54 探索の旅(王国編-20)
元々小屋に居たはずの協力者の消息は知れず、聡慈たちは歩いて一月もかかる領主館へと向かわざるを得なくなった。
「すいません、僕の考えが甘くて……約束を果たすのが難しくなってしまいました」
聡慈の所在に関するラグナへの連絡と、エウリアを捜索する手配、いずれも見通しが立たなくなった。
アスクレスはそう言って肩を落とし、そんな彼に慰める言葉は何か無いかとライオホークは探るように聡慈を見る。
聡慈は無言で、いつの間に取ったのかゴボウのような細長い根をナイフで削いでいる。
そして根毛を落とすと一つずつアスクレスとライオホークに渡した。
「食べるといい。腹が減っているだろう」
聡慈が差し出した根は土こそ洗い流されているが、アスクレスの向ける目は食べ物を見るそれではない。
削ぎ落とされた焦げ茶色の皮にはモサモサと根毛が生えていて、土がそのまま固まっているかのようだ。
(罰を与えるつもりなのだろうか)
そんな考えが脳裏をかすめた。
「ソージ先生、いただきます!」
アスクレスが悲しげな顔をしている傍ら、ライオホークはありがたそうに根を齧り出す。
「良く噛むんだぞ」
聡慈ももう一本を取り出したらそのままナイフで削いで食べ始めた。
(罰じゃないのかな……?)
調理らしいこともしていない正体不明の根を持ちあちこちから舐めるように見回した後、思い切ってかぶりついた。
目を閉じて恐る恐る前歯で噛み切り、覚悟を決め奥歯で噛み潰す。
「――おいしい!」
アスクレスは目を丸くした。
噛んでグズグズになると、粘りと甘みが出てきたのだ。
どうしても土臭さはあったが、空腹も手伝い咀嚼は止まらない。
手に持った一本が無くなるまで、三人は無言で食べ続けた。
「ふぅ」
「どうだ、腹が膨れたら少しは前向きになっただろう?」
「……そうですね。正直言ってまだどうしていいかは分かりませんが、さっきよりずっとマシです。どうもすいませんでした」
絶望に塗り潰されていたような顔の陰りが晴れ、本人が言うようにアスクレスの表情は先程より大分明るくなっていた。
「まだまだだなぁアッシュ兄は」
「うるさいよ」
バシッと腕を叩いてくるライオホークの手を払いのけ、アスクレスはフンと鼻を鳴らた。
「私は一時地獄のような日々を過ごしてきたが、幸いにもその状況から脱し、こうして生きている」
二人の様子を微笑ましく眺め、聡慈は言う。
「諦めなかった。健康だった。チャンスにも恵まれた。様々な要因がある。そして心身共に活力の元になったのは食べ物だった。食べ過ぎてはいかん。だが悩んで行き詰まった時、食が疎かになっているようなら落ち着いて食事を摂ってみることだ。栄養が体に行き渡るのを感じると、新たな思考が生まれてくるようだろう?」
ライオホークは頷いた。
彼にとっても食は特別なものだった。
空腹で“木陰の人”の食料を奪ったことは苦い記憶だ。
だが聡慈と初めて狩った兎の味、かつて盗みを働いた食肉店で許されて買い、そして貰った肉の味は一生忘れないだろう。
どちらの食も彼を生まれ変わらせる重要な儀式のようなものだった。
その後の聡慈との食事も、いつでも彼に活力を与えてくれた。
食事の度にもっと勉強や修行に打ち込もうという気になり、聡慈への尊敬が深まっていったのだ。
「街道沿いに行けば町や村があるはずです。そこで領主館の知り合いと連絡がつかないか確かめ、馬か何かを借りられないか交渉してみましょう」
アスクレスの目はいつもの知的な輝きを取り戻していた。
「また狩猟生活ですね、ソージ先生」
ライオホークがおどけて言う。
「はは、そうだな。アッシュにも早く慣れてもらわねばならんぞ」
「大丈夫です、アッシュ兄には俺が教えてあげますから!」
「む! 偉そうだぞリオ!」
聡慈とライオホークがあはは、と笑い合いアスクレスは口を尖らせてライオホークをつついた。
それからの道中は、日中に森や野山に入っての採取、若しくは狩猟をしながら、日が暮れたら勉学に励みつつ進められた。
