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巡り求めて  作者: みおま ウス
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74 探索の旅(王国編-40)

 ゆらりと立ち上がった男は陶芸家のように前掛けを着け、頭に手拭いを巻いた、若いのか年寄りなのか年齢の判別し難い顔をしている。

 顔面の左半分が灰色と緑色が混ざったような色で皮と肉が溶け混ざっているのも、余計に男の顔貌を曖昧にしている。

 左手にだけ手袋をしているのを見ると、顔だけではなく左半全体が腐っているのかもしれない。


「カカカ、この体が気になるかね?」


 顔の左側の皮膚を引きつらせながら男は笑う。

 その声は青年のように張りがある。


「儂はお前がどうやって支配を解いたかが気になるがね。ルガール領の主よ」

「やはり貴様か! この領を乱した大罪人め!」


 デミトールは怒気を抑えようと歯を食いしばっている。

 目の前の敵が余裕を見せている間に解明せねばならないことがあることを忘れてないからだ。


「この体を操ったのは何故だ。他人から力を奪うようにしたのは何の意味がある?」

「カカカ、支配を逃れたなら地の果てまで逃げれば良かったものを」


 さも滑稽だと男は嘲笑う。


「なに、ちょっとした研究のためだ。ここぐらい広大な土地があって、お前ぐらいにそこそこの強さのある領主であればな。大きな実験のための土台にするには十分であったものを……次からは少しばかり善政を行う期間を設けねばならんかもしれんな……いや、それでは余計な手間が……」

「何を言っている」


 途中から独り言のように呟き出した男に苛立ちを覚えるデミトール。

 そんなデミトールの顔色に気付いて再び男は愉快そうに笑みを浮かべる。


「カカ、呪法を打ち組み込んだのはお前の護身を図ってやろうかと思ってのことだ。感謝されこそすれ恨まれる筋合いはないがね」

「戯れ言を……!」


「呪法とは何だ?」


 怒りかけたデミトールの前に聡慈が立つ。

 ようやくエウリアのルーツが分かるかもしれない。


「知る必要は無いなぁ。それよりも魔法を解除されたのに力が儂の元に戻って来ないと思ったら、お前儂の魔法を封じているのか」


 男は濁った目を鋭くした。


「返してもらわないとなぁ」


「待て! どこへ行く!?」


 言葉とは裏腹に男は背を向け奥の通路へと消えるように去って行く。


「ここを荒らされるのは不快であるからな。来るがいい」


 男の声だけが響いた。

 デミトールたちは男を追って奥へと進んだ。






 通路を抜けると今までで一番広い空間が広がっていた。

 来た道の他に通路は無く、奥では男が椅子に腰掛けている。


「カカカ、さてせっかくここまで来てくれたんだから、ついでにゴミ処理でも手伝ってくれたまえ」


 男が手を挙げると地面が捲れ上がるようにして何十体もの人間や獣が起き上がった。


「死腐人……? 全て魔物か!」


 聡慈たちは押し寄せる魔物たちとの戦闘を余儀無くされた。






「カカカ、感謝感謝。邪魔で仕方なかったのだが、いざ廃棄するとなると自分で作ったモノだけに吝気が働いてしまってね。やはり溜まったゴミ処理は赤の他人に頼むのが一番だ」


 侵入者たちの戦闘を観察しながら男は笑う。

 初歩の魔法、目の前の失敗作を何とか一撃で葬れる程度の膂力。

 一人だけ段違いの猛者がいるが、それも常人の基準でのこと。

 男の脅威たるには遠く及ばないことがよく分かった。


 魔物は全て倒れ伏した。

 それらから一斉に黒い靄が抜け出て一塊の渦を為し、男の元へと飛んで行った。


「ふむふむ。ゴミはゴミなりの力しか返ってこんな。やはりお前から返してもらった方が余程効率が良さそうだ」


 男は黒い渦を手で受け止め、掌で転がし味わうように手から吸い込ませた。


「力を対価に支配を可能としているのか?」

「カカカ、穿った見方はよくないな。これは全くの好意、無償での力の貸与だとも。それが儂の、このマーシ=セインに刻まれた聖印の効能であるからな」

「貴様のような邪悪が聖印を持つだと! ……いや、思いたくなかったがマーシ=セイン、貴様が六廻将だと言うのなら」

「真実だとも。お前たち定命の存在では到達できぬ領域に足を踏み入れ、魔物という脅威を退け人々の安寧を獲得した六人の英雄……だったかな? まあ感謝は求めておらなんだが、こう邪険にされるものでもないと思うがいかがかね。私欲での行為では無かったとの証明がこの聖印であろう?」


