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巡り求めて  作者: みおま ウス
82/164

82 探索の旅(王国編-48)

 安い宿を探しに出たは良いが、どの宿も示し合わせたように満員で聡慈たちは困っていた。


「ソージ先生、また満員ですよ。でも『ガタイはいいのに陰気で引きこもる男の客ばかり』ってどういうことなんでしょうか?」

「さてなあ。故郷を捨て流浪せねばならん人たちが大勢出たのだろうかなあ?」


 宿の従業員たちが口々にこぼしていた愚痴が気になる二人。


 これはルガール領にいた兵士崩れが逃亡していることに大いに関係あるのだが、もちろん聡慈たちにそんなことは知る由もなかった。


 二人は満員で断られた後の何軒目かの宿の前で大きな溜息を吐くのであった。



「あの、何かお困りですか?」


 背後からかけられた女性の声は落ち着いて柔らかい。


(おや?)


 振り向いた聡慈は意外なものを見たように目を擦った。


 女性は三十代前半だろう。

 肩甲骨の下まで伸ばし首元で一つに縛った赤茶色の髪。

 涼しげな目元と澄んだ目。

 ライオホークに似ていると聡慈は思った。


「!! か……」

「……!」


 そのライオホークは、声をかけてきた女性と目を見開いて顔を見合わせている。


「ええと」


 聡慈は二人の様子を訝しく思ったが、女性の問いに答えることにした。


「この子と二人で宿を探していたのですが、どこも空きが無く困っていたんです」


 固まっていた女性は気を取り直した様子で聡慈を見て微苦笑を浮かべる。


「ああ、最近何があったのか傭兵さんみたいな方たちが次々とこの都に入って来て、何日かで出て行ってってことが多いんですよ。多分宿も三、四日日で空くとは思うんですけど……」

「そうなんですね……リオ、仕方ない。宿で寝るのは諦めるか。頼めば湯ぐらいは都合してもらえるだろうしな」

「――あ! はい! 俺はどこでも寝られるんで大丈夫です」


 虚ろだったライオホークも聡慈の呼びかけに我に返った。

 では、と聡慈は女性に会釈してその場を去ろうとする。


「あの! ちょっと待ってください! もしかして路上で寝たりするつもりなんじゃないですか!?」


 女性は慌てて二人を引き止めた。


「え? ええまあ、宿が無ければ。長旅でまあそういうことにも慣れてますから。もしかして路上で寝ていると取り締まられたりしますか?」


 聡慈はここが王都であることを思い出し、警備が厳しいかと不安になった。


「あ、いいえ……」


 だがそういうわけではないようだ。


「えと、ちょっと物騒じゃないかなって。それにそんな子を連れて……あの! もし良ければうちに来ませんか? ちょっと人数が多くて騒がしいですけど、路上で寝るよりはずっといいと思います!」


 女性は前のめりになって聡慈にもうし向けた。

 聡慈は彼女の妙な勢いに一歩引いて頷く。


「ええ、私たちとしてはありがたいお話ですが、ご家族に同意を得なくてもよろしいのでしょうか?」

「あ、そんなことならご心配なさらずともいいんですよ。来ていただければ分かります」


 女性は聡慈に微笑みかけ、そして少し戸惑いつつライオホークの手を取った。


「さあ、おばちゃんについておいで」


 ライオホークはうろたえ聡慈を仰ぎ見る。

 そして師が困った顔ながら頷くのを確認すると「はい……」と消え入るような声で顔を赤らめて答えた。






 リース、と名乗った女性に案内されたどり着いたのは二階建ての木造家屋だった。

 聡慈が見た感じ一、二階合わせて二十坪程の面積。

 外に炊事場や洗濯スペースらしきものがあるのは、東南アジア農村部辺りの住宅を思い起こさせる。


(大家族だろうか。子沢山? それとも何世帯か集まっている形か? いずれにせよやはり彼女の独断で良かったのだろうか)


