85 探索の旅(王国編-51)
収穫物を持ち帰った聡慈とライオホークは孤児院の皆に歓声を以て出迎えられた。
「うわぁ、すっげえ!」
「なになに?」
「ほんとだぁ! いっぱいいっぱい!」
集まって来る子どもたちの前に籠を下ろしたライオホークは声高らかに言う。
「さあ! 今日はみんなで肉を食べよう! 捌き方も教えるからしっかり料理当番の子は覚えてくれよ!」
「やったあ!」
「わあい!」
子どもたちの歓声は一層大きくなった。
「あらあら、リオ君、ソージさん、いいんですか?」
「ああリースさん、いいんですよ。我々の探索者活動のついでに取ってきただけですから。……あ、あとこれもどうぞ」
聡慈は虫を出すのは止めておこうと思って、他の獲物を出した。
「え〜、まだあるんですね。すごいなぁ、何かなぁ? ……!!」
リースはその二本の長モノを見た瞬間に、表情を凍らせ彫像のように動かなくなった。
「え、まだあるのぉ? 私にも見せてソージおじちゃん〜……って! きゃあぁぁぁ!!」
「なんだなんだ……うわぁっ!」
「ぎゃっ、蛇だあ!」
喜びの孤児院は一転パニックに陥った。
「あちゃあ、しまったなあ。まさか恐がらせてしまうとは」
「そう言えば俺も最初は結構恐る恐る食べてたんでした。すっかり忘れてました」
聡慈とライオホークは顔を見合わせ互いにしまったな、と気まずそうな顔をした。
「そ、それ食べるの?」
とりあえず大きな混乱の収まった孤児院で、少し離れた所からメグが尋ねた。
「うん……美味しいんだけど、やめとく?」
皮を剥ぎ内臓を丁寧に取り出して蛇をぶつ切りにするライオホーク。
切り身になった蛇は当然だが蛇には見えない。
しかしメグはどうしても蛇の姿がイメージされて戸惑いを拭えない。
「まあまあ、無理に食べよとは言うまい。他にも美味いものがあるのだからな。だが騙されたと思って一度食べてみると色々と感動するものがあると思うぞ」
聡慈の言葉は思わせぶりだ。
男子の中には迷いを見せる者もいる。
やがて聡慈たちが串に刺した蛇の切り身を火で炙り始めると、脳が蕩けたようにフラフラとその香りに引き寄せられる男子が出てきた。
が、結局子どもたちが蛇をつまみ食いすることなく夕食の準備は完了した。
もう一歩及ばず、と言うところかと聡慈たちは苦笑して食卓についた。
「うまあい!」
「おいしい!」
食卓は賑やかだ。
肉自体が滅多に食べられる物ではないご馳走だ。
その上今回の鳥肉には、味付けが塩だけではなく香草、香辛料も使っている。
子どもたちは食べたこともないような美味な料理に夢中になっていた。
それでもまだまだ蛇肉には手が伸びない。
「これも栄養たっぷりだから食べると風邪もひきにくくなるぞ」
聡慈たちは無理強いしないが、あの手この手でアピールはしている。
「シータ、お前食べろよ。風邪よくひいてるだろ」
六歳のラクが一つ年下の妹分に勧める。
決して嫌がらせではなく、本心からひ弱な妹分を心配してのことだ。
「えぇ、じゃあラク兄ちゃんが先に食べてみてよ」
「うえ!? 俺かよ……うう」
どうしてもあの蛇の姿が浮かんできてしまう。
子どもたちの分かりやすい拒絶に聡慈たちは蛇をそのまま見せたのは間違いだったかと反省した。
二人が諦めて自分たちだけで食べてしまおうかと思っていたその時――
「私に食べさせて」
ベスはそう言うと、目を瞑り思い切って一切れにかぶりついた。
「……おいしい」
皆が固唾を飲んで見守る中、ポツリと溢れたのは偽りを感じさせない声だった。
「私、食べたことある。この味。噛むとジュワッと美味しいのが口に広がって、でも獣肉みたいに臭くないし後味もさっぱりしてるの」
彼女はまだ両親が存命中に味わった、ある川魚の味を思い出していた。
もう両親の顔と同じくおぼろげにしか思い出せないが、彼女の顔は美味しさに自然と綻んでいた。
ゴクリ、と喉を鳴らす音が聞こえる。
ベスは澄まし顔に戻していたが、静かにシータの前に皿を滑らせた。
