★5
⚪︎伯楽★5
⚪︎不屈漢★5
⚪︎狩猟者★4
⚪︎逃亡者★3
⚪︎魔具職人★3
⚪︎見習い剣士★5
⚪︎見習い魔法士★5
⚪︎翻訳士★5
⚪︎軽業師★3→4
⚪︎医術士★5
⚪︎剣士★2
⚪︎魔法士★2
耐性 毒、麻痺、睡眠、混乱、吸収、魔封、金縛り
状態 自殺者の呪印、献身者の聖印




