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巡り求めて  作者: みおま ウス
73/164

73 探索の旅(王国編-39)

 戦いはデミトールたちが敵の十数人を圧倒していた。

 デミトールは言うに及ばず、セステウスもライオホークも相手を一撃で倒していく。


「くそっ、コイツら(つえ)えぞ!」


「何してやがる! 一旦仕切り直せ! 相手はほとんどガキや若僧だぞ!」


 敵は浮き足立ち、名主は苛立ちを隠せず後ろで怒鳴り散らす。


 そして敵が残り三人となり狼狽も露わになった頃――


「控えい、控ええぇい!」


 聡慈の腹からの声が響いた。


「このお方をどなたと心得る!」

「ソ、ソーさん?」


「このルガール領の領主、デミトール=ネウロ=ルスカ公であらせられるぞ! 頭が高い! 控えおろう!」


 突然何やら口上を述べ始めた聡慈にデミトールは困惑している。

 いつもの聡慈らしくない、どことなく浮ついた雰囲気を感じた。


「りょ、領主だと……そんなバカな、何言ってやがる?」

「あ、ああっ!」


 名主たちが動揺しつつも疑念を向けてくる中、大声を出した村人に注目が集まる。


「あの長槍は、あの紋は、ま、間違いなくご領主様の御槍!」

「ちょっと、村長それホントなの!?」


 声の主である年配の男はこの村の村長、だった男だ。

 名主が現れその地位を追い落とされたという経緯を持っている。

 ――彼は、その経緯を知った聡慈に機を見て声を上げるよう依頼されたサクラであった。


「ああ! 間違いない! ほれ見よあの勇壮な大鷲の御紋! あのご領主様の威風堂々とした立ち姿!」

「そ、そんな御紋見える? 立ち姿が立派なのは否定しないけど……」


 間違いない、と連呼する元村長の勢いに気圧されシュードラはじめ他の村人も『そうかな』、と思い始めている。


「あ、あ、そう言えば領主って言やあ槍の達人だって……」


 敵の中からもその勢いに呑まれる者が現れた。


「ははあーっ!」


 そしてとうとう名主を除いた敵、村人の全てがデミトールに平伏してしまった。


「ソ、ソーさん……」

「さすがソージ先生!」

「ちょっとリオ、そこは『さすがデミトール様!』でしょ」


 唖然とするデミトール。

 聡慈を称えるライオホーク。

 誇らしげにデミトールの両脇に控えるアスクレスとセステウス。


 平伏している者たちから見ると辺境の村の窮地に現れた英雄一行、領主乱心の噂を一息で吹き飛ばすに足る威光を放っていた。


「ええい!何が領主だ! こんな辺鄙な村にわざわざ領主が足を運ぶものかぁっ! 立てテメェら! あの領主って奴さえ殺しちまえば後はどうにでもならぁ!!」


 慄く手下を蹴り立たせ、名主は自らもデミトールに斬りかかって行く。


 だが十数人で手も足も出なかったのに僅か三人ばかりで敵うはずもなく、デミトール一人により瞬く間に叩きのめされた。


 名主たちは一部疑問を抱いたままの村人により捕縛され、近隣の村から兵士が来るまで倉に閉じ込められることとなった。






「ホントに領主様だったんだ……」


 二日後、やって来た兵士がデミトールに跪き礼を取るのを見て、ようやくシュードラたち村人はデミトールを領主だと信じることができた。

 名主やその手下たちは連行され、元村長は無事に村長に返り咲いた。

 明るくなった村が嬉しいのか、子どもたちが駆け回っている。


「セス兄ちゃーん、遊ぼー! ……あれ? どうしたの?」


 村長の家に宿泊していたセステウスを呼びに来たサンドラは、旅装を整えた彼らを見て首を傾げた。


「おう、サンドラ。世話になったな。ちょっと敵の親玉ぶっ飛ばしてくらぁ」

「え〜、もう行っちゃうの?」

「まあな。悪党も引き渡したし、何よりいい情報が、な」


 セステウスはチラリと側に立つ村の男に視線をやった。


「サンドラ、ご領主様方はこの領地で良からぬことを企む悪党を討ちに行かれるのだ。邪魔をしてはいかんぞ」

「分かってるもん!」


 サンドラは怒りつつも出て行く気配を見せない。

 どうやら見送ってくれるようだ。

