80 探索の旅(王国編-46)
先触れを王都へ遣わせ旅立ちの準備のため数日を事務館で過ごした。
そして王都へ向かう日。
「ソージ様、ライオホーク、お久しぶりです」
「ソージ先生、ご無沙汰っす。またよろしくです。リオも、またよろしく」
「ラフイルさん、ジオンズさん、久しぶりですね。こちらこそよろしくお願いします」
ゼフェルと二人の護衛、聡慈、ライオホークの五人は馬車に乗り込んだ。
「ソーさん、リオ、色々ありがとう。あなたたちのお陰でこの領は救われた。誇張抜きでね」
「デミさん、私がまだ自分を磨けるんだから、齢半分のデミさんの槍はこれからまだまだ冴え渡るぞ」
「デミトール様、俺デミトール様の槍に勝つことを目標に剣の腕を磨きます」
「ソージ先生、僕久しぶりに勉強って楽しいものなんだって思い出しました。これからもっと勉強して最高の医師を目指します。リオ、君は幸運だ。賢者の下で修行を積めるのだからね。その幸運を活かしてよく学ぶんだよ」
「だから賢者はやめてくれと……」
「分かってるよ。アッシュ兄も元気でね。……護身術ぐらいは身につけなよ」
「俺はよぉ、田舎でチンピラの兵士モドキにケンカ売って年寄りや女、子どもの代わりにボコられて、そう言うのがカッコいいって思ってたよ。何か変えようともしなかったのにな。でもゴツいジイさんと生意気なガキと、ヒョロいメガネが現れてよ、変わっちまった領主様を正気に戻すなんて大言吐いて、何だか付いて行っちまって。気付いたらルスカ坊ちゃんたちと地下に潜んで領主様の屋敷に殴り込んで、領主様を助けたら今度は凄え強え伝説のクソったれと戦って……あ〜っ、くそ、上手く言えねえや――あのな、その、なんだ。簡単に言やあ、楽しかったぜ。だんだん強くなっていく自分が分かって、悪い奴やっつけてあちこちで笑顔が戻って、そうやってみんなで旅して。旅だって腹が空いたり、前も後ろも何も無い所に出て不安になったり。でもそういうのを乗り越えていくのがやっぱ楽しくて。デミ様が旅をやめたくねえってよく分かるんだ。そんな楽しい日々をありがとよ。リオ、それにソージ先・生」
「セス、歳を重ねるとどうしても体が硬くなる。君のかつての戦い方では早い内に衰えを感じることとなっていただろう。だが君はこの旅で見せたように進化の途中だ。十年後に更に強くなっていることを期待しているぞ」
「セス兄、やっとソージ先生って言った。ぎりぎり間に合ったってことで許してあげるよ。あとセス兄はもうちょっと勉強した方がいいよ」
笑い合って聡慈たちとデミトールたちは別れを交わした。
馬車が遠ざかり見えなくなるまで見送ってくれたデミトールたちに、聡慈とライオホークは感謝し再会を願うのだった。
「馬車は速くていいですね」
「ああ、本当に。だがひと月もこれでは体が鈍ってしまいそうだ。降りたらしっかり解さないとな」
腰や頭にガタガタゴトゴトと響く振動に目を瞑れば、寝ていても進む馬車の旅は今までの徒歩の旅より格段に楽だった。
「いやあ、まったく大したもんっすねえ。このだだっ広いルガール領を歩いて回るだなんて。そりゃあ半年歩いたって言っても嘘じゃないでしょうよ」
「ジオンズ、言葉遣いが乱れてるぞ」
「へえへえ、生まれが卑しいもんでえらいすんませんね」
「ジオンズ!」
くだけた感じで話すジオンズをラフイルが嗜める。
が、ジオンズのあしらい方が気に食わずラフイルは言葉を荒げた。
「まあまあ。私たちは気さくに話してもらって嬉しいぐらいですよ」
聡慈の言葉にジオンズは我が意を得たりと、したり顔をした。
「ですが、丁寧な言葉と気楽な言葉をあまり混ぜて使っていると、大事な時に適切な言葉の選択に失敗してしまうかもしれない。それはジオンズさんの主人、ゼフェルさんの品位を貶める惧れがある。それをラフイルさんは心配しているのではないでしょうか」
