表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡り求めて  作者: みおま ウス
91/164

91 探索の旅(王国編-57)

 リースへの攻撃を逸らす形で魔物に一撃を与えたライオホークであるが、対面で戦うと魔物の力強さに押されていた。


(ぐっ、腕が痺れる……くそ)


 剣の腹で魔物の攻撃を受け流すが、威力を減じきれずに腕に衝撃が伝わる。

 軽いダメージは何度か与えているが、痛みも疲れも知らない魔物に対してライオホークは焦りを感じ始めていた。


(このままだと追い込まれる……その前に決めないと!)


 ライオホークは飛び退きざま牽制で魔物を浅く斬りつけた。

 次に練っていた魔力を込め左腰に構えた剣を振り、更に右脇構えから剣を左上へと振り上げた。


「【二影刃】!」


 魔力の込められた斬撃が魔物で交差する。


 ザンッ


 宙を舞ったのは魔物の片腕だ。


 飛ばされた腕はクルクルと回転し、刃の部分が石畳に突き立った。


(しまった、外した!)


 魔物の攻撃力を大きく削いだライオホークだが、その表情には失敗した動揺の色が浮き出ている。

 彼は魔物の脚を、その機動力こそ奪いたかったのだ。


(いや、動きを止めるな! 圧倒的有利ではないが形勢は五分以上になったはずだ!)


 ライオホークは自らを鼓舞し剣を構え直す。


「たあっ!」


 そして魔物の一撃を躱すと上段からの渾身の一撃を打ち下ろした。


 金属同士がぶつかる硬質で重量感のある音が響く。


「なん、だと……!?」


 ライオホークは目を見開いた。

 彼の剣が捉えたのは魔物の頭ではなく、その上に割り込んできた盾だった。


「ぐあっ!」


 驚いている隙を突かれライオホークは盾から体当たりを受け、勢いよく飛ばされた。


(まさか、二体目の魔物だって!?)


 斧の魔物に並ぶのはまた異形の人型、目鼻口が空洞で右手が丸小盾、左手が長角盾の魔物だ。


(リース……母さんは逃げ切れただろうか。ソージ先生、俺もう少し修行したかったです)


 モゴモゴと気弱に呟いて、しかし彼の目はまだ光を失っていない。

 座って呼吸を整えながら、せめて斧の魔物を道連れにと剣の握りを確かめる。


 ガンガンガンガンと斧の魔物が頭と手を打ち合わせる。

 まるで片手を失った恨みを晴らせると歓喜しているようだ。


(魔物のくせに人間くさい仕草しやがって)


 ライオホークは普段吐かない悪態を吐いて平常心と興奮との均衡を図る。


(ここだ!)


 間合いを見極め剣を振り抜いた。


「なにっ!?」


 斬撃を放ったライオホークは剣を水に潜らせたような、纏わり付く抵抗を感じた。

 抵抗は一瞬だったが、バランスの狂った太刀筋は魔物が回避するに十分な乱れとなっていた。

 前のめりに体勢を崩したライオホークに魔物の斧が迫る。


(最後にせめて……!)


 ライオホークは剣を魔物の脚に突き立てようと、崩れた体勢のまま剣を突き出した。


 果たして――剣は魔物を捉えることなく地面を突いた。



 しかしライオホークは生きている。


「ソージ先生……!」


 二体の魔物は転倒し、聡慈がライオホークの前に立っていた。




 斧の魔物がライオホークにとどめを刺そうと斧を振りかぶった時、聡慈はまだ十メートル以上は離れた所にいた。


『フウカ! 魔力を合わせてくれ!』

『うん!』


 ベスの肩に乗るフウカの小さな手を取り、聡慈は魔法陣を構築した。

 風の魔法が彼を魔物の方へと押し出す。

 正に風の疾さで音も無く魔物に接近し、聡慈は斧の魔物を蹴り飛ばし、その反動で宙返りをして盾の魔物を斬りつけた。




「ソージ先生……!」

「すまんリオ、遅くなった」

「先生あいつらは……」


 聡慈はライオホークに回復魔法をかけると命の水を渡した。


「まあ飲みなさい。よく戦ったぞ」

「ありがとうございます。でも盾の奴の魔法がまだ分からず……急に振り切ろうとした剣が鈍くなって」

「そうか。動きを阻害する魔法か? しかし斧の魔物にあれだけの傷を負わせたのだ。もう少しだな」

「……! はい!」

「よし。リオ、お前あの斧の魔物にとどめを刺せるか」

「はい、是非!」

「ではもうひと踏ん張りだ、行くぞ!」


 聡慈の火の魔法を皮切りに、ライオホークと斧の魔物、聡慈と盾の魔物の戦いが始まった。




 盾の魔物は防御を固め、魔法での反撃を主としてきた。


(なるほど。中々戦いにくい相手だ)