 セステウスは微笑み、手甲や脛当て等の装備を全て身につけ立ち上がった。

 他の四人もセステウスの意図を汲み、各々装備を整えて出立の準備を終えた。






「セス兄ちゃんたちカッコいいね!」

「ホントだね。さあ、目立つように大きく手を振ろう」


 村を発つデミトールたちは身なりを整え、堂々と歩いている。

 姉妹は見送る村人の前面に立ち手を振っている。


「また来てねー!」


 サンドラの大声に応えるようにセステウスは高々と拳を掲げた。


 シュードラは、彼らがこんな辺鄙な村に何度も来ることが無いとかそんな暇な立場ではないことが分からない程子どもではない。

 だがもしまた立ち寄ってくれるなら、その時に自慢できるぐらいには村を良くしていきたいと思うのであった。






 案内の村人に先導され山へと向かう五人は、村人の話により征伐隊が敵の潜伏地を発見できなかった理由を知った。


「山の地下、か。確かに山の位置には違いないが……山登りして探しても見つからないわけだな」


 村人が指し示したのは山の麓の地面にぽっかり空いた空洞であった。

 ほんの一メートル四方しかない地面の穴は登山道から外れており、近づかなければ見つかりようもない。

 空洞の中はより広い空間で、緩やかな下り道となっている。


 デミトールの感覚では確かにこの道は敵へと繋がっている。

 山の下、もしくは内部へと続いていることは間違い無さそうだ。


 案内の村人に礼を言い別れ、空洞へと進み入った。






 地中であるため一切の明かりが無い暗闇だ。

 聡慈の魔法が前後を仄かに照らしている。


 聡慈の目には漂う魔力が見えている。

 光差す部屋に浮遊する埃のようだ。


 魔力が見えない他の四人も、体に纏わり付くような重苦しさを感じている。

 聡慈ならずとも進む先の戦いの予感を察せずにはいられなかった。






 予想に反して道中では戦闘の機会が少なかった。

 何度か単体の魔物に遭遇しただけで、負傷せず体力も十分に残っている。



 そして進んで行くと、前方を照らす範囲が広がる所に行き当たった。


 通路から飛び出さずに光の範囲を変えて様子を窺う。

 広間のようだが何か居る気配は無い。

 進んだ先は約七メートル四方、高さ四メートル位の空間であり、奥の方には二つの通路が開いている。


「こっちだ」


 デミトールはもう高い精度で敵の位置を辿れるようになっていた。

 高い精度で辿れるほどに敵の懐近くまで入り込んでいたのだ。


「なんか臭いますね」


 ライオホークが言った通り、肉が腐ったような臭いが漂ってきた。

 空気は重苦しさを一層増し、じっとりと肌に絡みつくようだ。

 敵の気配はより強くなってきている。






 広間に出て別れ道を選びまた広間に出て。

 同じ道を回っているのではないかと思い始めた頃――


「着いたな」


 土や岩盤をくり抜いたような洞窟に不自然に現れた鉄の大扉。

 デミトールに言われるまでもなく皆が同様に感じた。

 見たところ仕掛けも何も無く、押して開くだけの観音開き扉のようだ。

 あまりに重く五人がかりでないと動かすことができない程であるので、中に素早く入り込み不意を突くことはできそうにない。

 だが待ち伏せの気配も無く、五人は思い切って扉を押し開いた。


 扉を開けた途端に彼らは思わず顔を顰めた。

 腸を破りガスが噴き出したような悪臭と濃密な死の気配がその場を満たしている。

 整然と物が並べられた書棚や薬品棚から下へ目を向けると一転、床には幾つもの動物や人間の骸が散乱しており、それがこの臭気と悪寒の原因であることは疑いなかった。


「半腐貌だな。貴様を成敗しに参ったぞ」


 部屋の奥で骸の中に手を突っ込んでいる男に向かって言った。

 男はデミトールの声を聞いても骸を弄る手を止めず、視線をよこそうともしない。

 デミトールは槍を構え一歩踏みこんだ。


「その蔑称は好きではないのだがね」


 男が幽鬼の如く立ち上がった。

 デミトールの殺気に動じない強者の空気を身に纏っていた。

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