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巡り求めて  作者: みおま ウス
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67 探索の旅(王国編-33)

 聡慈はエウリアのことを、彼女との出会いから封じた力のことまで語り伝えた。


「その半腐貌とエウリアがどのような関係かは分かりません。似たような力なだけで全く関係ないのかもしれません。あの子の縁者で無いことを祈るばかりですが、もし其奴があの子の力を、何かしらの方法で利用しているのならば、私はそれを無視するわけにはいかないのです」


 正直に言うと聡慈は、敵がエウリアの力を利用している可能性は殆ど無いと考えている。

 だが、魔法で遠くの人間も支配するようなことができるのだ。

 万一も考えて確認する必要はあると思っている。

 それにあのエウリアの、封じるしかなかった力を、自分の意思で制御する方法を知っているかもしれない。

 エウリアに繋がる何かがあるのに聡慈は黙っていられなかったのである。


「なるほど。それは心配でしょう。でしたらすぐさま領内に捜索と保護依頼の手配をいたしましょう」


 デミトールは執事に必要な書類を整え持って来るように指示をした。

 次に残念そうに聡慈に頭を下げた。


「しかし征伐隊への参加は遠慮していただきたい。もちろん会敵したならばエウリア殿の件や不思議な力のことは追及することを約束します」


 デミトールの言い分は、恩人をこれ以上危険地に行かせるわけにはいかないと言うことと、行軍のペースが乱されては兵士に危険が及んだり敵を逃したりするしれないから、軍務には就かせられないと言うものだ。


「その間はどうかここでお寛ぎして、もちろん賢者殿の故郷にも連絡を送りましょう」


 デミトールの言葉に聡慈は考える。


(ううむ、これならばラグナに戻った後に便りを貰っても良いかもしれないな)


 その考えを伝えてみた聡慈だが、アスクレスやセステウスから反対の声が上がる。


「ソージ先生、まだゴロツキ兵士が蔓延っているんですから危ないですよ」

「そうだぜ、まあ警備つけてくれるだろうけどよ。それにこんなこと言っちゃなんだけどよ……もしだぜ、もしその子が帰ってなかったら、また旅を続けなきゃならねえんだろ? だったら便りを待ちなよ」


 二人だけでなく、聡慈と共に潜伏期間を過ごしたメンバーが次々と言ってくる。

 聡慈に親しみを持っており、残ってほしいと思っている者たちだ。

 ライオホークも満更でも無さそうな表情をしている。


(ライオホークだけでもこの領土で世話になることはできるのだろうか……)


