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巡り求めて  作者: みおま ウス
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75 探索の旅(王国編-41)

 デミトールの落下を見届けマーシ=セインは笑った。


「カカカ、まあこの程度では死なぬだろうが――上がって来るまでにはお前のその魔法抗力を調べておかねばな。殺したは良いが力が戻らなかった、では都合が悪いのでな」


 彼は一人頷いて広間の入口へと向かう。


「さあ、お前たちもここでおしまいだ」


 そして入口を塞ぐ形で聡慈たちへと言った。


(アッシュ!)

(うう……分かってますけど……ええい!)


 聡慈とアスクレスはセステウスとライオホークを抱えて自ら穴へと飛び込んだ。

 敵の独り言から即死の罠ではないと、目の前の敵を相手にするよりは生存率が高いと判断してためだった。


「カカカ、賢明だな。せいぜいあの槍男の足を引っ張り時間をかけて上がって来るといい」


 聡慈たちを取るに足りない存在だと見切ったマーシ=セインは、デミトールの魔法無効化の危険性を調べるための時間稼ぎとして彼らを追いやったのである。

 満足気に笑うと彼は、元の研究室に準備をするため戻って行った。


 広間に静寂が戻ると、空いた穴は徐々に閉じていった。






 飛び込んだ穴の深さは五メートル程度はあっただろう。

 受け身も取れない二人では危険な高さではあったが、幸いにも着地した地面は何かが積み上がっていたのか、木の枝を踏み折るようにバキバキと音を立て壊れていき、地面へ直撃することなく聡慈たち四人は負傷を免れた。


「う、ここはまた……」


 聡慈とアスクレスはこみ上げる吐き気を抑えてその場から離れる。

 彼らが踏みつけているのは積み上がった屍であったのだ。

 何をされたのか体重をかけるだけで割れてしまうぐらいに脆くなっている骨ばかりである。

 ここもまたマーシ=セインの言うところの“ゴミ”捨て場、なのだろうか。

 聡慈たちの鼻はとっくに死の臭いに浸されてしまっているが、死者の怨念がその身に覆い被さって来るような恐怖と不快感からは一刻も早く逃げ出したかった。






「ソーさん、逃げきれなかったか」


 デミトールとはすぐに合流できた。

 一足先にこの場に下り立っていた彼も無事であった。

 精神がおかしくなりそうな場所であるが、二人は少しだけ心が落ち着くのを感じた。


「ああ。すまないな。あの男のことを外に伝えられたら良かったのだが」

「いや、相手があの六廻将と言うのなら仕方がない。あの場から逃げ出せただけでも良かったのだ」

「そうだな……とにかく二人を治療せねばなるまい。アッシュ、頼むぞ」

「あの、デミトール様……それが実は、まだ魔法が使えないんです」


 アスクレスは俯いて言った。

 魔法を使おうとしても魔力を出せないのだ。


「私も数秒動くことができなかったが今は平気だ。アッシュとこの二人は私が治そう」


 さっきの煙は様々な状態異常を引き起こすようだ、と聡慈は推測した。

 それぞれに異なる症状が出ているところを見ると、魔法の煙は複数の毒素を含んでいるが、罹患するのは最も耐性が低いものということだろうか。


(何だ、魔力で蓋をされているみたいだ。このせいで魔力が出しにくくなっているだけだな。落ち着いて時間をかければ魔法は発動できるはずだ)


 聡慈は魔力の流れを見ることでアスクレスにかかった魔法封じの仕組みを解明した。

 そして彼の胸の中心辺りに見える“魔力製の蓋”を除去するように魔法陣を構成すると、アスクレスの症状はすぐに改善された。






 セステウスとライオホークも回復し、五人はこの場からの脱出とマーシ=セインへの対策を話し始めようとした。


「何か物音が聞こえないか?」


 セステウスが気づいたように、確かに何かが近づくような音が聞こえる。

 水が流れるようにも布地が擦れるようにも聞こえるが、肌が粟立つのはきっと良くないものが近づいているからだろう。

 五人は部屋の中央に位置し、音のする通路を向き武器を構えた。


「鼠だ!」


 大挙して押し寄せて来るのは鼠の大群だった。

 体長二十五センチメートル程の痩せた鼠が流れる川のように途切れることなく列を為している。


(あの骨の山はこいつらの仕業か!?)


