64 探索の旅(王国編-30)
すいません。突然ですがタイトル変更しました。
旧題「巡り求める聖なる咎人」です。
タイトル一つでもこんなに難しいって……
この作品に納得できていない部分も多いのですが、エタらずに終わらせようとは思いますので、もし読んでいただいてる方がいるなら、どうぞ最後までお付き合いください。
赤香色、亜麻色や枯色と言った明るめでやわらかい色合いの石壁は、王城や他領の領主館と比べると地味である。
しかし、領内一の大建築物ながら威圧感よりも親しみ易さが勝る雰囲気で、素朴でのどかな土地柄と良く合っていた。
その館内――女中が前から来る執事に頭を下げてその通過を待つ。
執事はボソボソと呟きながら女中の横を無表情で通り過ぎ、女中もまた何かを呟き返した。
その女中は干していた洗濯物を取り込み畳んで、その内の一つに紙片を滑り込ませる。
洗濯物は幾つかのまとまり毎に小間使いの男に渡された。
小間使いの男は一塊りの洗濯物を籠に入れ警備兵の待機室へと持って行く。
彼は待機室に一人で居た警備兵に洗濯物を手渡した。
警備兵は洗濯物の隙間から紙片を取り出すとそれを懐に入れ、しばらくして待機室に戻って来た者と交代し巡回に出た。
敷地の塀の内側に沿いながら歩く。
時折すれ違うやる気の無さそうな兵士に舌打ちをしたい気持ちになりながら、周りに誰もいない所まで来るとくしゃみをした。
塀の外からは「ゴホッゴホッ」と二回の咳が聞こえた。
警備兵は改めて周りを確認し誰もいないことを確認すると、丸めた紙片を素早く塀の外に放り投げた。
その後紙片は潜伏中のルスカたちの手元に渡った。
突入決行日の三日前のことであった。
決行日当日、ドスコは身なりを整え荷車を曳いて二人で領主館へ向かっている。
荷物は大量の食料や酒だ。
連れているのは商人風の装いをしたジオンズで、側から見ると二人は最近よく見る、領主館に機嫌取りに来る商人のようであった。
「止まれ、おい何の用だ」
領主館の門前に居たのは態度の悪い兵士だ。
鎧もまともに着けていない。
「いつもお世話になっております。近くで商店を開かせていただいているドスコと申します。今日は御贔屓にしていただいている皆様に差し入れを」
そう言ってドスコは兵士の手を取ると、同時に銀貨を三枚握らせた。
「へへっ、いい心がけじゃねえか。よし、じゃあ一応荷物を点検するがよぉ。まあ心配すんな」
兵士は嫌らしい笑みを浮かべ、荷車の覆いを捲ると笑みを深くした。
「美味そうだなおい。ちゃんと中の奴らに残しとくように言っとけよ」
「はは、おまかせください。おい、行くぞ」
ドスコは愛想笑いを向け兵士に頭を下げると、ジオンズに向け顎をしゃくってついて来るよう指示し、その場を去った。
兵士は掌にある銀貨を見てニヤついている。
ドスコとやりとりしている間に二つの人影がすぐ後ろを通り過ぎたことには全く気付いていなかった。
「腐りきってますね」
「嘆かわしい! 早くあのような奴らを叩き出したいものです」
ドスコが兵士の注意を逸らしている間にすり抜けたのはラフイルとカルダンだった。
あと一人、荷車の下に隠れたゼフェルを合わせ三人がデミトールと直接対峙する実行部隊である。
ラフイルとカルダンは離れの塔に向かう。
そしてゼフェルと合流して三階に居るデミトールを急襲するのだ。
「お勤めご苦労様です」
「あ? 何だジジイ?」
聡慈は工具箱を手にして門前の兵士に挨拶した。
傍らのセステウスやライオホークも同じような箱や木材を手にしている。
「お館の階段を補修しに参りました」
「あぁ? ――おぉ、そういやあ何かそれらしいこと言ってたなぁ、小間使いの小僧が。ふーん、じゃあ行けよ」
しっし、と兵士は手を払い聡慈たちを中に入れる。
ボロい作業服姿の聡慈たちからは心付けも期待できないだろうと判断した、兵士の素っ気無い態度であった。
「お館の門番でさえあの調子かよ。っとに末期だな」
