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巡り求めて  作者: みおま ウス
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84 探索の旅(王国編-50)

 聡慈とライオホークにとって夜明けと同時に起きることは、苦痛にもあたらぬ習慣となっている。

 二人はまだ眠っている子どもたちを起こさないように静かに立ち上がり、寝転がる子どもたちを踏まないように慎重に歩き部屋を出た。




「あ、おはようございますソージさん。おはようリオ」

「おはようございますリースさん」

「おはようございます」


「おはようベス」

「……おはよう」


 今朝の料理当番はリースと次女のベスらしい。

 リースは聡慈たちに朗らかに挨拶を返したが、ベスは渋々といった感じで返事をしてすぐにそっぽを向いた。


 この孤児院に来て三日目だが、彼女だけは聡慈たちを余所者と見ているのか、彼らと距離を取るような素振りが見て取れた。


 ちなみに彼女だけはリースのことを“お母さん”と呼ばない。

 そのことを最年長のメグは密かに気にしいるらしく、ベスと二人きりの時にやんわりと嗜めているのを聡慈は見た。


 まあリースのことはともかく、自分たちについては知らない人がいきなり生活に割って入ったのだ。

 これぐらい警戒されても当然だと割り切って聡慈は気にしないことにしている。


「探索者組合まで行ってきます。情報の確認と仕事を探しに」

「あらあら、いいお話があるといいですね」

「ええ。行ってきます」






 二人が早く出発したのは、王都の端にある孤児院から探索者組合のある中心部まで行くには、かなり時間を要するためである。

 それにもう一つ、聡慈の趣味と言うか習慣になってしまっている、薬草となる植物等の採取のためでもある。


「探索者登録でも王都の出入りに使える証明書が発行されるらしいからな。それをもらったら門の外に出てみよう。いい草と虫が居そうな山を見つけたんだ」

「それは楽しみですね。そう言えばソージ先生、あの子たちは虫、食べられますかね?」

「う〜ん、ちょっと様子見た方がいいかもなぁ。とりあえず虫はしばらくの間は薬用だけに使おう」

「そうですね。でももうちょっと食事は何とかしてあげたいですよね」


 厳しい旅や恐ろしい敵との戦いを経験したが、ライオホークは心根の優しい子に育っているようだ。

 聡慈は嬉しくなってライオホークの髪を掻き回す。


「山に入ったら何か獲るか。その内あの子たちを狩りに連れて行くのもいいかもな」

「いいですね。……うん、すごくいいと思います俺」


 ライオホークは初めて聡慈と兎を狩った時のことを思い出した。

 あの味は忘れようがない。

 彼は孤児院の子どもたちにもあの感動を味わわせてやりたいと思うのだった。






 探索者組合は早朝から探索者用の入口のみ開いており、聡慈たちが来た時にはもう数人の来訪者の姿があった。

 聡慈は掲示板に貼り出されたエウリアの手配書を確認すると大きく息を吐き、“新規登録・相談”の看板が下げてある受付に並んだ。


「おはようございます」

「おはようございます。どうされましたか?」

「私と彼の探索者登録をお願いします」

「分かりました。登録についての説明をいたします」


 窓口からテーブル席に移って、登録、依頼への着手手続き、達成報告、報酬受領までの説明を受けた。


 ――登録はこの町のみ有効であること。依頼には期限付きの依頼や無期限の依頼があること。また依頼を受ける前に保証金を取るものがあること。一年以上依頼を受けなかった場合は登録が無効になってしまうこと。その他今までの依頼やよくある質問、失敗事例――


 などなどを聞いて、聡慈もライオホークも職員に了解の返事をした。

職員は頷き用紙を二人に差し出した。


「こちらの用紙に必要事項を記入してください」






「では手数料一人十銀いただきます。登録証の発行は明日になりますが、もしよろしければ何か依頼を受けてその達成報酬と一緒に受け取ることもできます」

「分かりました。早速依頼を見てみようと思います」


 聡慈とライオホークは手数料を払い、仮登録証を受け取ると掲示板を見に行った。


「と言ってももう決まってるんだがな」

「そうなんですか?」

「ああ。薬の原料を求めている依頼があった。山に行くならちょうどいいだろう」

「なるほど。食糧も探せるしちょうどいいですね」


 二人は組合を出て行った。






「あ、あの二人もう手続き終わったんですね」


 二人が組合を去った後、彼らを応接した中年の男性職員に、奥で事務をしていた若い女性職員が声をかけた。


「うん。お爺さんもお孫さんも理解の早い人たちでねえ。すいすいっと進んじゃったよ。かなり教養が高いんじゃないかな?」

「へえ、そんな人たちが何でこんな所に登録しに来るんですかね?」

「さあ? まあお孫さんが独り立ちする前に記念にってところ? それとも教育の一環なんじゃない?」

「ええ〜、そんな身分のいい人が来ますかあ?」

「たまに来るんだよ。世間の厳しさとかお金を稼ぐ大変さとかを教えようって人がね〜。何にせよツイてるよ。何度説明しても全く話の分からない人もいるんだからさあ」

「この前なんて依頼失敗の罰金に納得いかないって食いついて来た人いましたもんね」

「ほんと。それに比べてああいう賢い人は大歓迎だよ」

「まあそんな人たちは普通に手に職を持ってそうなもんですけどね」

「そうなんだなぁ」


 事務室に引っ込んで聡慈たちの登録事務を行う中年職員の溜息。

 探索者とは世間的には(あぶ)れものであることは職員の会話からも窺い知れるところである。

 そんな人たちの相手をするのも疲れるんだよ、と中年職員は溜息でアピールするのだった。






 聡慈たちは雑貨屋で背負い籠を買い、門番に「山に入って来る」と告げ門を出た。




 二人が再び門をくぐる時、門番はライオホークの背負った籠と手に下げた物を見て笑顔を向けた。


「少年、大漁のようだな」

「はい、このとおり」


 ライオホークは手に持った一羽の鳥を自慢気に掲げる。


「ソージ先生の方も獲物あるんで、今日はけっこうな収穫ができましたよ」

「ほう、それは良かった……な」


 聡慈が肩に担いでいたものを自慢気に掲げると門番は硬直した。


 聡慈の背からニョロリと前面に回されたのは二匹の蛇だった。

 頭を持った聡慈の手から尾が地面に着きそうな長さで、グッタリとしている。

 死んでいるのか生きているのか門番には判断できない。


「それも、食べるのかね?」

「え? はい、美味しいですよ」

「そ、そうか。その辺に逃がさないようにな」

「あはは、そんなもったいない。でも気をつけますね。

 ライオホークが門番と談笑するのを見て聡慈は安心していた。

 門番と言えば、故郷で彼を追い出した嫌な思い出の職業の者である。

 初対面でしかもそんな嫌なことを思い出させる相手にも卑屈にならずにいられる。

 成長したものだ。

 自分の影響か少し言葉遣いが子どもらしくない気もするが、大人になれば気にならないだろうし、孤児院の子どもたちと接する内に自然な言葉遣いも分かるだろう。



「ソージ先生、嬉しそうですね」


 多くの獲物で聡慈が喜んでいると思ったライオホークは、聡慈に並んで楽しそうに歩く。


「まあな」


 聡慈は笑顔でライオホークと話しながら孤児院へと向かった。



 明るい二人の様子を見て、道行く人々のほとんどが「仲の良い祖父と子ども」あるいは「父と息子」だと思った。

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