 招かれた立場ではあるが聡慈は心配している。

 若いリースにそれほど決定権があるとは思えないからだ。


「ただいまメグ、みんなは?」


 リースは炊事場に出てきた少女に声をかけた。


「あ、リースお母さんお帰りなさい。みんなお家の中にいるよ」


 ライオホークと同じか少し下ぐらいの年齢の少女は、のほほんとした口調で答えた。


 ライオホークは一瞬泣きそうな顔をしたが、誰にも気付かれない内に表情を取り繕う。


「ありがと、今日はお客さんが二人見えたから後でお母さんも手伝いに行くね」

「うん、分かった」/


 こちらを見ながらペコリと頭を下げる少女に礼を返し、聡慈たちはリースに続いて玄関前まで来た。


「みんな、ただいまー! 今日はお客さんがいるからいい子にしてねー」

「あ、リースお母さんお帰りー!」

「お帰りなさーい!」


 リースが玄関を開け帰宅を告げるとたくさんの小さな足音が一斉に聞こえてきた。


(なんと、これはもしや)


 下は三歳、上は十歳ぐらいだろうか、顔立ちや髪の色まで違う子どもたちが八人。

 リースに駆け寄り、お母さんお母さんと言っている。

 いや、一人の少女はリースから少し離れて冷めた目をしているが。

 とにかく聡慈はここがどういう場所か察した。


「リースさん、ここはもしや」

「ええ、驚いたでしょう? ここは……」


「お帰りなさい、リースさん」


 少し離れた所にいた少女はポツリと言い、そのまま後ろを向き去ってしまった。


「あ、ベス……」


 リースはベスと言う少女を呼び止めようとして躊躇し、また聡慈たちに向き直った。


「あはは、もう分かっちゃいましたよね。そう、ここは孤児院なんです。と言っても私一人で自宅を改修して始めた、ちっぽけな共同住宅なんですけどね」

「その、いいのでしょうか。あまり楽なようには見えませんが……」


 気まずく笑うリースに聡慈は笑顔を返しつつも、これまた気まずそうに尋ねた。


「そんなこと気にしないでください。一人二人増えても大した負担じゃないですから。それに旅の話なんてめったに聞けないし、歳の近い子もいれば皆喜びます。ね、リオ君」

「え、あ、はい。俺でできることなら……」


 リースに手を握られライオホークは顔を赤くし、また少し悲しそうな顔をして答えた。


「分かりました。お世話になります。私たちも話だけじゃなく何かお手伝いしたいので、できることは何でもおっしゃってください」

「良かった! じゃあ今日のところはお疲れでしょうから、とりあえず休んでくださいね!」


(ん?)


 どこか噛み合わない感じだ。

 聡慈は今日一日の宿を借りるつもりなのに、リースはまるで“今日が一日目”のような言い方をする。

 いや、しかし問い詰めても意味のないことである。

 聡慈は礼だけを言い家屋内に入るのだった。






 孤児院の子どもたちは計九人。

 女児は十二歳のメグが最年長で十歳のベス、七歳プリシラ、五歳シータ、三歳エイミーの五人。

 男児は九歳のミゲル、七歳ベルク、六歳ラク、四歳ロイスの四人。


 さすがに九人子どもがいると賑やかだが、それぞれ共同生活を営む一員として、掃除や洗濯など役割を果たすべきものと認識しているようだ。


「うむ、我々も手伝うか。リオはリースさんと炊事場にいた子を手伝っておいで」


 休んでおくように言われたが、ちょっと落ち着けない。

 それにリースとライオホークの間には何かあるようだ。

 聡慈はライオホークに炊事場に行くように言い、自分は他の子の手伝いをしに行った。


(さあ、これだけ広い都市だからなぁ。何かしらの情報が得られるまでどれだけ時間がかかるやら。早い内に長期契約できる宿と収入を得る手段を探さないとな)


 聡慈は今後のことを考えながら子どもたちの輪の中に入って行った。


 子どもたちは人見知りもせずに聡慈に寄って来る。

 どの子も痩せていて服装も継ぎ接ぎだらけだ。


 聡慈は同情が面に出ないように気をつけようと思った。

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