鹿や兎のような獲物を見つけると、聡慈が逃げ道を限定し、機敏なライオホークが追尾し仕留める。
アスクレスも威嚇程度には使える魔法を使いサポートしたり、時には罠を作ることも手伝った。
「へ、蛇……」
もちろんいつでも上等な獲物が得られるとは限らず、時には普段口にしないものを食さねばならない時もある。
ライオホークに頭を掴まれ気を失っている蛇を見てアスクレスは後退った。
「何動揺してんのアッシュ兄。美味しいんだぞこれ」
ライオホークがクタっとなった蛇を目の上に掲げて嬉しそうにしている。
「ひっ」
「ひっ、じゃないよ、もう……それにこんなの上等な方だと思うけどなぁ。ですよねソージ先生」
「ん? まあ、カエルとか虫とかもあるからな。あれらはやはり抵抗があったなぁ……」
「あーっ、あーーっ!! 聞きたくない〜!」
聡慈は遠い目をしてかつて通った道を懐かしみ、アスクレスは耳を塞いでイヤイヤと頭を振った。
「あ、この味好きかも」
「何それ。心配して損した」
その晩串焼きにした蛇を美味しそうに食べるアスクレスに、ライオホークは白い目を向けた。
「まあ、うまさが分かったならいいんだけどさぁ」
仕方ないなぁと言った風に肩を竦めるライオホークは、また嬉しそうでもあった。
ある日はライオホークが木の上に鳥の卵を見つけた。
かなり高い所から枝の生えている木で、一番下の枝のある所まででも六メートル位ある。
聡慈がライオホークに指示を与えた。
ライオホークは頷き助走をつけると、木を蹴り聡慈の頭上へと跳び上がる。
そして聡慈は頭上に構えた手でライオホークの足を受け止め、彼を更に上へと押し上げた。
聡慈が上へと手を押し上げるタイミングに合わせて、グッと力強く踏み込み二回目の跳躍をしたライオホークは、枝を掴んですぐに体を寄せて木にしがみつく。
卵を鞄に入れ慎重に木を下りると、ライオホークは下で待っていた二人から拍手で迎えられた。
その日の食事、久々にまろやかさの加わった一品を三人は味わうのであった。
ライオホークの勉強に合わせて、聡慈も自身の研鑽に努めていた。
今進んでいるのは川の近くで水は豊富にある。
水の魔石も使って純水を用意し、“命の水”と“魔力の水”を作ろうと試みている。
かなり魔力のコントロールも上達してきた実感はあるが、今は白い魔力を出し難い感覚がある。
あまり自覚しなかったがどうも旅をしながらの状況、環境がストレスになっているようだ。
(歳を取れば何事にも動じない心の強さを得られると思っていたが……私はまだまだ精神的にも未熟だ)
ちょうどアスクレスがライオホークの勉強を見てくれており、静かで集中しやすい。
聡慈が瞑想をすると二人も気を使って話しかけてこない。
聡慈は深く息を吸い、自分の鼓動に意識を向けた。
リラックスの度合いは魔力を出してみれば一目瞭然。
だが今はそれを確かめずに、ただ風に溶けていくような自身を感じるのみ。
どれ程の間そうしていたか、聡慈が目を開けた時には、まるで体の外側を薄皮一枚で覆われ外気から遮断されたような感覚を得ていた。
体も心も凪いだ状態だ。
(もしかしてこれが“気が満ちる”というものだろうか)
かつて剣道や古武術の師、その道の達人たちが言っていた基本であり奥義。
その領域に足を踏み入れたと聡慈は悟ったのである。
入間聡慈
闘級 3
体力 157
魔力 62
力 31
防御 39
速さ 32
器用 39
精神 52
経験値 129
技能
⚪︎魔言語★5
⚪︎魔視★5
⚪︎自然回復上昇・中
⚪︎魔力自然回復上昇・小
⚪︎見抜く
⚪︎反撃
⚪︎第六感
称号
⚪︎薬師★5
⚪︎被虐者(克服)
⚪︎轡取り★5
⚪︎伯楽★5
⚪︎不屈漢★5
⚪︎狩猟者★2
⚪︎逃亡者★3
⚪︎魔具職人★3
⚪︎見習い剣士★5
⚪︎見習い魔法士★5
⚪︎翻訳士★5
⚪︎軽業師★1→2
⚪︎医術士★2
耐性 毒、麻痺、睡眠、混乱、吸収、魔封
状態 自殺者の呪印、献身者の聖印