「ああ。やはり計画は何としても成功させねばならんようだ」
セステウスと聡慈は領主館の兵士ですらあのような有様だったことに危機感を強くした。
「あいつ……ソージ先生のことをジジイって言いやがった……」
一方ライオホークは兵士に憎悪の眼差しを向けていたのだが、兵士に気付かれることはなかった。
無関心というか、職務怠慢な兵士に助けられたようなものである。
「おいリオ、離れんなよ。とっとと行くぞ」「〜〜、分かってる」
敷地に入っても門前の兵士を睨みつけるライオホークをセステウスが嗜めた。
三人は本館の脇に建てられた塔に向かう。
補修の依頼主、と言う名目の手引き者と会うために。
その頃、本館では執事と女中たちがドスコを招き入れ、食堂に集めた多数の兵士たちの前にてきぱきと配膳をしていた。
「本日は皆様の日頃の勤務疲れを労って差し上げろとのご主人様からの指示を受け、ささやかではありますが、宴席を設けさせていただきました。このとおり、出入り商人のドスコ様から多くの酒や食事の提供もいただいております。どうぞお楽しみくださいませ」
執事が挨拶をすると室内がワッと沸いた。
「これだけの警備兵を集めて大丈夫なのか!?」
荒れる前から勤めている警備兵が声を上げた。
素行の悪い方の兵士たちは「余計なこと言いやがって」と言いたげに舌打ちをしている。
「ご安心ください。塔の方には警備隊長方がいらっしゃいます。そしてこの本館には皆様がいらっしゃるではありませんか。重要なものが多くあるこの本館に皆様がいらっしゃれば、ここほど安全な場所はございません」
「ちげえねえ!」
執事の返答に素行の悪い兵士たちから笑いが上がった。
執事は内心ほっとして続ける。
「今はお休み中のご主人様もこの宴席が終わる頃には労いの言葉をかけにいらっしゃる予定です。それまでどうぞお楽しみください」
「かんぱーい!」
調子の良い兵士が待ちきれずに酒を開け始めた。
幾人かの疑問を持つ兵士たちを巻き込むように、酒宴は開始された。
女中たちは脱ぎ散らかされた鎧や衣服を集め、部屋の隅のカーテンで仕切った向こう側へと持って行く。
そして仕切りの奥では、剣などの武器を訓練用の物に置き換えたり、鎧の留め金を捻じ曲げたりして、兵士たちが異変に気付いたとしても即座に対応できないように細工を施すのであった。
「こちらです」
従僕の少年に案内され聡慈たちは塔の中に入った。
そこから案内を女中に引き継いで従僕の少年は去る。
女中は丁寧に頭を下げ聡慈たちの先導を始めた。
「今ご主人様が三階でお休みになっております。お静かにお願いします」
「分かりました。では作業中階段付近はあまり近くに来ないように注意してくださいね」
聡慈と女中は普通の会話を交わしながら、視線を交え肯き合った。
塔の警備兵はほとんどが協力者、もしくは事情を知らないが古くから居る者だ。
だが事情を知らない者は真面目に勤務をしているため、騒動が起きた時には騒ぎを大きくするおそれがある。
騒ぐ前に速やかに静まってもらわねばならないが、その役割は協力者たちが担っていた。
聡慈たちが作業するフリをしながら階段を往復する。
一人しか下りていないのに上がって来る時には二人に増えている。
そんなことを繰り返し、とうとう六人が揃った。
物陰に潜んだゼフェル、ラフイル、カルダンの三人に聡慈が寄って行く。
「行けますか」
「ええ」
短いやりとりを済まし四人はデミトールの部屋に潜り込むように入った。
「ちくしょう、俺も行きたかったぜ」
「仕方ないだろ。後はソージ先生に任せて俺たちはここで他人の目を欺くんだ」
残されたセステウスは歯痒そうに呟く。
ライオホークは彼を嗜めるように小声で言った。
「分かってら。俺ももっと強くなりてえっつったんだよ」
(そんなの……俺もだよ)
悔しがるセステウスに共感を覚えながら、ライオホークは聡慈の武運を願い領主の部屋を見た。




