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巡り求めて  作者: みおま ウス
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87 探索の旅(王国編-53)

 先頭に聡慈が立ちベスが真ん中、ライオホークが後ろを守る。

 何かの気配がする二階へと上がって行くと――


「ひゃっ!」


 ベスが小さく飛び上がりすぐに頭を押さえてしゃがみ込んだ。


「どうしたベス!?」

「な、なんか聞こえた……! 歌、歌みたいな声が」


 小刻みに震えてベスは頭を両手を守ったまま恐る恐る周囲を見回した。


「何か聞こえたかリオ?」

「い、いいえ俺には何も」

「――仕方ない。進むぞ」

「ええっ! ちょ、ちょっと……」


 聡慈が進むと前に誰も居なくなってしまう。

 ベスは身を縮めたまま慌てて聡慈について行く。

 ライオホークは彼女の背に手を添えて安心させようとしていた。



「先生!」


 少し進むとライオホークは耳に手を当てた。


「何か聞こえたか?」

「はい! 魔言語です、これは……助けを求めています!」

「何と!」


 聡慈は驚いて、しかし慎重に進む。


「確かに聞こえるな!」

「え? これって言葉なの?」

「ああ、『助けて』って言ってるよ」


 ベスには分からないが、聡慈とライオホークには聞き取れる。

 魔言語で、幼い子どものような声だ。

 魔人種の子が閉じ込められてしまっているのだろうか。

 聡慈はライオホークに頷き上へと急ぐ。

 ライオホークはまだ警戒しているベスの手を取って聡慈に続いた。




 二階は更に雑然としていた。

 生活空間と言うよりは物置だ。

 手製の玩具や拙い絵、工作が多くあるのを見るに、依頼主の子どもが幼かった頃からの物を記念に取っているのだろう。


『助けてぇ』


 か細い声は積まれた荷物の奥、クローゼットの中から聞こえてくる。

 クローゼットは扉の前まで物が置かれており、閉じ込められた何者かが助けを求めていると思われた。


「ひっ……」


 ちなみにベスには魔言語は“ヒュ〜、ドロドロ”のようなお化けが出てくる効果音のように聞こえている。


『待ってろ、今助けるぞ』


 聡慈が魔言語でいうと声も物音も一瞬止んだ。

 そしてその直後、助けを求める声が大きくなった。

 壁や扉を叩く音は弱々しく小さい。


 ベスは怪奇現象が始まったと思い混乱一歩手前だ。


「床に散らばっているのはゴミでは無いからな。多分。丁寧にどかしていこう」


 思い出の品を蹴り飛ばして壊さないように注意してクローゼットまでの道は開かれる。


 そしてクローゼットの扉が開閉できる程度に物が排除された。


『出て来られるか』


 あまりにベスが警戒するので、ライオホークを付けてベスは少し下げ、聡慈がクローゼットの外から声をかけた。


『うーん!』


 カタカタと扉が僅かな開閉を繰り返す。


「これはかなり弱っているみたいだぞ。開けるからな」


 聡慈は見ていられなくなりベスに一言断り扉を開けた。




「これは……!」


 クローゼットの中で脚を投げ出し弱々しく息を切らせていたのは、小さな人型の生物だった。


「え? かわいい……」


 ライオホークの背後から恐る恐る見ていたベスが呟いた。


 その生物は、緑色の肩までの波打つ髪から尖った耳を覗かせており、少女の顔立ちをしている。

 二十センチメートル程度しかない身長に、透き通った羽を背中に生やしているその容姿は、一言で言い表すなら妖精である。


「魔人種、ですか?」


 どこか違うように感じたがライオホークは聡慈に尋ねた。


(これは多分)


