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巡り求めて  作者: みおま ウス
9/164

9 地獄編-8

(う、ここは……?)


 聡慈は目を覚ましたが辺りは薄暗い。

 日が落ちてきたらしい。

 風が吹き、不安を掻き立てるような木々の葉擦れの音が聞こえる。


(森の中? ここは鳥人間たちの住処近くの山の中なのか?)


 鳥人間に掴まれ、吹き飛ばされたことは朧気に覚えている。

 それからどうしたのか。

 這いつくばって隣の山まで来たのか、それとも全く違う森の中なのか。

 手や顔に擦り傷はあるが痛みとしてはその程度だ。

 吹き飛ばされた時、木の枝などがクッションになって衝撃を緩和し打撲を免れたのだろう。

 しかし痛みよりも今は胸の辺りが気持ち悪い。

 ちょうど鳥人間が謎の力を破裂させた辺り。

 まるで腹から胸にかけてミキサーでかき回されているようだ。

 これも一晩眠れば回復するだろうか。


(地面が冷たい……)


 これから暗くなるならば迂闊には動けない。

 聡慈は吐き気を堪えながら這いずり、風避けになりそうな大木の下で丸くなり眠った。






 僅かながら明るさを感じられるようになった。


(あまり木が密生してないのか、それとも大分葉っぱが落ちたのか。日が差し込む程度の森で良かった……)


 日の光も届かないような森でなくて助かった、と聡慈は胸を押さえヨロヨロと歩く。

 外傷は治っているのに胸の気持ち悪さは消えていない。

 どういうことかと思って腰を下ろすと、自分の吐息に黒い粒子が混じっているのが見えた。


(う……何だ気味の悪い! これはあの鳥人間に食らった力の後遺症か!?)


 これが不快さの正体か。

 聡慈は自分の体に起きている受け入れ難き異常に文句を言いたそうに、悩ましげに頭を振った。


(この状態を改善する薬に心当たりも無いが……はぁ、とりあえず何か食べられる物でも探しがてら薬草になりそうな物でも採取するか)


 植物の採取から薬草の調合がすっかり習慣になっている聡慈は、こんな状況になっても薬草のことが頭に浮かんでくる。

 必要となった時にすぐ使えるように備える、と自分を納得させてはいる。

 が、無理強いされた薬草作りが安心を得るルーティンになっていることを自覚して、何とも言えない表情で植物を物色する聡慈であった。




 実の生っている木こそ少ないが、寒くなってきたこの気候でも食べられる葉や植物の根や茎はある。

 しかも大体の物を食べても、体に異常を来たす効果は聡慈に現れない。

 飢えることは無さそうだが相変わらず胸の不快さを抱えてまた彼は一晩を森で過ごした。






 翌日になってもまだ体調は回復していない。

 肉食の獣や鬼のような凶暴な生き物が出ないことだけが救いか。

 そうやって自分を慰めながら歩く内に沢を見つけた。

 ここは山間の森だったのか。

 水は冷たいが美しく透き通っている。

 流れで喉を潤し水の流れる方へと歩いた。


 苦しむだけでも体力は消耗していく。

 腹は空いていないが嫌な汗をかきヨロヨロと歩いていると、ようやく開けた景色が見えてきた。


 顔を明るくして森を抜けた聡慈だが――



(ここは……ここか、そうか)


 抜け出た先は鬼の集落近くだった。

 いきなり人間の世界に出られるなど、そんな期待はしてなかったが振り出しに戻ったような落胆がある。


 肩で大きく息をした時、下を向いてトボトボと歩くリンを見た。


「リン」


 呼びかけると頭を上げ嬉しそうに駆け寄って来た。


「何だ、逃げられなかったのか? 捕まったか? まさか、探しに来てくれたのか?」


 リンだけでも逃げ切れてほしかった。

 会えたのは嬉しいが悲しくもある。


(ここは奴らのテリトリーだ。今の状態で逃げるより今は戻って機を窺おう)


 鳥人間との争いがどうなったかは定かでないが、もし戻って来た鬼と遭遇したり集落から出て来た鬼に見つかるとどうしようもない。

 いや、あれこれ考えるが、結局のところ聡慈は体力を損じ過ぎて逃げる気力が振り絞れなかったのだ。


(塞翁が馬、とか禍福は糾える縄の如し、とか言うしな。何が好転に繋がるか分からないさ)