 聡慈は考える。

 いずれライオホークも自立するのだ。

 領主たちの覚えめでたくなったこの機会に、願い出てみてもいいかもしれない。



 結局聡慈はしばらくルガール領に滞在し、ラグナからの返信を待つことに決めた。






 迅速を期すべき征伐任務であったが、全力を尽くせない二つの障害が浮上した。


 一つは領内で雇い入れた劣悪な兵士たちを解雇せねばならないことである。

 違法行為が明らかな兵士については言うまでもないが、目立たぬ怠慢や不適切な職務執行も明らかにする調査と法的手続きが必要となる。

 事務手続きは文官の職域であるが、対象が兵士でその人数の多さと反発も予想されることから同じく兵士の動員が必要とされた。

 半腐貌の征伐と同じく領内の秩序回復は急務である。

 兵士を征伐だけに割り当てるわけにはいかなくなった。


 もう一つ征伐隊に関する想定外の障害は、デミトールが馬に乗れなくなったことだ。

 と言っても身体的な意味ではない。

 デミトールが馬に忌避されるようになってしまったのだ。

 彼が近寄るだけで馬が怯え暴れてしまう。

 未だに敵と魔法的に繋がっているデミトールが行軍に加われない。

 それでもまだ幸いだったのは、彼が感知する敵の居場所が地図上一つの山しか無いことだった。

 デミトールには数段劣るが精鋭を揃えた征伐隊はその山を目指して出発した。






 征伐隊から報告が届くのは二か月近く要する。

 その間聡慈とライオホークは領主館の客人として滞在することとなった。

 ルスカにはまた勉強を教えてくれと請われたが、彼には家庭教師がいたので辞退した。

 その代わり、体の自由を奪われ衰えたデミトールのリハビリに付き合って訓練を共にしている。

 ちなみにセステウスも家に帰らずデミトールとの訓練に参加している。



「ふう、ソーさん、リオ、セス、この辺で休憩にしようか」


 模擬槍を地面に突いてデミトールは一つだけ大きく息を吐いた。


「はあはあ」

「いつつ」


 ライオホークは地面に大の字に転がり、セステウスは突きや蹴りを模擬槍で打ち防がれ痛がっている。

 二人では全く相手にならず、聡慈が加わって三人で掛かってもやはりデミトールが強い。


 今デミトールは敵からの魔法干渉を防ぐため、彼自身の魔法も一緒に封じられている状態だ。

 そんな彼に合わせて魔法無しで模擬戦を行っているが、魔法を使えても彼の優勢は揺るがぬだろうと思えるほど、彼の戦闘能力は高かった。


 自分たちでは物足りないのではないかと思う聡慈たちだったが、デミトールの方は割と充実しているようだ。

 復帰当初は自責の念や領内の治安回復への焦りから、思い悩んだ顔をすることも多かったがデミトールだが、一通りの指示を終えて結果を待つ段階になると彼もようやく開き直ることができたのである。

 現在は執務の合間に聡慈たちと訓練する機会を楽しみにしてさえいた。


「ソージ殿は賢者の友人だと――私にとってはソージ殿を賢者と言うのも納得なのだが。――そうか、賢者からはソーさんと呼ばれていたのか。なら私もソーさんと呼んでいいかな」


 大分肩の力が抜けてきた頃のデミトールの言だ。


「ジイさんでいいんじゃないですか」と言うセステウスにライオホークが怒ったのは余談である。


 元々が社交的で快活な性格であったデミトールは明るさを取り戻すとすぐに聡慈たちと打ち解けた。

 聡慈たちのことを愛称で呼び、聡慈には自分のことを“デミさん”と呼んでもらうようになった。

 聡慈たちと共に居る時の彼は楽しそうで、家臣や子どもたちも安堵を覚える一時であった。






「ソージ殿、あなたと出会えた幸運に感謝します。ライオホーク、よく師の教えを聞き、修行に励めよ」

「ゼフェル殿、あなたの流麗な剣術はとても勉強になりました。高潔なあなたが泥に塗れる覚悟で行ったことが多くの人を救った、そのことを私は忘れないでしょう」

「ゼフェルさん、俺ソージ先生の次にゼフェルさんを目標にして頑張るよ!」

「ふっ、お前らしいな」


 ゼフェルは癒着を疑われることを懸念し、すぐに本来の任務に戻ることを決めた。

 聡慈とライオホークには親しみを込めて別れの挨拶を交わしたゼフェルだが、共に潜伏生活を過ごしたデミトールの家臣たちとは視線を交わしたのみである。


「あ〜あ、ゼフェル様も損な性格だよなぁ」


 部下のジオンズが軽口を叩くのをジロリと睨んで、ゼフェルは二人の部下を連れ領主館を去る。

 厳しい日々を共に過ごした者たちと友情を感じていないわけでは無い。

 ただ、領内の者と必要以上に近くあっては自らの任務に支障が出ると、堅物のゼフェルはそう考えてしまうのであった。


 ゼフェルたちが領主館から去る後ろ姿に、領主館の者たちは感謝と畏敬の念を込めて敬礼を送った。

 デミトールは生真面目な友人に報いることのできない自分を恥じつつ、「ありがとう、ゼフェル」と遠ざかる友人の背に向かって呟いた。






「征伐隊からの伝令が来ました!」

「ソージ様への便りも」


 待ちわびていた報告が来た。

 デミトールを魔法支配から解放して一月半が過ぎた頃のことだった。

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