 マーシ=セインは自分の右掌に刻まれた聖印をデミトールたちに見せつけるように突きつける。

 そして自嘲するように鼻を鳴らした。


「全くこの聖印の力を使うに値する者など現れないかと思っていたが、最近になってようやくだよ。力を貸したモノを操る術を開発したのはね」


 彼の語りは続く。


「欠点は貸し与えた分の力が儂自身から抜けてしまうことだな。特にお前のような力ある者を支配した時にはな。改良の余地があるのは研究に時間が費やせるから悪くはないが……さあもう十分説明してやっただろう。さっさと死んで力を返してもらおうじゃないか」


 自害しろ、とマーシ=セインは言った。


「ふざけるな! 貴様が滅せよ!」


 デミトールは怒りを込めて槍を振るう。


「カカカ、まあこんなものだな」


 聡慈たちは驚いた。

 あまりにもあっさりとデミトールの槍が受け止められた。

 こんなことは初めてだった。

 しかし、ならば五人がかりではどうだ。


 とうとう本格的なマーシ=セインとの戦闘が始まった。






 五対一の戦闘、しかしマーシ=セインはデミトール以外の四人に見向きもしなかった。

 防ぐのはデミトールの槍のみ。

 他の四人の攻撃は、ライオホークの斬撃も、セステウスの拳打も、聡慈の魔法も、アスクレスの――半ばヤケクソ気味な――回復魔法も、全てはマーシ=セインの身体に届いて、それでも僅かな損傷を与えることすらできなかった。


「どうなってやがる!? なんで当たってんのに平然としてやがんだ!」


 セステウスが殴りながら吠えている。


「カカカ、これはまいった! ここに来たのは戦いの素人か? それともこの時代ではその程度の常識も無い者ばかりなのかね?」


「いいかね。闘級が上がる恩恵は腕力や魔力量の上昇に止まらん。生命を脅かすような危害に対して自動的にその威力を軽減する力――私たちは防御力と呼んでいたが、その力の付与と強化もしてくれるのだよ」


 呆れてるのか本気で失笑しているのか、マーシ=セインは何とも言えない大笑いをしている。


「お前たちの攻撃は儂の防御力によって無力化してしまう程度の威力しかないと言うことなのだよ!」


 決して戦闘経験が少ないというわけではないのだが、深傷を負う機会も無く順調に旅をして来た彼らは防御力の恩恵を感じることなど無く、今初めてそのような力が存在することを知った。


「そろそろ終わりにしてやろう!」


 五人が敵の防御力を突破する手段を考える間もなく、マーシ=セインの左半身から噴き出した煙が彼らを襲う。


 聡慈は見えない鎖で縛られたように体を動かせなくなった。


 セステウスは激しい目眩と脱力感に襲われた。


 ライオホークは体に電撃が走ったような痺れを感じ動きを止めた。


 アスクレスは三人の異変に気づき魔法での治療をしようとして、魔法を使えないことに狼狽した。


(くっ、奴は何をした!? これは……撤退もままならんか!)


 デミトールは刺し違える覚悟を決めた。


 気を張り詰め無言で突進、これより後は無いとばかりに無呼吸の連撃を繰り出す。/


「ふむ、これも無効化するか」


 マーシ=セインは後退しながら攻撃を捌く。

 しかし技はデミトールが一段上なのか槍が体を掠める。


「武器を扱わなくなり久しい故、鈍っておるな……だがここまでだ」


 二人が部屋の奥まで来た時、マーシ=セインは大きく飛び退った。

 その直後、大きな穴が空き、デミトールはなす術なく落下して行った。

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