 聡慈の剣を大小の盾と魔法を使って巧みに防ぎ、魔法で土塊を飛ばしてくる。


 だが聡慈も目が慣れてくると場に出された魔法陣を瞬時に読み取り魔法に対応し始めた。

 魔物が防御の魔法陣を構築したと判断すれば簡易な魔法をぶつけて打ち消し、強烈な剣撃を加える。

 攻撃の魔法陣だと判断すれば効果範囲から身を外し、魔法と剣とで翻弄した。

 そうして被弾を抑えつつ魔物の防御をこじ開け、【反撃】の技能や魔法で少しずつ盾の魔物の身体にダメージを刻み、とうとう小盾を腕ごと斬り飛ばした。


 そうなるともう魔物は防御もままならない。

 脚を斬り飛ばされ盾を下にうつ伏せで倒れかけたところを、背中から剣で貫かれ核となった盾と魔石を残し消え失せた。






 ライオホークはひと足早く決着をつけたようだ。

 聡慈の元へ駆けつけようとし、聡慈が無事に魔物を倒したことを見て取ると、斧の魔物の魔石と核を回収しに引き返した。


「リオ、ケガは無いか?」

「はい! ちょっと慎重になり過ぎてしまいました。ソージ先生はいかがですか?」

「私も何とか無傷で済ませることができたよ。さて、三人も呼ぼうか」

「あ、はい。呼んで来ます。――おーいリースさーん、ベス、フウカー。終わったよー」


 離れた物陰に隠れていたフウカとベスは恐る恐る顔を覗かせ、リースは転びそうな勢いでライオホークに駆け寄った。


「リオ君! 体は? 痛い所無い!?」

「大丈夫ですよリースさん。俺の傷はソージ先生の魔法と薬で塞がったし、ソージ先生は無傷です」

「ああ良かった。ごめんね、私がいつまでも帰らないから……ごめんね」


 魔物の警戒態勢が敷かれていたことと、孤児院に戻らない自分を心配して探しに出たことをベスとフウカから聞き、リースはライオホークを抱きしめ泣きながら謝る。


「これが魔物の核なんだぁ……う〜、なんか気味悪いね」


 リースたちのやり取りを気に留めず、ベスは魔物が残した斧と盾をまじまじと眺めている。


「魔力を感じるな。討伐の証明になるとはこういうことだったのか」


 聡慈も二つの武具を見て探索者組合の職員が言っていたことに納得の様子を見せた。


「お金が貰えるの? やった! じゃあ早速行きましょ!」

「暗いからベスとフウカはリースさんと先に帰りなさい」

「え〜……しょうがないなあ。じゃあリースお母さ……」

「ちょっと待った」


 リースを呼ぼうとしていたベスを、聡慈が止めた。

 ライオホークとリースの間にどこか張り詰めた、少し近寄り難い雰囲気がある。

 聡慈たちはさり気なく距離を置いて二人から視線をはずした。



「リオ君」

「何ですか?」

「リオ君」

「? どうしたんですかリースさん」

「それ!」

「え?」

「さっきは、言ってくれたよね……お母さんって」


 リースの目は潤んでいるが真剣だ。

 ライオホークは生唾を飲みこむ。


「本当言うとリオ君って、亡くなった私の息子の面影があるの。それもあってお母さんって呼んでほしかったけど、それってリオ君のことを見ないで私のわがままを押し付けるだけかなって、今まで何も言わなかった。でも、さっきお母さんって呼んでくれた時、すごく悲しくて、温かい気持ちになった。リオ君に息子の代わりをさせるつもりは無いよ。だけどリオ君が私のことお母さんって思ってくれるなら、私はすごく嬉しいな」


 ライオホークは母親を求めているのではないか。

 リースはそう直感した。

 だが年頃の少年に言うには相応しくないと思った。

 それに彼に息子の面影を感じ母と呼んでもらいたいのは事実だ。

 だからリースは言葉を選びつつ、真剣にライオホークと向き合った。


「俺も……リースさんと初めて会った時に、母さんが生き返ったと思って息が止まりそうだったんです」


 目を伏せたライオホークの顔は不安そうだ。


「でも、あなたが俺のことを息子と思ってくれるなら……母さんって呼びたいです……いいですか?」


「リオ!」


 リースは感情を抑えきれずにライオホークを抱きしめた。


「母さん……母さん!」


 二人は抱き合って涙を流す。


 ベスとフウカは遠くでわんわんと泣き、聡慈は目を閉じ何か深く考えごとをしているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