63 探索の旅(王国編-29)
ルガール領領主デミトールを暗殺する計画は、連れ去る計画へと変更された。
暗殺計画時点でも毒殺は困難であったことから直接的に殺害するしかなかった。
そのため接触することには変わりなく、手筈を大きく変える必要はないとのことだ。
しかし問題はデミトールの強さである。
彼の者は槍の達人で四十歳の現在もその腕は衰えていないと言う。
ただ殺害するよりも生かしたまま捕えるのだから難易度が高い。
時間がかかるほど衛兵が駆けつける危険も増すだろうから、いざとなればやはり殺害も視野に入れなければならない。
各人は主君を、或いは友人を手にかける可能性は飲み込んでいる。
それでも、今も計画の時機が来るまでの潜伏生活だが、気持ちは以前よりずっと前向きだった。
「ルスカ様、勉強の時間ですよ」
「え〜、また勉強? セス兄ちゃんと拳闘修行がいいなぁ」
ルスカには家臣たちが勉強を見て、聡慈やゼフェルが剣術を、セステウスが拳闘を教えるようになっていた。
ただルスカは体を動かすことが好きで、立場で扱いを変えないセステウスやライオホーク、聡慈たちに懐いている。
「こら、ルスカ。勉強できるのも有難いことなんだぞ。俺みたいに苦労したくなかったらちゃんと勉強しなきゃ。さ、アッシュ兄よろしく」
「う〜ん、リオ兄ちゃんがそう言うんなら……分かったよ」
勉強や訓練をするのはルスカだけではない。
潜伏メンバーそれぞれが教師であり、また生徒であった。
ゼフェルが剣術と悪政や失政の事例を教えるように、アスクレスは医術、セステウスは拳闘、カルダンは防御と言った感じで各人に適したことを教えている。
聡慈はその中でも、狩人のラフイルに弓術を、斥候のジオンズに逃走術や探索術を教わっていた。
「ソージ殿の適正の広さには目を見張るものがありますね」
ジオンズが同僚のラフイルと雑談をしていて、ふと漏らした感想だ。
「ああ、ゼフェル様との模擬戦でも思ったが、若かりし頃はどのようなことをされていたのだろうな。剣も魔法も扱えて、薬草の知識が豊富で狩りもする。危険察知の能力も高い」
ラフイルも興味があるようだ。
「う〜ん、まるで……諜報や暗殺者として訓練を受けたみたいな……」
「おいおい滅多なこと言うなよ。あんな紳士が……」
「ですが技能が多岐に渡って、隠密や生存に長けているとなると」
「いや、でも私たちに教えを請う姿勢は本物だぞ。諜報や暗殺者で訓練を受けていたならそんな必要ないだろ」
「いやいや、暗殺者時代に自由に学べなかったから反動で学びたいんじゃないですか?」
(ありそうな話じゃないか……)
ラフイルは思った。
しかし彼は聡慈に対して、恐れよりも同情を感じていた。
(あれだけの紳士が望まぬ訓練を強いられていたのだとしたら、それは不幸な生涯だったに違いない)
「まあ詮索はしないでおこうじゃないか。年老いたら嫌な思い出もあるだろうさ」
二人の結論は“他人の過去を詮索しない”ことだった。
聡慈が今まで過去を話したのはミルドラモンとエウリアだけだ。
その二人以外に尋ねられたことは無いが、もし尋ねられても正直に答えて良いと思っている。
別の世界に居た証明はできないから、別世界から来たと言う話を信じられなければ、妄想癖のある老人、ぐらいの扱いを受ける程度だろうと。
結局聡慈の過去は誰からも尋ねられることは無かった。
魔法論にまで詳しい聡慈のことを気にして、「どうしてか詳しいのか」と軽く尋ねられることはあったが、「知り合いに素晴らしい魔法研究者がいて、その人に教わった」と答えたらそれ以上深く聞かれはしなかった。
聡慈の日課はライオホークに野人の公用語、魔言語、魔法論を教えるだけではない。
集めて調合した薬草から命の水と魔力の水を作る試みも日々行っていた。
「おぉ? これはどうだろうか。お〜い、ドスコさん。ちょっと見てくれないか?」
潜伏生活も一月が過ぎて、計画の決行は間近である。
