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巡り求めて  作者: みおま ウス
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58 探索の旅(王国編-24)

 ルガール領に入りもう四週間が経過する。

 立ち寄る先では兵士崩れの警備が緩い所こそあったが、どこの宿にも泊まることはできなかった。


 アスクレスはセステウスと同い年なだけあって打ち解けるのも早かった。


 だがライオホークは、セステウスが聡慈のことをジイサン呼ばわりするのを許せない。

 セステウスというと、ここまでの旅で聡慈に組み技や体捌きを教わり、呼び方を除けばそれなりに敬意を表すようになっている。

 それでもライオホークは、セステウスが聡慈を“ジイさん”と呼ぶたびに、噛みつかんばかりにセステウスに反発するのであった。






「セス、リオ、行ったぞ!」


 聡慈が声を上げる。


「うっし! リオ、こっちに追い込め!」

「うるさい! 分かってる!」


 茂みから飛び出して来たのは鹿だ。

 ライオホークが鹿を誘導するように並走すると、待ち構えていたセステウスが方向転換しようとした鹿の鼻を拳で打ち抜いた。


「ちょっとぉ! そんなんで鹿を殺せるわけないでしょ……って、倒せるんかい! どんな馬鹿力だよ!」


 ナイフを持ってアスクレスが駆け寄る。

 セステウスが鹿を捕らえている間にトドメを刺すつもりだったのだ。

 それがまさか殴りつけるとは。

 そしてまさか倒してしまうとは。


 呆れつつもアスクレスはヨロヨロと立ち上がろうとする鹿にナイフを突き立て、そのまま手早く血抜きに移る。


「すっかり慣れたなアッシュ」

「そりゃこんな生活をもう一月近くしてるんですから。それにこれも医術の勉強に繋がるかと思うと、熱も入りますよ」


 アスクレスは外科の技術を持つ割に、獲物を殺し捌くことには抵抗があった。

 それができるようになったのは、彼の言う通り環境に順応したこともある。

 もう一つ、腑分けをしたりすることが血管や臓器の弾性や構造を直に知ることになり、医術の向上に繋がるからと積極的に関わるようになったことが要因だった。



「これでしばらく食料は心配いらねえな!」

「いいから手伝えよ!」


 満足そうに笑うセステウスに、肉を燻して保存食を作っているライオホークが文句を言う。


「ははは、いつも仲がいいなあ君たちは。ねえソージ先生――?」

「良くない! ――どうかしましたかソージ先生?」


 笑っていたアスクレスも、仲が良いと言われたことを否定したライオホークも、聡慈が険しい顔をしていることに気がついた。


「火を消そうか。闘争の気配を感じる」

「……! はい!」


 今日までトラブルに巻き込まれなかったのは、聡慈の直感に依るところも大きい。

 そのことを実感している三人は速やかに火を消してここの場所を知られないように処置をした。




「よしっ、ちょっと様子を見てくるぜ!」

「あ、おい勝手に……!」


 煙が消えてしばらく息を潜めた後、セステウスが突然駆け出した。

 ライオホークは彼を捕まえ損ね、聡慈の方を窺う。


「セスもまた独特の勘が働く男だ。何かがあるかもしれん。目立たぬようについて行くぞ」

「〜〜……はい」


 聡慈がセステウスの行動を咎める気ではないことを確認し、ライオホークは不承不承ながら追いかけて行くことにした。






「はぁ、はぁ」


 フードを被った小柄な人物が必死に走っている。


「待〜て〜よ〜」

「ふへへっ遅い遅い。捕まえちゃうぞ〜」


 気色悪い野太い猫撫で声を出し、追いかけているのは大柄な男二人。

 軽鎧のモヒカン男と、鼻や口にピアスをつけ顔を白粉で塗りたくっている棍棒を持った男だ。

 遊ぶように大股で走り小柄な人物とジワジワ差を詰めている。

 そのまま余裕で追いつき、フードを剥ぎ取ろうと手を伸ばした。


「父上っ……」


 フードを押さえ身を縮める、声変わり前の少年の呟きが漏れた。