 自分に言い訳するように、聡慈はリンの背に乗せてもらい鬼の集落へと戻って行く。


 彼の息は荒いままだ。


「ファ〜ン……」


 リンが心配してくれる。


「大丈夫だ。戻って休んだらまた蹄の手入れでもしてやるからな……うん?」


 リンを撫でる聡慈は体が徐々に楽になるのを感じた。

 自分の体を見ると白い粒子が柔らかく舞い胸に染み込んでいく。

 それはリンの体から出ているのが分かった。


「これもまた不思議な力だ……リン、お前がやってくれているのかい? ありがとう。気分が良くなっていくよ……」


 黒い渦とは違って優しい感じのする力だ。

 何故かは分からないが、聡慈は両方の力が源を同じくするものだと直感した。


 失望と同時に味わう安心。

 張り詰めていたものが切れ、聡慈はリンの背で眠ってしまった。






 目覚めた時、そこはいつもの納屋だった。

 胸の不快さは消えている。

 納屋に来た老鬼に薬草を調合するように命ぜられた。

 全くいつもと変わらない一日の始まり。

 夢でも見ていたように思えてしまう。


 外に出ても、鬼たちが以前戦利品らしき物を持って戻って来た時のような騒ぎは見られない。

 かと言って敗戦したような落ち込んだ雰囲気を出しているわけでもない。

 ただいつもと同じように鬼たちが闊歩しているだけだ。


 一つだけ、傷ついている鬼が多かったことだけが、実際に鳥人間との争いがあったのだと実感できることだった。


(奴らにとって、今回の戦いは何だったのだろうか。寒冷期に備える物資の強奪ではなかったのか? 狩りに行って獲物が獲れずに戻って来た……それよりももっと何でもなかったかのような振る舞いじゃないか)


 きっと、鬼たちのことはいつまでたっても心底からの理解などできないだろう。

 聡慈は鬼と自分を隔てる見えない壁があるのだと確信する。

 また数の減った馬たちを見て、改めて聡慈はここからの離脱を意識した。






 鳥人間との争い後もあまり変わりがないと思っていた鬼たちのことだが、小鬼たちはそうでもないことが分かった。


 小鬼のリーダー格だった者を見かけた。

 以前ならリンを捕まえ無理矢理その背に乗り暴れ、噛みついたりしていた粗暴な者だ。

 右目に醜い傷痕を拵えたそいつは、以前と違って聡慈やリンに近づこうとしなかった。

 目線をあちこちに動かし警戒と怯えを露わにしている。

 ここにいるということは鳥人間からの逃走を遂げたということだ。

 有利な体勢から鳥人間にあっさりやられたことで自信を失ったのか、それとも逃げる時に自信を失う何かがあったのかは分からない。


 他の小鬼も似たように思える。

 小鬼たちも以前から大人の鬼に殴られたり蹴られたりするのは日常であった。

 それは小鬼たちにとって当たり前過ぎて何でもないことのはずだった。

 今は妙にオドオドして、大人に殴られると口をひきつらせ情けない顔をする。

 大人の鬼たちにはそれが気に食わないらしく小鬼に対しての当たりは、より酷になっていた。



 聡慈が生きてきた世界とは違う。

 鬼が子どもたちに暴力を振るおうが小鬼に対する同情心はこれっぽっちも湧いてこない。

 それでも怯える小鬼を見てほくそ笑むような浅ましい性根は持ちたくないと思う。


 聡慈はリンを撫でる。

 ささくれた心が剥がれ落ちて綺麗に再生されるように、穏やかな気持ちを持つことができた。


(そうだ、ここにいる内は忍耐……人間らしい心を失ってはいかん。今できることを懸命にやるだけだ)


 自分で冷静になったことを確認すると、聡慈は薬草を貯め干し草を蓄え、馬たちが万全でいられるように世話をするのだった。




聡慈は技能を習得した。【魔視】

入間聡慈

闘級 1

体力 50

魔力 0

力  10

防御 12

速さ 6

器用 15

精神 15

経験値 -4,200


技能

⚪︎魔言語★1

⚪︎魔視★1


称号

⚪︎薬師★1

⚪︎被虐者★1

⚪︎轡取り★1

⚪︎伯楽★1


耐性  毒、麻痺、睡眠、混乱


状態  自殺者の呪印、献身者の聖印

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