81 探索の旅(王国編-47)
結局のところラフイルたち幼馴染み三人が引き受けた護衛は、商人同士の潰し合い、抗争の一環で、商品の搬送を妨害しようとする商売敵に空荷を襲わせる、いわゆる囮の役であった。
三人が引き受けた依頼は幸運にも違法ではなかった。
しかし彼らは不運なことに依頼主の商売敵が雇った賊に襲われ、生真面目に護衛に勤しもうとしたために本気の交戦となり、ラフイルとジオンズは重傷を負い、友人は殺されてしまった。
「まあそんな商人たちは行き過ぎた抗争で衛士隊により捕縛され、そいつらが雇った賊も憲兵隊に捕まって、自分らはどこに怒りをぶつけていいやら。そんな時に自分らを取り調べて、その後の面倒を見てくださってたゼフェル様の計らいで、衛士隊の模擬試合を見る機会に恵まれたんす」
そこで激戦を繰り広げたデミトールとゼフェルの戦いに魅了され、またゼフェルの剣技に亡き友人の大成した姿を重ねたラフイルとジオンズは、ゼフェルを拝み倒して半ば強引に弟子入りを成し遂げたのだ。
「いやあ、伝説の六廻将と戦うデミトール様も見てみたかったっす〜。もっと言えばゼフェル様とデミトール様で組んで……ああ、胸が熱くなるっすねぇ」
ジオンズのその思いにはラフイルも同意できるらしく、目を閉じ腕を組んで静かに頷いていた。
長い道中ではやはり恒例となった勉学、修行の時間が設けられた。
「ライオホークはいつも勤勉だな。もう読み書きも十分ではないか」
「ありがとうございますゼフェル様。魔言語も少しは分かるようになりましたよ」
「ほう。計算もできるし、ジオンズたちにも見習わせたいものだな」
ゼフェルがチラリと視線を送ると、ジオンズは下手くそな口笛を吹いて返事を誤魔化した。
「さ、さあソージ様、我らは手合わせでもしますか? それとも狩りでも……」
「あ、ずるいぞラッフィ!」
ラフイルは自分に飛び火するのを恐れ聡慈の方に退避する。
それを見てジオンズは涙目で非難した。
「む、私も久々に手合わせ願いましょうか。デミトールの奴が闘級を上げたと言われては、こちらだけ座して腕が鈍るのを待つのは耐え難いですからな」
ゼフェルがやる気を出して掛かり稽古への参加を申し出た。
「よっし! 自分もやるっすよ〜!」
ジオンズも素早く立ち上がり短剣を構えた。
「リオ……腕を上げたっすね。まさか自分について来られるなんて」
「でももっと強くならないと。俺、半腐貌との戦いではホント足手まといでしたから」
手合わせを終え、ジオンズもラフイルもライオホークの上達ぶりに驚き感心している。
しかし最も驚いているのはゼフェルである。
「ソージ殿、また剣の冴えが増しましたな。いや、力強さも速さも、全てが見違えているようです。一体何があって……」
「ソージ先生は闘級が二つ上がったそうですよ。しかも闘級の上昇以上の能力の向上を感じるってデミトール様はおっしゃってました」
我がことのように嬉しそうなライオホークの言葉に対し、ゼフェルは唸った。
「ううむ、一度負かした相手が短期間でこれだけ突然別人の如く強くなったら、それは伝説の人物と言えど意表を突かれたでしょう。これは私もうかうかとしておられません」
「おお、ゼフェル様の目が燃えていらっしゃる」
「すごいっすねソージ先生は……本当に何歳なのやら」
「ラフイル、ジオンズ、お前たちも年齢を言い訳にはできんな。この任務を終えたらソージ殿のように後進の教育に当たってみるか」
「うっ、それは……」
「げえっ、自分人に教えるってのはちょっと……」
「――オホン……お前たちが成長してくれねば、その内お前たちの役割を他の者に任せねばならぬ日が来るやもしれん。できれば私はお前たちに頑張ってもらいたいと思っている」