 聡慈は目の前の妖精がどういう存在か見当をつけたが、ライオホークへの答えは保留した。


「うむ、少し本人に聞いてみよう――『恐かったろう。もう安心だ。ところでどこから来たのかね?』


 聡慈が鞄から木の実を一つ差し出し妖精に尋ねると、妖精は木の実を恐る恐る食べ、ポロポロと涙を流した。


『分かんない』

『では両親はどうかね? 覚えていることは?』

『分かんない』


 空腹だったのか妖精は咀嚼を止めず、やはり泣きながら答えた。


『そうか。まあ落ち着いて食べなさい』


 聡慈は妖精に優しく言うとライオホークたちの方に向き直った。


「この子は“幻魔”ではないかと思う」

「幻魔?」

「ああ。いつとこで生まれたのか、どこから来たのか誰にも、本人にも分からない。まるで突然その場に生み落とされたような不思議な生き物たちだ」


 妖精が一生懸命木の実を食べている間、聡慈はライオホークとベスに説明する。


「この子のお父さんとお母さんは……」

「もちろん分からんらしい。ただ他の幻魔を知っているが、どうも本能の部分で親を求めるところがあるようなのだな。この子がどうかは分からんが、まだ幼そうだしなあ」


 妖精の情緒を心配する聡慈を見て、ベスは悲しそうに顔を伏せた。

 この世にいない親を求める、そのことが彼女の心をチクリと刺した。


「さてどうしたものかな」


「あの……!」


 普段様々なことに無関心な様子を見せるベスが声を上げた。


 聡慈は彼女の次の言葉を待つ。


「あの、家に連れて行ってあげても、いいかな?」


 お願いすることに慣れていないのか、彼女は辿々しい言葉で視線を泳がせた。


「ベス、それなら君がこの子を誘い、そしてリースさんにお願いしてみなさい」


 突き放しているのではない。

 聡慈はベスの本質が今ここで出ていると思っている。

 彼は孤児院でも浮いているベスが、自ら変わる機会だと感じ取り、彼女の背中をそっと押した。


「……おいで。私たちと一緒に」


 ベスは妖精に手を差し伸べた。

 彼女のぎこちない笑顔を、妖精はつぶらな目で見つめている。


『おいで、と言っているんだよ。それともどこか行きたい所があるかね? この辺なら好きな所へ連れて行ってあげるよ』


 もしかしたら心に引っかかる景色などがあるかもしれない。

 聡慈は通訳しながら尋ねてみた。


『……』


 妖精は食べるのを止め首を横に振った。

 そして両手をベスに向かって伸ばした。


「くす……」


 ベスは妖精の仕草が、孤児院の年少の子どもたちが抱っこをせがむ時の仕草のように見えて思わず笑った。

 妖精の脇の下に手を入れ優しく抱き上げたベスは、照れ臭そうに聡慈たちを上目遣いで見る。


「さて、まだ仕事は終わってないが、ここはもう少し手間がかかりそうだ。一旦家に戻るとするか」


 聡慈は辺りを見回した。

 とりあえず問題は解決しただろう。

 後はどうやって依頼主に報告するか。

 その方法を考え、また妖精を保護するために、聡慈は孤児院に戻ることにした。






「わあ、可愛い〜」

 聡慈の懐から飛び出した妖精を見て、孤児院の子ども――特に少女たち――が黄色い声を上げた。


「きゃ! 聡慈さん、これは何ですか!?」


 リースだけは驚いている。

 やはりこれが普通の反応のようだ。


「いや少し仕事先で見つけまして。幻魔って言う特殊な子なんですが……」


 聡慈が説明しようとするがリースは珍しく厳しい顔をしている。


(あの顔は!)


 ベスは震えた。

 リースの顔は、捨てられた犬猫を連れて来て断わろうとしている時の顔だ。


「あの! この子は行く所が無くて……お父さんもお母さんもいないの! ここに住むのを許してあげて!」

「ベス……」


 ベスがこのように感情を露わにする姿など見たことがない。

 リースは驚き目を見開いた。


「お願い……私が面倒見るから」


 ベスの懇願と妖精が彼女の脚にしがみつくのを見て、リースは溜息を吐いた。


「仕方ないなぁ。じゃあ今日からこの子も私たちの家族よ。この子の名前は?」

「え?」


 リースがベスを見て、ベスは聡慈を見た。


「何で私を見るんだ? まあ一応聞いてみるが」――『君の名前は?』

『分からない』

「分からないそうだ。無いということだな」


「無いの? じゃあ名前付けてあげなきゃ」

「ふむ」


 ベスはじいっと聡慈を見つめてくる。

 リースや子どもたちもだ。


「何だね?」

「だってこの子とお話できないし」

「私に付けろと?」


 ベスは頷いた。

 子どもたちも釣られて頷いた。


(リオ! お前は話せるだろ!)


 ライオホークまで頷くのを見て聡慈は思わず声を上げそうになった。


「別に今話せなくても気持ちがこもっていれば良いと思うが……」


 聡慈の抵抗も首を横に振る子どもたちに跳ね除けられた。


「分かった分かった」


 聡慈は妖精の名前を付けることになった。

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