 聡慈たちは一様に鼠たちに襲われた末路を想像した。

 食いつくされて一片の肉も残らないだろう。


「こいつらは魔物じゃない! アッシュ、回復魔法はダメだ!」


 聡慈は魔力の流れを見て即座に判断した。

 さらに


「風をあの通路に流してくれ!」


 そう言って自分も魔法陣を構成し始めた。


「……! ソージ先生を守らないと!」

「おう!」


 聡慈が何か対策をすると見たライオホークは、飛び掛かって来る鼠を聡慈に到達させないように前に出る。

 セステウスとデミトールも応じて前衛に位置取った。



 跳躍する鼠と地面を駆けて襲いかかって来る鼠。

 その数の多さで波状攻撃をしかけられていることで駆除に手が間に合わない。

 鼠の爪や歯は鋭く、体に比べ大きい。

 三人の皮膚は刃物で斬られたように裂けていく。


「私が最前列に行く! 二人は少し退がれ!」


 防御力の高いデミトールが攻撃を引き受けに一歩前に出た。

 彼だけは些細な引っ掻き傷程度で済んでいるが、それでも血が滲んできている。


「くっ、毒持ちか!」

 しかも悪いことに傷口を中心にジワジワと黒ずんできた。

 今のところ動きを阻害するような自覚症状は無いものの、進行しない内に措置をしたいところである。


「よし! 開けてくれ!」


 聡慈からの声が掛かったと同時に、デミトールたちは纏わり付く鼠を振り払い斜め後ろに飛び退った。

 今なお大量に暴力的食欲の、悍ましい気配犇めく通路。

 そこに聡慈の放った魔法が、魔法の光を反射しながら冷たく輝く風を流して行く。


 決壊した堤防から押し寄せる濁流のようだった鼠の勢いは止まった。

 いや、厳密には止まっていないが鼠どもの勢いは明らかに弱まった。


「よし! 今の内に片付けるぞ!」


 デミトールの号令でセステウスとライオホークは、未だに肉への執念を見せる鼠どもの駆逐に動き出す。

 二人は多くの鼠を蹴散らしていた時に脳裏に閃いた技を試そうと思った。



「食らいやがれっ! 【波震掌】!」


 魔力の込められたセステウスの掌底が地面を打つと、地面の上で衝撃波が発生した。

 耳を打つ破裂音の直後、彼の前方には体の弾けた鼠の死骸が扇状に散乱していた。


「よしっ!」


 セステウスは拳を小さく突き上げ自力で掴んだ技能の手応えを噛み締めた。



 ライオホークは剣先を下に向け、左腰に柄を持って来た納刀のような姿勢から、一歩踏み込み剣を低く振り抜く。

 ――聡慈の目には振り抜いた剣の軌道上に、魔力が留まっているのが見えている――

 さらにライオホークは空を切った剣を勢いのまま右腰に戻し、脇構えから剣を左上方に振り上げた。

 一振り目で留まっていた魔力は二振り目で放たれた魔力と交差し、空を裂き鼠の集団を十字に断ち切った。


「できた……!」


 残心を取りながらもライオホークは嬉しさを滲ませる。

 聡慈が見せてくれていた構えからの技を、自らの手で編み出してみせたのだ。

 このような場でなかったら聡慈に駆け寄って喜びを思い切り表現したかった。



 二人が披露した技能で大きく数を減らした鼠は、聡慈の追加の魔法も食らいとうとう全滅するに至った。






「リオ、さっきの技格好良かったぞ」


 前衛だった三人は魔法と命の水で傷を癒している。


 聡慈は教え子が一つ壁を越えたことを感じ喜びを示した。


「ありがとうございます! 【二影刃】、先生の技を思い描いてたらいつの間にかできるって確信してました。俺の初めての技能です!」

「おお、やはりあれが技能か。デミさん、私はあまり詳しくないから代わりに助言をしてやってくれないか」

「うむ。リオ、セス。技能は威力が高かったり攻撃範囲が広がったり便利なものだ。だが動きが大きく隙が出易く、また魔力を使うからな。機を見てここぞという時に使うんだぞ」

「はい!」


「さあ、しっかり休息を取りたいところだがまだ不穏な気配はしている。安全に休める所か脱出できる道を探そう」


 鼠の動きがきっかけか、まだ自分たちの元へ近づく敵の気配を感じる。

 気を抜いている時間はまだ無さそうだった。

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