そんなある日、聡慈は出来上がった命の水に良質の手応えを感じた。
「何だか期待できそうな顔をしてますね。どれどれ、ちょっと拝見しますよーっと」
ドスコは“物の品質を見定める”技能を持っている。
聡慈はドスコの目に魔力が渦巻き、その手から手渡した命の水にも魔力が通される様子を期待して見た。
「ふー……これは」
ドスコが深い溜息を吐き目の周りを揉み解す。
あまり良いことを言いそうにない表情だ。
聡慈は落胆しかけた。
「ソージ先生、あなたの多才には全く驚かされます」
ドスコはもう一度溜息を吐くと、今度は笑顔で言った。
「素晴らしく高品質の薬ですよ。官品用に納められなかなか店売りされないぐらいのね」
「本当かい。いや、手応えがあったのに神妙な顔をするからがっかりしかけたじゃないか」
聡慈は破顔してドスコの肩を叩いた。
「はは、驚いたでしょう。私を驚かせたお返しですよ。しかし本当に賢者と呼ばれても良さそうなものを」
「いやいや、勘弁してくれないか。その呼び名は私には重過ぎる」
ドスコとしては太鼓持ちをしたつもりではない。
だが聡慈は賢者はミルドラモンだけの称号であってほしいと思っていて、たとえ好意でも受け入れる名ではないと思ってしまう。
「しかしこれで負傷時の備えもできますね」
もちろん聡慈が嫌がることを押して言う必要もないと、ドスコは話題を変える。
「そうですね! 後はお屋敷側との調整が取れれば潜入を決行できるんですから、心強い備えですよ!」
戦闘になればアスクレスの回復魔法頼りになりそうだったのが、もう一つ回復手段ができた。
アスクレスはかなり肩の荷が軽くなったと感じていた。
「さあ、いつ決行の合図を受けてもいいように装備の点検をしておきましょう!」
毎日就寝前には武器防具、所持品の欠損や不具合が無いか点検することになっている。
潜伏者たちは作戦の決行日が近いことを感じて入念に装備品の点検を行うのであった。
それから半月が過ぎた。
「来たか」
「来ましたね」
ついに決行日の記された紙片が届けられた。
二日後の昼食後二時間程度、領主が執務室で一人になるように、領主館内部の協力者が手配する。
その間に決着をつけるのだ。
「長かったですね」
「そうじゃの。しかし早かったようにも思える」
「デミトール様を隔離し、トライゼ様とロクセーヌ様を解放する。お二人さえ自由になられれば、館の半数は我らの味方だ」
以前から館にいる者たちはデミトールに代わりトライゼたち二人が号令をかけるならば従うはずだ。
館に新たに入った兵士崩れは少なくとも半数を一箇所に集める手筈になっている。
トライゼたちの号令で一斉に兵士崩れを制圧して、トライゼとロクセーヌの復権を果たす。
「デミトール様が無事元通りになられて……隠居の身でも良い、心穏やかにお過ごしできるのであれば」
家臣の何人かがゼフェルの様子を窺う。
「奴の身柄を確保してからだ。そうせねば何も変わらない」
独り言のようにゼフェルは呟いた。
デミトールの招いた領土の混乱は軽くない。
王都からは厳しい沙汰が下る可能性も十分考えられるが、今は先のことを考えずに差し迫った目的を達する。
それが友にしてやれることだと拳を握り締めた。
入間聡慈
闘級 4
体力 207
魔力 93
力 40
防御 51
速さ 43
器用 49
精神 67
経験値 160 → 200
技能
⚪︎魔言語★5
⚪︎魔視★5
⚪︎自然回復上昇・中
⚪︎魔力自然回復上昇・小
⚪︎見抜く
⚪︎反撃
⚪︎第六感
⚪︎流し斬り
称号
⚪︎薬師★5
⚪︎被虐者(克服)
⚪︎轡取り★5
⚪︎伯楽★5
⚪︎不屈漢★5
⚪︎狩猟者★2→3
⚪︎逃亡者★3
⚪︎魔具職人★3
⚪︎見習い剣士★5
⚪︎見習い魔法士★5
⚪︎翻訳士★5
⚪︎軽業師★2→3
⚪︎医術士★2→3
⚪︎剣士★1
⚪︎魔法士★1
耐性 毒、麻痺、睡眠、混乱、吸収、魔封
状態 自殺者の呪印、献身者の聖印