「……! はっ、このラフイル一層の精進に努めまする!」
「自分も! 人に教えると言うのは、う〜ん……それが必要と言うなら考えます! むざむざゼフェル様の御側を渡すわけにはいきませんからね!」
「頼もしい部下をお持ちですね。では差し当たり私とリオに色々とご教授願いましょうか」
「はは、よろしくお願いします。とは言えソージ殿からもあれこれ教えていただくので一方的な教師と生徒の関係では無さそうですがね」
旅はこうして大きなトラブルにも見舞われず、和気藹々と進んでいった。
馬車に揺られ約ひと月、田畑と点在する民家の更に先の方に長大な壁が見えてきた。
「王都中心部を囲う外壁です。この辺りに点在する人家も王都の一部と言えますが、壁の内側とこちら側では治安も利便性も大きく異なります。もちろん中心部に近い程税金は高い代わりに暮らし易いです。しかし広大な国土で農作物を各地から集めるのも困難ですので、このような地元の農家と言うのもそれなりに保護されています。ルガール領ほどではありませんが、今の治世はとても安定している、と言うのは大半の王国民が思うところではないでしょうか」
まだ壁の外しか見ていないが、ゼフェルが言うように牧歌的な空気が濃い。
王都を囲う高く長い壁は、戦時に備えると言うよりは観光名所のように雄大な雰囲気をたたえている。
門前でラフイルとジオンズが下車し、門番と少し言葉を交わすとそれだけで馬車の通過が許された。
先触れが伝えた情報と照会するだけで済んだわけである。
聡慈たちは王都の外壁内へと進み入った。
「うわあ、すっごく広いですね!」
「ああ、向こう側が見えないとは驚いたな。国土も広いがその中心地も桁違いの広大さだ」
ライオホークと聡慈は通りの広さと地平線で見えなくなる程の奥行きに、飾ることなく感嘆している。
「驚いたでしょう。私も若い頃やはり同じように感動したものです。ところで本当に王城へはついて来ていただけませんか」
「ええ、せっかくですがとても神経がもつとは思えませんので。それにやはり落ち着いて待つことはできなさそうですから」
聡慈に断られたゼフェルは残念そうだが、それ以上同行を求めることはなかった。
王城に来れば歓待はされるだろうが、自由が利かなくなることは分かっていたからだ。
「分かりました。後はせめて探索者組合を案内させてください」
ゼフェルは笑顔を戻し馬車を進めさせた。
探索者組合は四階建ての煉瓦造りの建物が一棟で正面に二箇所の入口があった。
一方は依頼者の応接用、もう一方は探索者たちの受付用で、それぞれの入口には大きな看板が掲げられている。
“依頼者受付”、“探索者受付”と言う文字と共に、依頼者側の看板には手紙の絵が、探索者用の看板には靴とスコップの絵の描写付きだ。
ジオンズに連れられ両方の建物に入った聡慈は、依頼者受付ではルガール領名義でエウリアの捜索依頼が受理されていることを確認し、探索者受付ではエウリアの捜索依頼が貼り出されていることを確認した。
「こんなにしていただいて……ありがとうございます」
聡慈はルガール領から遠く離れたこの地でもエウリアを探してくれる人がいることに感激し、ゼフェルたちの手を取って感謝した。
「いいえ、あなたの為さったことに比べれば微々たるお力添えにすぎません。早く再会できることを願っております」
聡慈たちは固く握手を交わし合いそれぞれ別れた。
宿も優先的に取れるように名前を使って良いと言われたが、旅人の自分たちが貴族であるゼフェルやデミトールの名前を出すのは気が引けた。
それに今後まだ依頼等で金銭を使う機会があるかもしれないことも、なるべく安い宿を使おうという気にさせた。