「うっ……」
「まったく二人とも客人の前で何をしておるのだ。ソージ殿、見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ない。普段からこの調子なのだ。あの潜伏時はそうでも無かったのに……余裕がある日々と言うのも考えものだな」
「はは、なるほどなるほど。ではこれからの旅路は本当の二人の姿を見られるわけですね。楽しみにしていましょうか」
「いやぁ、ええっと、別に普段通りだよねえラフイル?」
「あ、ああ。そうだな。何もおかしな所などない。普段通りだ、私とお前は」
ゼフェルに諫められ聡慈に冷やかされた二人はバツが悪そうに取り繕い合った。
「確かに二人ともちょっと印象が変わりましたよねソージ先生。……ところでさ、ラフイルさんとジオンズさんは同期ってやつなの? いつも一緒だし結構仲いいよね」
ライオホークの問いに二人は一瞬微妙に困った顔をした。
しかし彼の疑問に悪気の無いことを察して二人して同じように肩を竦めた。
「仲悪くしようとは思ってない。こいつとは腐れ縁があるからな。ただこいつは軽いのだ、色々とな。それがゼフェル様の部下として相応しくないから……ソージ様のお言葉をお借りするなら、ゼフェル様の評判に悪影響を及ぼすかもしれんから、正さねばと思うだけなのだ」
「自分は仲良くしようと思ってるっすよ。探索者時代からの連れっすから。ただラッフィは堅苦しいんすよ。ゼフェル様の評判がどうとか言ってるすけど、あれただの性格っすからね」
「何だと」
「何だよ」
「ほう、てっきりアッシュのように幼い頃からの侍従のようなものかと思っていたが、違うのですね」
睨み合う二人をよそに聡慈とライオホークはゼフェルと歓談を続ける。
「ええ。彼らが十五の時ぐらいですね、探索者として活動していたのを私自身で引き抜きました。良い才能を持った若者だとね」
「……」
「……」
傍らでゼフェルの言葉が耳に入ったラフイルとジオンズは、何故か睨み合いを止めて縮こまった。
「探索者、ですか」
聡慈の記憶では、確かエウリアのことを探すよう依頼しているのも探索者組合なる所だった。
その探索者だろうか。
「ええ、何でも屋、と言う者も居ますが。同業界内ではあまり好まれない言い方のようです。定職に就けない、或いは馴染めない者たちがよく選ぶ生き方らしいですよ」
ゼフェルからの視線を受けたラフイルが頷く。
「実際に経験した私の方が詳しいでしょう。探索者とはですね――」
ラフイルから説明を受けたが、やはり探索者は何でも屋だった。
組合に寄せられた種々の依頼が組合に登録した探索者たちに振り分けられる。
依頼事項を達成すると報酬は組合から探索者に支払われる。
依頼者は仕事をこなせる者を探し回らずとも良く、探索者は仕事が無いかと探し回らずとも良い。
多くの場合依頼者と探索者が互いに顔を合わせずとも良く、それも支持されており組合が各国に根を張っている理由でもある。
便利屋の派遣業、それが聡慈の抱いた探索者のイメージだった。
そんな探索者を幼馴染み同士で始めたラフイルとジオンズ、それに今は亡き友人の三人は、組合を通さない依頼に手を出していた。
組合は確かに便利であるが、仲介料の分手取りは減る。
それに大きな依頼は多くの依頼をこなして信用のある探索者に任せられることが多い。
まだ若く信用が無い。
そんな三人が金を稼ぐためには組合を通さない依頼を自前で見つけて受けることも選択肢の一つではあった。
もっとも組合を通さない依頼と言うのは、単に仲介料を浮かせたくて依頼を出す場合に留まらない。
組合に出すと憲兵に通報されるような違法行為を持ちかける輩もいるのだ。
若い三人は当時一つの護衛任務を引き受けた。
その護衛が何から、何のためにどういった者から守るのかは一切確認しないままに。