「つ〜かま〜えた……っ!?」


 フードを掴む寸前、モヒカン男の手は跳ね上げられた。


「誰だぁテメェは」


 モヒカンは怒りを露わに自分の手を殴りつけた乱入者を睨みつける。


「こんな子どもを大人二人で嫌らしく追いかけて、恥ずかしくねえのかよ! 異常だろうが、そんな棍棒振り回してよお!」


 握り拳に力を入れてセステウスも怒り言い返す。


「関係ねえ奴は引っこんでろ! 俺らに逆らうのは領主様に逆らうことと同じだぁ!」


 腰のホルダーからナイフを抜き出し、モヒカンはセステウスに斬りかかってきた。


「領主だと、どうなっちまったんだこの領地は!」


 セステウスはナイフを避け舌打ちをした。


「ひひひっ、僕ちゃんはおじちゃんと遊びましょうね〜」


 乱入者はモヒカンが片付けると判断した棍棒男は、舌舐めずりをして少年に向き直る。


「足ぐらい潰しちゃおっかなぁ。――ぶげっ!?」


「大丈夫かい?」


 棍棒男の顔面に飛び蹴りをして、少年に手を差し伸べたのはライオホークだ。


「何なんだいあのヘンタイは?」

「あ……」

「ん? ああ、大丈夫。ソージ先生が来たから、心配いらないよ」


 鼻血を垂らしながら怒り狂い棍棒を振り上げる男を、震えて指差す少年にライオホークは余裕で答えた。


「……! ガキの次はジジイって、何なのお前たちぃ!」

「落ち着いてくれないかね? 私はお互いから話を聞こうと思うんだが……」


 棍棒男の腕を掴んでいるのは聡慈だ。


「もーうっ! 関係無いジジイは引っこんでなさいよー!!」


 棍棒男は問答無用で腕を剥がし、今度は聡慈に標的を変え棍棒を振り下ろしてきた。


「それは困ったものだ」


 力は強いが洗練された動きではない。


(落ち着きを取り戻すまで制圧するか)


 次の一撃に反撃を加えよう。

 そう聡慈が考えた瞬間、聡慈が修行のために出していた魔力から魔法陣が勝手に形作られた。


(なっ!?)


「ぐはっ!」


 魔力印など刻んでいないのに――

 慌て聡慈が止める間もなく、魔法陣から飛び出した衝撃波が棍棒男を吹き飛ばす。


 セステウスが腹を打ち抜き悶絶させたモヒカンに、吹き飛んだ棍棒男がぶつかるのは同時だった。

 二人はもつれ合うように転がり、そのまま二人とも伸びてしまった。



「いよっしゃぁ!」

「さすがソージ先生です!」

「……」


 セステウスとライオホークは拳を突き上げ勝利を喜んでいるが、聡慈は困った顔をして頭を掻いている。


(まあやってしまったものは仕方ないな。先にこの少年から話を聞くか)


 気を取り直し呆気に取られている少年から話を聞こうとしたところ


「はあはあ、ちょっと速すぎですよぉ。ふぅ、やっと追いついた」


 息切れしてアスクレスが聡慈の横に並び、両膝に手を置きゼェハァと苦しそうに喘ぎ愚痴をこぼした。


「あ、でも遅れて良かったのかな。何ですかこの人たち?」


 フードの少年には気がついていないのか、アスクレスは倒れた男たちから闘争があったことを察して「危ない危ない」と呟いた。



「アスクレス……?」


(む?)


 とても微かな声だった。

 だが少年の声を聡慈は確かに耳に捉えた。


「君、大丈夫だったかね? アスクレスとは知り合いなのかい?」

「え、呼びました? って、その子はどうしたんですか?」


 今気づいた、とアスクレスは言う。


「アスクレス、だよね?」

「え、はい。って君は? ……と言うかこの声、まさか」


 少年の問いにアスクレスは最初戸惑い、そして何か思い当たったのか目を見開いている。


「アスクレスぅ〜、生きてたんだね! 良かったよぉ、怖かったよ〜!!」

「ええっ、ル、ルスカ様ぁ!? 何でこんな所に〜!!??」


 突然泣き出してアスクレスに抱きついた少年。

 慌てて跪こうとするアスクレス。


 一体自分たちが誰と会ったのか、何が起きているのか、アスクレスと少年以外の三人は首を傾げ二人の様子を見るのであった。

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