そしてもう一切れベスが口に運ぶと、シータも我慢できずに目を閉じて一切れを思い切って頬張った。
シータは無言でもう一切れに手を伸ばす。
その様子を見て、他の子どもたちも蛇の切り身を食べ始めた。
「ありがとうベス」
「別に」
聡慈とライオホークが礼を言ってもベスは皿から目を離さず素っ気なく答えただけだ。
だが聡慈は彼女の性根を少し覗けた気がする。
彼女は何が理由かリースや他の子と距離を置いているようだが、幼い者を気遣い面倒を見られる優しさを持っているようだ。
未だに蛇を前にして手を伸ばせず唸っているリースを見て苦笑を浮かべながら、聡慈は同時に穏やかになる自分の心を感じるのだった。
探索者登録は十歳以上でないとできないらしい。
ただし、探索者が自分の子に仕事を手伝わせたり、安い賃金で簡単な仕事を孫請けのようにさせたりすることを規制しているわけではない。
もちろん脅迫や暴力を用いて他人を従わせるなどの場合は犯罪であるが、金を払い被用者が納得している場合は問題は無いとされている。
「できる子には簡単な仕事をさせようと思うのだが、どうだろうか」
聡慈はライオホークに相談している。
「それいいと思います。俺も今回働いてお金もらって、すごく嬉しかったし、初めてお金のこと深く考えましたから。あの子たちにそういうこと教えるのって大事かなって」
ライオホークは胸に手を当ててしみじみと言った。
「リースさんに相談してみるか」
「ですね」
二人は組合で依頼をざっと見て、子どもたちにもできそうな依頼をいくつか心に留めた。
その後また門番に挨拶して山に入り、今回はキノコと野ネズミを獲得して戻った。
蛇に抵抗を見せた子どもたちとリースもネズミはすんなり受け入れた。
元から食べ物として認定されているらしい。
肉を食べながら七歳のプリシラがポツリと言った。
「また乳煮込みが食べたいな」
どうやら年に一度、乳を買い少しばかりの肉の入ったミルクシチューが振る舞われるらしい。
他の子どももその味を思い出したのかウットリとした顔をしている。
(お、これはいい流れだな)
金銭を稼ぐ話をするにはちょうど良い雰囲気だと聡慈は思った。
「山羊や牛を買えば乳が取れるかもな。牛は高いかもしれないが、山羊ならば頑張ってお金を貯めれば手が届いたりしてなぁ」
「えっ! いつでも乳が飲めるの!?」
「ちょっとちょっと、一体いくらすると思ってるの……それに飼って面倒見るのもタダじゃないのよ」
「え〜、お金貯めて買おうよ」
「も〜」
リースは困った目で聡慈を見た。
余計なことを言うなということだろうか。
「いや、目標があるというのは良いことだよ。働いてコツコツとお金を貯める。素晴らしいじゃないか」
「あっ、そうか……働かなきゃいけないじゃん……」
働き方を知らない子どもたちは落胆している。
「リースさん、私とリオは探索者組合でいくつか仕事の内容を見て来たが、子どもたちにできるものをさせてみてはどうですか。報酬は少ないが危険の少ないものとかを」
リースは悩む。
「う〜ん、せっかくソージさんとリオ君が勉強教えてくれてるのに、それに子どもたちが稼げる額は本当に少ないですよ」
リースも子どもたちを働かせていないのはそれなりの理由があるようだ。
だが聡慈は笑顔を向けた。
「ええ。もちろん小さい子のお世話もあるでしょうし。身の危険も心配でしょう。ですから私かリオの目が届くところで手伝ってもらいます。人数は一人、多くても二人までで」
「俺、やってみたい!」
「俺も!」
「私も……」
子どもたちは意欲的である。
リースは更に悩む。
「う〜ん……分かったわ。でも七歳以上の子だけ。危ないことはしないこと。ソージさんたちの言うことをよく聞くこと。それを守れないならこの話は無し。いい?」
「え〜」
「分かった! いいよ!」
七歳未満の子どもは不満顔をする。
一方で条件をクリアしている子どもは飛び上がって喜んだ。
その後聡慈が語ったどういう仕事があるかという話は、働いて良い子もそうでない子も一緒に、目を輝かせて聞いていた。




